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社会学・歴史・スポーツ
「昭和史 1926-1945」半藤一利 評価:4点|バランスの取れた筆致で激動の時代を描いた読みやすい通史の前編【日本史】
文藝春秋社でジャーナリストとして長く勤めた半藤一利さんによる、名前もそのまま、昭和時代の歴史について通史的に著した書籍です。半藤さんは1930年の生まれで、2021年に亡くなられています。本作は2004年に出版されており、太平洋戦争を中心に昭和史を研究し続けた半藤さんの集大成的な作品だと言えるでしょう。ずいぶん大きく出たタイトルであり、わたしも手に取る前は極論や決めつけだらけの俗物本であることを危惧していたのですが、実際に読んでみると、講義形式で語りかけてくるような文体でありながら内容は網羅的で深みもあり、主に政治と戦争の面から昭和という時代に何があったのかを学びたい際には最初の一冊として断然お薦めできる書籍でした。目次はじめの章 昭和史の根底には“赤い夕陽の満州”があった―日露戦争に勝った意味第一章 昭和は“陰謀”と“魔法の杖”で開幕した―張作霖爆殺と統帥権干犯第二章 昭和がダメになったスタートの満州事変―関東軍の野望、満州国の建国第三章 満州国は日本を“栄光ある孤立”に導いた―五・一五事件から国際連盟脱退まで第四章 軍国主義への道はかく整備されていく―陸軍の派閥争い、天皇機関説第五...
「やさしくない国ニッポンの政治経済学」田中世紀 評価:2点|人助けもしなければ社会参加もせず、それでいて貧乏な日本とその処方箋【社会学】
日本人の良いところは他人に優しくするところであり、お人好し過ぎる点が国際外交やビジネスの場面で仇になってしまうほど日本人は優しいのだ。こうしたステレオタイプ的な日本人像は、特に日本人のあいだで長く語られてきた典型的日本人像であります。(自分で自分たちのことを「優しい」と思っているなんて、個人的にはどうしようもなく気持ち悪いですが......)東京オリンピックの招致やインバウンド需要取り込みのために近年では「おもてなし」の精神が強調される機会も多く、こうした日本人の自己像はますます強化されているのではないでしょうか。そんな風潮に一石を投じた記事が「Yahoo!ニュース」に投じられたのは2019年10月のこと。本書のプロローグもまた、この記事の紹介から始まります。日本人は、本当のところ世界の中でも全然「優しくない」集団なのではないか。そんな疑念を皮切りに、日本人の利他性/利己性を社会科学的に分析。貧困問題とも絡めながら論じた著作となっております。目次プロローグ序章 人にやさしくない、貧しい国ニッポン第1章 他人を信頼しない日本人第2章 そもそも、なぜ人は他人を助けるのか第3章 日本人の社会...
「バカの壁」養老孟子 評価:2点|現代人が囚われている愚かさの監獄について老教授が語る【社会学】
400万部以上を売り上げ、日本のベストセラーランキング5位に君臨する伝説的新書である本作。東京大学名誉教授である養老孟司さんの著作で、2006年には「超バカの壁」、2021年には「ヒトの壁」が発売されるなどシリーズ化されており、人気は現在でも健在です。本作は新潮社編集部による口述筆記によって著されており、養老さんの語りを分かりやすく文章化したもの。そのため、確かに文章としては柔らかく読み易いものになっております。ただ、だからといって内容が濃いか、あるいは理解しやすいかと言われればそれはまた別の話。社会批判についての方向性としては個人的に賛同できる部分が多かったですが、あくまで老教授の居酒屋談義という色合いの著作です。目次第1章 「バカの壁」とは何か第2章 脳の中の係数第3章 「個性を伸ばせ」という欺瞞第4章 万物流転、情報不変第5章 無意識・身体・共同体第6章 バカの脳第7章 教育の怪しさ第8章 一元論を超えて第1章 「バカの壁」とは何か第一章では本作のタイトルでもある「バカの壁」について、ある夫婦の妊娠から出産までを追ったドキュメンタリーを見せたときの男子学生と女子学生の反応の違いを...
