【エンタメ】おすすめエンタメ評論雑記4選【雑記まとめ】
恋愛小説
「イニシエーション・ラブ」乾くるみ 評価:2点|1980年代の世相を背景に大胆なトリックで衝撃のラストを演出した人気作【恋愛ミステリ小説】
2004年に発売された小説で、2005年版の「本格ミステリ・ベスト10」の第6位、「このミステリーがすごい!」の12位にランクインするなど、ミステリ小説としての評価が高い作品です。売上としてはミリオンセラーを記録し、2015年には映画化されるなど、非常に息の長いロングセラーの人気作となっており、著者である乾くるみさんの代表作だといえるでしょう。そんな本作を読んでみた感想ですが、宣伝文句の「最後2行の衝撃」が面白いことは確かである一方、それまでの経過は凡庸な恋愛小説のそれであり、やはりミステリ小説を推理しながら読んでいける人向けの作品だと感じました。ミステリ小説を読むと、謎が解ける瞬間は面白いけれどそれまではイマイチという感想を抱くことが多いので、あまりミステリ小説の読書に向いていない人間なのではないかと思う今日この頃です。あらすじ静岡大学に通う内気な大学生、鈴木夕樹すずきゆうきが主人公。ある日の合コンで鈴木は成岡繭子なるおかまゆこという女性に一目惚れする。紆余曲折あって成岡と付き合うことになり、深い関係を築くことに成功した鈴木。時は巡り、地元静岡の企業に就職した鈴木だが、幸か不幸か同期...
「グッバイ・コロンバス」フィリップ・ロス 評価:2点|1950年代のユダヤ系アメリカ人コミュニティにおける若者の恋愛と家庭や世代による価値観の相克について【海外純文学】
1959年に出版されたアメリカの恋愛純文学小説で、20代のユダヤ系アメリカ人同士の恋愛を主題としつつ、アメリカにおけるユダヤ人コミュニティ内での価値観分裂に焦点を当てた作品です。若者同士の恋愛については現代日本人から見てもまだ通じる話にはなっているのですが、当時のアメリカ社会の様相であったり、その中で重視されている価値観(特に信仰や純潔についての拘り)という面では、これは現代日本とは全く違う世界の話なのだということを意識しつつ読まなければ混乱するような筋書きになっております。著者は本書を表題作とする短編集で1960年の全米図書館協会賞を受賞しており、当時としてはまさに瑞々しくセンセーショナルな作品だったのでしょう。確かに、翻訳の良さも手伝って瑞々しく端正な文章には惹きつけられるものの、物語そのものにはあまりのめり込めなかったなというのが率直な感想です。あらすじ主人公は大学卒業後図書館員として働いているニール・クルーグマンという青年。ある日、プールで出会ったブレンダ・パティムキンに一目惚れすると、たちまち彼女にアプローチをして成功し、二人は付き合うことになる。しばらくは清純な関係を楽しん...
「キッチン」吉本ばなな 評価:2点|天涯孤独の身となった女子大学生を包む「家族」の愛情【恋愛純文学】
1980年代後半から1990年代前半にかけてベストセラーを連発した小説家、吉本ばななさんのデビュー作。第6回海燕新人文学賞を受賞した本作は、当時としては斬新な文体と物語の質感によって文壇に大きな議論を呼び起こし、短編ながら1989年の年間ベストセラー総合2位を獲得する出世作となりました。その後も「ムーンライト・シャドウ」で泉鏡花文学賞(1988年)、「TUGUMI」で山本周五郎賞(1995年)を獲得するなど、まさに一世を風靡した時代作家となっていったわけです。また、父親が著名な思想家の吉本隆明氏だったという点も当時注目されたようです。そんな本作ですが、いまとなってはやや凡庸な、それどころか悪い意味で商業的な少女漫画の陳腐さを持った作品に感じました。柔らかいのだけれど張りつめた強さもあるような、そんな独特の言葉遣いによる表現力は確かに印象的で評価できますが、しばしば「死」に頼る設定や、あまりにご都合主義的な展開はそれほど魅力的ではないように感じられます。あらすじ大学生の桜井みかげは早くに両親を失い、祖父母のもとで育てられてきた。しかし、中学校へあがる頃に祖父が死に、先日、祖母も死んでしま...
