【メディア論】おすすめメディア論雑記3選【雑記まとめ】
教育
「バカの壁」養老孟子 評価:2点|現代人が囚われている愚かさの監獄について老教授が語る【社会学】
400万部以上を売り上げ、日本のベストセラーランキング5位に君臨する伝説的新書である本作。東京大学名誉教授である養老孟司さんの著作で、2006年には「超バカの壁」、2021年には「ヒトの壁」が発売されるなどシリーズ化されており、人気は現在でも健在です。本作は新潮社編集部による口述筆記によって著されており、養老さんの語りを分かりやすく文章化したもの。そのため、確かに文章としては柔らかく読み易いものになっております。ただ、だからといって内容が濃いか、あるいは理解しやすいかと言われればそれはまた別の話。社会批判についての方向性としては個人的に賛同できる部分が多かったですが、あくまで老教授の居酒屋談義という色合いの著作です。目次第1章 「バカの壁」とは何か第2章 脳の中の係数第3章 「個性を伸ばせ」という欺瞞第4章 万物流転、情報不変第5章 無意識・身体・共同体第6章 バカの脳第7章 教育の怪しさ第8章 一元論を超えて第1章 「バカの壁」とは何か第一章では本作のタイトルでもある「バカの壁」について、ある夫婦の妊娠から出産までを追ったドキュメンタリーを見せたときの男子学生と女子学生の反応の違いを...
「窓際のトットちゃん」黒柳徹子 評価:2点|マルチタレントの先駆けが通ったあまりにも自由で不思議な小学校【芸能人伝記】
日本における最初のテレビ放送開始(1953年)以来、常に第一線で活躍し続けている女優にしてマルチタレント、黒柳徹子さんが幼少期の生活について綴ったノンフィクション自伝です。発行部数は驚異の800万部超を誇り、単著としては戦後最大のベストセラーとなっている本作。世界でも売り上げを伸ばしており、中国でも1000万部を突破するなど、まさに世界的名作とされている作品です。とはいえ、個人的な感想としては単なる「いい話」の域を出ていないという印象でした。そもそも黒柳徹子さんという超有名タレントが出版しているという側面に加え、作中で描かれる自由で温かい学校生活の在り方が管理教育全盛だった出版当時(1981年)の状況に対する反逆として「刺さった」のも大きかったのでしょう。ただ、昨今の教育を取り巻く事情を鑑みると、本書が再び脚光を浴びる時期も遠くないように感じます。主人公のトットちゃん(=黒柳徹子さん)は多動症気味の子供で、クラスメイトにも身体障害を抱えている子供や帰国子女の子供が登場します。差別を受ける外国人(朝鮮人)の子供に纏わるエピソードも登場するなど、いかに多様性を認めあい、それを活かしてゆくの...
あまりにもつまらない日本社会にまつわるデータと所感
「今日の仕事は楽しみですか」というキャッチコピーを掲げた広告がSNSで大炎上したのは最近のことです。広告会社が批難され、広告が撤回されるという結末を迎えたわけですが、日本社会が抱える諸問題の結実として、目の前の一日が多くの人にとってあまりにもつまらないという現実があるのではないでしょうか。ギャラップというアメリカの調査会社によると、熱意溢れる社員の割合において、日本は139か国中132位とあまりにも低い数字が叩き出されているようです。引用元:原因はいろいろあるのでしょうが、やはり、大企業では無意味なくせに複雑で難易度の高いペーパーワークや調整作業が蔓延っており、一方、中小零細企業や介護・外食・アパレルといった職種においてはブラック労働が蔓延っていることが原因なのでしょう。大企業や公務員は年功序列賃金制が要因で、中小零細企業等や非正規・派遣労働は利益の薄さやその構造的な要因によって給料が上がりづらいことも、この「熱意」に関係しているのかもしれません。また、多くの大企業が採用しているジョブローテーションと全国転勤も人生に対する自己決定権を奪うという意味で熱意の低下に紐づいている可能性があり...
