1. 1518! イチゴーイチハチ! 第7巻
いやはや愕然といたしました。第6巻の感想を辛めに書いたとはいえ、1巻ごとに感想記事を上げるくらいに思い入れのあった本作。驚くべきことに、この第7巻が最終巻となってしまいました。作者あとがきにも無念の思いが滲み出ている通り打ち切り感も漂っているのですが、この名作が打ち切られる(くらいの売り上げ)など信じられません。
第1巻と前巻である第6巻の感想は上の通りです。特に第1巻~第3巻の出来栄えは漫画史に残るといってもよいくらいなので是非読んで頂きたいところ。
さて、本題となる第7巻の感想に入りますと、前半の生徒会役員選挙の話は悪くないのですが、もう少し話を膨らませて盛り上げられたのではないかと感じました。後半は完結に向けての舵取りですね。野球を再開するため髪を切った会長の姿にはぐっとくるものがある一方、世代交代の話はやや唐突感と駆け足感があり、無理やり完結させたのだなぁという印象でした。
2. あらすじ
冬休み明け、晴れて恋人となった幸と烏谷を待ち受けていたのは生徒会役員選挙。非常に個性的だった前会長の後を襲う人物を決める選挙なのだが、二年生以下の生徒会役員で勉強も忙しくなく、リーダーシップのある者といえばただ一人だけ、烏谷公志朗である。
新会長:烏谷公志朗、新副会長:丸山幸。それが既定路線だと誰もが考えていた矢先、そこに待ったをかける人物が現れる。他ならぬ幸が会長選に立候補し烏谷と対決するというのだ。「彼が会長で私が副会長になったら、ただ後ろをついていくだけになりそうで」。熱中できるもの、自分に向いていることが見つからず、一生懸命になれる自分を探して生徒会室の扉を叩いた丸山幸。生徒会での経験を通じ、「挑戦する気持ち」が芽生えた彼女が仕掛ける大勝負の行方はいかに......。
3. 感想
無念の完結巻というわけで、選挙以外は消化すべき事象を消化しました感が強いですね。選挙の前に烏谷から幸への告白があり、選挙後は野球に再挑戦する会長と烏谷の友情譚を手短に。よほどページ数不足なのか、前副会長だった山崎克己でさえ2ページ足らずしか出演していませんし、その進路に至っては1コマしか紹介の機会を与えられていません。
そして第7巻の本編ともいえる会長選挙ですが、これも(本作の中では)普通のエピソードという印象。幸と烏谷のために2年生以下の主要登場人物が2陣営に分かれるのですが、普段通りの仲の良さは相変わらずで人間関係に事件が起こるわけでもなく、個性的な選挙ポスターを作成する過程で何か深刻なトラブルが起こるわけでもありません。今日も高校生たちが和気藹々とやっています、という程度の演出で、凡百の漫画とそう変わらないなと思ってしまいます。二人の演説もベタの域を出ていませんでした。
ただ一つ「いいな」と思えたのは、烏谷との下校中にナカナツが発した言葉。スポーツ特待生が多い情報コースのクラスメイトの言葉として、「(怪我などで)リタイアしても『終わり』じゃないんだ」と思わせてくれたという旨をナカナツは烏谷に語ります。怪我で野球を諦めた烏谷が生徒会役員として溌剌としているのを見て、競技断念に怯える特待生たちに勇気を与えていたというのです。
大きな怪我をしてキャリアが断絶された人物を主人公にしつつ、大過なく競技を続けている大勢と対比させて悩ませたりする作品は多くありますが、その狭間に存在する、「いまは競技を続けていられるけれど、いつ辞めなくてはいけないか分からない」という普通の生徒たちの不安を描こうとする姿勢はこの作品の稀有な側面が出ていて心に沁みます。願はくは、これを烏谷には直接伝えず、ナカナツのモノローグだったり、烏谷には聞こえないところでの会話で出すともっと良かったのではと感じるところです。
最終盤の世代交代の話はちょっと駆け足すぎ+極端すぎですね。新入生として生徒会室にやってくる男女二人は特に男子が極端なキャラクター造形過ぎてイマイチです。本作が持っていた良い意味でのリアリティが削がれていて、むしろ(そんな登場人物しか出せないくらい)作者の方がネタ切れで、打ち切りやむなしだったのかもしれないと感じました。全体的に男女関係や恋愛パートが突飛にファンタジーで(この巻ではハート型のおにぎりや手作り弁当など)、ここを野球関連のエピソード並みに緊張感のあるものにできればもっと人気が出たのではないかと思います。
最後のページでは「カーテンコール」として作者が描き残したアイデア集が紹介されていますが、個人的に一番おもしろそうだと思ったのは「20XX年のバーサスアンダースロー」。どこか切なさを感じさせる発想からなんともいえない感動で胸を衝くような展開が似合いそうな表題と、意味深な一コマ漫画には期待が否応なしに煽られます。この外伝だけでもどこかで読めるようにならないものでしょうか......。
4. 結論
1~3巻くらいまでは傑作の名に恥じない漫画だったものの、そこから勢いを落としてしまったことは否めません。それでも打ち切りは残念ですが、相田さんの次回作に(建前ではなく)期待ですね。
コメント