【海外純文学】おすすめ海外純文学小説ランキングベスト7【オールタイムベスト】
サスペンス
「ファイト・クラブ」デヴィッド・フィンチャー 評価:3点|現代資本主義社会がもたらした精神的鬱屈に対して、奇妙で斬新な処方箋を提示する作品【アメリカ映画】
1999年に公開されたアメリカ映画であり、今日でも評価が高いハリウッド映画の古典作品の一つです。「ベンジャミン・バトン」や「ソーシャル・ネットワーク」、「ゴーン・ガール」といった作品を後に製作することになるデヴィッド・フィンチャー氏が監督を務めております。大物俳優の出演としては、主人公の相棒であるタイラー・ダーデンをブラッド・ピットが演じており、さすがの演技で魅了してくれます。不眠症に悩んでいるサラリーマンの主人公が「殴り合い」による充実感を得ることで精神的な変貌を遂げていく、というストーリーラインが鬱屈した日常を送っているであろう多くの日本人サラリーマンに刺さること請け合いでしょう。私もそんなサラリーマンの一人だけあって、序盤から中盤までの展開には興奮させられましたが、中盤以降の展開についてはやや突拍子もないものに感じられました。社会派といえばそうなのでしょうが、「社会」を描くにしては手管が大雑把過ぎるように感じられ、大仰な展開に見合うだけの説得力や感情的な揺さぶりが欲しかったところです。あらすじ主人公の「僕」は大手自動車メーカーでリコール調査の仕事に就いている。十分な給料を得ており...
「ジョーカー」トッド・フィリップス 評価:2点|格差社会における現代的な貧困が生んだ「無敵の人」による凶行を描いた点に注目が集まったバッドマンシリーズのスピンオフ【アメリカ映画】
アメリカンコミックの名作である「バッドマン」は映画シリーズとしても人気ですが、その「バッドマン」シリーズにおける悪役の一人、ジョーカーの過去を描いた所謂スピンオフが本作の位置づけとなります。とはいえ、本作が世界的に大ヒットした理由は「バッドマン」人気とは別のところにあるのです。本作の主人公であるジョーカーことアーサー・フレックは精神疾患を持った中年男性であり、僅かな賃金を得られていた職業としての道化すらクビになって貧困に苦しんでいます。認知症を患っている母と二人暮らしで、介護にも時間と気力体力を奪われる生活。彼の未来には一切の「希望」がありません。彼には失うものが全くないのです。インターネットスラングを用いるのならば、アーサーは「無敵の人」となってしまったわけです。そんな「無敵の人」が辿る人生の行方、その過程の描き方、演出方法が異常なリアリティを持っている。そういった、いわば社会派映画としての側面において本作は世界的に好評を博しているようです。しかしながら、個人的な感想といたしましては、凡庸な作品に感じられました。確かに、「無敵の人」のリアリティを描いているだとか、格差が蔓延る希望なき...
「タコピーの原罪」 タイザン5 評価:2点|凄惨な環境で過ごす少女と、救済を図る無能な異星人、皮肉な展開と仄かな希望【短編漫画】
集英社が運営しているweb漫画サイト「ジャンプ+」に連載されていた作品。全16話の短期連載ながらインターネット上で好評を博して多数のPVを獲得、上下巻にて単行本化された漫画です。いじめられている少女の前に、宇宙から来た「タコピー」というマスコットキャラクターのような生き物が現れ、少女を助けようと奮闘するという物語。そう紹介すると聞こえがよいのですが、実態は真逆で、少女たちが抱える背景の陰惨さと、「タコピー」の無能ぶりによって悪いほう悪いほうへと事態が進行していくというサスペンス調の展開が特徴となっております。全体的な評価としては、発想は面白いと感じたのですが、いかにも漫画的な「ベタ」さが多く、とりわけ深刻に描かなければならないはずの、登場人物たちの家庭環境の酷さがステレオタイプだった点が惜しいと感じました。物語の枠組みは悪くないのですが、細部に工夫がないために凡庸だと言わざる得ない作品です。あらすじ小学四年生の久世しずか(くぜ しずか)が公園で出会ったのはタコのような形をした謎の生き物。しずかによって「タコピー」と名付けられたその生き物はパンを恵んでくれたお礼をしたいと申し出るが、タコ...