「ドラゴン桜2」三田紀房 評価:3点|丸くなって復活した現代風教育漫画【青年漫画】
2007年に完結した「ドラゴン桜」の続編。人気ドラマとなった前作に続き、本作もドラマ化されております。低偏差値の高校生を画期的な方法で東大合格に導いていくカタルシスが絶妙だった前作とは違い、本作で東大を受験する生徒たちは偏差値50前後のいわば中偏差値な高校生たち。しかも、東大合格に導く手法もアプリの活用であるなど「現代風」に媚びてしまっているのがやや破壊力不足に感じました。普通の高校生が一年間頑張れば東大に合格することができる、をコンセプトにしているようですが、設定が丸くなったぶん展開も丸くなり、常識破りの方法で驚かせると言うよりも、現代の常識を伝える漫画になってしまっています。それゆえ、やや漫画としての面白さには欠けると思ってしまった次第です。ただ、現代における教育についての啓蒙漫画としてはそれなりによく出来ており、特に家庭教育についての助言や「勉強」の先にあるもの、現代社会を生きるうえで必要な「勉強」以外のスキルについての言及は示唆的であると思います。(14巻までを読んだ感想です)あらすじ桜木,さくらぎ健二けんじの活躍により落ちこぼれ高校から進学校へと生まれ変わった龍山高校。しかし...
【経済ビジネス】おすすめ経済ビジネス雑記5選【雑記まとめ】
新卒一括採用は構造的に永続する電子書籍の普及が書籍の質を向上させる無意味な大学教育を駆逐せよ正社員共同体の虚しいほど強固な紐帯学歴よりも資格よりも生き方が重要当ブログを訪問頂きありがとうございます応援クリックお願いします!
【現代社会】多くの人は10代で就職するべきだし、これからそうなっていくだろう
文部科学省の発表によると、令和2年の大学進学率(大学(学部)・短大(本科)進学率)は58.6%。これは過去最高の数値である。グラフの傾きを見る限り、大学進学率はこれからも伸びていきそうなものである。しかし、個人的にはそうならないと予想する。短期的にはコロナ不況の影響によって大学進学率は低下するだろう。家計が苦しくなると大学進学を諦める高校生が多くなるからだ。1998年以降、大学進学率が前年比で低下したのは2012年と2013年の二回。2011年も前年比+0.1%と伸び率が非常に低かった。リーマン・ショックの影響が家計に顕在化したためだと推測できる。コロナ・ショックの影響も今後数年で顕在化してくるだろう。だが、それ以上に深刻なのは労働者不足の問題だ。リーマン・ショック以降の景気回復期において、常用労働者の過不足DI(※)は常に大幅な人手不足を示しており、コロナ不況下においてさえ働き手が不足している状態は変わらない。※労働者不足と回答した事業所の割合から過剰と回答した事業所の割合差し引いた値政府部門は定年の引き上げや悪名高い技能実習生制度による外国人労働者の活用によって糊口を凌ごうとしてき...
【時間を蝕む現代社会】小説「モモ」ミヒャエル・エンデ 評価:2点【児童文学】
ドイツの児童文学者ミヒャエル・エンデの作品。「果てしない物語」と共に彼の代表作として扱われることが多い著作ですが、日本では「モモ」の人気が非常に根強く、ドイツ語版の次に発行部数が多いのは日本語版だそうです。「効率性」の名のもとに人間的な温かみのある要素がことごとく「悪」とされ、それでいて「効率化」を突き詰めたのに全くといっていいほど時間に余裕がない。そんな現代社会を風刺した童話、という内容が日本人受けするのかもしれません。全体的な感想としましては、現代社会の労働観や時間不足についての皮肉になっている個々の場面は楽しめたものの、物語の総体としてはイマイチだったという印象。最も皮肉が効いている第6章や、近代的学校教育に対する批判精神旺盛な第13章、第16章の一部だけ読めばそれでよいと思えてしまいます。あらすじ舞台はローマのようでローマではない街。主人公のモモは孤児で、街はずれの円形劇場跡に住んでいる。両親はおらず、そのままでは食べる物にも困る立場のモモだけれど、モモの周囲にはいつも人が集まって温かな交流が結ばれており、モモも人の輪の中で幸せに暮らしていた。そんなある日、街に灰色の男たちが現...
「いまを生きる」ピーター・ウィアー 評価:4点|型破りな教師が示す自分らしい人生のつくりかた【アメリカ映画】
1989年のアメリカ映画で、第62回アカデミー賞で脚本賞を受賞した作品でもあります。厳格な進学校に赴任してきた型破りな教師の授業から、生徒たちが「人はどう生きるべきか」の本質を学び、実践していくという内容。テーマの普遍性から今日でも人気の衰えない作品であり、元サッカー日本代表で現在はJ1ガンバ大阪の監督を務めている宮本恒靖さんが座右の銘に「いまを生きる」を採用するなど、まさに多くの人々の生き方に影響を与えた作品になっております。いまとなっては古典となった本作をこの令和の時代に鑑賞してみたのですが、やはり感動はひとしおでした。規則や形式に囚われず、物事を様々な側面から捉え、なにより自分のやりたいことを大切にしながら生きる。そんなメッセージが激動のドラマ的展開によって鮮烈に表現された、まさに「映画」の見本となるような作品です。あらすじ舞台は全寮制の名門進学校ウェルトン・アカデミー。「伝統」「名誉」「規律」「美徳」の四柱をモットーとする厳格なこの学校に、一人の英語教師が赴任してくる。彼の名前はジョン・キーティング。型に嵌った受験勉強対策授業ばかりが行われているウェルトンにおいて、キーティング...