「健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて」熊代亨 評価:4点|無菌ゆえに息苦しい社会に適応することの困難【社会学】
精神科医ブロガーである熊代亨氏による現代社会評論。非常に個性的で長いタイトルは、令和時代を覆う雰囲気への違和感を言語化するという本書の試みを見事に表現していると言えるだろう。令和時代の、清潔で健康で道徳的な秩序にすっかり慣れた私たちから見て、高度経済成長期の日本社会はおよそ我慢できるものではなかったはずである。本書の「はじめに」に記載されている文章であるが、高度経済成長期まで遡らずとも、最近の社会が妙に潔癖であると感じている人は少なくないと思う。街は異様なほど綺麗になり、痰を吐いたり立小便をしたりする人はいない。浮浪者のような恰好をした人物を見かけることもいよいよ稀になってきた。人々はどこまでも整然と歩き、公的な空間では異様なくらい静かであることに努めていて、喧嘩や体罰、ハラスメントのようなカジュアルな暴力は滅びつつある。どんな店に入っても店員の態度は概ね良好で、横柄な接客という概念も姿を消し始めた。かつてに比べ、あらゆるコミュニケーションが丁寧になっている。良い世の中になりつつある傾向じゃないか。そう思う人もいるだろう。というか、そう思わない人の存在を想像できない人だって少なくないだ...
「教養としての大学受験国語」石原千秋 評価:3点|論説文から読み解く近現代社会【国文学教養書】
2000年に筑摩書房から発売された新書で、著者は早稲田大学教授の石原千秋氏。「この本は、大学受験国語の参考書の形をとった教養書である」本書冒頭の言葉であり、本書の性質をよく表現した文章となっている。テーマごとに2つずつの論説文の過去問が紹介され、著者が解説しながら解いていくという形式で本書は進行していくという構成。精選された論説文と、その解説の中で表現される「近現代社会というものを国文学者たちはどのように考えているのか」という思考枠組みが本書の核心となっている点が面白いところ。つまり、近現代社会を分析する視点がなければ大学受験国語を解くことはできないため、大学受験国語の参考書は必然的に近現代社会分析の解説になる、というわけである。本記事では本書の教養書としての側面を重視し、紹介されている論説文の中から印象に残ったものを取り上げて感想を述べていく。目次序章 たった一つの方法第一章 世界を覆うシステムー近代第二章 あれかこれかー二元論第三章 視線の戯れー自己第四章 鑑だけが知っているー身体第五章 彼らには自分の顔が見えないー大衆第六章 その価値は誰が決めるのかー情報第七章 引き裂かれた言葉...
「ブルシット・ジョブ」デヴィッド・クレーバー 評価:3点|無意味な仕事ばかりが増大していく背景を社会学的に分析 【社会学】
イェール大学准教授やロンドン大学教授を歴任した社会人類学者、デヴィッド・グレーバー氏の著書。社会人類学者としてはもちろん左派アナキストの活動家としても知られている人物であり、“Occupy Wall Street ”[ウォール街を占拠せよ](※)運動でも主導的な役割を果たしたことで一躍有名になりました。※リーマンショックの直後、金融機関の救済にのみ奔走し、若者の高い失業率等に対して有効な対策を打てなかったアメリカ政府に対する抗議運動。本書の他にも「負債論──貨幣と暴力の5000年」や「官僚制のユートピア──テクノロジー、構造的愚かさ、リベラリズムの鉄則」といった著作があり、刺激的な理論を通じてアカデミズムと現実社会を積極的に繋ごうとしていた学者でもあります。そんなグレーバー教授が2018年に著したのが、本作「ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論」。原題は“Bullshit Jobs”のみですが、邦題では「クソどうでもいい仕事の理論」という副題が付されています。さて、この「クソどうでもいい仕事」ですが、事務職の労働者であれば誰もがピンとくる一節なのではないでしょうか。あまりにも...
