そういった人々がリーズナブルな住宅へのアクセスしづらいために苦しむ一方で、都会に購入した自宅と親から相続した田舎の住居を保有していたり、夫婦双方の親から住宅を相続したために二つの住宅を保有している場合に、一方の住宅を持て余してしまっている状況もあります。
つまり、安価な単身・カップル向けの賃貸住宅が不足している一方、家族向け住宅が余ってしまっているのです。
また、住宅の資産価値下落速度が早いため、新築住宅を購入したとしても、子供の親離れとともに住宅を売却してより狭い住居に移るとか、所得が低下した際に売却して換金するといったことが難しく、新築住宅を購入できたからといって資産形成や人生設計を有利にできていない点にも問題があります。
これからますます「標準」ライフコースから外れる人が多くなるなかで、新築住宅重視の政策は変更がが必要であると著者は主張します。
第4章は短いながら、どのような政策変更が必要かが論じられています。
著者が導入すべきと主張するのはユニバーサル(条件付きではない)な家賃補助です。
困難な状況にある人々を助ける方法としては「母子家庭」「障がい者」「高齢者」といったように「困難」をカテゴリー化してそれらに当て嵌まる人々に対して救済措置を行うことが日本では他の政策においても一般的です。
しかし、住居にアクセスしづらい人々の属性は多岐に及び、カテゴリー化していては多くの救済されるべき人々を政策の網から漏らしてしまいます。
また、特定の人々だけに絞って家賃補助を出す制度では、住宅を供給しようとする企業もその市場の小ささから供給を躊躇するでしょう。
新築住宅重視の政策を転換し、そのお金をユニバーサルな家賃補助に振り向ければ、住宅にアクセスしづらい人々全般を救済できるようになると著者は主張しています。
結論
住宅は人々の生活の基盤であり、生涯年収の何割かを捧げる非常に重要なものです。
にもかかわらず、日本ではあまり注目されていないのが現状です。
そのような状況の中で、新書ながら非常に専門的知見に富んだ本書は住宅政策の手軽な概括書としてもっと読まれても良いはずだと感じます。
おすすめの良書です。
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