第8位 「聲の形」佐倉準
【いじめと聴覚障がい、贖罪と再生の物語】
・あらすじ
石田将也は小学六年生。
まずまず楽しいながらも、どこか退屈さを感じる小学校生活を送っていた。
そんなある日、将也たちが所属するクラスに転校生がやってくる。
彼女の名前は西宮硝子。
聴覚障がい者である硝子は筆談を使ってクラスメイトと意思疎通を図ろうとするも、耳が聞こえないことによって生み出される様々な「不都合」がクラスに不和を起こし、硝子へのいじめが始まってしまうことになる。
いじめの中心人物としてその刺激的な日々を楽しんでいた将也。
しかし、そんな彼にもついに転落のときが訪れる。
硝子へのいじめをテーマに学級会が開かれ、そこで、将也たちが壊したり隠したりした硝子の補聴器の金額が108万円に達することが告げられたのだ、
深刻な雰囲気のなか、担任教師とクラスメイトたちはいじめの責任を将也に押し付けていく。
完全に立場が逆転し、翌日からいじめの対象になってしまった将也。
犯した罪への罪悪感を背負いながら、自らへ向けられたいじめの矛先を将也は甘受する。
そして、そんな過去を持ちながら高校生になった将也はアルバイト漬けの生活を送っていた。
ある日、将也はアルバイトを辞め、まとまったお金を引き出し、持ち物を売り、そのお金を実家に置いてある場所へと向かう。
将也がアルバイトを辞めてしまった理由とは、そして、将也が向かった場所、そこで出会う人物とは.......。
・短評
高校生になって硝子と再会した将也が、いじめの贖罪と人間関係の再構築を果たしていくお話になっております。
本作が巧妙に描いているのは、人間の心の醜さと、その中にある一握の希望です。
硝子へのいじめを傍観していた者、いじめに加担していたことを自己正当化している者、硝子を救おうとして失敗してしまった者。
苛烈な「いじめ」があった教室で共に過ごした人々と再会し、その感情に触れる中で、将也と硝子は幾度となく傷ついたり葛藤したりしながら、それでも、友情に似た何かを他者と契ろうとする。
あまりに生々しいいじめの実態や、嫉妬や羨望、自己欺瞞といった負の感情の醜さ、スクールカーストの現実などを容赦なく刳りだしながら、不器用に傷つけあう高校生たちの生態が鮮烈に描写され、呼吸できないくらい胸が締め付けられる展開が続きます。
しかし、そんな状況の中でも、異質な他者と折り合いをつけ、絶妙な均衡の中で人間関係を蘇らせようと各人が少しずつ歩み寄り、最後には「友情」の希望が見える。
「聴覚障がい」や「いじめ」といった派手な要素で注目を集めた作品ですが、その内実は情熱的な社会派ヒューマンドラマであり、まるで重厚なサスペンスドラマを見た後のような読後感があります。
全7巻で300万部という驚異的な大ヒットを果たした本作。
その人気に違わない実力を持った名作です。
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