☆☆(小説)

松本清張

「点と線」松本清張 評価:2点|完璧だと思われていたアリバイの弱点はダイアグラムに隠されていた【社会派推理小説】

社会派推理小説というジャンルを打ち立ててベストセラーを連発し、戦後を代表する小説家となった松本清張。 「眼の壁」「ゼロの焦点」「砂の器」と代表作には事欠きませんが、その中でも、松本清張初の長編推理小説であり松本清張ブームの火付け役となったのが本作「点と線」となっております。 「点と線」というタイトルは駅と路線のことを示しており、電車の発着時間とその行き先を巧妙に用いたアリバイ破りが本作における「謎」の特徴です。 男女の情死に産業建設省の汚職事件を絡めた展開はまさに「社会派」「推理」小説というジャンル名がうってつけだと感じましたが、どちらかというとやはり「推理」が主軸となっている作品でした。 「社会派」の部分は産業建設省幹部による汚職の証拠隠滅が動機となっているという点にのみ掛かっており、人間心理の巧みな描写やヒューマンドラマ的な感動には乏しく感じられたのが正直なところです。 推理小説としては一流なのかもしれませんが、物語性を重視する立場からはやや凡庸で、ときに退屈な小説という評価にならざるを得ません。 あらすじ 事件の現場は福岡市にある香椎の...
吉本ばなな

「キッチン」吉本ばなな 評価:2点|天涯孤独の身となった女子大学生を包む「家族」の愛情【恋愛純文学】

1980年代後半から1990年代前半にかけてベストセラーを連発した小説家、吉本ばななさんのデビュー作。 第6回海燕新人文学賞を受賞した本作は、当時としては斬新な文体と物語の質感によって文壇に大きな議論を呼び起こし、短編ながら1989年の年間ベストセラー総合2位を獲得する出世作となりました。 その後も「ムーンライト・シャドウ」で泉鏡花文学賞(1988年)、「TUGUMI」で山本周五郎賞(1995年)を獲得するなど、まさに一世を風靡した時代作家となっていったわけです。 また、父親が著名な思想家の吉本隆明氏だったという点も当時注目されたようです。 そんな本作ですが、いまとなってはやや凡庸な、それどころか悪い意味で商業的な少女漫画の陳腐さを持った作品に感じました。 柔らかいのだけれど張りつめた強さもあるような、そんな独特の言葉遣いによる表現力は確かに印象的で評価できますが、しばしば「死」に頼る設定や、あまりにご都合主義的な展開はそれほど魅力的ではないように感じられます。 あらすじ 大学生の桜井みかげは早くに両親を失い、祖父母のもとで育てられてきた。 ...
黒柳徹子

「窓際のトットちゃん」黒柳徹子 評価:2点|マルチタレントの先駆けが通ったあまりにも自由で不思議な小学校【芸能人伝記】

日本における最初のテレビ放送開始(1953年)以来、常に第一線で活躍し続けている女優にしてマルチタレント、黒柳徹子さんが幼少期の生活について綴ったノンフィクション自伝です。 発行部数は驚異の800万部超を誇り、単著としては戦後最大のベストセラーとなっている本作。 世界でも売り上げを伸ばしており、中国でも1000万部を突破するなど、まさに世界的名作とされている作品です。 とはいえ、個人的な感想としては単なる「いい話」の域を出ていないという印象でした。 そもそも黒柳徹子さんという超有名タレントが出版しているという側面に加え、作中で描かれる自由で温かい学校生活の在り方が管理教育全盛だった出版当時(1981年)の状況に対する反逆として「刺さった」のも大きかったのでしょう。 ただ、昨今の教育を取り巻く事情を鑑みると、本書が再び脚光を浴びる時期も遠くないように感じます。 主人公のトットちゃん(=黒柳徹子さん)は多動症気味の子供で、クラスメイトにも身体障害を抱えている子供や帰国子女の子供が登場します。 差別を受ける外国人(朝鮮人)の子供に纏わるエピソードも...
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三島由紀夫