【雑記】ニコ生での配信経験が履歴書に書ける「実績」となっているこの世界について
1. 記事内容まとめ・人気Vtuberの多くは元生主(ニコニコ動画でのライブ配信者)・若年期に「ゲーム」や「雑談」配信に時間を費やして得た実績が高収入に繋がっている・十代における「発信活動」が「勉強」や「部活」に並ぶ価値を持つ時代が来ているのでは?2. Vtuberがとても儲けているようだ私は以前からVtuberの配信をよく見ており、エンタメとして非常に楽しませてもらっております。そして同時に、新しいビジネスとしての側面にも興味を抱いておりました。Vtuberの方々の収入源と言えば、YoutTubeの広告料やグッズ販売のほかに、スパチャ(スーパーチャットの略)というYouTube上における投げ銭があります。厳密には単なる投げ銭ではなく、生配信にコメントをする際、お金を払うことで自分のコメントに色を付けることができるという機能であり、これによって自分のコメントを目立たされることができ、場合によっては配信者から固有の反応を引き出すことができるという代物です。Vtuber界隈ではこのスパチャを大量に投稿する「スパチャ文化」が盛んで、2020年8月にスパチャ累計額のランキングが発表された際には...
もはや学校は何かを学ぶ場所ではなく、テストを受けに行く場所になっているのではないか
・プロローグ音楽の授業を受けたって歌や楽器は上手くならないし、美術の授業を受けたって絵や彫刻は上手くなっていない。体育の授業で「身体の動かし方」を勉強したから運動が前よりもできるようになったなんて経験もないし、五教科の授業さえ、先生の言ってることがちんぷんかんぷんでどうにも理解できない。学校の授業って、何の意味があるんだろう。もちろん、国数社理英音美体のそれぞれが将来役に立つっていうことくらい、ぼんやりとは分かってる。でも、学校に通ったって、授業を受けたって、授業から得られるものなんてないじゃん。学校の授業が「役に立つ」能力を伸ばしてくれないじゃん。五教科の筆記テストで良い点を獲るのは塾に通っている人ばっかりだし、音楽や美術、体育の授業で活躍するのは、ピアノを習っていたり、絵画教室に通っていたり、部活や学校外のスポーツチームに入って練習している人ばかり。決して、学校の授業や課題を頑張っている人じゃない。・運動塾(体育塾)の誕生この問題を考え始めるきっかけになったのは、幼児・小学生向けの「体育塾」や「運動塾」が相次いで開校され、人気を博しているという新聞記事を随分前に読んだことです。以来...
「教育行政の政府間関係」青木栄一 評価:2点|教育行政において地方政府が中央政府に隷属しているという通説に対する挑戦【政治学】
現在、東北大学で准教授を務めておられる著者の博士論文に改稿を加えたもので、中央政府―地方政府の関係性から教育行政においてどのように政策決定がなされているかを研究した本です。私にとって新たな発見もありましたが、全体的に著者の主張の重要性が十分に論証されていたとは言い難いと感じました。概要先行研究において、教育行政は中央政府(=文部省)が機関委任事務や国庫負担金といった制度を通じて地方政府(=都道府県、市町村)を統制してきたと考えられてきた。しかし、実際には地方政府にも一定の自律性と裁量があり、独自政策を実行する余地がある。それゆえ、中央政府も、そういった地方政府独自の取り組みや、地方政府による様々な要望を加味したうえで政策を決定している。そのため、地方政府も教育行政の政策形成に影響を及ぼしており、また、中央政府と地方政府の力関係は一方的なものではなく、双方向的に影響を与え合う類のものとなっている。目次第Ⅰ部 制度分析第1章 第Ⅰ部の課題設定第2章 戦後日本における公立学校施設整備政策の変遷第3章 国庫支出金制度の変容――時系列分析第4章 市町村公立学校施設整備事業の財政統計分析第5章 財...