「ナラタージュ」島本理生 評価:2点|美しい文章と陳腐な少女漫画風の物語【恋愛純文学】
恋愛小説家として著名な島本理生さん。高校在学中に「シルエット」で群像文学新人賞優秀賞を獲得して純文学文壇にデビューした若き俊英であった一方、2018年には「ファーストラヴ」で直木賞を獲得するなど、エンタメ小説家としての顔も持ちながら長きに渡って一線で活躍している作家です。そんな島本さんの作品の中でも、おそらく一番有名なのが本作でしょう。「この恋愛小説がすごい! 2006年版」で第1位、「本の雑誌が選ぶ上半期ベスト10」で第1位、本屋大賞で第6位を獲得した作品で、著名な文学賞を獲得したわけではないものの、島本さんの代表作として挙げられることが多い作品です。それゆえ、期待を持って読んでみたのですが、期待はずれだったというのが正直な感想。文章表現の美しさはさすがと言わざるを得ない一方、陳腐な少女漫画風の物語は面白みもなく鼻につきます。あらすじ主人公は女子大学生の工藤泉(くどう いずみ)。ある日、高校時代の恩師である葉山貴司(はやま たかし)から、演劇部の人数が足りないので助っ人として公演に出てくれないかと誘われる。泉は葉山の申し出を承諾し、高校時代の同級生である黒川博文(くろかわ ひろふみ...
【エンタメ小説】有名エンタメ小説低評価批評集【閲覧注意】
評価1点(最低評価)・珍妙な登場人物たちの謎言動記録・寒々しい恋人描写と軽薄なSF展開・中学生の気持ちを分かっているつもりの作者・お前はいったい何を言いたいんだ?・猫みたいな彼女が理想なんて気色悪いよ・心を操ることができたらミステリは成立しない・冗長で稚拙で安っぽくて何もない青春・高校生男女が出逢えば物語になるわけではない・儚くて繊細な少女を描いたつもり
「こころ」夏目漱石 評価:3点|若き日の恋愛譚を題材に世代間の価値観相克を描いたベストセラー小説【古典純文学】
日本文学を代表する作家、夏目漱石のそのまた代表作といってもよいでしょう。長年の高校教科書掲載作品としても有名で、書籍を手に取って読んでみたことがないという人でも教科書掲載部分の内容くらいはなんとなく覚えているのではないでしょうか。また、累計発行部数は700万部を超えており、日本で最も売れている小説であることから、書籍として手に取り通読したことがあるという人もそれなりにいるのだと思います。そんな本書は恋愛の三角関係が物語後半の枢要を占めることもあり、殊更に恋愛小説面を強調したプロモーションがかけられることも多いように感じられます。しかし、本書の主題は「時代の趨勢と人々の『こころ』」であり、漱石自身もそれを意識して書いたという解釈が通説となっております。派手なアクションシーンや意外などんでん返しなどがあるわけではなく、ぐいぐい感情を揺さぶられるというわけではありませんが、手堅い面白さのある作品です。あらすじ東京帝国大学の学生である「私」は夏休みに訪れていた鎌倉の海岸で「先生」と出会う。ひょんなことから「先生」との交流を始めた「私」だったが、「先生」にはどこか謎めいたところがあり「私」には「...
【米国流の青春ミステリ】「夏草の記憶」トマス・H・クック 評価:2点【アメリカ文学】
日本では「記憶」三部作で有名なアメリカのミステリー作家、トマス・H・クック。「緋色の記憶(原題:The Chatham School Affair)」でエドガー賞を獲得し、アメリカでも一定の評価を得ております。本作「夏草の記憶(原題:Breakheart Hill)」も日本では記憶三部作として売り出された三作品の一角。(原題を見ての通り作品間には何の関連もないのですが、プロモーションのため強引な訳出がされています)その内容はアメリカ風青春ミステリといった嗜好の作品であり、内気な男子高校生ベンの美人転校生ケリーに対する恋愛を軸に話が進みますので、まるでよくある日本の文芸作品を読んでいるかのような錯覚に陥ります。もちろん、青春モノとしてだけではなくミステリとしても日本国内で評価されておりまして、2000年の「このミステリーがすごい! 海外編」では3位に入っております。そんな「夏草の記憶」ですが、普通だったというのが端的な感想です。決定的な悪い点はなく、良い点は微妙にある作品。3点(平均以上の作品・佳作)と2点(平均的な作品)で迷ったのですが、やはりベタすぎる点がきにかかり、2点としました。...
