☆☆(小説)

安部公房

小説 「他人の顔」 安部公房 星2つ

1. 他人の顔 ノーベル文学賞の有力候補だったと言われているほか、芥川賞、谷崎潤一郎賞、さらにはフランス最優秀外国文学賞を受賞するなど、国内外で評価が高かった小説家、安部公房の作品。「砂の女」「燃え尽きた地図」と並んで「失踪三部作」の一つに位置付けられています。「砂の女」は本ブログでもレビュー済み。名作です。 圧倒的感動に打ちのめされるという経験をさせてくれた「砂の女」と同系列の作品という評価に期待を寄せて読んだ本作。悪くはありませんでしたが、その高い期待に応えてくれたわけではありませんでした。 「砂の女」と同様、都市化・資本主義化していく社会の中で人々の自己認識や他者との関わり方が変化していくというテーマそのものは面白かったのですが、「砂の女」が見せてくれたような冒険的スリルやあっと驚く終盤のどんでん返しがなく、主人公の思弁的で哲学的なモノローグがあまりにも多すぎたという印象。もう少し「物語」としての起伏や展開による面白さがあれば良かったのにと思わされました。 2. あらすじ 主人公の「ぼく」は高分子化学研究所の所長代理として研究に...
東野圭吾

小説 「容疑者Xの献身」 東野圭吾 星2つ

1. 容疑者Xの献身 ミリオンセラーを連発し、ドラマ化・映画化作品も多数。受賞した文学賞も数知れずという現代の大人気大衆小説家、東野圭吾さんの作品で、彼の代表作だと言ってもよいでしょう。直木賞を獲得したほか、国内の主要なミステリ賞を五つ受賞。発行部数は驚異の1000万部を誇ります。 さて、そんな世間的評価の高い作品なのですが、個人的にはありきたりで普通の作品に思われました。ミステリーのトリックは凄いといえば凄いのですが、そういったトリックの精巧さよりも人物の心理描写や脚本に重きを置く性格だからかもしれません。やや感情移入しづらい登場人物たちと、あざとすぎる「劇的」な展開には少し興醒めで、著しく悪い点はないものの、かといって凡庸の域を出ない作品だと感じます。 2. あらすじ 小さなアパートに暮らす花岡靖子・美里母娘。平穏な日常を送っていた二人だったが、元夫である富樫慎二がこのアパートにやって来たことから彼女たちの運命は大きくねじ曲がっていく。ストーカーのように纏わりつく富樫に二人は辟易しており、二人はついに、富樫を殺してしまうに至るのだった。 そん...
☆☆(小説)

小説 「都市と星」 アーサー・C・クラーク 星2つ

1. 都市と星 「2001年宇宙の旅」や「幼年期の終わり」で知られるSFの巨匠、アーサー・C・クラークの作品。1956年に出版された作品ですが、2009年に新訳版が出るなどいまでも根強い人気を誇っております。 そんな本作、SFの人気作品というだけあってSF的な設定や世界観は魅力的で面白いと感じましたが、肝心のストーリーがやや冗長で起伏に欠けていると思いました。序盤では閉じられた世界から新しい世界に主人公が踏み込むまでが長すぎ、終盤では主人公が宇宙に旅立ってその現況を眺めるという展開にしてしまったことで風呂敷が広がり過ぎて展開が拙速かつ大味になっています。 2. あらすじ 物語の舞台は遥か未来の地球。ダイアスパーという都市では人間生活の全てをコンピュータが管理しており、生誕や死さえもその例外ではない。人間のデータは全て「メモリーバンク」に記録されており、人間は両親の身体からではなく「メモリーバンク」から生まれ、そして死にたくなったときには再び「メモリーバンク」へと還り、時間をおいて新しい肉体を得て生まれ変わるというサイクルを繰り返していた。人間の一生は主...
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林真理子

