1. 百日紅
漫画家であり江戸風俗研究家でもあった杉浦日向子さんの作品。
杉浦さんのオリジナル作品として「百物語」と並ぶ代表作だとされています。
2015年には映画化されており、アヌシー国際アニメーション映画祭や第19回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門などで賞を獲得しております。
葛飾北斎とその娘であるお栄を中心に江戸の風俗を描く、という他にはない珍しいジャンルというところは目新しいのですが、物語は凡庸で、主人公格の二人が著名な絵師であるということもあまり活かされてはいません。
時代考証の精緻さという面で評価する人は評価するのでしょうが、決して娯楽的面白さを求めて手を出す作品ではないでしょう。
2. あらすじ
有名な絵師としての地位を確立しながらも、葛飾北斎は長屋で質素に暮らしている。
同居人は三女のお栄と居候の善次郎。
二人とも北斎の弟子であり、お栄は北斎の代筆をするほどの腕前。
善次郎も江戸の町で徐々に頭角を現してきていた。
しかし、お栄は地黒で、父の北斎にさえ「アゴ」と呼ばれるくらいに容姿が芳しくなく、生娘であることから春画にはいまいち難がある。
善次郎も女好きで茶屋通いがやめられないという欠点を持っている。
さらに、北斎を取り巻く人物たちも一癖、二癖ある者ばかり。
江戸の町に起こる怪事件から、お栄の絵や善次郎の女好きが引き起こす騒動まで、ときに旧い時代の陰惨さがあり、ときに下町の人情がある、江戸の日常を描いた連作短編。
3. 感想
人情ものから怪談まで、友情から不義理の愛まで、という物語のラインナップなのですが、いかんせんどれも面白くありません。
人情話はほろりときませんし、怪談の恐怖もイマイチ。
北斎やお栄の絵が怪現象を起こすという話もあるのですが、これも「有名な絵師」であれば誰でもよい話で、江戸の風俗を研究し歴史考証に精通していたという杉浦日向子さんにしては北斎ならではの話となっておらず、落胆しました。
淡々とした絵柄と物語進行が特徴だとは思うのですが、それはただ淡白な印象を残すだけに終わっていて効果的な演出に繋がっておらず、あまり感動のない漫画です。
また、江戸という要素を抜けば、特に人間関係の話は昼ドラレベルの凡庸な筋書きが多すぎて辟易しました。
映画もつくられるなど当時においてある程度の知名度を得たのかもしれませんが、今日においてこの漫画が顧みられなくなっているのは妥当だと言わざるを得ません。
杉浦日向子さん自身が当時はテレビ出演もされていたそうですから、その人気の後押しがあって出版されたのかなと勘ぐってしまいます。
買わなくてもよかったなと思いました。
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