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「すずめの戸締り」新海誠 評価:2点|冒険・社会性・家族愛。全要素が中途半端になってしまった新海監督の最新作【アニメ映画】

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すずめの戸締り
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それなりのアクションシーンも用意されており、美麗な映像と合わせて躍動感のあるものとなっているのですが、純粋なアクションシーンを見に来る映画ではないですし、それが見たいのならばもっと見るべき映画があるはずです。

旅路で出会う人々にしろ、鈴芽によって扉が閉じられる場所にしろ、そういった人物や場所について一定の掘り下げが行われ、それに対して鈴芽&草太(椅子の姿)が何らかのアプローチをするのならば物語としても「魅せどころ」となり得たでしょう。

例えば、海部千果という少女は、田舎町に生まれておそらくそこから一歩も出たことがない人物であり、また、民宿を営んでいる家庭、つまり、自営業者の家庭で育っているわけです。

「君の名は。」で行われた田舎の閉塞感や東京への羨望といった感情をもっと描くこともできたでしょうし、「閉じ師」パートにおいて少子高齢化等の影響で寂れゆく日本という要素を出すのならば、最も寂れが激しい「田舎」という場所で青春を過ごす寂寥や絶望をもっと前面に押し出してもよかったはずです。

さらには、サラリーマン家庭が増加し続ける日本において、昔ながらの自営業者家庭で育つ少女を出したのですから、そういった家庭の良い面・悪い面における特殊性を打ち出すことで、千果と交流した鈴芽が新しい知見を得るきっかけにするという展開でも良かったでしょう。

また、二ノ宮ルミと彼女が働くスナックのエピソードでは、社会人として働くとはどういうことか、という視点をもっと鈴芽に見せることもできたでしょうし、あるいは、客層の移り変わり等から時代の変遷を鋭敏に感じ取れるスナックという場で働いている人々が出演するのですから、彼女たちの口から現代日本の状況についてどきりとさせられるような台詞を言わせることもできたはずです。

東日本大震災について、あるいは、東日本大震災以降についてを描きたいという点は明らかな映画なのですから、スナックでも東日本大震災で何らかの被害を被った人物を出現させ、(鈴芽と同様に)その人物の人生も震災によって大きく変わってしまったのだということを鈴芽に知覚させ、東日本大震災という災害を単に自分を悲しませた災害として捉えるのではなく、より多くの人々に切実な影響を与えた社会的事象として鈴芽が捉えるようにすれば、東日本大震災の描写が具体的に登場する最終盤の展開もさらに感動的になったのではないでしょうか。

普段は関わらない「大人」との邂逅がひと夏の冒険を敢行する(物語上での設定は九月ですが)少女にこれまでとは違う世界を見せる、という定番展開をなぜ踏まないのかは甚だ疑問です。

さらには、「閉じ師」のパートにおいても、いまや寂れてしまった場所に生きていた人々の「想い」を強調するのならば、段々と活気がなくなっていく様子を丁寧に描写することで否応なく縮小する日本の悲劇性を演出しつつ、ただでも過疎化が進んでいた東北を襲った震災の影響と重ね合わせるなどすれば、本作が震災を扱う意義もより大きくなったでしょうし、鈴芽に感情移入しながら鑑賞する観客の心を揺さぶるようなメッセージを打ち出せたのではないでしょうか。

本作の前半部は少女が旅するロードムービーという体裁で進行するにも関わらず、鈴芽の精神的な成長が見られたり、後々の展開をより盛り上げるような伏線が敷かれることがあまりなく、ただ単に「旅」をしているだけになってしまっているところが本作をややつまらないものにしております。

さて、物語の後半では、鈴芽の旅路は東京から東北へと移っていきます。

作中では小難しい理屈が様々に語られますが、要は東京の「ミミズ」を鎮めるために草太が犠牲となり(死ぬわけではない)、草太を現世へと取り戻すために、鈴芽は岩手へと向かうことになるのです。

鈴芽の義母(東日本大震災で実の母親である岩戸椿芽つばめを亡くした鈴芽を引き取り育てている椿芽の妹)である岩戸たまきが道連れに加わり、草太の友人である芹澤せりさわ朋也ともやの運転で高速道路を走るのですが、正直なところ、ここでも、あまり意味のない場面が続きます。

おそらく、制作側が意図した最も重要な場面は、鈴芽が環に引き取られた顛末を描きつつ、環がサダイジン(ダイジンと対になるもう一匹の猫で、環の精神に影響を与えることで環が普段は言わないある種の「本音」を口走らせる)の影響下において鈴芽を引き取ったことを後悔している旨を告白する場面なのでしょう。

もちろん、姉の子供を引き取って女手一つで育てることになったという事実が、環の人生に決して良い影響ばかりを与えたわけではないことに異論はありません。結婚などといった大きなライフイベントに纏わる事柄で「損」をすることもあったでしょう。

しかし、ここで「後悔」の告白をさせるのはあまりに唐突過ぎます。

前後の文脈がなさ過ぎて「そういう映画だったっけ?」となってしまいますし、鈴芽を引き取ったことの後悔という要素そのものは衝撃的ですが、それが本作の物語の中でどのように位置づけられ、どのように盛り上がりに対して影響しているかといえば、ほとんど意味がなかったといいますか。べつに本作の中で語る必要はなかったのではないかと思ってしまいます。

少女が旅に出て様々な人々と出会う物語という枠組みは魅力的ですし、少子高齢化と過疎が進む中でかつては盛り上がっていた場所もいまは寂れており、そのような縮退に想いを馳せる物語という枠組みも魅力的ですし、東日本大震災の負の影響をこれでもかと描きつつ、それを乗り越えていく物語という枠組みも魅力的です。

しかし、本作においてはそれぞれの枠組みだけが存在していて中身がスカスカとなっており、しかも、三つの枠組みを採用しておきながら、それぞれが上手く絡み合って感動的な展開を生むわけでもないという結果になってしまっています。

最後の展開は、かつて鈴芽の家があった場所に辿り着き、そこにある扉から「向こう側」の世界に入って草太を取り戻す(それが可能となるためのファンタジー的な理屈が作中で描かれますが、本稿においては省略します)というものなのですが、それっぽい再会シーンにそれっぽい音楽が重なり、ここで感動するべきなんだろうなとは頭で理解しつつも、それでは一体、何に感動するべきなのかと、心は混乱したまま映画が終わってしまいました。

もちろん、「君の名は。」以降の新海誠作品におけるお決まりとして、繰り返し鑑賞したり頭を捻って解釈することによってようやく理解できる考察要素が大量にあり、おそらく本稿はそれらを全て見逃しているのでしょう。

しかしながら、そういった映画マニア的考察を抜きに、純粋な気持ちで本作に対峙して得られるものは何かと問われれば、やはり「無」と答えざるを得ないのではないでしょうか。

映像美と音楽の素晴らしさは折り紙付きで、アクションシーンやコメディシーン、なんちゃって恋愛描写的なシーンといった小芝居は悪くないため、確かに飽きることはないのですが、鑑賞した後は悪い意味で「何だったのか」という感想が残ります。

評価を1点にするほど何もかもが悪いとか、鑑賞していて嫌悪感がするということはありませんが、特に物語面においてこれといった長所が見出しづらく、評価は2点(平均かそれ以下の、凡庸な作品)が妥当だと思います。

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