小説 「葡萄が目にしみる」 林真理子 星2つ

1. 葡萄が目にしみる 小説家としてはもちろん、エッセイストとしても有名な林真理子さんの作品。女性の心理描写が巧みだという評価が一般的でしょうか。直木賞や吉川英治文学賞といった文芸界の賞はもとより、レジオンドヌール勲章や紫綬褒章といった国家レベルの叙勲もされるなどまさに大作家だといえるでしょう。長らく直木賞の選考委員を務めていることや、「元号に関する懇談会」の有識者委員として「令和」制定にも関わっていることからもその大物ぶりが伺えます。 そんな林さんが手掛けた青春小説が本作「葡萄が目にしみる」。林真理子さんの出身高校を舞台としており、林さん自身の容姿を彷彿とさせる主人公に、明らかなモデルが存在する登場人物など、半ば自伝的な要素がある小説とされています。直木賞候補となり、現代的な表紙の新装版も発売されるなど根強い人気のある作品ですが、個人的には凡庸な青春小説だなという感想です。ありきたり(よりも容姿が少し劣って嫉妬深く自意識過剰な)女子高生の高校生活を良くいえば瑞々しく、悪くいえば淡白でオチなしヤマなしに描いた作品で、これほどまでにイベントが起こらず起伏のない作品でいったい...
パウロ・コエーリョ

小説 「アルケミスト」 パウロ・コエーリョ 星2つ

1. アルケミスト ブラジル出身の作家、パウロ・コエーリョの代表作で、累計発行部数が1億部を超えるという世界的な大ベストセラーです。原著は1993年発行で、日本語版は1997年の発行。当時、書店で大プッシュされていたことを記憶している人もいらっしゃるのではないでしょうか。 そんな偉大な作品に対してやや傲慢な態度になってしまうかもしれませんが、個人的には凡作であると感じました。抽象的で浮ついた言葉がそれっぽい雰囲気を醸し出しているだけで心を動かすような本当の内容というものが存在せず、物語そのものはいたって普通。読んで不快になることはありませんが、読破した直後の気分としては「ふーん」で終わってしまった作品です。 2. あらすじ スペインのアンダルシア地方を拠点に活動する羊飼いの少年サンチャゴはある日、セイラムの王様メルキゼデックだと名乗る老人と出会う。王様は少年が飼っている羊の十分の一を対価に、宝物が眠る場所を教えてくれるという。悩んだ末、少年が羊を連れて王様のもとへ再びやって来ると、宝物はエジプトのピラミッドにあるのだと王様は言い、少年にウリムとトムミム...
武田綾乃

小説 「響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章 後編」 武田綾乃 星2つ

1. 響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章 全国大会金賞を目指す公立高校、北宇治高等学校吹奏楽部で起こる様々な事件を描いた青春小説シリーズの2年生編。その後編になります。前編の記事はこちら。 また、言うまでもなく本書は京都アニメーションが手掛けるアニメ版の原作として(の方が)有名でしょう。私もアニメ版から入った口です。アニメの感想はこちら。 映画「リズと青い鳥」で描かれたみぞれと希美の関係性についての物語はそこそこ良かったものの、それ以外の群像劇はどこで面白くさせようとしているのか分からないくらいイマイチでした。 2. あらすじ 低音パートの後輩たちが起こした諍いを何とか諫め、パートをまとめ上げることに成功した黄前久美子(おうまえ くみこ)だったが、部全体としての音楽の出来には不安が残っている北宇治高校吹奏楽部。 低音パートでは3年生である中川夏紀(なかがわ なつき)の実力不足は明らかで、トランペットパートでは1年生ながらにして実力十分、特に高音が得意な小日向夢(こひなた ゆめ)が何...
武田綾乃

小説 「響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章 前編」 武田綾乃 星2つ

1. 響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章 公立校の吹奏楽部が全国を目指すという内容の人気シリーズ小説で、どちらかというとアニメ版の原作として有名でしょうか。アニメ版は放火事件の起こった京都アニメーションが製作しており、レベルの高い作画や音楽表現、独特のカット割りなどで人気を博しております。私もアニメ版のファンでして、当ブログでも記事を書いております。 ついでに原作小説にも手を出しており、辛口となってしまっておりますがこれも紹介記事を書いています。 さて、本作はシリーズの中で主人公の世代が進級し、2年生として活躍する2年生編となっておりまして、アニメ版では「劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~」にあたる部分です。 感想としては、散漫な物語と表現力不足によって平坦かつ無個性に見えてしまうキャラクターという2つの要素が災いし、小説というより説明書を読んでいるような気分になる作品でした。 アニメでは効果的な編集とアニメならではの感情表現などで補われていたのでしょうが(というかそこを補えばい...
サン・テグジュペリ