【物語 フランス革命】フランス革命時代の主要な出来事を手軽に概観できる新書 評価:3点【安達正勝】
有名事件のあらましや活躍した著名人のエピソードを中心として、フランス革命の経過を「物語」風に語っていく著作。中公新書から出版されている本ですが、学術的な知識や思考を大衆に伝えるための本というよりは、世界史の教科書やwikipediaを詳しくしたような内容になっております。私もフランス革命の知識は高校の世界史止まりであり、「バスチーユ」や「ジャコバン派」、「ロベスピエール」といった穴埋め問題を解くレベルの断片的な文言だけが頭の中にある状態でしたが、本書を読むことで、フランス革命という出来事全体が「物語」として頭の中で繋がっていく感覚を得ることができました。目次序章 フランス革命とは第1章 「古き良き革命」の時代第2章 革命的動乱の時代へ第3章 国王の死第4章 ジャコバン政府の時代第5章 恐怖政治ー革命政府の暗黒面第6章 ナポレオンの登場感想ルイ16世の治世下で始まった財政改革が民衆の怒りに火をつけ、最後は王政を打倒するにまで至ったフランス革命。バスチーユ牢獄襲撃の成功によって深まる大衆の自信、ヴァレンヌ逃亡事件による国王権威の失墜、激化する議会での主導権争いにジロンド派が敗れ、ジャコバン...
「戦争の世界史 下巻」ウィリアム・H・マクニール 評価:3点|戦争と軍需産業と政府部門の関係から読み解く世界史【歴史本】
たった一人で通史を描き出した「世界史」という本で有名なマクニール教授が、今度は「戦争」という観点から世界史を描き出した本作。「その2」から続いて下巻の内容を紹介していきます。「戦争の産業化」が始まる1840年代から、「国家総力戦体制」での戦争となる第一次及び第二次世界大戦まで、いよいよ舞台は近代戦争へと移っていきます。・前編「上巻 その2」はこちら。目次・上巻第1章 古代および中世初期の戦争と社会第2章 中国優位の時代 1000~1500年第3章 ヨーロッパにおける戦争というビジネス 1000~1600年第4章 ヨーロッパの戦争のアートの進歩 1600~1750年第5章 ヨーロッパにおける官僚化した暴力は試練のときを迎える 1700~1789年第6章 フランス政治革命とイギリス産業革命が軍事におよぼした影響 1789~1840年・下巻第7章 戦争の産業化の始まり 1840~1884年第8章 軍事・産業間の相互作用の強化 1884~1914年第9章 二十世紀の二つの世界大戦第10章 一九四五年以降の軍備競争と指令経済の時代第7章 戦争の産業化の始まり 1840~1884年第7章では、蒸気...
教養書 「戦争の世界史」その2 ウィリアム・H・マクニール 星3つ
1. 戦争の世界史 その2たった一人で通史を描き出した「世界史」という本で有名なマクニール教授が、今度は「戦争」という観点から世界史を描き出した本作。「その1」から続いてレビューしていきます。2. 目次・上巻第1章 古代および中世初期の戦争と社会第2章 中国優位の時代 1000~1500年第3章 ヨーロッパにおける戦争というビジネス 1000~1600年第4章 ヨーロッパの戦争のアートの進歩 1600~1750年第5章 ヨーロッパにおける官僚化した暴力は試練のときを迎える 1700~1789年第6章 フランス政治革命とイギリス産業革命が軍事におよぼした影響 1789~1840年・下巻第7章 戦争の産業化の始まり 1840~1884年第8章 軍事・産業間の相互作用の強化 1884~1914年第9章 二十世紀の二つの世界大戦第10章 一九四五年以降の軍備競争と指令経済の時代3. 概要第四章では、1600~1750年のあいだに進行したヨーロッパ軍隊の劇的な質的変容が語られます。イタリア諸都市が市民皆兵から傭兵にその軍備の中心を移行して以降、ヨーロッパでは傭兵が戦力の中心になっていきます。やが...
教養書 「戦争の世界史」その1 ウィリアム・H・マクニール 星3つ
1. 戦争の世界史 その1古来から、人類社会と切っても切り離せない関係にあった「戦争」という営み。本書のサブタイトルである「技術と軍隊と社会」という言葉の通り、「戦争」は人類の生活に絶え間なく影響を与え続け、いまなお私たちの生活と切っても切り離せない関係にあると言えるでしょう。レトルト食品からインターネットまで軍事技術から生まれた製品は数知れず、また、「軍隊式」と呼ばれるような行動様式や規律保持方法は会社や学校と行った私たちの暮らしの中心となる場所に多かれ少なかれ浸透しています。軍隊の階級こそ戦後日本の企業体や雇用方式の源流になったという考え方は、「日本社会のしくみ」でも紹介されておりました。経済という意味でも、防衛関連産業は世界各国において主力産業となっていますし、より時間を戻せば、社会経済の全てが戦争に動員されていた時期だってあるわけです。そもそも、現存する国家(諸集団・諸社会)というものは必ず、これまでの「戦争」を生き残り滅亡を免れてきたわけですから、その歴史や特徴を考えるとき「戦争」という切り口が有効なのは火を見るより明らかでしょう。そんなわけで、本書「戦争の世界史」はタイト...
