2015年に公開されたハリウッド映画で、監督は「ハート・オブ・ウーマン/What women want」や「恋愛適齢期/Something's Gotta Give」で知られるナンシー・マイヤーズ氏。
若い女性が創業者社長を務める新進気鋭のベンチャー企業に老齢のインターン生がやってくるという、産業の新陳代謝が速いアメリカならではの設定が独特な映画です。
また、配役にも個性があり、敏腕女性経営者役をアン・ハサウェイが演じたのはいかにも王道と言えますが、老インターン生についてはロバート・デ・ニーロが務め、非常に温和な性格を与えられるなど、意外性のある抜擢がなされております。
そんな本作ですが、筋書きは良いのだが細部が雑だった、というのが正直な感想です。
老インターン生が持つ様々な経験や人間としての滋味が若手女社長に良い影響を与え、かけがえのない存在になっていくという枠組み自体は心動かされるものがあるのですが、その過程で起こる具体的な出来事一つ一つがどれもややインパクトに欠けるもので、地味とまでは言わないものの、いわゆる「映画」のテンプレ通りに物事が進んでしまったという印象を受けました。
意外ながらも面白そうだと思わせるような設定を持っている映画なのですから、もう一つ工夫があればよかったのにという、良い映画になりそこねた惜しい作品でした。
あらすじ
主人公は70歳になるジョン・ウィテカーという男性。
長年勤めた電話帳の会社を引退後、様々な趣味に手を出してみるジョンだったが、熱中できるようなことはなく、もう一度働いてみたいという気持ちを高めていた。
そんなジョンはある日、「ABOUT THE FIT」という女性向け衣料のインターネット通販を事業としている会社の求人広告を目にする。
その会社は福祉事業としてシニアインターンを募集しており、ピンときたジョンは早速応募してみるのだった。
幸いにも選考を通過して雇用されたジョンだったが、配属されたのは社長直属で特に決まった業務はないというポジション。
社長であるジュールズ・オースティンからは「仕事はメールで送る」と言われたものの、待てども待てども仕事を依頼するメールは来ない。
それもそのはず、若くしてベンチャー企業の創業者となり、瞬く間に規模を拡大したジュールズは大の老人嫌いであったのだ。
シニアインターンを雇うという計画もジュールズの部下が勝手に進めたものであり、ジュールズには返事をした記憶さえないものだった。
(もしくは、多忙すぎるジュールズが返事をしたことさえ忘れている)
しかし、サラリーマン人生40年の経験を持つジョンはこんなことでへこたれたりはしない。
その魅力的な人柄で社内の人気者になっていくのはもちろん、社長が何にイライラしているかもよく把握していて......。
感想
退職後の高齢男性が時間を持て余していて、再度、働いてみようと決意する。
しかし、選んだ会社は女性向けファッションを扱うベンチャー企業、しかも、履歴書はいらないから自己アピールの動画を撮って送ってこいという、いかにも「イマドキ」な方法でシニアインターンを募集しているような会社なのだ。
なぜ彼はそんな会社を選んだのか、それは「チャレンジ」したいから。
そんな彼が仕えることになったのは、絵に描いたような現代の若者であり、老人嫌いという特性までもつ女社長。
という、冒頭の展開は非常に躍動感があり惹かれます。
特に、長いサラリーマン人生というキャリアを持った高齢男性がベンチャー企業で再スタートを切る、という本作の出発点の表現として、自己アピール動画を撮る様子を示すという場面にはよく練られているなと驚かされました。
履歴書の代わりに動画を送るというのはいかにも最近のベンチャー企業が考えそうなことですし、その「動画を撮る」様子を通じて、ジョンという人物がいかに謙虚な人物であり、それでいてチャレンジ精神にも燃えている、バランスの取れた人物であるかがよく描かれています。
面接当日、畏まったスーツでオフィスに赴いたジョンが異様なほどカジュアルな雰囲気の中で非常に適当な面接によって採用されてしまう、という展開も、新進気鋭のベンチャー企業というポップでスピード感のある舞台設定を上手く表現しつつ、同時に、そんな「軽さ」こそがジョンの前に立ちはだかる壁なのだということも示唆できていて趣深い幕明けになっているように感じました。
ただ、問題なのはそこからの展開です。
たとえ特定の業務を任せられなくたって、職場の人々とコミュニケーションを通じて仲を深めつつ、社内に転がっている社長のイライラポイントを見抜き、それを自主的に解決するという方法で社長へのアピールに成功する。
その枠組み自体は良いのですが、同僚との具体的なコミュニケーションを聞いていても、そこまで「さすが経験者だな」と感嘆させられるような言い回しや気遣いがあるわけでもなく、社長へのアピールも「異様に散らかっている机を綺麗にする」というもので、いささか小物感が強すぎます。
ジョンって流石だよな、と視聴者に思わせるにはよりぐっとくる言葉や行動でジョンの素敵さを印象づける必要があったでしょう。
そうでなければ、敵対的な意思を持っていた若社長が一転してジョンを認めるようになるという流れに説得力が生まれません。
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