雑誌 「CONTINUE vol.65」 太田出版 (のレビューに見せかけた「月ノ美兎」語り)

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1. CONTINUE vol.65

本ブログでは初となる雑誌の紹介記事です。といっても、私はこの「CONTINUE」という雑誌を定期購読しているわけではありません。それでもこの"CONTINUE vol.65"を購入したのは他でもなく、「バーチャルライバー 月ノ美兎」特集号だったからです。

今日となってはもはや知らない人はいない"職業”に"Youtuber"がありますが、月ノ美兎さんはその亜種・亜流ともいえる"Vtuber(=Virtual Youtuber)"として活躍されている方です。現在、Vtuberとして最も有名なのはキズナアイさんでしょうか。UserLocalというサイトによると、Yourubeチャンネルの登録者数はキズナアイさんが275万人でトップ、月ノ美兎さんは55万人で8位につけています。

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さて、UserLocalでの表示を見て頂いた方にはなんとなく察しがついたかもしれませんが、Vtuberとは"Virtual"という名の通り、実在の人間がそのままの姿で動画出演するのではなく、3Dや2Dのアニメーションモデルを使用し、モデルの人物を役者(界隈ではしばしば"魂"と呼ばれます)が演じている、いわば架空の"キャラクター"がYoutuberをやっているという設定で動画を投稿するYoutuberのことです。私は一年ほど前からVtuberの動画を好んで視聴しているのですが、その中でも最もお気に入りなのがこの月ノ美兎さんなのです。そこで、本記事では簡単に月ノ美兎さんを紹介したのち、私が月ノ美兎さんを応援している理由を語りたいと思います。

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2. "月ノ美兎"と"にじさんじ"

月ノ美兎という人物を語るにあたっては、彼女が所属しているVtuber事務所の「にじさんじ」について説明することが必要でしょう。

「にじさんじ」はいまでこそ100名近いVtuberが所属する「事務所(=プロダクション)」という立ち位置ですが、当初は全く異なる目的で立ち上げられたプロジェクトでした。

そもそも、「にじさんじ」というのは2DCGを使って手軽に動画配信を行うためのスマートフォンアプリの名前であり、この「にじさんじ」の開発元であるベンチャー企業「いちから株式会社」がアプリ宣伝のためにモデル配信を行う「公式ライバー」を募集し、そこで「公式ライバー」たちが「にじさんじ」を使ってMirrativやYoutubeで配信を始めたのがVtuber事務所としての「にじさんじ」の始まりです。このときはまだ、アプリ「にじさんじ」は一般人による利用が想定されており、「公式ライバー」たちの配信は文字通りの宣伝用モデル配信に過ぎないという位置づけでした。

しかし、この「公式ライバー」による配信がその面白さから人気沸騰し、それをきっかけに「にじさんじ」はアプリ「にじさんじ」を使って配信するVtuberたちをマネジメントするVtuber事務所としてそのプロジェクトの内実を変えていきます。

そして、「人気沸騰」のきっかけを作った人物であり、いまなお「にじさんじ」でトップを走る(少なくとも登録者数はトップであり、「にじさんじ」に所属する他Vtuberたちの発言からも相当程度の敬意が払われている様子。ライブイベントや企業案件にも引っ張りだこで、ソニーミュージックエンタテイメントからのメジャーデビューも果たしています)存在なのが、本稿で紹介する月ノ美兎という人物なのです。

高度な技術と大量のスタッフを投入し、3Dモデルを使ったVtuberとして華々しく活動していたキズナアイやミライアカリに続くVtuberとして、意外にも、「誰でも簡単に2DCGを使って配信できる」アプリを使った動画配信で一世を風靡した月ノ美兎。なにが彼女をそれほどの存在に押し上げたのか。その特異なキャラクター性にこそ、私が彼女に惚れている理由の源泉があります。

<参考動画>
月ノ美兎が自分の初配信を振り返る動画です。やや拙い喋りと決して滑らかな動きとはいえないこの2DCG少女が後にスターダムを歩むことになるとは誰も想像し得なかったでしょう。

にじさんじ公式バーチャルユーチューバー 8人始動!

3. "月ノ美兎"のキャラクター性

月ノ美兎が最初に"バズった"のは、その2回目の配信にして初の生配信でのことです。「清楚な学級委員長」という設定でデビューしたにも関わらず、「ムカデ人間」というキワモノの映画を「見たことがある」と言ってその内容を滔々と説明したことがTwitterでトレンド入りしました。

それ以降も、雑草の食べ比べをしていたという過去や、洗濯機の上にスマートフォンを置いて配信しているという配信スタイルが話題となったり、ゲーム実況中に現れた際どいシーンを「わたくしで隠さなきゃ」という台詞とともに画面中の自分の身体(=アバター)を移動・拡大させて覆い隠すなど、独特の行動が実にインターネットらしい笑いを誘っていきました。

そう、この「インターネットらしい」という点が彼女の最大の特徴なのだと私は思います。インターネットに嵌っていた幼少期/青春時代の思い出を月ノ美兎自身が頻繁に語りますし、その発言の端緒からは溢れんばかりのインターネット愛が感じられます。彼女のインターネット愛は非常に深く、視聴者からインターネットの思い出話を集め、それを話題にして雑談を行う「あなたのインターネットはどこから?」という配信さえ行うほどで、他のVtuberでこういった配信をしている方は寡聞にして存じ上げません。

あなたのインターネットはどこから?

