「寄生獣」や「ヒストリエ」で有名な漫画家、岩明均さんが著した青春漫画です。
岩明均さんの作品としては歴史漫画だった「雪の峠・剣の舞」に続いてのレビューとなりますが、やはり歴史漫画に比べると青春漫画はやや苦手としているのかなという印象を受けました。
全4巻の中でこれといったエピソードやキャラクターを排出できず、小粒な作品として纏まってしまっております。
吃音で悩む内気な女子高生が喫茶店でアルバイトを始める、という掴みそのものは悪くないのですが、吃音設定も喫茶店設定も活かしきれておらず、学校での事件に焦点を当てたエピソードもありきたりな話ばかりで、もっと構成や登場人物を練ってから連載を初めてもよかったのでは、と感じてしまう作品でした。
あらすじ
有沢風子は吃音に悩んでいる女子高生。
学校でも吃音を馬鹿にされ、逃げ込むようにして選んだアルバイト先は「ロドス」という喫茶店。
しかし、アルバイトを始めたからといって吃音がすぐに治るわけもなく、鈍くさい性格と相まって「ロドス」でも失敗ばかり。
そんな風子も、「ロドス」を訪れる奇妙な客たちが引き起こす騒動に巻き込まれながら少しずつ精神的に成長していく。
人前で話す勇気を獲得し、少しずつ吃音が治ってきた風子。
そんな風子が選ぶ自分なりの進路とは......。
感想
喫茶店でのアルバイト話がメインの物語ということで、風子が大人たちの事件に巻き込まれていくエピソードが多いのですが、どれも無駄に暴力的で性的なんですよね。
なんというか、読者に印象を残すエピソードをつくろうとすれば、とりあえず性と暴力だろ、という発想が作者の脳にこびりついているのか、とりあえず風子が性的被害の未遂に遭ったり、成人男性同士が殴り合えば「強い」物語になるだろうという安直な発想のもとで始まる話が多いように感じられました。
しかも、そういったエピソードが深く大きな感動を呼ぶということはなく、なんとなく「いい話」風に終わったけれど、これでよかったのか、感慨深さがあったのか、という何とも言いがたい結末になってしまうことが多かったのも難点です。
舞台が風子の通う高校となっているエピソードでも、結局は不良の暴力についての話であったり、風子に対して脅迫状を書く陰キャの話であったりと、とにかく暗い話が多く、その割に「暗さ」を活かした深みがあるわけでもないような、そんな印象のエピソードばかりです。
こういった話ばかりになる原因として、おそらくですが、変人を登場させ過ぎているんですよね。
それも、周囲の空気をまるで読めないようなサイコパス的な変人ばかりで、どうにも感情移入がしづらく、登場人物の行動に読者の心がついていかないような展開ばかりになってしまっています。
そんな変人たちが引き起こす奇妙な事件に対する風子の反応もよく考えればおかしいものばかりで、驚いたり悲しんだりはするのですが、サイコパス的な変人たちの行動に対して、それらしい怯えを見せることはあまりなく、単純な「恐怖」や「驚愕」として対処してしまっているところに、風子自身も狂っているのではないかと思うほどの一般人との感覚のズレがあるのです。
やはり、人並外れた狂気を取り扱うことが得意な作者が無理して王道の青春漫画を描こうとしてしまった感が強く、「いい話」風の「奇妙な物語」が並ぶばかりで、吃音の女子高生が喫茶店でアルバイトを始める、という設定自体には純粋に惹かれるものがあるにも関わらず、どうにも真っ当な感動が得られないところにもどかしさがあります。
つまらなくはないのですが......この設定であれば、流石にもっと面白くできただろう、と思いながら読んでしまう作品。
期待して期待外れだっただけに、やや辛口な感想となってしまいましたが、評価は凡作に付する2点(平均かそれ以下の、凡庸な作品)といったところでしょう。
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