サスペンス

三浦綾子

「氷点」三浦綾子 評価:3点|「汝の敵を愛せよ」ならば、娘を殺した犯人の子供を引き取ってみせる【古典純文学】

キリスト教文学の名手である三浦綾子さんのデビュー作にして代表作。 1963年に朝日新聞社が開催した、賞金1000万円の懸賞小説にて見事当選を果たした作品です。 現在よりも遥かに物価の低い1963年に賞金1000万円の賞を獲った作品ということで、非常に注目を浴びました。 圧倒的な前評判を背負って出版された本作でしたが、期待を裏切ることはありませんでした。 素晴らしい売り上げを見せつけた末に何度もドラマ化され、大人気番組となる「笑点」のタイトルも本作から取られるなど、当時の国民的ベストセラーとなります。 そんな作品を令和の今日なって読んでみた感想ですが、サスペンス的なエンタメ性を備えつつも、テーマである「人間の原罪」について巧妙な掘り下げが為されている作品であると感じました。 旧い作品にありがちな冗長性は否めませんが、おそらく唯一無二であろう優れた設定と、そこから展開される痛切で悲哀に溢れる物語の様相が光ります。 まさに「氷点」を感じるような、冬の夜長にお薦めの作品です。 あらすじ 旭川にある辻口病院の病院長、辻口啓造(つじぐち けい...
アガサ・クリスティ

「春にして君を離れ」アガサ・クリスティ 評価:3点|良識のある人間として立派に生きてきた、それなのに、何か重要な事柄を見落としている気がする【海外純文学】

「ミステリの女王」の異名をもって知られ、「そして誰もいなくなった」「オリエント急行の殺人」「アクロイド殺し」「ABC殺人事件」など、いまなお人気の根強い名作ミステリを遺した小説家アガサ・クリスティ。 そんなクリスティが著した、ミステリではない作品がこの「春にして君を離れ」です。 ミステリ作家として名を馳せていたクリスティは敢えて別名義で非ミステリ小説を発表していたのですが、そんな非ミステリ小説群の中では本作が最も有名な作品となっております。 弁護士の夫を持ち、三人の子供にも恵まれた専業主婦が順風満帆だった「はず」の人生を振り返り、ささやかな疑問を抱くところから始まる物語。 普通よりも良い人生、常識的に考えて良いとされる人生を歩み続け、他者にもその「良識」を遺憾なく振りかざしてきた女性が、人生において本当に大切なことを少しだけ理解しかけて、けれども、その理解さえも心の奥で拒絶してしまう。 決まりきった人生が持つあまりの薄っぺらさと、それに半ば気づいていながら薄っぺらい人生に拘泥することの哀愁を描いた、ベタな題材ながら心に沁みる物語です。 あらすじ ...
中村文則

「掏摸」中村文則 評価:1点|さすらいのスリ師を襲う巨悪の陰謀【ノワール純文学】

凋落著しい純文学界隈にあってヒット作を連発し、海外でも人気の高い売れっ子作家である中村文則さん。 受賞歴も非常に華々しく、新潮新人賞を「銃」で受賞すると、野間文芸新人賞を「遮光」で受賞、芥川賞を「土の中の子供」で受賞、そして、大江健三郎賞を本作で受賞するなど、国内の文学賞を次々と陥落していきました。 前述の通り諸外国での評価も高く、 ウォール・ストリート・ジャーナルが選ぶ2012年ベスト小説10作に本作が選ばれたほか、同紙が選ぶ2013年ベストミステリーの10作に「悪と仮面のルール」が選ばれ、デイビッド・グーディス賞というノワール小説の名手に贈られる賞も受賞しています。 そんな文壇の寵児にとって代表作のひとつであり、上述の通り米高級紙の評価も受けている本作なのですが、読んでみた感想はちょっと陳腐すぎるかなといったところ。 文学としてもエンタメとしても凡庸未満の作品だったと感じました。 あらすじ 主人公は掏摸を生業にしている西村という青年。 東京を仕事場に富裕層ばかりを狙って獲物を次々と盗っていく西村だが、ある日、彼は木崎という男から仕事を頼ま...
スコット・トゥロー