「仮面の告白」三島由紀夫 評価:2点|同性愛者であることの苦悩と官能が青年の人生を蝕んでいく【古典純文学】

「潮騒」や「金閣寺」等の作品で知られ、戦後を代表する作家の一人として挙げられることが多い三島由紀夫の著した小説。 三島由紀夫を文壇の寵児へと押し上げた記念碑的作品であり、代表作を一つ選ぶとすれば本作か「金閣寺」になるというくらいの有名作品です。 同性愛を描いた刺激的な作品ということで、私もその革新性に期待して読んでみたのですが、いまとなっては凡庸だなというのが率直な感想。 小難しい書きぶりは良くいえば芸術的で妖艶なのでしょうが、個人的には無駄に装飾的なように思われましたし、自分自身が同性愛者であることを主人公が徐々に理解しながら苦悩する、という筋書きにもそれほど衝撃を受けませんでした。 つまらないわけではないですが、今日において特段に持て囃されるべき作品かと言われれば、それは違うという印象です。 あらすじ 病弱な身体に生まれた「私」は、祖母によって外遊びを禁じられ、祖母の眼鏡に適った女友達とばかり遊ぶ幼少期を過ごすことになる。 そんな「私」はしかし、幼い頃から女性に惹かれることがなく、魅力を感じるのは専ら逞しい男性の肢体ばかりであった。 ...
ロバート・A・ハインライン

「夏への扉」ロバート・A・ハインライン 評価:2点|夢と恋に破れた青年の鮮やかな復讐が見どころのタイムトラベル冒険小説【古典SF小説】

1957年に出版されたタイムトラベル小説の古典的名作で、SF作家であるロバート・A・ハインラインの代表作としても知られています。 大昔に出版された小説ながら特に日本での人気は根強く、新装版がたびたび出版されるほどのロングセラー。 2021年にも山崎賢人さん主演で映画化され、公開に合わせて新装版が発売されました。 読後の感想としては、王道の物語を纏める手堅い構成には見るべきところがあるものの、肝心の「面白さ」にはやや欠ける作品という印象です。 あらすじ 1970年のロサンゼルスで青年ダンは絶望の淵にいた。 友人であるマイルズと立ち上げた会社の業績は絶好調。 しかし、マイルズと自分の秘書であるベルの奸計により、ダンは会社を追い出されてしまったのである。 絶望のあまり、開発されたばかりの新技術「冷凍睡眠」を利用して長い眠りにつき、遥か未来で目覚めることにより人生をやり直そうと一度は決断するダンだったが、直前に思い直し、マイルズとベルへの復讐を実行に移す。 しかし、復讐は失敗。 そして、ダンは自分の意思によってではなく、マイルズとベ...
島本理生

「ナラタージュ」島本理生 評価:2点|美しい文章と陳腐な少女漫画風の物語【恋愛純文学】

恋愛小説家として著名な島本理生さん。 高校在学中に「シルエット」で群像文学新人賞優秀賞を獲得して純文学文壇にデビューした若き俊英であった一方、2018年には「ファーストラヴ」で直木賞を獲得するなど、エンタメ小説家としての顔も持ちながら長きに渡って一線で活躍している作家です。 そんな島本さんの作品の中でも、おそらく一番有名なのが本作でしょう。 「この恋愛小説がすごい! 2006年版」で第1位、「本の雑誌が選ぶ上半期ベスト10」で第1位、本屋大賞で第6位を獲得した作品で、著名な文学賞を獲得したわけではないものの、島本さんの代表作として挙げられることが多い作品です。 それゆえ、期待を持って読んでみたのですが、期待はずれだったというのが正直な感想。 文章表現の美しさはさすがと言わざるを得ない一方、陳腐な少女漫画風の物語は面白みもなく鼻につきます。 あらすじ 主人公は女子大学生の工藤泉(くどう いずみ)。 ある日、高校時代の恩師である葉山貴司(はやま たかし)から、演劇部の人数が足りないので助っ人として公演に出てくれないかと誘われる。 泉...
マーク・トゥエイン

