【エンタメ小説】有名エンタメ小説低評価批評集【閲覧注意】
「涼宮ハルヒの動揺」谷川流 評価:2点|伝説的なライブ回の原作から長編に繋がる布石編までを収録したサブエピソード集【ライトノベル】
中短編集だった第5巻「涼宮ハルヒの暴走」に続く第6巻ですが、本作も中短編集となっております。内容としても前作と同様、夏・秋・冬を中心とした作品が収録されており、長編でいえば「涼宮ハルヒの溜息」や「涼宮ハルヒの消失」の前後に起こった話となっております。感想としては、見どころのある話とそうではない話の差が大きく、それらを平均して評価2点(平均かそれ以下の、凡庸な作品)をつけております。なお、第1巻及び前作(第5巻)の感想はこちらです。あらすじ・ライブアライブついにやって来た文化祭当日。艱難辛苦の末になんとか撮影及び編集を終わらせたSOS団映画「朝比奈あさひなミクルの冒険 Episode00」の上映を尻目に、主人公であるキョンは自分なりの文化祭を楽しんでいた。そんなキョンがふと訪れたのは講堂であり、そこでは数々のバンドが出演するライブが行われている。騒々しいロックバンドが退場したのち、現れたガールズバンドの構成員にはなぜかSOS団の団長である涼宮すずみやハルヒと、その団員である長門ながと有希ゆきの姿があり......。・朝比奈ミクルの冒険 Episode00バニーガールスタイルで商店街の宣伝...
「涼宮ハルヒの暴走」谷川流 評価:2点|無限ループする夏休みに絶体絶命のゲーム対決、そして吹雪の洋館からの脱出劇、SOS団の日常を描いた中編集【ライトノベル】
シリーズ最高傑作と名高い第4巻「涼宮ハルヒの消失」に続く第5巻が本作です。主人公及びヒロインが所属するSOS団の日常(といっても突飛な事件やイベントに巻き込まれる物語ばかりですが)を描いた中編が3編収録されており、それぞれ、夏、秋、そして冬を舞台とした作品になっております。「涼宮ハルヒの消失」がクリスマス前からクリスマスにかけての話だったので、夏と秋の話は前作よりも時系列的に前の話であり、こうしたランダムな刊行順もこの「涼宮ハルヒ」シリーズの特徴だといえるでしょう。さて、そんな本作の感想ですが、中短編集だった第2巻と同様、本作も「涼宮ハルヒ」シリーズに登場するキャラクターが好きな人に向けた中編集となっており、それぞれの作品を単独で見た場合に物語的な美点があるかといえばそうでもない話ばかりだったという印象です。それゆえ、本作を楽しむためにはキャラクターがはしゃいでいるのを見守るといったような読み方がどうしても必要となるでしょう。また、アニメ化の際に良くも悪くも話題となった「エンドレスエイト」も収録されておりますので、原作とアニメの両方を鑑賞して違いを楽しむといった読書方法も悪くはないかも...
「涼宮ハルヒの消失」谷川流 評価:3点|素敵な非日常をもたらす存在、それを肯定することの尊さを描くシリーズ屈指の人気作【ライトノベル】
著名なライトノベルシリーズである「涼宮ハルヒ」シリーズですが、既刊12巻の中でも本作は非常に評価が高く、ファンの中でも本作をシリーズの最高傑作に挙げる人が多い印象です。個人的には第1巻「涼宮ハルヒの憂鬱」を第1位に推したいのですが(おそらくファンの中では第1巻を最高傑作に挙げる人が第4巻を最高傑作として挙げる人に次いで多いのではないかと思います)、本作も手堅い面白さがあり、特に主人公が第1巻冒頭で持っていた価値観が明示的に180度転換する描写があることから第1期完結作として本作を扱うこともできるでしょう。実際、本作による盛り上がりを最後に「涼宮ハルヒ」シリーズの面白さが減衰していってしまうのが辛いところです。また、本作はアニメ映画化もされており、そちらもアニメファンから高い評価を得ています。162分という長尺の映画なのですが、原作に忠実な展開が美麗な作画と意欲的な演出によってさらに面白く描かれており、映画が原作を超えた稀有な例であると言っても反発は少ないと思います。それでは、そんな本作のあらすじと感想を述べていくことにいたしましょう。なお、第1巻及び前作(第3巻)の感想はこちらです。あ...
