もっといえば、国民的人気アニメに出てくる主人公の父親が自分自身の人生を回想する場面の初出なんて絶対に感動的に決まっているのです。
問題は、この感動の回想シーンがそれ単独で効果を発揮する以上にこの映画で活かされているかというと、それはそうでもない気がするのです。
脚本的な工夫のうえに成り立つ、あっと思わせるようなギミックの中にこの回想シーンが組み込まれているかわけではなく、そこに一本の映画中の場面としての価値をあまり感じることはできません。
その後に始まる、日本の危機を救うために野原一家が東京タワーを登っていく展開に対しても同類の批判ができます。
特に、しんのすけが転びながらも階段を駆け上がる場面が有名ですが、愛情で結ばれた一家が世界の危機に立ち向かうとか、幼い少年が誰かのために身体を張って悪役に立ち向かうとか、そういう場面は感動的ですがありふれていて、フィクション作品で今更それをされてもなぁという感情になってしまいます。
もっと斬新だけれど納得できる視点から人間の感情を描くであるとか、予想できないけれど振り返ってみればそれしかないと思わせるような波乱の展開があるだとか、場面の内容的には凡庸でもカメラ回しや音楽による演出が優れているとか、そういった本作独自の面白さというものにやや欠けるように思われます。
もちろん、本ブログが拘るような物語への熱情というものがなく、年に一度か二度、子供を連れて子供向け映画を鑑賞しに行くだけの大人には刺さること間違いなしの映画だったということに異論はありません。
年に数回のペースでしか「物語」と接しないならば、ありきたりな表現も自分の人生の中では斬新なものに感じることでしょう。
ただ、ある程度小説や漫画、映画というものを好む人間から見れば凡庸の寄せ集めにも見えてしまうはずです。
あなたが年に一本しか映画を観ないというのであれば評価は5点(人生で何度も鑑賞したくなる名作中の名作)、しかし、ある程度フィクション作品を普段から楽しんでいるよという方々にとっては2点(平均的な作品)という作品というのが結論です。
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