【古き良き時代の小学生男子物語】小説「トム・ソーヤーの冒険」マーク・トゥエイン 評価:2点【海外文学】

あらすじ 時代は19世紀中盤、舞台はミズーリ州の田舎町セント・ピーターズパーク。 10歳の少年トム・ソーヤーは大変な悪戯好きで、いつも騒動を巻き起こしては育ての親であるポリー伯母さんに叱られている。 塀のペンキ塗りを巧みな手腕で友人たちに押し付けたり、新入りの少年と取っ組み合いの喧嘩をしたり、同級生の少女ベッキー・サッチャーにアプローチしてみたり、ホームレスの少年ハックルベリー・フィンと一緒に家出をしてみたりと、トムの日常は大なり小なりの冒険に溢れている。 そんなある日、トムは真夜中の墓地で殺人事件を目撃してしまう。 恐怖に駆られながら町に戻ったトム。 しかし、彼には更なる試練が訪れる。 真犯人のインシャン・ジョーは犯罪の隠匿を画策、マフ・ポッター老人に罪を被せようとしていて……。 感想 子供向けの純粋なエンタメ冒険小説です。 小学校高学年男子がやりそうな悪戯や、やってみたいと思うような冒険(家出をして森で寝泊まりしたりなど)のエピソードが散りばめられており、児童文学としてはまずまず面白いのではないでしょうか。 ただ、...
星新一

【唯一無二の超短編作家】小説「地球から来た男」星新一 評価:2点【ショートショート作品集】

「ショートショートの神様」として知られる星新一さんの作品集。 ショートショートを精力的に発表し続けた異端の作家であり、1957年デビューでありながら現在においてもその作品群は根強い人気を誇っております。 日本経済新聞社が毎年開催している小説新人賞「星新一賞」に名前を冠していることもその証左だと言えるでしょう。 文学賞の受賞こそ2度(日本推理作家協会賞・日本SF大賞特別賞)と少ないですが、刊行された作品集の数は膨大で、漫画化やドラマ化されたメディアミックス作品も枚挙に暇がありません。 そんな星新一さんの作品集の中でも、本作は2007年に角川文庫から発売された比較的新しい作品集です。 SF色の濃い表題作から、ミステリ仕立ての作品、あるいはヒューマンドラマに重きを置いた作品など、バラエティ豊かな内容となっておりました。 あらすじ ・地球から来た男 産業スパイとして活躍していた男だが、ある日、潜入先で産業スパイであることが暴かれてしまう。 口封じのため、特殊な装置を使って遥か遠くの惑星に飛ばされてしまった男。 しかし、男の眼...
ミヒャエル・エンデ

【時間を蝕む現代社会】小説「モモ」ミヒャエル・エンデ 評価:2点【児童文学】

ドイツの児童文学者ミヒャエル・エンデの作品。 「果てしない物語」と共に彼の代表作として扱われることが多い著作ですが、日本では「モモ」の人気が非常に根強く、ドイツ語版の次に発行部数が多いのは日本語版だそうです。 「効率性」の名のもとに人間的な温かみのある要素がことごとく「悪」とされ、それでいて「効率化」を突き詰めたのに全くといっていいほど時間に余裕がない。 そんな現代社会を風刺した童話、という内容が日本人受けするのかもしれません。 全体的な感想としましては、現代社会の労働観や時間不足についての皮肉になっている個々の場面は楽しめたものの、物語の総体としてはイマイチだったという印象。 最も皮肉が効いている第6章や、近代的学校教育に対する批判精神旺盛な第13章、第16章の一部だけ読めばそれでよいと思えてしまいます。 あらすじ 舞台はローマのようでローマではない街。 主人公のモモは孤児で、街はずれの円形劇場跡に住んでいる。 両親はおらず、そのままでは食べる物にも困る立場のモモだけれど、モモの周囲にはいつも人が集まって温かな交流が結ば...
安部公房

「他人の顔」安部公房 評価:2点|顔とは他者から自己の内面を覆い隠す蓋であり、他者から見た同一性を保全するための道具である【純文学】

ノーベル文学賞の有力候補だったと言われているほか、芥川賞、谷崎潤一郎賞、さらにはフランス最優秀外国文学賞を受賞するなど、国内外で評価が高かった小説家、安部公房の作品。 「砂の女」「燃え尽きた地図」と並んで「失踪三部作」の一つに位置付けられています。 このうち「砂の女」は当ブログでもレビュー済みであり、日本文学史上屈指の名作であると結論付けています。 圧倒的感動に打ちのめされるという経験をさせてくれた「砂の女」と同系列の作品という評価に期待を寄せて読んだ本作。悪くはありませんでしたが、その高い期待に応えてくれたわけではありませんでした。 「砂の女」と同様、都市化・資本主義化していく社会の中で人々の自己認識や他者との関わり方が変化していくというテーマそのものは面白かったのですが、「砂の女」が見せてくれたような冒険的スリルやあっと驚く終盤のどんでん返しがなく、主人公の思弁的で哲学的なモノローグがあまりにも多すぎたという印象。 もう少し「物語」としての起伏や展開による面白さがあれば良かったのにと思わされました。 あらすじ 主人公の...
東野圭吾

