1. 響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章
全国大会金賞を目指す公立高校、北宇治高等学校吹奏楽部で起こる様々な事件を描いた青春小説シリーズの2年生編。その後編になります。前編の記事はこちら。
また、言うまでもなく本書は京都アニメーションが手掛けるアニメ版の原作として(の方が)有名でしょう。私もアニメ版から入った口です。アニメの感想はこちら。
映画「リズと青い鳥」で描かれたみぞれと希美の関係性についての物語はそこそこ良かったものの、それ以外の群像劇はどこで面白くさせようとしているのか分からないくらいイマイチでした。
2. あらすじ
低音パートの後輩たちが起こした諍いを何とか諫め、パートをまとめ上げることに成功した黄前久美子(おうまえ くみこ)だったが、部全体としての音楽の出来には不安が残っている北宇治高校吹奏楽部。
低音パートでは3年生である中川夏紀(なかがわ なつき)の実力不足は明らかで、トランペットパートでは1年生ながらにして実力十分、特に高音が得意な小日向夢(こひなた ゆめ)が何故か高音で音楽全体をリードするファーストというポジションではなく音楽を底から支える役割のサードを担うことになっていた。北宇治が命運を掛ける自由曲「リズと青い鳥」のメイン部分であるオーボエとフルートの掛け合いも、レベルは高いもののどこか釈然としない演奏感が残る。そこにはオーボエの鎧塚みぞれ(よろいづか みぞれ)とフルートの傘木希美(かさき のぞみ)のあいだに横たわる複雑な感情が影を落としているようだったが......。
久美子2年生編となる「波乱の」第二楽章。北宇治高校吹奏楽部は目標とする全国大会金賞の栄光を掴むことができるのか......。
3. 感想
前編に引き続き散漫な印象は拭えません。後編はメインエピソードがみぞれと希美の「リズと青い鳥」を巡る話。そこに夢や麗奈、秀一と久美子の関係といった小エピソードが挟まる形です。といっても、「リズと青い鳥」以外は本当におまけというか、どうして必要だったのかと疑問に思うようなエピソードばかりです。
夢の話は、気弱であがり症の一年生が失敗を恐れてどうしても目立つポジションに立てないという状況にあり、それをちょっと励ましたら克服への道筋がついたというだけ。もちろん、現実に起きれば感動的な出来事でありますが、フィクション作品であるからにはそこへ至る道筋でもっと盛り上がりや落ち込みを読者に訴えかけないと感動できませんし、事態が反転するような、あっと言わせるような価値観の反転や物理的なギミックがないと驚いたりはできません。それでも、励ました人物(ここでは加部友恵(かべ ともえ))による普段の接し方や声の掛けかたの中にある工夫をもっと具体的に書いていればぐっとくるものがあったのかもしれませんが、それもほとんど見られないので何をどう感じたらいいか分からず茫然とするようなエピソードになっています。単に北宇治が全国に進めないようにするためのアリバイ作りだったのではと感じてしまいます。
秀一と久美子の恋話はもっと悲惨で、久美子が秀一のキスを拒否するだけのシーンがあるだけです。二人の心の交流や諍いが描かれなければこれだってぽかんとさせられるだけ。最後に久美子が秀一を振るシーンがあるのですが、これまでの経緯が浅すぎて「はぁ、だから?」という印象です。
最後にメインの「リズと青い鳥」ですが、ここだけはまずまず良かったと思います。友人関係の中でいつもリードする側だった希美とリードされる側だったみぞれとの立場の逆転。社交的で明るく「リア充」気質の希美が、一生懸命に音楽に打ち込んでどんどん才能を開花させていくみぞれに内心では嫉妬していて、逆に社会性という観点では希美に依存していたみぞれが次第に自分の力で周囲と打ち解けるようになっていって、希美という先導役から巣立っていく。もし、孤立していた中学生時代に希美がいなければみぞれという人間は早くに潰れていたでしょう。そんなみぞれを「救済」してしまったばかりに、高校生になって羽ばたこうとしているみぞれに嫉妬してしまう希美。希美が引っ張り上げてくれたからこそ人間として社会的に生きていけていることに自覚的で、希美への異様なまでのこだわりや忠誠心を見せながら、高校生になってそんな状況に一縷の迷いを生じさせているみぞれ。才能・努力・人間関係。意図せず裏目に出る優しさの報い。希美とみぞれが悩ましくも美しい季節独特の葛藤を抱える姿は痺れますし、みぞれが吹っ切れる瞬間の衝撃はびりっと電気が走るような感動がありました。映画の方は過激すぎる描写が余計でしたが、文字にするとしつこさとあっさり感が適度になっていて、このエピソードに限っては小説の方がいいなと思いました。
なお、小説版の感想ではたびたび言及しておりますが、本シリーズでは言葉の使いかたが(伝統的な小説の書き方的には?)不自然なところが所々あると考えておりまして、それが敢えて妙な表現をしているのではなく本気でその表現が正統派の美しさなんだと作者が考えているんじゃないかと思ってしまうような使われ方をするのです。なんというか、平易な文章の中に突然、奇妙な文体が混じって没入感を妨げるというか、正直に申し上げると奇妙過ぎて読む側まで羞恥心を感じてしまうので実は文章が「下手」な作者なのではないかと内心思っております。例えば、本作では以下の表現を奇妙に思いました。
p67 「改札までのホーム」 「宝石のような光の粒が不安げに」
p68 「流れる髪が夜の帳のごとく」
p69 「ポロンポロン」
p82 突然、長々とした「リズと青い鳥」のあらすじが入る
p91 「クツリと喉を鳴らし」
p382 「一陣の夜風」
複数個所:演奏の表現でしばしば使われる「ファンキー」
4. 結論
良いところと悪いところを足し合わせて「凡作」の星2つとします。三年生編もそこまで楽しみというわけではありませんがそのうち読もうとは思っております。そんなことより京アニの復活という意味でのアニメ版3年生編の制作が心配ですね。上から目線で言えたことではありませんが、京アニのクリエイターたちが無理をせず、外からの妙な期待によってではなく、心身ともに健康な状態において自分の意思でもう一度立ち上がってくれるときを静かに待っていようと思います。
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