「パプリカ」等を手掛け、アニメーション映画界では著名な今敏監督の作品。
込み入った手法は面白く、オタク受けする作品であることは間違いないでしょう。
しかし、単純なエンターテイメント性には欠けるうえ、人生の深さを描くという純文学的な意味でも曖昧に過ぎ、相当程度オタク的な「解釈」なしに楽しめる作品ではなかった点が残念。
テンポの良さや映像美は高品質ですが、テーマや脚本も含めた映画作品としての総合評価としては凡庸な作品だったという印象です。
あらすじ
真夏の山道を歩くのは映画制作会社社長の立花源也と、カメラマンの井田恭二。
彼らは山奥にある藤原千代子の家を訪れようとしているのだった。
藤原千代子という女優。
既に引退してから長い時間が経っているものの、日本映画界を支えてきた名女優としての名声は計り知れない人物である。
インタビューの冒頭、立花は千代子に「鍵」を手渡す。
それは千代子が長年大事にしてきた「鍵」であり、千代子の人生に大きな影響をもたらしてきた「鍵」だった。
立花から渡された「鍵」をきっかけに、千代子は自分の人生を語りだす。
数奇な運命を辿った大女優の人生とは.......。
感想
ストーリーの入れ子構造や、小物、色彩の表現など、作品を「解釈」することを楽しめる人にとっては面白い作品になっております。
インターネット上でも映画ファンと見られる人の解釈が多く語られており、それはそれで読み応えがあります。
「鍵」を落とした素敵な男性をひたすらに追い求めてきた千代子の人生が暗喩している本作のテーマで。
赤色を効果的に強調する色彩表現。
「あの人を追いかけてる私が好きなんだもの」という最後の台詞の皮肉。
このような要素が「解釈好きの人間にとって」本作を分析甲斐のある作品にしているのでしょう。
しかし、この映画の特徴はただその点のみに尽きます。
分かりやすくてのめり込めるストーリーの流れであったり、視聴者を「あっ」と言わせるようなどんでん返し、感情を揺さぶる印象的な演出や台詞。
そういった、一般的に魅力的な「物語」に必要とされる要素はすべて放擲され、ひたすら難解な展開がけばけばしい画面と一緒に映し出されるだけです。
街中からランダムにピックアップした人々にこの映画を見せれば、半数以上は途中で寝てしまうのではないでしょうか。
細かい解釈の仕方はどうあれ、表面をなぞりながら視聴した際の面白さが本作には決定的に欠けています。
創作物全般に言えることだとは思いますが、ただ「深そうな」作品をつくることは簡単です。
物語が破綻していないことや、感情移入をしやすいこと。
そうといった、創作家が乗り越えるべき困難を全て回避できてしまうからです。
表面をなぞっても面白く、なおかつ、より深い解釈とそれにまつわる新たな感動がある作品。
そういった理想的作品からはあまりにもほど遠い映画だと言えるでしょう。
テンポの良さと映像美に敬意を表して2点(平均的な作品)といたしますが、物語だけを捉えれば1点の作品です。
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