「ファイナルファンタジーX 序盤」評価:4点| シナリオ御重視の作風で独自の物語性に期待できる定番シリーズの評判作【RPG】
国内外で根強い継続的人気を誇り、ドラゴンクエストシリーズと並んで日本産RPGの二大巨頭と評されることの多いファイナルファンタジーシリーズ。そのファイナルファンタジーシリーズのナンバリングタイトル第10作が本作「ファイナルファンタジーX」です。元々は2001年にPS2で発売されたレトロRPGですが、その人気から幾度となく移植が行われており、2019年には「HDリマスター」と銘打ってNintendo Switchでも発売されるなど、その勢いは令和時代になっても留まるところを知りません。2022年には本作の登場人物を使用した下品なMADがニコニコ動画で流行し、その影響を受けてか最近になってYouTubeでも本作の実況動画が多数アップロードされているように感じられます。私が本作を初めて手に取ろうと思ったきっかけもそういったニコニコ動画及びYoutubeの動画がきっかけなのですが、シリアスで重厚なストーリーが魅力という前評判に嘘はなく、まだまだゲームを始めたばかりなのですが、本作の世界観に惹き込まれているところです。旧いゲームでありながらいまなおFFの名作といえば本作であると名前が挙がることも納...
「クレヨンしんちゃん オトナ帝国の逆襲」原恵一 評価:2点|大人たちが選ぶのは無邪気な享楽か責任ある幸福か、子供向け映画の異色作【アニメ映画】
1992年に始まり、現在まで続く大人気アニメシリーズ「クレヨンしんちゃん」の劇場映画シリーズ第9作目にあたる作品です。放映当初はその下品な内容から猛烈な批判を浴びるも、絶大な子供人気を誇ったことからゴールデンタイムのアニメとして定着。その後、徐々に家族愛を中心としたハートフル寄りの作風が意識されるようになり、いまなお地上波で放送され続ける超長寿アニメの一つとなっております。そんな「クレヨンしんちゃん」シリーズは毎年アニメも放映しているのですが、中でも大きな人気を得ているのが本作。「クレしん」らしいギャグテイストな作風を基調としながらも、当時の大人世代をターゲットにした切なくノスタルジックなテーマで物語がつくられており、子供は爆笑し大人は泣いた作品として知られています。そんな本作をいまになって見返してみたのですが、印象的な場面は多いものの物語の作り込みが甘く、一本調子感が拭えない映画であるように思われました。基本的には子供に向けた作品でそこまで複雑な脚本にはできないだろうという批判は正論として受け取りますが、大人受けという意味で見ても、当時における題材の斬新さが良かったまでで、物語作品と...
「マイ・インターン」ナンシー・マイヤーズ 評価:2点|若き女社長が直面する人生の課題と彼女が出会うシニアインターンの紳士【アメリカ映画】
2015年に公開されたハリウッド映画で、監督は「ハート・オブ・ウーマン/What women want」や「恋愛適齢期/Something's Gotta Give」で知られるナンシー・マイヤーズ氏。若い女性が創業者社長を務める新進気鋭のベンチャー企業に老齢のインターン生がやってくるという、産業の新陳代謝が速いアメリカならではの設定が独特な映画です。また、配役にも個性があり、敏腕女性経営者役をアン・ハサウェイが演じたのはいかにも王道と言えますが、老インターン生についてはロバート・デ・ニーロが務め、非常に温和な性格を与えられるなど、意外性のある抜擢がなされております。そんな本作ですが、筋書きは良いのだが細部が雑だった、というのが正直な感想です。老インターン生が持つ様々な経験や人間としての滋味が若手女社長に良い影響を与え、かけがえのない存在になっていくという枠組み自体は心動かされるものがあるのですが、その過程で起こる具体的な出来事一つ一つがどれもややインパクトに欠けるもので、地味とまでは言わないものの、いわゆる「映画」のテンプレ通りに物事が進んでしまったという印象を受けました。意外ながらも...