小説 「人間の土地」 サン・テグジュペリ 星2つ

1.人間の土地 郵便輸送機や偵察機のパイロットとして戦間期から第二次世界大戦にかけて活躍し、その傍らで自身の経験を元にした著作を多数発表した作家サン・テグジュペリの作品。彼の作品では「星の王子さま」「夜間飛行」の次に有名でしょう。新潮文庫版ではカバー絵及び解説を宮崎駿が担当するなど、各方面への影響の大きさが伺えます。「夜間飛行」のレビューはこちら。 評価としては「夜間飛行」に一歩劣るといった印象。飛行機乗りとしてサン・テグジュペリが経験した様々な出来事はどれも印象的で烈しいものですが、「物語」としての質を問われるとイマイチです。 2.あらすじ ベンガジを発ったサン・テグジュペリ機は夜空に迷い、砂漠の上に不時着してしまう。機体は炎上し、サン・テグジュペリと同乗していたプレヴォーの二人は着の身着のままで砂上に放置された。 街の灯りも見えない砂漠の中、三日三晩彷徨い続ける二人の僚友。食料も水も尽き果て、幻覚が見えるようになる。生きることに挫けそうになりながらも立ち直り、生存への道筋を探していく。 「愛するということは、おたがいに顔を見...
中勘助

小説 「銀の匙」 中勘助 星2つ

1. 銀の匙 大正から昭和にかけて活躍した小説家、中勘助の代表作です。夏目漱石が本書を絶賛して東京朝日新聞への連載が決まったことから中勘助は小説家として見出されていきました。また、灘中学校において橋本武先生が三年間の国語の授業を本作精読に使っていたという、伝説の授業に関連する書籍としても名前を知られています。 2. あらすじ 主人公である「私」は時々、書斎の棚から小さな銀の匙を取り出して眺める。それは虚弱体質だった「私」に薬を飲ませるために伯母が探してくれた特別な匙だった。 痩せぎすでぼんやりとした子供だった「私」。療養のため引っ越した小石川でもその引っ込み思案は続いていたが、伯母の紹介でお国さんという女の子と遊ぶようになる。お国さんと遊ぶうちに積極性が出てきた「私」だったが、学校へ入学する年齢になると「どうしても学校には行かない」と駄々をこねるようになり......。 3. 感想 夏目漱石の絶賛や橋本先生の言葉に違わず、美しい日本語によって書かれているというのは納得できましたし、その濃やかさがひたひたと心に染みわたるような感覚になったのは...
☆☆(小説)

小説 「夏草の記憶」 トマス・H・クック 星2つ

1. 夏草の記憶 日本では「記憶」三部作で有名なアメリカのミステリー作家、トマス・H・クック。「緋色の記憶(原題:The Chatham School Affair)」でエドガー賞を獲得し、アメリカでも一定の評価を得ています。本作「夏草の記憶(原題:Breakheart Hill)」も日本では記憶三部作として売り出された三作品の一角で(原題を見ての通り作品間には何の関連もないのですが、プロモーションのため強引な訳出がされています)、いわゆるジュブナイル的青春ミステリのような要素があるため、令和に入ったいま読んでも流行を狙ったのかと思うくらい日本に馴染む作品だと個人的には感じています。もちろんミステリ要素も評価されておりまして、2000年の「このミステリーがすごい! 海外編」では3位に入っています。 さて、そんな「夏草の記憶」ですが、個人的には「普通」だなというのが感想です。決定的な悪い点はなく、良い点は微妙にありまして、☆3つと☆2つで迷ったのですが、ある種ベタすぎる、という部分を欠点と捉えて良い点と相殺し、☆2つに落ち着きました。 2. あらすじ 舞...
☆☆(小説)

小説 「二十四の瞳」 壷井栄 星2つ

1. 二十四の瞳 戦前から戦後すぐにかけて活躍した作家、壷井栄さんの代表作。1954年に映画化され、そこから人気に火が付いた作品です。舞台となった小豆島にはいまでも「二十四の瞳 映画村」が存在し、当時の流行ぶりが伺えます。 感想としては「やや薄い」と思ってしまったのが正直なところ。壷井さんが持つ切実な反戦への想いや、心温かな子供たちとの交流とその後の悲劇など、描きたいことは分かるのですが、小説の物語として読むにはあまりにエピソードが淡白な割に主張だけが延々と続く部分が長すぎる印象でした。 2. あらすじ 舞台は戦前の小豆島。治安維持法が制定され、世の中が窮屈になっていく中、主人公である大石先生は分校の小学校に新任教師として赴任することになった。五年生以上は本校に通うため、分校に通っているのは四年生以下の小さな子供ばかり。その中でも、大石先生が担当することになったのは入学したばかりの一年生十二人だった。 子供たちとは次第に打ち解け合っていくものの、洋服を着て自転車で分校に通う大石先生の姿に田舎の村人たちは反感を覚え、嫌味を言う者も多い。それでもへこ...
ミヒャエル・エンデ

