1. 坂道のアポロン
「このマンガがすごい! 2009」オンナ編で1位となり、アニメ化もされた本作。
ジャズという珍しいテーマと、1960年代という時代設定は確かに面白いと思いました。
ただ、ストーリーに捻りがないのは非常に残念。
ベタ展開に次ぐベタ展開で起伏がなく、最後も高校生活の枠内で納めきれずに駆け足で大学→社会人としてしまったところに作者の力量不足を感じてしまいました。
2. あらすじ
主人公、西見薫は父の都合で横須賀から佐世保の高校に転校することになった。
幼いころから転校ばかりだった西見は秀才だが人見知り。
そんな西見がひょんなことから出会ったのが不良として知られる川渕千太郎。
正反対の二人だが、千太郎の趣味であるジャズに薫が惹かれ始めたところから二人はかけがえのない友人となっていく。
しかし、二人を巡る恋模様は複雑。
薫は千太郎の幼馴染である迎律子が好きだが、律子は千太郎に想いを寄せており、その千太郎は上級生の深堀百合香に恋している。
そんな百合香が好きなのは千太郎が「淳兄」と慕う桂木淳一。
薫の律子への告白をきっかけに、薫と千太郎の関係もまた揺れ動いていく。
3. 感想
導入は確かにいいと思います。
気弱な秀才と豪放磊落な不良が音楽を通して友情を確立する。
二人にはそれぞれの事情、影の部分もあるが、それを超えた絆で二人が結ばれていく。
そこまでは魅力的な物語です。
ただ、恋愛がメインになってきたあたりで面白くなくなってきます。
薫が律子にキスしたり想いを打ち明けたりするのも読者からすれば予定調和ですし、その後、薫と律子がぎくしゃくしてしまうのも予想通り。
そこをどうせジャズの力で乗り切るのも予想通りであり、また、淳一が政治活動の失敗で帰郷したり、そんなうらぶれた男に百合香が惹かれているなどというのもあまりにも古典的なパターンです。
これは乗り切れないんじゃないか、もしかしたらこの二人がくっついてしまうのではないか、なぜこの二人が上手くいかないのか、そういった意外性のある展開、読者をハラハラさせる展開は皆無です。
そして最後、薫が東京の大学に行くために上京する場面。
将来と恋の間で引き裂かれるこのシーンは本作の締めとして必ず用意されるべき場面でありながら、作者はここで答えを出さずに、わずか数十ページで大学4年間を終わらせて、十数ページの社会人編で決着をつけてしまいます。
高校で濃密な3年間を過ごした薫や千太郎、律子の次の4年間の扱いとしてはあんまりだと言わざるを得ません。
相当失速してしまった作品だという印象。
ジャズ好きで、予定調和的な恋愛展開を許容できるならば、という程度のオススメ具合です。
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