しかし、「100%の晴れ女」以外の部分でも嘘をつかれてしまっては「なんでもありじゃん」と興醒めしてしまうのです。
せっかく情景描写はリアルなのですから、どこまでも現実的な東京に現われた幻想の一幕という魅力をもっと際立たせることに神経を使えば、より良い物語になったのにと思ってしまいます。
ただ、設定や脚本にやや雑な面があるとは言いながらも、演出面や物語のテンポについてはとても優れていて、疑問を感じながらも勢いに惹き込まれて見てしまうという吸引力が本作に備わっているのも事実です。
次から次へと事件が起こり、中だるみしそうなところはRADWIMPSの曲とともにダイジェスト風に流すことで臨場感を損なわずに乗り切る。
「君の名は。」よりもさらに「常に事件が起こっている」感が強まっていて、スクリーンから目が離せなかったのも事実です。
次に、キャラクターを見ていくと、どこまでも凡庸かつ典型的で、特に感嘆するような人物造形や設定は出てこなかったなという印象です。
「平凡な」男の子、不思議な力を持っていてやたら主人公に対して積極的な美少女、アウトローの大人(男)、美人の世話焼きお姉さん、生意気で小学生なのに複数の女の子と付き合う弟、など、(深夜)アニメの世界で使い古されたキャラクター達という印象です。
ただそれだけならば「まぁ普通」くらいの評価でもよかったのですが、さすがに陽菜の「空想上の美少女」感はやり過ぎかなと思いました。
「うふふ」なんて思わせぶりな笑いを初対面の男の子に見せるのはあざとすぎますし、「どこ見てんの」連発はコロコロコミック並みの「女の子」造形になっています。
弟と二人暮らしなのにほぼ初対面の男の子を家に上げ、可愛いエプロンを着用して料理をつくるなんていうのもちょっと「あり得ない」と言わざるを得ません。
全体的に「君の名は。」よりもそういったシーンが多く感じられ、ギャルゲ/エロゲ寄り感が強まっているのは普遍的で万民に訴求する物語を目指すという点ではマイナスポイントでしょう。
さらには、「君の名は。」よりキャラクターデザインが幼くなっているのも気になります。
その点においても深夜アニメや美少女ゲームに寄せてきた感じが拭えず、より普遍的な物語を追求していって欲しいという立場からは不満があります。
期待の大きさからか不満点が多いような感想になってしまいましたが、テンポや演出面の出来でも言及したように、映画館で見て面白いかと問われれば間違いなく面白いので、評価は3点という感じです。
また、以下の3点は上で紹介しきれなかった本作についての個人的にお気に入りの箇所で、これらも評価の考慮に入れました。
1点目は、「身分証明書」がないと何もできないという現実が何度も強調される点です。
公的なものに身分を証明されなければ何もできないという現代社会の窮屈さを切り出して描写したうえで、自分が自分として、世界のためでなく自分のために生き、そのことで自分を自分で「証明」していく物語になっているのは面白いですね。
他者から「証明」される自分ではなく、自分にとっての自分を獲得していく、少年が確固たるアイデンティティを形成していくジュブナイル物語としての魅力があります。
2点目は、帆高たちが最後に泊まるラブホテルで受付をする場面。
未成年だから、身分証明書がないからと断られ続けるのですが、最終的に帆高たちを受け入れたラブホテルは身分証明書の提示を求めず、その代わりに足下を見た値段提示をするという描写は凝っています。
世の中の冷たさ、現実の厳しさを様々な側面から描く妙手であり、ラブホテル経営側の人間心理を上手く描写しています。
3点目は、クライマックスへの辿り着き方。
世界の平和とヒロインの命を選択することになり、主人公はヒロインを選ぶ。
その後、「世界が崩壊しきらない」のは斬新だと感じました。
新しい世界に適応した新しいインフラが設計され、大都会としての東京はまずまず機能している。
元来、天気を所与のものとし、それに合わせて生きてきた人類。
天気は予測したり、コントロールしたりできるものだと思い始めているから「異常気象」なんて口走ってしまうという視点も良かったと思います。
天気が異常でも、君が正常な世界が好きだ、その方がなんだか健全な気もしますよね。
全体として、欠点を挙げればきりがないのに、どこか愛おしく、独自の感慨を抱かせる作品だと感じました。
コメント
こんにちは。映画ブログを運営しているものです。
天気の子の感想が独自の視点でまとめられていて、とても読みやすかったです!
メッセージ性が強そうな作品ですね。この映画は評判も良いので、前から見ようと思っていました。
やはり新海誠作品ということで、映像と音楽を楽しみにして鑑賞しようと思います!
応援完了です!