娘を威圧して言うことを聞かせよう、従わせようとする目的。
電話の相手に対して好印象を与えようとする目的。
それらの目的に合わせて、人間は感情を能動的に選択し、瞬時に入れ替えることさえできる。
そう聞くと、アドラーの理論もなんとなく正しいように聞こえてくるのではないでしょうか。
このようなアドラー心理学の理論を信じる効用として、「人は変われる」という認識が生まれることを本書は強調します。
つまり、現在の行動が全て過去の出来事に起因するのであれば、もはや人間は自分自身を根本的に変えられないことになってしまいます。
しかし、現在の行動がこの瞬間の「目的」意識に起因していて、その「目的」似合わせて自分の感情を選び取っているのだとしたら、それを自覚することで、人間は「いま、ここ」からどのようにでも変わっていけることになります。
「ライフスタイルを選び直す」という言葉が本書では用いられますが、まさに、アドラー心理学が自己啓発と親和性の高い理論であると感じられる言葉であります。
第二夜 すべての悩みは対人関係
心理学についての本を読もうとするときには、何か(心理的な)悩みを抱えていて、その悩みを解決して欲しいと思っていることが多いのではないでしょうか。
一般的には幾多もの種類があると思われている人間の「悩み」ですが、アドラー心理学では「人間の悩みは、すべての対人関係の悩みである」と言い切ります。
その理由は、いかなる悩みも他者の存在を前提としているからです。
外見に劣等感(コンプレックス)を抱えて悩んでいる人、性格に劣等感を抱えて悩んでいる人、能力に劣等感を抱えて悩んでいる人。
悩みの原因は様々なように思われますが、もし、世界には自分一人しか人間が存在していなかったとしたら、果たして、その悩みは「悩み」として存続するでしょうか。
世界には自分一人しか人間が存在していないという条件のもとであれば、全ての「悩み」について、その答えは「No」である。
これがアドラー心理学の考え方です。
そして、その「悩み」ですら「目的」のためにつくられているのだと本書は主張します。
不細工だから彼女ができない、内向的な性格だから友達ができない。
それらの悩みは、「対人関係で傷つきたくない」「他者と深い関係を築くことで生まれる刺激を回避したい」という目的のために選択された感情だと言うのです。
また、能力的な劣等感は「努力をする」と「努力をしたくない」のいずれかの目的のために選択されるのだと本書は説きます。
あることを「頑張る」という目的が設定されて、その理由として「他者より根本的に劣っている(から人一倍努力しなくては)」という感情が選択されることもあれば、「頑張りたくない」という目的が設定されて、その理由として「他者より根本的に劣っている(から努力したって仕方がない)」という感情が選択されることもあるというのです。
加えて、優越感や劣等感を「自慢する」という行為にも「対人関係の悩み」が現れていると本書は主張します。
つまり、自分は他者よりも優れているのだと論じることで、他者を屈服させたり他者から承認を得たいという「目的」を達成しようとしている。
あるいは、自分は他者より劣っているのだと論じる(不幸自慢)をすることで他者の関心を惹くという「目的」を達成しようとしている。
ここでも、他者の行動に影響を与えようという「目的」のために、優越感や劣等感という感情が選択されているというのです。
だからこそ、本書は「努力しない」目的や「他者を支配したい」という目的を持ってしまうことをいますぐやめて、自己を高める方向へと自分自身の「目的」と「感情」をコントロールするよう読者に訴えかけます。
そして、自己を高める努力をする際、決して他者と比較して自分の優劣を測定したりはせず、昨日の自分よりも進歩しているかどうか、あるいは、理想の自分に近づいているかどうかを軸にして努力をしていくべきであると説きます。
他者がどう評価するか、他者がどう行動するか、そんなことを気にせず自己研鑽に励むことこそ、悩みを解消する良い手段というわけです。
「自分なんかどうせ〇〇」という感情の選択をやめて、自分自身の人生の課題に対して真摯に向き合う勇気を持つこと、それが本書の推薦する感情の持ち方です。
第三夜 他者の課題を切り捨てる
SNSが興隆する現代社会において「承認欲求」が極めて重要な感情として挙げられることが多くなってきています。
だからでしょうか、本書はこの「第三夜 他者の課題を切り捨てる」全編を使って「承認欲求」を捨てなさいと説きます。
本書では「他者の人生を生きることをやめなさい」とも換言されております。
昨今は過度な承認欲求に由来する過激行動が社会問題になることも多いですが、承認欲求という感情には美点も存在しています。
他者の期待に応え、他者の人生に貢献し、それによって他者から承認される。
コメント