「絵草紙 源氏物語」田辺聖子 評価:3点|美貌の貴公子に篭絡されていく女性たちを描いた平安女流文学【古典文学】
芥川賞作家である田辺聖子さんが訳し、絵草子画家として著名な岡田嘉夫さんの美麗な挿絵が多数掲載された作品。ダイジェスト版の源氏物語が読みやすい訳で収録されており、手に取りやすい日本文学の古典となっております。1984年の出版ですが、むしろ現代語訳としても全く古びておらず、近年の過度に崩した訳などよりはよほど読書に値するもので、源氏物語の耽美な世界を気軽に堪能するにはうってつけでしょう。あらすじ帝は妻の一人である桐壺更衣を溺愛するが、更衣がそれほど高い身分の出身でなかったために、生まれてきた息子は臣籍降下させられてしまう。その息子の名前は光源氏。世の人が賛美するほど美しい青年に育った源氏だが、妻として迎えた葵の上は堅物の貴婦人で満足できない。世の魅力的な女性たちへの恋心を抑えられない源氏は、今日も閨へと忍び込む......。感想古文の授業では文法を理解する必要があって小難しい印象がある作品ですが、小説家が現代語訳しただけあって、本書はさらさらと読みやすく楽しめる商品になっております。いかにも「平安時代」な挿絵もふんだんに収録されており、時代の雰囲気を味わうことができます。ライトノベル感覚で...
【猥雑だった昭和の日本】小説「恋人たち」立原正秋 評価:2点【純文学】
1960~70年代にかけて一世を風靡した作家、立原正秋さんの作品です。1966年に直木賞を獲っておりますが、それまでに芥川賞の候補にもなるなど、純文学も大衆文学もこなす万能の作家でした。本作は根津甚八さんと大竹しのぶさんの主演でテレビドラマにもなっています。感想としては、現代の感覚からすれば「ありえない」作品です。一般的に考えれば、この21世紀に純粋な娯楽作品として読んで楽しい作品ではないでしょう。ただ、この作品・作家が「人気だった」ということを踏まえて読めば昭和という時代への洞察を得られるのではないかと思います。あらすじ1960年代前半、鎌倉の街に、三つ子の男兄弟が別々に暮らしていた。彼らの父、中町周太郎には妻である初子がいたが、彼ら三兄弟は周太郎が結婚する前に交際していた笹本澄子という女性の子供だった。初子が石女だったため周太郎には三人以外の子供はなく、中町家は三兄弟の長男である周太郎が継ぐことになっている。そんな道太郎だったが、大学を中退して以来、家庭教師と賭博で生計を立てていた。酒場で娼婦を買い、病気を貰って悪態をつくような日々。周太郎の妹である久子の娘であり、道太郎から見ると...
「斜陽」太宰治 評価:2点|終戦によって訪れた旧道徳の没落と新しい価値観の勃興が退廃的かつ情熱的に描かれる【古典純文学】
1947年の初版発売以降、日本文学の古典としての地位を不動のものとしている作品。名実ともに太宰治の代表作でしょう。ピースの又吉さんやオードリーの若林さんなど、本好きのお笑い芸人も太宰を好きな作家として挙げるほどで、人気は今日になって勢いを増しているのかもしれません。とはいえ、この作品を好むことができるのは、ヒロイックな登場人物たちに自己投影できるような根っからの読書好きではないでしょうか。旧道徳の退廃と新しい時代の到来の中で流行小説として人気を博したのは分かりますが、今日の日本や世界における、道徳的経済的な没落・凋落の深い部分を捕らえていると言えるほど普遍的な作品ではないように思われました。あらすじ舞台は戦後すぐの日本。かず子とその母は戦前に貴族であったが、父を亡くし、財産も残り僅かという状況に追い込まれた結果、東京の邸宅を売って伊豆での生活を始めていた。慣れない田舎での生活。収入もないのに働かないかず子の「貴族」的な態度にやっかみを覚える住民もいる。当然、財産はどんどん減っていく。そんな中で戦地から帰ってきたのは、かず子の弟である直治だった。阿片中毒の直治は狂人そのもので、お金を持ち...
