森見登美彦さんの人気小説を原作に、湯浅政明監督が映画化。「夜明け告げるルーのうた」でアヌシー賞を受賞された監督です。
小気味よいファンタジー展開に加え締りの良いラストシーンは印象に残ります。エンターテイメントとしてはこういう作品がもっと世に出て欲しいですね。
あらすじ
冴えない大学生である「私」は美しき後輩、黒髪の乙女に恋をしていた。
そんな「私」が乙女との距離を埋めるために執っていた作戦、その名も「ナカメ作戦」。
「ナるべくカのじょのメにとまる」の略であり、要は付け回して偶然を装いすれ違うだけの行動である。
サークルOB・OGの結婚式の二次会に参加している今日も、二次会で乙女に近づくチャンス。
しかし、乙女の行先はいつも気まぐれ。夜の先斗町で飲み歩いたり、幼き日に読んだ絵本を探して古本市を訪ねてみたり、文化祭のゲリラ演劇で代役ヒロインを務めたり、風邪のお見舞いに京都じゅうを駆け巡ったり。
そんな乙女に(勝手に)振り回される「私」と、幻想的なほどに可愛らしい「乙女」。
そして、主人公を取り巻く愉快な大学生と大人たちが織り成す、一夜限りのファンタジックエンターテイメント。
感想
湯浅監督らしい、現在の日本における流行とは一線を画す作風です。
しかしもちろん、そこがいい味を出しています。
カラフルな色彩と独特な線で描かれるキャラクターには中身でも外見でも日本風の「アニメ」文脈的キャラクター造形はありません。
確かに、ヘタレの主人公とあり得ないほど純心で可愛い乙女との恋はご都合主義的ですが、どちらも、いわゆるラノベやラブコメに出てくる典型にはない、しかし、これが王道だと思わせる楽しさがあります。
テンポも極めて良く、説明的過ぎないながら視聴者がしっかりとついていけるような工夫が「絵」でなされており、映画の独特さ、特性が活かされた作品になっています。
文化祭におけるゲリラ演劇などはまさにアニメーションならではの動きで、とても感心してしましました。
また、ラストシーンも秀逸。
最後までふざけ切って終わるのではなく、まさに幻想の一夜が終わったことを示すように、二人の声色や背景がやや「シリアス」になるのにはハッとさせられました。
これだけふざけた後なのに、恋愛の切迫感がふわっ、ぴりっと浮き上がる様子は見事です。
もちろん、女性視聴者にとっては恋愛ものとして見ることが厳しい作品かもしれません、しかし、このラストシーンで視聴者をやや現実に引き戻して終幕することで、なんともいえない余韻があったのは確かだったのではないでしょうか。
本作品、日本で大ヒットしたわけではありませんが、オタワ国際アニメーションフェスティバルでは見事、長編部門でグランプリを獲得しています。
国を選ばず、世界に通じるアニメーションを作れる力。
これがもっと日本のアニメーションに出てくると良いのですが......。
湯浅監督のような人物が出てくることに期待ですし、湯浅監督のような人物やこの「夜は短し歩けよ乙女」のような作品を育てられる環境が形成されて欲しいですね。
大感動の傑作、とまではさすがにいきませんが、このレベルの映画が連発されるくらい日本のアニメ業界には頑張って欲しいと思えるような作品ですので、評価は3点(平均以上の作品・佳作)といたします。
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