新書 「江戸東京の明治維新」 横山百合子 星2つ
1. 江戸東京の明治維新帯の煽り文は「150年前の胸に刺さる現実」。明治維新といえば通常、政府高官として新しい日本をつくりあげていく明治の元勲たちに焦点が当たるか、もしくは、幕府側の将軍とその側近であったり、最後まで佐幕派として戦った武士たちに焦点が当たるかの2択になってしまいがちなところ、本書は旧江戸・新東京に生きた庶民たちの生活について説明しようとしているという点で差異化が図られております。著者は国立歴史民俗博物館教授の横山百合子さん。東大の学部を卒業後、社会科教員として勤めた後に博士課程を経て大学教員としてのキャリアを歩み始めたという人物です。本筋からは逸れますが、リカレント教育の重要性が盛んに言及される中で、今後、日本でもこのような経歴を持つ人が増えるといいな感じます。そして肝心の中身ですが、題材は新鮮だけれどもやや散漫というイメージ。庶民の生活変化の全体像をとらえるというよりは事例集という形式になっており、下級武士の誰それはこう生きた、遊女の誰それはこう生きた、賤民の誰それはこう生きたというような記述が続きます。その生き様の書かれ方は具体的で面白いのですが、それこそ下級武士・...
「日本社会のしくみ」小熊英二 評価:3点|終身雇用制と職能給という雇用慣行が生まれた背景を探求する【社会学】
あとがき・参考文献一覧含めると600ページにも及ぶ新書として一部界隈で有名になった作品で、定価も税別1300円と新書らしからぬ値段です。しかしながら、それに値する中身も備わっておりました。著者は慶応大学総合政策学部教授の小熊さん。本ブログでは若き日の傑作「単一民族神話の起源」をレビュー済みです。「単一民族神話」からはうって変わって「日本の雇用慣行」がテーマの本作。しかし、ステレオタイプを退け、データや具体例をもとに社会の構造や傾向を解き明かしていこうとする姿勢は変わっておりません。より現代的なテーマになり、新書という枠組みで著すにふさわしい時機を捉えた作品になっていると感じました。目次序章第1章 日本社会の「三つの生き方」第2章 日本の働き方第3章 歴史の働き第4章 「日本型雇用」の起源第5章 慣行の形成第6章 民主化と「社員の平等」第7章 高度成長と「学歴」第8章 「一億総中流」から「新たな二重構造」へ終章 「社会のしくみ」と「正義」のありか感想「日本社会のしくみ」という極めて大きく出たタイトルですが、本書で語られるのは雇用慣行の形成と変遷が中心。それではなぜタイトルが「日本の雇用慣...
教養書 「単一民族神話の起源」 小熊英二 星3つ その2
1. 単一民族神話の起源 その2 「日本人は1つの民族を起源としている」「日本人は全員、大和民族の末裔である」「 日本人は農耕民族」「日本人気質」「島国根性」「統一性が高い」。日常生活のから政治の場まで、いたるところで耳にする、ある種の「日本人単一民族」論。 厳密な意味であれ比喩的な意味であれ、日本人が単一の属性を持っている、もしくは、単一の民族から構成されているという言説や意識はどこから来るのか。明治時代から遡り、その起源を明らかにする「単一民族神話の起源」の感想その2です。前稿である「その1」はこちら。「その1」では「第一部 『開国』の思想 」について記述しましたので、本稿では「第二部 『帝国』の思想 」及び「 第三部 「島国」の思想」 を取り上げます。2. 目次第一部 「開国」の思想第二部 「帝国」の思想第三部 「島国」の思想 3. 感想第二部では、日本が「帝国化」していく中で唱えられた様々な民族論が紹介されます。まず最初に紹介されるのは、歴史家である嘉田貞吉の取り組みを通じて語られる「同化政策」です。第一部でも紹介した通り、帝国としての日本で受け入れられたのは「混合民族論」...