「第六大陸」小川一水 評価:1点|少女の夢を叶えるため、男たちは月面に結婚式場を建設する【SF小説】
本格SF小説の書き手として知られる小川一水さんの作品で、代表作の一つとして位置づけられることが多い作品です。優秀なSF小説に与えられる賞である星雲賞の第35回日本長編部門受賞作にして漫画化もされている人気作ということで読んでみたのですが、かなり期待外れだったというのが正直な感想です。SFの部分はかなりリアル(であるように感じられる)にも関わらず、一方で会社組織の在り方や人間関係があまりにもライトノベル風となっているため作中でのリアリティの持たせ方がかなり歪んでおり、真剣な話として読むべきなのか、一種のコメディとして読むべきなのか混乱してしまって全く熱中できない作品となっております。あらすじ(本書は2003年刊行です)ときは西暦2025年、極地や海底といった厳しい環境での施設建設に定評がある後鳥羽総合建設がある日、規格外の大型案件を受注することとなった。それは、月に結婚式場を建設するというもの。月面の有人施設ですら希少という時代において、それはあまりにも壮大で無謀な計画だった。そんなプロジェクトの担当となったのは、後鳥羽総合建設の建設主任である青峰あおみね走也そうや。そして、走也と行動を...
「かがみの孤城」辻村深月 評価:2点|不登校の少年少女が不思議な空間で深める友情と立ちはだかる「学校」そして「家庭」という苦難【青春小説】
「冷たい校舎の時は止まる」でメフィスト賞に選ばれてデビュー、その後も破竹の勢いで大ヒット作を連発し、いまや大人気作家としての地位を盤石とした辻村深月さん。特に十代から二十代の若者を主人公とした作品が多く、ミステリという枠組みで宣伝される著作が中心ですが、あくまでミステリ成分は「風味」程度に抑えられており、ミステリ作家というよりも若者の繊細な感情を巧みに描く青春小説の名手として認識されている読書子が多いのではないでしょうか。そんな辻村さんが2017年に著したのが本作です。不登校の中学生たちが一つの不思議な空間に集められ、あるゲームに参加させられる、といういかにも若者的なあらすじの作品であり、第一印象として特段目新しさを感じる書籍ではないのですが、現実には100万部以上が刷られており、2018年度の本屋大賞を受賞、漫画化もされており、2022年の12月には映画化もされるなど、出版不況をものともしない売れっ子ぶりが発揮された作品となっております。というわけでそれなりに期待して読んだのですが、思ったよりは凡庸な作品だったなという印象です。さすがはベストセラー連発作家のエンタメ作品だけあってすい...
「FIRE 最強の早期リタイア術」クリスティー・シェン&ブライス・リャン 評価:4点|FIRE入門から中級クラスの知識と手法を総覧する、本場アメリカ仕込みの決定版FIRE書籍【資産運用】
経済紙やビジネス書の界隈においてFIREという言葉が耳目を集めるようになって久しいですが、そんなFIREの考え方や具体的実践方法を示した書籍として、特にFIREの起源国であり本場でもあるアメリカ発の書籍として紹介されることの多い著作が本書となります。当概念に詳しい方にとっては耳にタコかもしれませんが、FIREとはFinancial Independent Retire Earlyの略称であり、日本語に訳せば「経済的に独立して早期に退職する」という意味になります。要は会社組織への金銭的な依存をなくし、一般的な退職年齢とされる60歳や65歳を待たずに退職することで自由な人生を謳歌しようというわけです。そう聞くとフリーランスや一人親方として独立するということかな、と考える方が多数でありましょうし、そういった手に職をつけて独立するという観念もFIREと無関係なわけではありません。しかし、この時代に置いて新しく設えられたFIREという言葉は、どちらかというと、そういった職業人としての自立を示すのではなく、専ら資産運用で生活費を賄えるようにすることで、(非自発的)労働そのものから独立してしまおうと...
「やさしくない国ニッポンの政治経済学」田中世紀 評価:2点|人助けもしなければ社会参加もせず、それでいて貧乏な日本とその処方箋【社会学】
日本人の良いところは他人に優しくするところであり、お人好し過ぎる点が国際外交やビジネスの場面で仇になってしまうほど日本人は優しいのだ。こうしたステレオタイプ的な日本人像は、特に日本人のあいだで長く語られてきた典型的日本人像であります。(自分で自分たちのことを「優しい」と思っているなんて、個人的にはどうしようもなく気持ち悪いですが......)東京オリンピックの招致やインバウンド需要取り込みのために近年では「おもてなし」の精神が強調される機会も多く、こうした日本人の自己像はますます強化されているのではないでしょうか。そんな風潮に一石を投じた記事が「Yahoo!ニュース」に投じられたのは2019年10月のこと。本書のプロローグもまた、この記事の紹介から始まります。日本人は、本当のところ世界の中でも全然「優しくない」集団なのではないか。そんな疑念を皮切りに、日本人の利他性/利己性を社会科学的に分析。貧困問題とも絡めながら論じた著作となっております。目次プロローグ序章 人にやさしくない、貧しい国ニッポン第1章 他人を信頼しない日本人第2章 そもそも、なぜ人は他人を助けるのか第3章 日本人の社会...