「嵐が丘」エミリー・ブロンテ 評価:2点|世界の十大小説にも選ばれている英国ロマン主義文学の愛憎劇【海外純文学】
英国の著名な作家、ブロンテ三姉妹の二番目、エミリー・ブロンテの小説です。サマセット・モームの「世界の十大小説」にも選ばれる歴史的名作だそうです。とはいえ、大いに楽しめたかと言われればそうではありません。二つの家系の愛憎劇は序盤こそスリリングに思えるものの、ただ愛憎劇が繰り返されるだけの単調さは飽きが来るのも早いです。あらすじ都会から旅に出た青年ロックウッドは、「スラッシュクロス」という田舎の屋敷に泊まることにする。近隣にもう一つある屋敷、「嵐が丘」を訪れたロックウッドだったが、そこでの歓迎は非常に手荒いものであり、ロックウッドは困惑する。「スラッシュクロス」に帰ったロックウッドは「嵐が丘」の住人がそうなってしまった理由を屋敷の女中であるエレンから聞かされる。「嵐が丘」に拾われた子供であるヒースクリフと、「スラッシュクロス」のお嬢様であるキャサリンとの歪んだ恋。それは愛し合い、そして憎しみ合った二つの家の、長きにわたる陰惨な物語......。感想非常に高尚で格式高く書かれた昼メロです。富豪の家に拾われたヒースクリフが家庭をズタズタに引き裂き、そして自身をも破滅に導いていくという筋書きは確...
「センセイの鞄」川上弘美 評価:2点|穏やかな大人の恋愛小説【純文学】
芥川賞作家、川上弘美さんのベストセラー小説です。谷崎潤一郎賞を受賞した「純文学」なのですが、異例なほど売れた作品。小泉今日子さん主演で映画化もされています。大人の恋のなかにある淡くて切ない心境に感動できる一方、登場人物の現実感や物語の起伏という点ではイマイチな作品でした。あらすじ37歳独身のOL、大町月子は居酒屋で高校の恩師と再会する。「センセイ」こと松本春綱は月子の30歳年上。奥さんを亡くしているセンセイと、彼氏のいない月子。二人は居酒屋で、あるいはキノコ狩りで、徐々に打ち解けあってゆく。そんな中、高校の同級生である小島孝が月子にアプローチする。月子はその誘いを断り、自分の中での先生への想いを明確にしていく。それでも、なかなか決定的なところまで踏み出せない。しかし、小島孝に旅行に誘われたことをセンセイに打ち明けると、意外にもセンセイが「島に行きませんか」と誘ってきて......。感想紳士的で穏やかなセンセイとの、大人の恋愛。センセイに惹かれていく月子の内面が抒情的に描かれ、こちらにまで切ない気持ちが伝わってきます。ただ、この小説の良いところはその一点のみ。センセイにも月子にも、まるで...
「陽だまりの彼女」越谷オサム 評価:1点|ご都合主義的な展開と不自然なヒロインが織り成す駄作【恋愛小説】
「女子が男子に読んでほしい恋愛小説No.1」そんなキャッチコピーのもと、一時期は書店でかなりプッシュされていた作品。売り上げはミリオンセラーにまで至り、映画も大人気とのことですが、物語の構造的にちょっとこれを楽しむのは無理があるだろうという点が多くある作品で個人的には駄作だと感じました。あらすじ主人公、奥田浩介は交通広告代理店の若手営業マン。ある日、営業先のランジェリーメーカーを訪れたとき、ある女性と再会する。その女性の名前は渡会真緒。浩介と彼女はかつて中学校の同級生であった。非常に頼りなかったかつての彼女とは打って変わって、いまやデキるキャリアウーマン街道まっしぐらの真緒に、浩介は驚きを隠せない。そんな真緒も、浩介との再開を喜んでいた。かつて中学校でいじめられていたところを浩介に救われた彼女は、浩介と過ごした日々を大切に想っていたのである。社会人として出会った二人だったが、その仲が縮まるのに時間はかからなかった。無事、幸せな結婚生活が始まったのだが、しばらくすると、彼女に体調不良が頻発するようになり、身体も痩せ細っていってしまう。病院に行っても「異常なし」と診断されるが、浩介は真緒の...