古いからとか新しいからとかといった相対的な価値基準ではなく、絶対的な「魅力的な価値観」を提示するからこそ、それを押し通した先に良い結果が待っていたという点は着目すべきだと思います。
単に新しいからと飛びつくのでもなく、昭和の価値観だからと遠ざけるのでもなく、ある価値観が持つ相対化されない本質に着目して生きていきたいと思わされます。
また、そのジョブズが提示した価値観というものが「単純に・直感的に」だったという点も時代において傑出した存在になれた理由なのでしょう。
気難しい性格で強引な手法を好む一方、そういったやり方で彼が実現しようとしたのはシンプルさだったのです。
御託を並べ、ルールをたくさんつくれば物事が改善されると信じている人物や組織が多い中で「単純さ」を見下さずむしろ崇高な存在として扱う姿勢のビジネスマンは稀有な存在だったのだと思います。
インドに渡ったエピソードでも、インドの田舎で育った人々の「直感力」を高く評価し、欧米式の「理論・理性」で物事を考える姿勢の弱点に気づいたというジョブズの発言がありますが、「合理性」にないものが「直感」の中にあり、それを高く評価すべきとしていたのは印象に残りました。
アップル社は電気機器メーカーで唯一と言っていいライフスタイルブランド(単に生活を助ける手段・道具になるのではなく、その商品を持つこと自体に幸福を感じ、その商品の所有が目的となるような製品群)になっていくわけですが、結局のところ「幸福」という主観を満たすために私たちは製品やサービスを消費しているのだという点も忘れないようにしたいですね。
ソニーや任天堂などゲームハードを手がけている会社の頑張りはありますが、総合的には見れば電気機器の分野において日本企業は劣勢に立たされています。
その原因にはおそらく「数値に表せる性能至上主義」があるのではないでしょうか。
そんなことよりも、この製品を所有・使用することでどれだけの「主観的幸福」を顧客が得られるのか、ということを考える必要があるのだと思います。
数値上の性能によってもたらせる優位は脆く、他企業の技術向上によってすぐに追いつかれてしまいます。
数値競争に勝ち続けているにしても、熾烈な技術競争に勝つためには巨額の研究開発資金投入が必要で、製品がもたらす利益は薄くなりがちです。
圧倒的な利益率を得るためには、いまこそ「クール」や「ラグジュアリー」を顧客にもたらすような「ブランド力」について真剣に考え行動する必要があるのではないでしょうか。
結論
意外なほどに淡々としたジョブズの伝記でした。
特に後半は事実の羅列的な側面が強くなっていき、まぁ、フィクションでないから仕方がないかという思いがある一方、起伏のない表現方法で伝記を書く意味とは、と思ってしまう側面もあります。
ジョブズの人生の概要を知りたいというのであればまぁいいのでしょうが(英語版wikipediaで代用可能ですが)、それ以上の何かを求められる作品ではありません。
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