作品の感想

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夜は短し歩けよ乙女

「夜は短し歩けよ乙女」湯浅政明 評価:3点|夜の京都を舞台にした不思議で楽しい幻想恋愛エンターテイメント【アニメ映画】

森見登美彦さんの人気小説を原作に、湯浅政明監督が映画化。「夜明け告げるルーのうた」でアヌシー賞を受賞された監督です。小気味よいファンタジー展開に加え締りの良いラストシーンは印象に残ります。エンターテイメントとしてはこういう作品がもっと世に出て欲しいですね。あらすじ冴えない大学生である「私」は美しき後輩、黒髪の乙女に恋をしていた。そんな「私」が乙女との距離を埋めるために執っていた作戦、その名も「ナカメ作戦」。「ナるべくカのじょのメにとまる」の略であり、要は付け回して偶然を装いすれ違うだけの行動である。サークルOB・OGの結婚式の二次会に参加している今日も、二次会で乙女に近づくチャンス。しかし、乙女の行先はいつも気まぐれ。夜の先斗町で飲み歩いたり、幼き日に読んだ絵本を探して古本市を訪ねてみたり、文化祭のゲリラ演劇で代役ヒロインを務めたり、風邪のお見舞いに京都じゅうを駆け巡ったり。そんな乙女に(勝手に)振り回される「私」と、幻想的なほどに可愛らしい「乙女」。そして、主人公を取り巻く愉快な大学生と大人たちが織り成す、一夜限りのファンタジックエンターテイメント。感想湯浅監督らしい、現在の日本にお...
ユーリ!!! on Ice

「ユーリ!!! on Ice」山本沙代 評価:2点|リアルな試合描写が光るBL寄りのフィギュアスケートアニメ【テレビアニメ】

男子フィギュアスケートを題材にしたオリジナルアニメ。海外の有名スケーターにも注目されておりました。いわゆるBL的な描写はやや食傷気味でしたが、ほとんど全編をスケートの場面に費やす構成は思い切ったもので、良い効果を発揮していると感じました。あらすじ主人公、勝生勇利(かつき ゆうり)はフィギュアスケートの特別強化選手。しかし、シニア5年目のシーズン、初グランプリファイナルで大敗を喫してしまう。失意のまま実家のある長谷津に戻る勇利。大学を卒業したこの年、現役続行か否か悩んでいた。そんなとき、ネットにアップロードされた勇利の動画を見て、勇利に興味を抱き始めた人間がいた。その名はヴィクトル・ニキフォロフ。世界選手権5連覇を果たし、なおもフィギュアスケートの歴史を変え続けるロシアの選手。ひょんなことからヴィクトルが勇利のコーチになることが決まり、勇利は進退を賭けたシーズンに挑む。そして、このヴィクトルと勇利の出会いが、勇利の運命を大きく変えていくことになる。感想大筋のストーリーは勇利が日本の地方大会からグランプリファイナルまでを勝ち進んでいくだけで、大きな捻りがあったりするわけではありません。心理...
辻村深月

「オーダーメイド殺人クラブ」辻村深月 評価:2点|女子中学生が抱く思春期ならではの葛藤と奇妙な「殺人」依頼【青春小説】

メフィスト賞からデビューし、吉川英治文学新人賞、直木賞と、エンタメ作家成功の王道を驀進する辻村深月さんの作品。集英社のナツイチ(夏の百冊)にも選ばれている、定評のある小説です。ただ、タイトルのインパクトから想像していたよりも地味な話でありまして、中学生のありがちな葛藤や悩みの話に過ぎなかったのではないか、というのが正直な感想です。あらすじ主人公、小林アンは中学二年生。母親譲りの恵まれた容貌の助けもありクラスの中心的グループに所属しているが、実は猟奇的な事柄に興味があり、町の本屋にある怪我をした人形の写真集「臨床少女」が彼女の愛読書。恋愛がらみの人間関係で急に態度が変わる友人たちや、甘ったるくて何も考えていない母親との生活にうんざりしていたアン。ある日、河原で地味なクラスメイトの徳川勝利がビニール袋を蹴っている姿を目撃する。彼が去ったことを見届けた後、ビニール袋を掴むアン。その中身は「肉」のようなものだった。自分と同じ嗜好を持つ徳川に惹かれ、アンは彼に接近する。そして、アンは徳川にアン自身の殺害を依頼するのだった......。 感想物語の筋は大きく二つあり、アンが友人である芹香や倖との関...
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打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?