「ヒカルの碁」ほったゆみ・小畑健 評価:4点|最強棋士を巡るサスペンスと囲碁を通じて成長する少年の青春物語【囲碁漫画】
「週刊少年ジャンプ」に1999年から2003年まで連載され、世界的に大ヒットした空前絶後の「囲碁漫画」です。全世界で数千万部を売り上げたほか、本作をきっかけに囲碁を始めた人物がプロ棋士(関達也氏)になるなど囲碁界に与えた影響も大きかった作品。「ヒカルの碁を最終巻まで夢中になって読んだが、最後まで囲碁のルールは分からなかった」そんな感想がインターネット上でも見られるように、本作は囲碁が持つ駆け引きの醍醐味や戦略性よりを主眼とした作品ではありません。それよりも、囲碁界を舞台に、主人公である進藤ヒカルの成長や周囲の人物たちが繰り広げる人間ドラマ、そして、ヒカル以外には姿が見えない最強棋士、藤原佐為が囲碁界にもたらす激震と、正体が分からない最強棋士を巡るサスペンス的な展開に面白味がある漫画となっております。平安時代に活躍した史上最強棋士の幽霊が現代の平凡な少年に乗り移り、その少年はときに囲碁初心者として、ときに最強棋士の代役として囲碁を打つ。それによって、少年は異形のミステリアスな存在として囲碁界に認知され、様々なドラマが生まれるきっかけとなる。一方、本人は囲碁の魅力に目覚め始めることで腕白坊...
「タイム・リープ あしたはきのう」高畑京一郎 評価:1点|SFギミックの完成度だけが高い、小説というより単なるパズルのような作品【ライトノベル】
「クリス・クロス 混沌の魔王」で第1回電撃ゲーム小説大賞金賞を受賞した高畑京一郎さんの第2作。「電撃ゲーム小説大賞」は「電撃小説大賞」の前身であり、第11回から「電撃小説大賞」へと名称変更して現在に至ります。電撃小説大賞といえば、古くは「ブギーポップは笑わない」や「バッカーノ! 」「狼と香辛料」といった大ヒットシリーズを輩出し、近年でも「86-エイティシックス-」や「錆喰いビスコ」のような有名作品を見出している新人賞。電撃文庫というライトノベル界のガリバーレーベルを支え続ける名門、という評価に異を唱える人はいないでしょう。そんな電撃小説大賞(電撃ゲーム小説大賞)の第1回金賞を獲得した作者が著した中でも、長年に渡って根強い人気を誇っているのがこの「タイム・リープ あしたはきのう」という作品です。インターネット上での評判は非常に良く、かなり期待して読み始めたのですが、率直な感想としては、とてもがっかりさせられました。時間移動モノSFとしての緻密さには頷ける側面もありますが、本書の魅力はSFあるいは謎解きとして「きっちりしている」だけ。人間たちが織り成すドラマとしての魅力が皆無であり、複雑な...
「涼宮ハルヒの退屈」谷川流 評価:2点|シリーズファンには嬉しい、キャラクターたちの日常を描いた中短編集【ライトノベル】
ゼロ年代を代表するライトノベルシリーズ、「涼宮ハルヒ」シリーズの第3巻です。第1巻が主人公の高校入学直後を描いた話だったのに対して、第2巻は半年飛んで文化祭の話、そしてこの第3巻になってようやく、時間は第1巻の直後に戻ってきます。構成としても4編が収められた中短編集となっており、あの伝説的第1巻の後にSOS団員たちがどう過ごしていたのかを描いた日常譚を4編収録、そのうち1編が今後の展開への布石となるヒロインの過去話になっております。その意味では、第2巻ではなく、この第3巻こそが第1巻の正統な続編だと言えるでしょう。第1巻及び第2巻の感想はこちら。さて、そんな本作の感想ですが、率直に言えば可もなく不可もなくといったところ。第1巻のような、エンタメと文学を高いレベルで両立する物語性こそありませんが、第2巻のようにひたすら退屈で、醜悪であるとまで評価できるような駄文が書かれているということもありません。第1巻を読んで「涼宮ハルヒ」シリーズのキャラクターが好きになった人にとっては、そんなキャラクターたちの日常を楽しむという限りにおいて、それなりに満足できる作品であると思います。上述の通り、次な...