「容疑者Xの献身」東野圭吾 評価:2点|精巧なトリックと安っぽい物語【ミステリ小説】

ミリオンセラーを連発し、ドラマ化・映画化作品も多数。 受賞した文学賞も数知れずという現代の大人気大衆小説家、東野圭吾さん。 本作は彼の代表作だと言ってもよいでしょう。 直木賞を獲得したほか、国内の主要なミステリ賞を五つ受賞。 発行部数は驚異の1000万部を誇ります。 そんな世間的評価の高い作品なのですが、個人的にはありきたりな作品に思われました。 ミステリーのトリックは凄いといえば凄いのですが、そういったトリックの精巧さよりも人物の心理描写や脚本に重きを置く性格だからかもしれません。 やや感情移入しづらい登場人物たちと、あざとすぎる「劇的」な展開には少し興醒めで、著しく悪い点はないものの、かといって凡庸の域を出ない作品だと感じます。 あらすじ 小さなアパートに暮らす花岡靖子・美里母娘。 平穏な日常を送っていた二人だったが、元夫である富樫慎二がこのアパートにやって来たことから彼女たちの運命は大きくねじ曲がっていく。 ストーカーのように纏わりつく富樫に二人は辟易しており、二人はついに、富樫を殺してしまうに至るのだっ...
アーサー・C・クラーク

「都市と星」 アーサー・C・クラーク 評価:2点|快適で無機質なディストピア世界、青年による脱出と帰還の冒険譚【古典SF小説】

「2001年宇宙の旅」や「幼年期の終わり」で知られるSFの巨匠、アーサー・C・クラークの作品。 1956年に出版された作品ですが、2009年に新訳版が出るなどいまでも根強い人気を誇っております。 そんな本作、SFの人気作品というだけあってSF的な設定や世界観は魅力的で面白いと感じましたが、肝心のストーリーがやや冗長で起伏に欠けていると思いました。 序盤では閉じられた世界から新しい世界に主人公が踏み込むまでが長すぎ、終盤では主人公が宇宙に旅立ってその現況を眺めるという展開にしてしまったことで風呂敷が広がり過ぎて展開が拙速かつ大味になっています。 あらすじ 物語の舞台は遥か未来の地球。 ダイアスパーという都市では人間生活の全てをコンピュータが管理しており、生誕や死さえもその例外ではない。 人間のデータは全て「メモリーバンク」に記録されており、人間は両親の身体からではなく「メモリーバンク」から生まれ、そして死にたくなったときには再び「メモリーバンク」へと還り、時間をおいて新しい肉体を得て生まれ変わるというサイクルを繰り返していた。 人間の一生...
林真理子

小説 「葡萄が目にしみる」 林真理子 星2つ

1. 葡萄が目にしみる 小説家としてはもちろん、エッセイストとしても有名な林真理子さんの作品。 女性の心理描写が巧みだという評価が一般的でしょうか。 直木賞や吉川英治文学賞といった文芸界の賞はもとより、レジオンドヌール勲章や紫綬褒章といった国家レベルの叙勲もされるなどまさに大作家だといえるでしょう。 長らく直木賞の選考委員を務めていることや、「元号に関する懇談会」の有識者委員として「令和」制定にも関わっていることからもその大物ぶりが伺えます。 そんな林さんが手掛けた青春小説が本作、「葡萄が目にしみる」。 林真理子さんの出身高校を舞台としており、林さん自身の容姿を彷彿とさせる主人公と、明らかなモデルが存在する登場人物など、半ば自伝的な要素がある小説とされています。 直木賞候補となり、現代的な表紙の新装版も発売されるなど根強い人気のある作品ですが、個人的には凡庸な青春小説だなという感想でした。 ありきたり(よりも容姿が少し劣って嫉妬深く自意識過剰な)女子高生の高校生活を良くいえば瑞々しく、悪くいえば淡白でオチなしヤマなしに描いた作品で、これ...
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