「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」 新房昭之 評価:1点|青春恋愛SF要素をそれっぽく詰め合わせただけの意味不明作品【アニメ映画】

1993年に岩井俊二監督が手掛けた同名テレビドラマを原作としたアニメ映画。広瀬すず、菅田将暉、松たか子と、有名女優・俳優が声優として起用されています。宣伝を含め、出版社やテレビ局が本腰を入れて予算を投入したのは分かるのですが、結果的に意味不明という評価を受けても仕方がない作品になってしまったと思います。あらすじとある海辺の町に暮らす中学一年生、島田典道(しまだ のりみち)。夏休みの登校日、クラスメイトの男子達は「花火は横から見たら丸いのか、平べったいのか」という話題で盛り上がっていた。そう、この日はお祭りで打ち上げ花火が上がる日でもあった。そんな中、典道はクラスメイトの女子である及川なずな(おいかわ なずな)から「かけおち」に誘われる。しかし、これは典道が導いた結果だった。当初、なずなは典道の友人である安曇祐介(あずみ ゆうすけ)を誘っていたのだが、典道は手に入れた「もしも」の力で運命を変えたのである。母親の再婚に伴う引っ越しに抵抗したいなずな。典道となずなは逃避行のなかで何度も両親や友人に捕まってしまうが、そのたびに「もしも」を使ってやり直す。そして、やり直すたびに歪になり、現実感を...
エミリー・ブロンテ

「嵐が丘」エミリー・ブロンテ 評価:2点|世界の十大小説にも選ばれている英国ロマン主義文学の愛憎劇【海外純文学】

英国の著名な作家、ブロンテ三姉妹の二番目、エミリー・ブロンテの小説です。サマセット・モームの「世界の十大小説」にも選ばれる歴史的名作だそうです。とはいえ、大いに楽しめたかと言われればそうではありません。二つの家系の愛憎劇は序盤こそスリリングに思えるものの、ただ愛憎劇が繰り返されるだけの単調さは飽きが来るのも早いです。あらすじ都会から旅に出た青年ロックウッドは、「スラッシュクロス」という田舎の屋敷に泊まることにする。近隣にもう一つある屋敷、「嵐が丘」を訪れたロックウッドだったが、そこでの歓迎は非常に手荒いものであり、ロックウッドは困惑する。「スラッシュクロス」に帰ったロックウッドは「嵐が丘」の住人がそうなってしまった理由を屋敷の女中であるエレンから聞かされる。「嵐が丘」に拾われた子供であるヒースクリフと、「スラッシュクロス」のお嬢様であるキャサリンとの歪んだ恋。それは愛し合い、そして憎しみ合った二つの家の、長きにわたる陰惨な物語......。感想非常に高尚で格式高く書かれた昼メロです。富豪の家に拾われたヒースクリフが家庭をズタズタに引き裂き、そして自身をも破滅に導いていくという筋書きは確...
僕らのウォーゲーム

「ぼくらのウォーゲーム!」細田守 評価:3点|情熱と技巧と夏の切なさが詰め込まれたデジモン映画の佳作【アニメ映画】

人気シリーズ「デジモンアドベンチャー」の映画2作目。いまでは著名となった細田監督が指揮した作品です。アニメファンからの高評価を聞いて試聴してみましたが、40分と短い中で冒険アニメの良さを存分に引き出した作品だと感じました。あらすじデジモンたちと別れ、それぞれの生活を楽しむ太一たち。しかし、西暦2000年の春休み、ネット上で生まれた新種デジモンがまたたく間に進化。NTTからアメリカの軍事機関まで、ありとあらゆる場所を侵食していった。このデジモンの暴走を止めるため、パートナーのデジモンたちと一緒に再び戦いへと身を投じる太一たち。あまりにも凶悪なデジモンとの戦いは熾烈を極め、そしてついに、謎の新種ポケモンは核ミサイルを発射させてしまう。ミサイルが着弾されるまでの時間は10分間。太一たちは世界を救うことはできるのだろうか......。感想非常に巧妙で感動的な映画でした。「大量に送られてくる応援の名を借りた迷惑メール」を最後に武器として活かす展開は意外性がありながら少年向けアニメの王道でもあって胸を打たれます。また、空と太一の関係性も絶妙。アニメの趣旨を理解した、恋愛をバトルに持ち込ませないよう...
夜明け告げるルーの唄