【波乱の法廷サスペンス】小説「推定無罪」スコット・トゥロー 評価:3点【海外ミステリ】

現役弁護士にして元検事補、作家としても活躍するスコット・トゥローの代表作。 ニューヨーク・タイムズの年間ベストセラーリストでは1987年の7位に入り、映画も2億ドル以上の興行収入を得るなど、当時の大ヒット作となった小説です。 殺人事件の捜査をしている主席検事補の主人公が、なんとその殺人事件の容疑者として起訴されてしまうという物語。 真犯人は誰なのか、というミステリ的な側面はもちろんのこと、米国独特の司法制度のもとで行われる劇的な裁判の展開や、汚職や不倫といったドロドロ要素溢れるサスペンスが興奮をそそります。 あらすじ 舞台はアメリカの田舎町であるキンドル郡。 地方検事局のトップを務める地方検事を決める選挙の真っ最中であり、現職のレイモンド・ホーガンと新人の二コ・デラ・ガーディアとの選挙戦は大接戦となっている。 そんな折、キンドル郡及び郡地方検事局を揺るがす殺人事件が発生してしまう。 キャロリン・ポルヒーマス検事補が何者かに殺害されてしまったのだ。 この事件を見事解決に導いて得点稼ぎをしたいレイモンドは、腹心の部下であるラス...
小説特集

【エンタメ小説】おすすめエンタメ小説ランキングベスト3【オールタイムベスト】

本ブログで紹介したエンタメ小説の中からベスト3を選んで掲載しています。 「エンタメ小説」の定義は難しいところでありますが、本記事では、肩の力を抜いて楽しめる作品でありながら、同時に深い感動も味わえる作品を選ぶという方針でランキングをつくりました。 第3位 「砂漠」伊坂幸太郎 【楽しく切なく愛おしい大学生活】 ・あらすじ 大学入学直後に知り合った5人。北村、西嶋、鳥井の男三人と、東堂、南の女二人。 奇妙な正義感に溢れた西嶋と軽いノリのトラブルメーカーである鳥井が引っ張ってくる騒動はどれも変わったものばかり。 悪徳ホストとの賭けボウリングや、通り魔犯の謎、超能力者と超能力否定派の対決ショー。物語の語り手である北村はそれらの事件に否応なしに巻き込まれていく。 くだらないことに熱心な西嶋や鳥井のから騒ぎに、不愛想だが絶世の美人である東堂と、超能力が使える南の存在が加わり、事件はときに深刻な、ときに軽妙な方向へと二転三転する。 がむしゃらに生きた大学生活を通じて築き上げられた友情と、各人の成長を描く、愛おしくも懐かしい青春群像劇。 ...
ヘンリー・ジェイムズ

「ねじの回転」ヘンリー・ジェイムス 評価:2点|幼い兄妹を襲う幽霊、その正体に迫る家庭教師の奮闘【ホラーサスペンス】

アメリカ生まれながらヨーロッパでも長い時間を過ごし、米欧双方の視点や文化が入り混じった小説を書いたことで有名なヘンリー・ジェイムスの作品。 日本では「デイジー・ミラー」と並んで容易に入手できるのがこの「ねじの回転」です。 文学作品と言うだけあって、技巧を凝らした心理描写は優れていました。 ただ、技巧ばかりで、なにか普遍的な人間真理を衝くような、そんな迫真性にかなり欠けていた作品でもありました。 あらすじ イギリスのとあるお屋敷に家庭教師として雇われた「私」。 面倒を見るように頼まれたのは幼い兄妹。 両親を失った兄妹は叔父のもとに身を寄せているのだが、お屋敷の主人でもある叔父は二人の教育に全く関心がない。 使用人たちには学がないため、「私」が勉強を教えることになったのだ。 そんな「私」は当初、この職に就けたことを喜んでいた。 品行方正で見目麗しい兄妹と触れ合う時間は楽しく、立派なお屋敷での生活は身に余るほど。 しかし、しばらくすると、「私」の生活に文字通り影が差す出来事が起こる。 なんと、このお屋敷には幽霊が出るの...
乙一

【暗いところで待ち合わせ】視覚障がい者の住む家に身を潜めた殺人容疑者の運命やいかに 評価:4点【乙一】

人気作家、乙一さんの文庫書き下ろし作品です。 類を見ない斬新な設定と普遍的で温かな感情を共存させたこの作品。 私としては乙一さんの最高傑作だと思っています。 あらすじ 視力を失い、保険金で日々を静かに暮らすミチル。 そんなミチルは、最近、自宅で奇妙な感覚に襲われていた。 擦れるような小さな音が頻繁に聞こえ、誰もいないはずの空間から空気の揺らぎを感じる。 一方、とある殺人事件の犯人として追われていたアキヒロは、ミチルの家に逃げ込み、部屋の一角を居場所としていた。 偶然が起こした不思議な同居。 それぞれが異なる理由で怯える両者だったが、やがてその関係にも変化が訪れる。 死んだように暮らしているミチルと、孤独に生きてきたアキヒロ。 二人の運命やいかに......。 感想 素晴らしい作品、傑作です。 人との関りが苦手、という二人が出会う物語なのですが、まず、その「孤独」描写が秀逸。 ただ単に「暗いと呼ばれていた」「人を避けがちだった」と描写するだけでなく、馬鹿にされたときの心理や、悔し...
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