小説 「夏のバスプール」 畑野智美 星2つ

夏のバスプール
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1. 夏のバスプール

高校生たちの夏の小さな思い出を繊細に描いた、ノスタルジックな青春群像劇です。

著者の畑野智美さんは小説すばる新人賞出身。ヒットメーカーを多数輩出している賞だけあって安定した書きぶりでしたが、やや風呂敷が小さすぎ、インパクトに欠ける作品でもありました。

2. あらすじ

主人公の中原涼太は地方都市の私立高校に通う高校一年生。夏休み直前のある日、学校の前を歩いていると、畑のトマトを盗み食いしている女子生徒にトマトを投げつけられる。

彼女の名前は久野愛美。なかなか可愛いその転校生は学年でも評判だが、震災を機に仙台から引っ越してきた彼女にはそれ以外にも何か「事情」があるようだ。

とにもかくにも久野ちゃんが気になる涼太だが、その久野ちゃんは既に野球部の西澤と付き合っているという噂。涼太はこの西澤が気に入らないのだが、何故か向こうからは積極的に話しかけてくる。

そんな涼太には同じ学年に元カノがいる中三のときに二週間だけ付き合った彼女はまだ涼太のことが好きらしい。

好き嫌いといえば、涼太の親友、青野は涼太の幼馴染である望月と付き合っていて、それだけでも少し複雑な気持ちだけど、二人の仲が上手くいってないのはもっと複雑。こんな感じで、交友関係の広い涼太は他にも様々な人間模様に巻き込まれていく 。

人を傷つけないようには生きられなくて、でも、人の痛みが分かるようになってきてしまった。

そんな高校生たちの、夏の四日間に起きるささやかなで瑞々しい日常譚

 3. 感想

様々な登場人物たちの事情が交錯しあって、非常に複雑なストーリーが構成される作品です。

物語のとりあえずの中心は主人公、涼太とヒロインの久野ちゃん。お互い気になる存在となりますが、久野ちゃんが抱える心の傷が二人の間に立ちはだかります。終盤になって明らかになるその秘密とは、久野ちゃんの弟が酷いいじめに遭い、外出もままならない精神状態であるということ。久野ちゃんは西澤と知り合いでもあり、西澤に励まされ、新天地での生活を助けてもらっている。ゆえに、たとえ涼太が気になってもその気持ちを素直には出せないのです。

一方、大きな悩みなどなかった涼太の心も、物語が進むにつれ自分自身との闘いを強いられます。幼少の頃、リトルリーグの一軍選手だった涼太は、西澤たち二軍以下の選手を顎で使い、見下した態度をとっていたのです。いじめていた側は気づかなくても、いじめられた側にとっては辛い思い出になっている。久野ちゃんや西澤と関わる中で涼太の心にも罪悪感が広がります。

他にも、登場人物たちがそれぞれの悩みや罪に向き合い、もがき始める姿は、まさに青春群像劇の醍醐味と言えます。

とはいえ、作中で問題がすっきり解決するということはありません。各人が問題に正面から向き合うことを決意する。それが、この物語の結論となっています。その締め自体、私としては嫌いではありません。

それでは、なぜ本作を星2つとしたのか。それは全体的にチープさがあるからです。

人間関係をやたらに複雑にしてみたり、いじめの問題を出してみたり、流行りのテレビゲームや芸能人の名前を出してみたり、「ヤるために付き合ってるの?」みたいな台詞を入れてみたり。確かに、昨今の高校生を描きたいのはわかりますし、それ自体には成功しているのかもしれません。

しかし、それ以上のものはこの作品にありません。小説にありがちな要素を適当にかき集め、しかも、解決させずに終わり、としてしまい、どうしても著者のオリジナリティや読者にとっての驚き・感銘といったものが出なくなってしまっています。

また、久野ちゃんが数ある男子のなかでも涼太を気にしている理由が涼太が自分の弟に姿かたちが似ているからいうのも安易です。久野ちゃんやその弟が抱えている悩みのレベルからすれば、それはあまりにも安直すぎます。

しかし、この作品にはそういった安直な理由での行動、心理の変化が頻発します。

そのため、作品の印象・インパクトがどうしても薄くなってしまっています。まるで全員が脇役の物語を見ている気にさえなってしまうほどです。作品が醸している青春の雰囲気や、キャラクターの媚びすぎないかっこよさ、可愛さは非常に良いので、もっと物語や構成の面での技巧でレベルが高ければと思ってしまいます。

「夏」「高校生」「恋」「青春」

このあたりのワードあれば無条件でそういった小説が好きという方にはオススメですが、そうではない場合、普通以上佳作未満程度に留まるでしょう。

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