「点と線」松本清張 評価:2点|完璧だと思われていたアリバイの弱点はダイアグラムに隠されていた【社会派推理小説】
社会派推理小説というジャンルを打ち立ててベストセラーを連発し、戦後を代表する小説家となった松本清張。「眼の壁」「ゼロの焦点」「砂の器」と代表作には事欠きませんが、その中でも、松本清張初の長編推理小説であり松本清張ブームの火付け役となったのが本作「点と線」となっております。「点と線」というタイトルは駅と路線のことを示しており、電車の発着時間とその行き先を巧妙に用いたアリバイ破りが本作における「謎」の特徴です。男女の情死に産業建設省の汚職事件を絡めた展開はまさに「社会派」「推理」小説というジャンル名がうってつけだと感じましたが、どちらかというとやはり「推理」が主軸となっている作品でした。「社会派」の部分は産業建設省幹部による汚職の証拠隠滅が動機となっているという点にのみ掛かっており、人間心理の巧みな描写やヒューマンドラマ的な感動には乏しく感じられたのが正直なところです。推理小説としては一流なのかもしれませんが、物語性を重視する立場からはやや凡庸で、ときに退屈な小説という評価にならざるを得ません。あらすじ事件の現場は福岡市にある香椎の海岸。産業建設省の課長補佐である佐山憲一(さやま けんいち...
「GUNSLINGER GIRL 第1巻」相田裕 評価:4点|もしも誰かを好きで好きでしょうがなくなって、それでも永遠に満たされないとわかってしまったら【社会派サスペンス漫画】
本ブログで一度紹介した作品ですが、あまりにも感動が深いので単巻ごとのレビューを書いていきたいと思います。全体のレビューはこちらテロリズムの脅威に揺れるイタリアで、政府側の対テロ組織に所属する訳あり元軍人・元警察官、そして、彼らとペアを組むことになる、身体改造手術を施されて「義体」となった少女たちの物語。息の詰まるような葛藤の連続、その果てにある悲壮な感動。そんな本作の魅力がいきなり炸裂する第1巻のレビューです。あらすじ舞台は超近未来のイタリア。貧しい南部と豊かな北部という、イタリアが伝統的に抱える格差問題を巡る政争は熾烈を極め、北部独立派によるテロが横行する事態となっている。豊かな北部から搾取された税金が、怠惰な南部人を食わせるための公共事業や補助金に投下されている。そんな主張には北部人の多くが同調しており、テロリスト側の勢いは止まるところを知らない。そんな折、テロとの戦いに勝利して統一を維持したい中道左派政権は「社会福祉公社」という機関を創立する。表向きは身体に障がいを抱える子供を支援するための福祉組織だが、実態は、身寄りがなく命が助かる見込みもない子供の身体に特別な手術と洗脳を施し...
「GUNSLINGER GIRL」相田裕 評価:4点|テロリストとの闘いに身を投じるのは「義体」を与えられた少女たち【社会派サスペンス漫画】
2002年から2012年まで「月刊コミック電撃大王」に連載されていた作品。「電撃大王」といえば所謂オタク向けの「萌え」漫画を中心とした雑誌ですが、その中にあって異彩を放っていたのがこの作品。現代イタリアが抱える「南北問題」という政治問題を嚆矢に、北部イタリアの分離独立派テロ組織と政府が創設した対テロ組織である「社会福祉公社」との戦いを描いた硬派な作品となっております。しかし、本作の特色はそういった欧州の政治問題を背景にしたサスペンスという側面ばかりではありません。「社会福祉公社」に所属するのは様々な機関から集められた訳ありの元軍人や元警察官たち。そして、そういった「大人」たちとペアを組むのは、瀕死の状態だったところに身体改造と精神洗脳を施され、テロリストと戦うために蘇った「少女」たちである、という点が他にはないオリジナリティを醸し出しています。社会問題を巡って政治家や軍人、メディア、市井の人々が織りなす政治活劇というマクロな枠組みと、テロとの戦いの中で明かされていく「社会福祉公社」組織員が辿った苦節の人生、「義体」となった少女たちの愛憎劇というミクロな枠組みの双方に魅力のある、他に類を...