【音楽の映える青春アニメ】映画「夜明け告げるルーの唄」湯浅政明 評価3点【アニメ映画】

あらすじ舞台は田舎の港町、日無町。主人公のカイは音楽以外にハマるものはなく、無気力な生活を送っていた。そんなある日、動画投稿サイトに自らが打ち込んだ音楽をアップしたことをきっかけに、カイは同級生である遊歩と国夫のバンド「セイレーン」に誘われる。バンドの練習の帰り道、密漁を行う青年二人に襲われかけたところを、カイたちは人魚の少女ルーに助けられる。音楽を通じた交流により打ち解け合っていくカイとルー。町の人々にも好意的の受け入れられていくルーの存在だが、ある日、町おこしのためにルーを使うことが企画され……。悩みを抱える少年少女と小さな人魚の、町を巻き込んだひと夏の物語。感想序盤からこんなにもぐいぐいと引き込まれる映画は久しぶりでした。フラッシュアニメーションによる独特の絵柄がかえってリアル感を増していて、いわゆる「アニメ絵」とは一線を画す表現に生々しさがあります。テンポもたいへん良いものながら展開にも無理がなく、ルーがクーラーボックスを飛び出して砂浜で踊るシーンあたりまでは傑作だと信じて疑いませんでした。しかし、その後はやや冗長。人間の「恐ろしさ」を感じたルーの混乱と、それを助けようと町に乗...
街の灯

「街の灯」チャールズ・チャップリン 評価:2点|切ないラストシーンが印象的なチャップリンの代表作【コメディ映画】

1931年に発表された映画で、映画好きの間では定番の作品だそうです。チャップリンの代表作の一つということで見てみました。筋書きは面白いのですが、やはり全体的に表現が冗長だと感じます。あらすじチャップリン扮する浮浪者の男は、おふざけばかりの生活で日常を過ごしていた。そんな男はある日、花売りの少女に一目惚れしてしまう。本来ならば見込みがない恋だが、花売りの少女は盲目であり、ひょんなことから男のことを別の大金持ちと取り違えてしまう。貧しい盲目の女性に献身しようと男は身を粉にして働くようになるのだが、男は大富豪の家に入った強盗として逮捕されてしまい.......感想もうちょっと圧縮できるのに、というのが正直な感想です。テンポの良い現代の作品と比べてしまうとかなり冗長に感じてしまいます。各コメディシーンも、当時は斬新だったのかもしれませんが、いまとなってはややグダグダ感があり、一般の視聴には堪えないでしょう。映画好きは細かいところをいろいろ褒めるのかもしれませんが、フィクション作品である以上、気づかれなければ存在しないことと同じです。ただ、ラストシーンはやはりジーンときました。短い「You?」の...
千年女優

「千年女優」今敏 評価:2点|大女優が歩んだ数奇で大胆な人生の記録【アニメ映画】

「パプリカ」等を手掛け、アニメーション映画界では著名な今敏監督の作品。込み入った手法は面白く、オタク受けする作品であることは間違いないでしょう。しかし、単純なエンターテイメント性には欠けるうえ、人生の深さを描くという純文学的な意味でも曖昧に過ぎ、相当程度オタク的な「解釈」なしに楽しめる作品ではなかった点が残念。テンポの良さや映像美は高品質ですが、テーマや脚本も含めた映画作品としての総合評価としては凡庸な作品だったという印象です。あらすじ真夏の山道を歩くのは映画制作会社社長の立花源也と、カメラマンの井田恭二。彼らは山奥にある藤原千代子の家を訪れようとしているのだった。藤原千代子という女優。既に引退してから長い時間が経っているものの、日本映画界を支えてきた名女優としての名声は計り知れない人物である。インタビューの冒頭、立花は千代子に「鍵」を手渡す。それは千代子が長年大事にしてきた「鍵」であり、千代子の人生に大きな影響をもたらしてきた「鍵」だった。立花から渡された「鍵」をきっかけに、千代子は自分の人生を語りだす。数奇な運命を辿った大女優の人生とは.......。感想ストーリーの入れ子構造や、...
住宅・土地政策

【住宅政策の手軽な概説書】新書「住宅政策のどこが問題か」平山洋介 評価:4点【政治学】

目次第1章 住宅所有と社会変化第2章 持ち家社会のグローバル化第3章 住まいの「梯子」第4章 住宅セーフティネット感想あまり注目されない分野である住宅政策に光を当てた新書。住宅政策という個別の政策分野への理解が深まるだけでなく、戦後日本における経済政策の全体的な特徴や、これから日本が進むべき道も見えてくる良書です。第1章では、日本の住宅政策の概要が分析されます。日本の住宅政策の特徴が、就職→結婚→出産(夫が働き妻が専業主婦)という「標準」ライフコースを想定し、そのコースに当てはまる人を優遇していることが述べられます。若年層や新婚世帯向けの公団住宅の供給、住宅ローン減税のような家族の持ち家取得援助などがその具体的な政策です。「標準」ライフコースを辿る人々を小規模賃貸から大規模持ち家へという住宅の「梯子」を上っていく単線コースに誘導する仕組みが整えられてきたわけです。日本全体の所得の伸びとともに、新中間層となった人々がその梯子に殺到していったのが戦後の流れではありますが、そういった「標準」ライフコースを歩めなかった人々が住宅政策から取り残され、住宅確保において不利な立場に置かれ続けているこ...
紅の豚

