経済や金融に造詣がある作家として活躍している橘玲さんの著作。
2002年に発売された本書は内容の画期性からベストセラーかつロングセラーとなり、「2015」や「新版」という形で改訂されながら今日でも読まれています。
その内容は、資産形成を行って蓄財し、サラリーマンとしてでなくフリーランス、あるいはマイクロ法人の社長になることで徹底して節税しつつ有利に融資を得てさらに投資をしろ、というもの。
当時としては斬新だったかもしれませんが、投資や節約についての情報が氾濫している現代においては凡作になってしまったかな、というのが個人的な感想です。
目次
Prologue 1995-2014
PART1 人生を最適設計する資産運用の知識
PART2 人生を最適設計するマイクロ法人の知識
PART3 人生を最適設計する働き方
感想
Part1では、サラリーマンがなんとかお金持ちになる方法として、住居費と生命保険費用の見直しを中心とした節約と、投資の重要性が説かれます。
とはいえ、インデックス投資でガンガン積み立てろ、というスタンスではないところに著者の新参者ではない感があります。
20年近く下がり続けた日経平均株価の例や、ITバブル、リーマンショックの例を挙げ、長期投資ですらなかなか報われるものではないことを著者は指摘します。
そのうえで、日本人の資産形成で実質的な大部を占めている、住宅の購入を著者は槍玉に挙げます。
日本人が長期ローンという非常に高いリスクを取りながら住宅購入を行ってきたこと、高度経済成長期やバブル期までは不動産価格が上昇してきたものの、いまや30年住み続けた家の価値はゼロになってしまうことを指摘し、現代を生きる日本人にとって住宅購入がいかに不利な選択肢なのかを著者は説きます。
それでは、私達は具体的に何をすれば良いのでしょうか。
Part2において、著者はマイクロ法人を立ち上げて資産運用を行うことを勧めます。
年金制度も保険制度もフリーランスや法人にとって有利な設計になっているうえ、生活費を経費に繰り入れて節税できるなど、現在の日本の制度を前提とすると、マイクロ法人の設立は金銭的に有利な面ばかり。
しかも、法人名義で融資を受ければ、極めて低利率でお金を借りられるので資産運用にも有利であると著者は語ります。
このあたり、著者の言いたいことはわかるのですが、やはり普通のサラリーマンにはハードルが高すぎるというのが一般的な感想になるのではないでしょうか。
マイクロ法人による節税効果を得るほどに資産がある人はごく少数でしょうし、年金・保険・経費による節税という3要素全ての恩恵を受けようと思えば、そもそもサラリーマンを辞めてフリーランスとして生計を立てなければなりません。
独立しても糊口を凌げるということ、税制の有利さを加味してもこのハードルを超えることが難しいから、世の中のサラリーマンは困っている。
サラリーマンを続けながらでもできる節税法や、サラリーマンを辞めても生計を立てる方法を知りたい。
そんな需要に答えられていない点が本著の最たる欠点でしょう。
Part3は僅か十数ページで、これからはクリエイティブジョブとマックジョブが増えて、サラリーマンはピンチだよという内容なので詳述は省きますが、不利な境地に追いやられているサラリーマンがその境遇から脱出する方法を説明した本としては説明不足が目立ち、逆に、すでにその方法を得ている人々にとって、本書に載っているような資産運用・節税テクニックは当たり前なのではないかという、帯に短し襷に長しな印象を受けます。
間違ったことを言っているわけでもないので評価1点は避けますが、オーソドックスな情報は全てインターネットで入手できる現代において、もはや誰にとっても得るものがない著作に感じられます。
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