芥川賞作家、川上弘美さんのベストセラー小説です。
谷崎潤一郎賞を受賞した「純文学」なのですが、異例なほど売れた作品。
小泉今日子さん主演で映画化もされています。
大人の恋のなかにある淡くて切ない心境に感動できる一方、登場人物の現実感や物語の起伏という点ではイマイチな作品でした。
あらすじ
37歳独身のOL、大町月子は居酒屋で高校の恩師と再会する。
「センセイ」こと松本春綱は月子の30歳年上。
奥さんを亡くしているセンセイと、彼氏のいない月子。
二人は居酒屋で、あるいはキノコ狩りで、徐々に打ち解けあってゆく。
そんな中、高校の同級生である小島孝が月子にアプローチする。
月子はその誘いを断り、自分の中での先生への想いを明確にしていく。
それでも、なかなか決定的なところまで踏み出せない。
しかし、小島孝に旅行に誘われたことをセンセイに打ち明けると、意外にもセンセイが「島に行きませんか」と誘ってきて......。
感想
紳士的で穏やかなセンセイとの、大人の恋愛。
センセイに惹かれていく月子の内面が抒情的に描かれ、こちらにまで切ない気持ちが伝わってきます。
ただ、この小説の良いところはその一点のみ。
センセイにも月子にも、まるで喜怒楽の感情がないかのように描写され、特にセンセイに関しては、理想の老人を具現化したような、一種、神聖なまでの存在として描かれています。
これでは、リアリティという部分で惹きつけられません。
ただの空想だということが露見し、低レベルな少女漫画感が出てしまっています。
また、物語は最後まで穏やかに、ただひたすら穏やかに進みます。
二人の恋はどうなるのか、という緊張感に欠け、飽きが来てしまいます。
冒頭を読み、その空気感が好みで、なおかつ、それがずっと続いても読んでいけるという人ならば楽しめるでしょうが、とても万民向けではないでしょう。
「雰囲気小説」と呼ぶのが、いい意味でも悪い意味でも相応しい作品です。
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