「氷点」三浦綾子 評価:3点|「汝の敵を愛せよ」ならば、娘を殺した犯人の子供を引き取ってみせる【古典純文学】
キリスト教文学の名手である三浦綾子さんのデビュー作にして代表作。1963年に朝日新聞社が開催した、賞金1000万円の懸賞小説にて見事当選を果たした作品です。現在よりも遥かに物価の低い1963年に賞金1000万円の賞を獲った作品ということで、非常に注目を浴びました。圧倒的な前評判を背負って出版された本作でしたが、期待を裏切ることはありませんでした。素晴らしい売り上げを見せつけた末に何度もドラマ化され、大人気番組となる「笑点」のタイトルも本作から取られるなど、当時の国民的ベストセラーとなります。そんな作品を令和の今日なって読んでみた感想ですが、サスペンス的なエンタメ性を備えつつも、テーマである「人間の原罪」について巧妙な掘り下げが為されている作品であると感じました。旧い作品にありがちな冗長性は否めませんが、おそらく唯一無二であろう優れた設定と、そこから展開される痛切で悲哀に溢れる物語の様相が光ります。まさに「氷点」を感じるような、冬の夜長にお薦めの作品です。あらすじ旭川にある辻口病院の病院長、辻口啓造(つじぐち けいぞう)が主人公。妻の夏枝(なつえ)と長男徹(とおる)、長女ルリ子(るりこ)...
「春にして君を離れ」アガサ・クリスティ 評価:3点|良識のある人間として立派に生きてきた、それなのに、何か重要な事柄を見落としている気がする【海外純文学】
「ミステリの女王」の異名をもって知られ、「そして誰もいなくなった」「オリエント急行の殺人」「アクロイド殺し」「ABC殺人事件」など、いまなお人気の根強い名作ミステリを遺した小説家アガサ・クリスティ。そんなクリスティが著した、ミステリではない作品がこの「春にして君を離れ」です。ミステリ作家として名を馳せていたクリスティは敢えて別名義で非ミステリ小説を発表していたのですが、そんな非ミステリ小説群の中では本作が最も有名な作品となっております。弁護士の夫を持ち、三人の子供にも恵まれた専業主婦が順風満帆だった「はず」の人生を振り返り、ささやかな疑問を抱くところから始まる物語。普通よりも良い人生、常識的に考えて良いとされる人生を歩み続け、他者にもその「良識」を遺憾なく振りかざしてきた女性が、人生において本当に大切なことを少しだけ理解しかけて、けれども、その理解さえも心の奥で拒絶してしまう。決まりきった人生が持つあまりの薄っぺらさと、それに半ば気づいていながら薄っぺらい人生に拘泥することの哀愁を描いた、ベタな題材ながら心に沁みる物語です。あらすじバグダッドから陸路でロンドンで帰る途中、ジョーン・スカ...
「掏摸」中村文則 評価:1点|さすらいのスリ師を襲う巨悪の陰謀【ノワール純文学】
凋落著しい純文学界隈にあってヒット作を連発し、海外でも人気の高い売れっ子作家である中村文則さん。受賞歴も非常に華々しく、新潮新人賞を「銃」で受賞すると、野間文芸新人賞を「遮光」で受賞、芥川賞を「土の中の子供」で受賞、そして、大江健三郎賞を本作で受賞するなど、国内の文学賞を次々と陥落していきました。前述の通り諸外国での評価も高く、 ウォール・ストリート・ジャーナルが選ぶ2012年ベスト小説10作に本作が選ばれたほか、同紙が選ぶ2013年ベストミステリーの10作に「悪と仮面のルール」が選ばれ、デイビッド・グーディス賞というノワール小説の名手に贈られる賞も受賞しています。そんな文壇の寵児にとって代表作のひとつであり、上述の通り米高級紙の評価も受けている本作なのですが、読んでみた感想はちょっと陳腐すぎるかなといったところ。文学としてもエンタメとしても凡庸未満の作品だったと感じました。あらすじ主人公は掏摸を生業にしている西村という青年。東京を仕事場に富裕層ばかりを狙って獲物を次々と盗っていく西村だが、ある日、彼は木崎という男から仕事を頼まれる。闇の社会を牛耳る黒幕である木崎の。そんな木崎の依頼を...
【波乱の法廷サスペンス】小説「推定無罪」スコット・トゥロー 評価:3点【海外ミステリ】
現役弁護士にして元検事補、作家としても活躍するスコット・トゥローの代表作。ニューヨーク・タイムズの年間ベストセラーリストでは1987年の7位に入り、映画も2億ドル以上の興行収入を得るなど、当時の大ヒット作となった小説です。殺人事件の捜査をしている主席検事補の主人公が、なんとその殺人事件の容疑者として起訴されてしまうという物語。真犯人は誰なのか、というミステリ的な側面はもちろんのこと、米国独特の司法制度のもとで行われる劇的な裁判の展開や、汚職や不倫といったドロドロ要素溢れるサスペンスが興奮をそそります。あらすじ舞台はアメリカの田舎町であるキンドル郡。地方検事局のトップを務める地方検事を決める選挙の真っ最中であり、現職のレイモンド・ホーガンと新人の二コ・デラ・ガーディアとの選挙戦は大接戦となっている。そんな折、キンドル郡及び郡地方検事局を揺るがす殺人事件が発生してしまう。キャロリン・ポルヒーマス検事補が何者かに殺害されてしまったのだ。この事件を見事解決に導いて得点稼ぎをしたいレイモンドは、腹心の部下であるラスティ・サビッチ主席検事補を捜査の担当とする。意気揚々と捜査に当たるラスティだが、あ...
