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【ハチミツとクローバー】甘くて切ない「夢」と「片想い」の青春恋愛漫画 評価:4点【羽海野チカ】

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ハチミツとクローバー
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工房を取り戻すというかねてからの目的を達成し、失恋という形ではありますが若き恋に決着を付けた森田忍は、物語が終わる段になってようやく「自分のために生きる時間」を得たわけですから、「その後」が気になる人物、幸せになってほしい人物でもあります。

6. 花本はぐみ

本作のヒロインであり、もう一人の主人公格。

天才肌の芸術家で将来を嘱望されているものの、周囲からのプレッシャーは彼女にとって苦痛であり、海外進出して大物芸術家になっていくことを期待する芸術界の意志とは裏腹に、はぐみは内心、大学卒業後は故郷の長野県に戻って絵描きに打ち込むことを夢見ています。

のびのび書きたい気持ちと、周囲の期待に答えなきゃという義務感の板挟みにあい、本来の実力を発揮できずに悩む、という状況に陥ったはぐみが自身を回復していけるのか、という点がはぐみの物語の主軸になっています。

はぐみは幼い頃からコミュニケーションが苦手であり、勉学も運動も要領よくこなすことができず、絵を描くという行為だけにすがって生きてきたため、この点を潰されそうになっているのは精神的に致命的なのだ、という事情が作中では自体の深刻さとして説明されます。

そうはいっても、はぐみが問題解決のために自ら行動したりすることは少なく、様々な事件に対して受け身で接するので、花本はぐみ自身の葛藤を軸とした物語は作中であまりフォーカスされません。

というより、はぐみが落ち込むようなときにはいつも周囲がはぐみをフォローして立ち直らせますので、ひたすらにちやほやされるだけのキャラクターになってしまっており、彼女が自分の力で身体的・精神的に成長する方向に話が転がらないんですよね。

はぐみ自身も「弱く儚くかわいそうで、だからこそいつも助けてもらえるわたし」という立場に甘んじるばかりなので、悪役でもないのにあまりいい印象を受けなかったというのが正直なところです。

一話目で竹本や森田に惚れられるのも「一目惚れ」であり、はぐみの内面を評価してのことではありませんし、その後も、二人がはぐみの内面に惹かれていくような描写はありません。

しかも、最終的にはぐみは従兄弟の父にあたる花本修司(浜美の教師でもあります)とくっつくのですが、その理由が、修司こそはぐみをお世話するのに最も向いているからというもの。

財力や包容力、時間の余裕に長じていて、はぐみの芸術道を支えていけるからという理由です。

はぐみは最終盤で大怪我を負うため、花本修司に面倒を見させるのが「合理的」であると作中では表現されるのですが、主人公格である竹本とヒロイン格であるはぐみの恋愛、あるいは、両想いが示唆されている森田との恋愛をそんな「合理性」で片付けられては(理屈を超えた「恋」や「愛」の尊さ、そこに生まれる非合理的だけれど人間的な情熱を描こうとする)恋愛漫画の終着としてちょっと微妙ですよね。

案の定、この結末には当時も賛否両論が起きたようです。

人生は選択であり、「恋愛」がファーストプライオリティではなく、「芸術」を選択する人もいる、というナレーションも入るのですが、そんな人間が恋愛漫画のヒロインかよ、という突っ込みは妥当に思います。

そう考えるとやはり、本作は恋愛を中心とした「恋愛漫画」というより、様々な若者の青春時代における葛藤と選択を描いた「青春群像劇」の色が濃いのでしょう。

羽海野チカさんや編集の方々もその路線の漫画だという認識でこの結末を選んだのではないでしょうか。

上述の通り、はぐみ自身の関心が「芸術」の追求であり、最後まで恋愛に目覚めたような描写がないことからも、この結末は既定路線だったのかもしれません。

加えて、本作を女性向けの漫画だという視点から見れば、結構納得のいく部分もあるでしょう。

初対面の(それなりにまともな)男性二人(竹本・森田)から無条件に惚れられ、ちやほや恋愛アプローチをさんざん受けたうえ、メンタル的に凹んだ際には甲斐甲斐しく助けてもらう。

そんなお姫様気分を経験したあとに、最後はしっかりした大人であり最も信頼の置ける花本修司と結婚。

情熱的に言い寄られる恋愛を楽しんだあと、包容力のある人物と安心感のある結婚をする。

しかも、そのあいだじゅうずっと、自分は自分のやりたいこと(油絵)を追求し続け、今後も全力でサポートし続けてもらえる予定(修司ははぐみのリハビリに付き添うため大学を休職します。はぐみのために時間をつくってくれるうえ、そのあいだも著書の執筆でお金を稼げるという、はぐみからすれば恐ろしいほどの「優良物件」なわけです)というわけで、現代の女性たちが内心理想として考えている自分にとって最も都合の良い人生を体現しているといえばそうなのかもしれません。

いくばくかの女性が抱いている潜在的で俗な願望を手軽に満たすための、典型的な女性誌掲載の漫画としては最高の結末だと言われれば、そうなのだろうとしか答えようがないのも事実です。

正直、もうちょっと他人に貢献することで自分の人生を良いものにしていったり、他人や社会に対してどう貢献していけるかを考えている人のほうが魅力的だとは思いますし、個人的に評価を5点 ではなく4点にしたのはこの側面があるからです。

はぐみのような人間の在り方が肯定的に描かれているのは納得行きませんし、感動を削ぎます。

7. 真山巧

竹本及び森田と同じアパートに住んでいる仲良し三人組の一角ですが、真山が絡むのは竹本-はぐみ-森田の三角関係ではなく、山田-真山-理花の三角関係です。

また、前者の三角関係が学生同士の三角関係であるならば、後者の三角関係は言わば「社会人編」といったところ。

物語開始時点で社会人なのは理花だけですが、真山は理花のデザイン事務所でアルバイトをしていますし、就職に失敗する竹本や連続留年の森田とは違い、物語中盤で別の建築設計事務所に就職してめでたく社会人となります。

また、山田も真山と同学年であり、一度は就職に失敗するのですが、真山が就職した建築設計事務所と関係を持って一緒に仕事をするようになるなど、半ば社会人としてのキャリアを歩み始めす。

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