1. 伊豆の踊子
前置きはいらないほどの有名作品。吉永小百合さんや山口百恵さんが主演した同名映画の原作としても知られています。
描写の美しさは折り紙付きで、特に踊子のいきいきとした描き方には感動がありますが、物語としての含蓄や面白さがあると言われると微妙なように感じられました。
2. あらすじ
荒んだ心から逃れるために、伊豆へと旅た「私」は、その道中、お茶屋で旅芸人の一座に出会う。
「私」は踊子の美しさに目を奪われるが、踊子たちの身の上や職業のことを思うと暗い気持ちがさらに募る。
しかし、大人びて見えた踊子がまだほんの子供だと判明し、旅芸人たちもそれほど困窮しておらず、温かい心を持っていることが分かると、「私」の心も次第に晴れやかなものとなっていく。
踊子とのささやかな交流のあと、旅芸人たちと別れることになった「私」の心境とは......
3. 感想
表現技法についてはさすが時代を超えて評価される一流作家ならではの技術力で、それだけで星を一つ上げたくらいのものです。旅芸人たちや踊子、宿を同じくした商人たちの様子がこまやかに描かれており、情景描写や感情の移ろいも繊細かつ抑制的で、静かさの中にある美しさに惹かれていきます。
しかし、物語に起伏はなく、いたって平凡。踊子がまだほんの子供と気づいて主人公の心理が変わる理由もよく分からないですし、そもそも、そういった主人公の心理の変化がいかに重要なのかということも説明不足です。
深読みして主人公の心理変化何らかの意味づけをしようにも社会的側面や人間心理の不思議を描くといった仕掛けもなく、ただ気持ちが少し好転したというだけです。また、踊子の主人公に対する慕情もただ美しくけなげなだけであって、物語全体としてそこに意味があるようには思えません。
物語と表現で成り立っているのが小説ですから、これらは大きな欠点だと言えるでしょう。
文豪の文章力を体験したいという方にはオススメでしょうか。
コメント