【エンタメ小説】おすすめエンタメ小説ランキングベスト10【オールタイムベスト】
本ブログで紹介したエンタメ小説の中からベスト10を選んで掲載しています。「エンタメ小説」の定義は難しいところでありますが、本記事では、肩の力を抜いて楽しめる作品でありながら、同時に深い感動も味わえる作品を選ぶという方針でランキングをつくりました。第10位 「時をかける少女」筒井康隆【学園SF時間移動ジャンルを生み出した読み継がれる古典】・あらすじある日、中学3年生の芳山よしやま和子かずこは、同級生の深町ふかまち一夫かずお・浅倉あさくら吾朗ごろうと一緒に理科室の掃除をしていた。掃除を終え、隣の理科実験室に用具をしまおうとすると、理科実験室から奇妙な物音が聞こえてくることに和子は気づく。恐る恐る理科実験室の扉を開ける和子。しかし、和子が明けた瞬間に中にいた人物は別の扉から逃亡したようで、残っていたのは液体の入った試験管だけ。しかも、試験管の一つは割れて液体が床にこぼれている。そして、液体から微かにラベンダーの香りがすることに気づいた瞬間、和子は失神してその場に倒れ込んでしまう。そんな不思議な体験をした和子は、その数日後、悲劇に襲われる。登校中、信号無視のトラックが和子に突っこんできたのだ。...
「人魚シリーズ」 高橋留美子 評価:2点|大人気漫画家が描くグロテスクな伝奇調物語【短編漫画】
「うる星やつら」や「らんま1/2」、「犬夜叉」といった代表作を持つ人気漫画家、高橋留美子さん。本ブログでも「めぞん一刻」を評価5点でレビューしておりますが、漫画家としての極めて高い実力は改めて言及するまでもないことでしょう。そんな高橋留美子さんの作品の中でも、かなりマイナーな位置づけにあるのがこの「人魚シリーズ」。「週刊少年サンデー」に不定期連載されているのですが、第1話である「人魚は笑わない」の掲載が1984年、最新話である「最後の顔」の掲載が1994年となっていて、ここしばらく新しい話が出てきていません。加えて、ややグロテスクな表現が多く、後ろ暗い作風が高橋留美子さんの普段の漫画作品とは一線を画しています。「大衆受けを狙わず、書きたい話を書きたいときに書いた」結果の産物という印象です。そして、そういった作品にこそ興味を抱くのが本ブログなのですが、読んでみた結果としてはイマイチな作品という感想。単に「暗くてグロテスク」を超えるような、「物語」としての魅力を見出すことはできませんでした。あらすじ1980年代の日本、浮浪者のような姿をした青年が一人、人魚を求め無人島とされている島を訪れる...
「ねじの回転」ヘンリー・ジェイムス 評価:2点|幼い兄妹を襲う幽霊、その正体に迫る家庭教師の奮闘【ホラーサスペンス】
アメリカ生まれながらヨーロッパでも長い時間を過ごし、米欧双方の視点や文化が入り混じった小説を書いたことで有名なヘンリー・ジェイムスの作品。日本では「デイジー・ミラー」と並んで容易に入手できるのがこの「ねじの回転」です。文学作品と言うだけあって、技巧を凝らした心理描写は優れていました。ただ、技巧ばかりで、なにか普遍的な人間真理を衝くような、そんな迫真性にかなり欠けていた作品でもありました。あらすじイギリスのとあるお屋敷に家庭教師として雇われた「私」。面倒を見るように頼まれたのは幼い兄妹。両親を失った兄妹は叔父のもとに身を寄せているのだが、お屋敷の主人でもある叔父は二人の教育に全く関心がない。使用人たちには学がないため、「私」が勉強を教えることになったのだ。そんな「私」は当初、この職に就けたことを喜んでいた。品行方正で見目麗しい兄妹と触れ合う時間は楽しく、立派なお屋敷での生活は身に余るほど。しかし、しばらくすると、「私」の生活に文字通り影が差す出来事が起こる。なんと、このお屋敷には幽霊が出るのだ。その幽霊はただその辺りに浮かんでいるだけではなく、子供たちに影響を与え、悪の道に引きずり込もう...