「紅の豚」宮崎駿 評価:3点|退役軍人パイロットの孤独と勇気と恋愛を描く大人のエンターテイメント作品【スタジオジブリ】

押しも押されぬスタジオジブリの有名作品の一つ。「飛ばねぇ豚はただの豚だ」の名台詞でもお馴染みですね。その内容はまさに「大人の(男性の)ためのエンターテイメント作品」といったところ。敏腕パイロットの誇り。酒場を取り仕切る美女。元気印の技術屋少女。悪役はどこか憎めないハリウッドスター。一瞬たりとも飽きさせない、ベタだけれどそこが良いと言える作品です。あらすじ舞台はイタリア。時代は二つの大戦の戦間期。元イタリア空軍のパイロットであり、現在は豚の姿となっているポルコ・ロッソは空賊を相手に戦う賞金稼ぎとして生計を立てていた。そんなある日、ポルコが打ち負かした空賊たちがドナルド・カーチスというアメリカ人パイロットを雇う。ポルコにやられた借りを返すために雇われたカーチス。彼は整備のためミラノに向かっていたポルコ機を追跡して撃墜してしまう。飛空艇を失ったポルコは昔なじみの工房ピッコロ社を訪れる。そこで出会ったのは、ピッコロの孫娘で17歳のフィオ・ピッコロ。すったもんだの末、ポルコはフィオの設計した機体でカーチスとのリベンジマッチに挑むことになる。男の誇りを賭けた戦い。果たして勝利するのはどちらなのか。...
おもひでぽろぽろ

【おもひでぽろぽろ】郷愁感は十分だが物語としてはイマイチなスタジオジブリの駄作 評価:1点【高畑勲】

高畑監督によるスタジオジブリの映画作品。その他の作品と比べればマイナーですが、テレビ放送は8回を数えます。主人公が少女時代を振り返るパートでは頷けるところもありましたが、全体の筋書きは首をひねってしまうものでした。あらすじ1982年の夏、タエ子は有休をとって姉の夫の実家に行くことにした。都会の喧騒を離れ、田舎暮らしをしてみたかったのだ。山形に向かう新幹線に乗り込むと、タエ子の心に小学五年生の頃の思い出が浮かび上がってくる。帰る田舎のない夏休み、初恋の相手、不味いパイナップルの味、演劇で活躍したこと、生理の話、父親に殴られたこと、貧乏な転校生の「あべくん」。ありし日の姿と、東京のOLとして働く自分と、田舎の風景。山形の農家としてタエ子を迎えるトシオとの関係。タエ子の明日はどちらに......。感想小学生の頃の記憶は良いですね。家族の理不尽な感じがとても懐かしく感じます。特に、パイナップルを食べるシーンで「不味い」と言いずらい雰囲気や、年少の者が押し付けられてたくさん食べる羽目になるのは辛い想い出が蘇りました。分数ができなくて人格まで否定され、得意な演劇の道は諦めさせられたりと、ああ、親っ...
綿矢りさ

「蹴りたい背中」綿矢りさ 評価:4点|スクールカーストを題材に青春の焦燥を描いた現代学園小説の古典【青春純文学】

高校在学中にデビューし、史上最年少で芥川賞を獲った超有名女性作家、綿矢りささん。その芥川賞の受賞作が、印象深いタイトルの本作品です。感想を一言で表しますと、「常にクライマックス」。名作を読み終えるときの、あのふわふわした興奮。最後まで読みたい、でも終わらないでという気持ちが常に胸の内から湧きおこってきます。青春時代に、少しでも疎外感や孤独を感じた、あるいは、そのようなことについて思考を巡らせたことのある人にはぜひ手に取ってもらいたい作品です。あらすじ「今日は実験だから、適当に座って五人で一班つくれ」そんな号令が飛ぶと、「余り物」になってしまう高校一年生。名前は長谷川初実、通称ハツ。そしてハツのクラスにはもう一人「余り物」がいる。オリチャンというアイドルのファンである「にな川」だ。いや、にな川のオリチャンに対する執着は「ファン」を超えている。ハツがそう評するくらい、にな川は熱狂的だ。「オリちゃんと喋ったことがある」ハツがそう言ったことをきっかけに、ハツはにな川の家に誘われるのだが......。他人と交わって「薄まる」ことを拒絶するハツと、交わらないことにさえなにも感じていないにな川。孤独...
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