1992年に始まり、現在まで続く大人気アニメシリーズ「クレヨンしんちゃん」の劇場映画シリーズ第9作目にあたる作品です。
放映当初はその下品な内容から猛烈な批判を浴びるも、絶大な子供人気を誇ったことからゴールデンタイムのアニメとして定着。
その後、徐々に家族愛を中心としたハートフル寄りの作風が意識されるようになり、いまなお地上波で放送され続ける超長寿アニメの一つとなっております。
そんな「クレヨンしんちゃん」シリーズは毎年アニメも放映しているのですが、中でも大きな人気を得ているのが本作。
「クレしん」らしいギャグテイストな作風を基調としながらも、当時の大人世代をターゲットにした切なくノスタルジックなテーマで物語がつくられており、子供は爆笑し大人は泣いた作品として知られています。
そんな本作をいまになって見返してみたのですが、印象的な場面は多いものの物語の作り込みが甘く、一本調子感が拭えない映画であるように思われました。
基本的には子供に向けた作品でそこまで複雑な脚本にはできないだろうという批判は正論として受け取りますが、大人受けという意味で見ても、当時における題材の斬新さが良かったまでで、物語作品としての本質的な良さがあるかと言われれば疑問です。
感動の波にうずもれたいというよりは、往時の名作はどんなものだったのだろうか、という興味本位で鑑賞するべき作品だと言えるでしょう。
あらすじ
野原一家が住む町、埼玉県春日部市。
そこに最近できたテーマパークは名前を「20世紀博」という。
テーマパークでありながら、夢中になっているのは大人たち。
それもそのはず、「20世紀博」は1970年代を題材としたテーマパークであり、その時代に子供であった野原ひろし・みさえのような大人たちの感性を絶妙にくすぐるアトラクションで満たされているのだ。
「20世紀博」に対する大人たちの異様な熱狂ぶりはやがて全国規模の社会現象となり、テーマパーク内どころか町中でも70年代を象徴するような風俗が再流行していく。
そんな状況に不満を隠せないのはもちろん、しんのすけをはじめとする子供たち。
毎日のように20世紀博の子供部屋に預けられ、遊び疲れるまで帰ってこない大人たちを待ちくたびれていた。
そしてある日、決定的な事件が起こる。
「20世紀博からの大事なお知らせ」がテレビで放映された翌日、大人たちは子供たちを置いてどこかへと去ってしまったのである。
子供だけの町になってしまった春日部市。
「町を訪れる20世紀博の隊員に従えば親と再会できる」
「20世紀博」の創立者がそんなメッセージを町に流し、多くの子供たちは自ら怪しい隊員たちのもとへその身を預けていく。
この惨状を訝しみ、隊員たちから逃れることを決意したしんのけたち「かすかべ防衛隊」の面々。
ついに始まった「子供狩り」の脅威に直面するしんのすけたちは生き残ることができるのだろうか......。
感想
ノスタルジックな空気感のテーマパークに洗脳された大人たちがしんのすけたちへの敵愾心を剥き出しにしながら感情的に振舞い始め、やがてしんのすけたちを置いてどこかへ去ってしまうという、子供向け映画にはあるまじき衝撃的で印象的な幕明けから始まります。
ネタバレを踏まずに鑑賞したならば、この序盤の展開にドキドキさせられること間違いないでしょう。
とはいえ、ここからはお馴染みのコメディ展開が始まります。
デパートの中を逃げ回り、最後にはバスを駆って隊員たちをはちゃめちゃに追い払うしんのすけたち。
もし自分が五歳児なら笑えていたかもしれませんが、さすがにこの「クレしん」ギャグでくすりとでも笑える歳ではありません。
そして、バスによる無謀な突撃でしんのすけたちは「20世紀博」内への侵入に成功します。
しんのすけはひろし及びみさえと出会い、洗脳されてしまった彼らを前に怖気づきますが、とあるアイデアでひろしの記憶を呼び起こすことに成功し二人を正気に戻すのです。
このとき流れる、ひろしによる自分自身の幼少期からいままでの記憶の回想が本作屈指の名シーン。
わんぱく坊主だったころ、恋愛が上手くいったりいかなかったりした思春期、失敗ばかりだった仕事、みさえとの出会い、しんのすけの誕生、家族のために働くという喜び。
子供のままでいることによる享楽的な日々を自ら退け、責任ある大人としての生活を全うする幸せを選び取るひろしの姿には感動を禁じ得ないでしょう。
ただ、こんな名シーンにケチをつけるのは良くないことだと思いながらも言わせてもらうならば、一人の平凡な父親の人生をハイライト的に振り返れば、そんなの感動的に決まっているんですよ。
振り返られる人生はひろしのものでなくてもよいですし、べつに、本作のこのシーンでなくてもよい。
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