小説 「はてしない物語」 ミヒャエル・エンデ 星2つ

1. はてしない物語 ドイツの児童文学者ミヒャエル・エンデの作品。「モモ」と共に彼の代表作として扱われることが多い著作です。児童文学といえど単行本で600ページを越える大作で、岩波少年文庫版では対象が「中学以上」となっている読み応えのある大作。「ネバーエンディング・ストーリー」という題で映画化もされています。 感想としては、読み手を選ぶ作品だなという印象を受けました。幻想的なファンタジー世界の造形は見事ですし、恵まれない環境で育った少年が力を手に入れて慢心し、やがてその慢心から身を滅ぼしかけるもののそれを克服して最後は真理に到達する、という物語も王道なりに楽しめます。ただ、こうした「ヨーロッパ的ファンタジー世界」を受け入れる心持ちが最初からある人以外には展開が唐突で突拍子もなく思えるでしょうし、主人公も万民に受け入れられる人物かといえばそうではないと感じました。 はてしない物語 (エンデの傑作ファンタジー) posted with ヨメレバ ミヒャエル・エンデ 岩波書店 1982-06-07 Amazon Kindle 楽天ブックス 楽天kobo ...
ルイス・キャロル

小説 「鏡の国のアリス」 ルイス・キャロル 星2つ

1. 鏡の国のアリス 「不思議の国のアリス」に並ぶルイス・キャロルの代表作。「不思議の国のアリス」については以前に記事を書きましたが、その続編たる本作も面白おかしいナンセンスジョークに満ちています。 感想としてはほとんど「不思議の国のアリス」と同じなのですが、社会風刺が多かった印象の前作と比べ、こちらは純粋なジョークに特化している印象です。アリスと登場人物たちとの滑稽なやりとりはそれそのものの面白さもさることながら、数々の作品の「引用元」になっていることに思いを馳せながら読むと興味深いものです。 鏡の国のアリス (角川文庫) posted with ヨメレバ ルイス・キャロル 角川書店(角川グループパブリッシング) 2010-02-25 Amazon Kindle 楽天ブックス 楽天kobo
立原正秋

小説 「恋人たち」 立原正秋 星2つ

1. 恋人たち 1960~70年代にかけて一世を風靡した作家、立原正秋さんの作品です。1966年に直木賞を獲っておりますが、それまでに芥川賞の候補にもなるなど、純文学も大衆文学もこなす万能の作家でした。本作は根津甚八さんと大竹しのぶさんの主演でテレビドラマにもなっています。感想としては、現代の感覚からすれば「ありえない」作品です。それをもってこき下ろす人がいてもおかしくありません。一般的に考えれば、この21世紀に純粋な娯楽作品として読んで楽しい作品ではないでしょう。ただ、この作品・作家が「人気だった」ということを踏まえて読めば良い洞察を得られるのではないかと思います。 恋人たち (角川文庫 緑 298-6) posted with ヨメレバ 立原 正秋 KADOKAWA 1971-09 Amazon Kindle
ルイス・キャロル

小説 「不思議の国のアリス」 ルイス・キャロル 星2つ

1. 不思議の国のアリス タイトルだけならきっと知名度100%なのではないでしょうか。数学者ルイス・キャロルによって著された児童書で、1865年刊行ながら今日まで全世界全世代で幅広く愛されている作品。「アリスの世界観をモチーフにした」が枕詞のエンターテイメント作品が製作されない年はないくらいに、古典として確固たる地位を確立しています。 そんなポップなイメージとは対照的に、英語独特の表現や時代背景を反映した冗談が多いためにやや難解になってしまっているのが日本語翻訳版です。河合祥一郎氏の名訳をもってしても物語を十分に楽しめるとはいえないでしょう。ただ、「アリスの何が斬新だったか」を意識しながら読めば、特に創作に携わる人々からの人気が高いのも頷けます。 不思議の国のアリス (角川文庫) posted with ヨメレバ ルイス・キャロル 角川書店(角川グループパブリッシング) 2010-02-25 Amazon Kindle 楽天ブックス 楽天kobo
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