サムネイルの通り、本動画は「テレホタイム」から「うごメモ」まで、幅広い意味での「インターネットの思い出」が語られる動画でありまして、月ノ美兎自身は「おもしろフラッシュ倉庫」「なりきりチャット」の全盛期世代にあたり、「シフトアップネット」のゲーム(テンミリオン等でしょうか?)や名作RPG「スイカが食べたい」も嗜んでいたようです。チャットで一人三役をこなし、インターネット民を翻弄した話は彼女の持ちネタの一つにもなっています。侍魂や朝目新聞を知らなかったという点でかなり世代が特定されてしまいそうですね。

もちろん、彼女のキャラクター性を構築しているのは生粋のインターネット民だったということだけではなく、絵画教室に通っていたときの吹き流しにまつわるエピソードや、映像制作の勉強をしていたこと、「さよなら絶望先生」「ひぐらしのなく頃に」といった漫画など、それこそ無数の要素から月ノ美兎というキャラクターは成り立っています。デビューから2年が経過したいまとなっては、Vtuberとしての経験もそれ以前の経験と同じくらい彼女の血肉になっているに違いありません。

しかし、本記事で「インターネット」という側面を強調したのには理由があります。絵を描く能力、動画作成編集能力、体験レポートやゲーム実況に現れる観察眼、最近では歌唱力の「高さ」も月ノ美兎の一側面だと認知されてきていることでしょう。最近始めたはずがメキメキ上達しているウクレレの腕前も驚嘆に値します。

ただ、これらの要素というのは、これは憶測になりますが、彼女にとって「手段」に過ぎないと考えられます。その一方で、「インターネット」での経験は、彼女にとって一回一回の配信で「どう笑いを取るのか」「どう面白くするのか」という目的意識・思考のフレームワークそのものになっているように感じられるのです。絵を描くときも、動画を編集するときも、体験レポートのために遠出するときも、ゲームを実況するときも、月ノ美兎は様々な能力を駆使しながら、ひたすらに「インターネット」的な笑いを取りに来ているように思われます。

「インターネット」的な笑い、という言葉を聞いて、ピンとくる人もいればピンとこない人もいるでしょう。インターネットにどっぷり嵌った(ている)経験がない人には恐らくどんなに言葉を重ねても実感してもらうのは難しいかもしれません。ただ、敢えて言葉にするならば以下のような笑いでしょうか。

その笑いとは、(特に今日ほどインターネットの力が世間的に強くなかった時代において)非インターネット世界(=現実)では世間体や「まともさ」の雰囲気もあってなかなか表現できないけれども、でも、インターネット上でなら表現できる面白さ。多くの人には理解されないかもしれないけれど、自分(たち)が面白いと思う笑いのことです。それは、単に過激だということではありません。単に過激なだけの作品は当時においてすら見下されていたと思います。「インターネット」的な笑いとは、確かにシニカルでややインモラルだけれど、作り手は決して斜に構えているわけではなく、むしろそのエンタメに対する熱意と一生懸命さが伝わってくる作品たちが私たちに届けてくれた笑いのことです。それは、フラッシュ作品だったり、SSだったり、掲示板で繰り広げられる小咄だったり(有名どころでは「電車男」などです。当時、虚実交わる様々な自分語りや、それこそ「電車男」のようにスレ住民の反応までもを物語に織り込みながら作り上げられる掲示板ショーがありました)、あるいは無料公開されていた様々なゲームたちであったり(月ノ美兎が言及していた「シフトアップネット」や、「すいかが食べたい」、他にも多種多様なフリーゲームの名作が公開されておりましたし、現在でも公開されています。最近、月ノ美兎が実況していた「魔女の家」というゲームはこのフリーゲームの系譜の中で比較的新しい部類に入ると言えるでしょう)、月ノ美兎がかつて言及していた「オナマス」のようなweb漫画だったりという、インターネットだからこその作品たちが彼女の中にそのような笑いの種を植え付けたに違いありません。

とはいえ、私がぐちぐちと語るよりも、まずは「インターネット」的な笑いを受け継ぐ者である彼女の配信・動画アーカイブを観て頂くのが早いのではないでしょうか。動画編集、企画製作、語りや突っ込みの一つ一つ。そこには間違いなく「インターネット」が息づいております。

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4. "月ノ美兎"の魅力

それでは、ようやく本旨になりますが、上述のようなキャラクター性を持つ彼女をなぜ私が応援しているか、その魅力という点について語っていきたいと思います。

まず第一の魅力は、彼女がインターネット老人会出身のトッププロだからです。

上述の通り、月ノ美兎は相当程度「インターネット」的な笑いを軸にしてYoutubeでの配信を行っております。概ね10年以上前の、過去の時代のインターネットを知っている人たちによる思い出語りのことをその界隈では「インターネット老人会」と呼んだりもするのですが、月ノ美兎はそんな文化の中から排出され、「インターネット」的な笑いでプロとしてお金を稼ぐ存在です。

もちろん、いわゆる「かつてのインターネット」出身でいまやメジャーな場所で活躍している人は多くいます。歌い手、ボカロP、ゲーム実況者、 同人作家など、枚挙に暇がないでしょう。ただ、この人たちはそれぞれ、歌の上手さ、楽曲作成の上手さ、ゲームの上手さ、漫画描きの上手さといった、世間一般に通じる技能(線引きが微妙かもしれませんがここではe-sportsを含む)により成り上がっていった人たちです。決して、鈍色の陰影を伴う「インターネット」的な笑いを武器にしているわけではありません。そんな存在は、唯一、月ノ美兎を置いて他にないのだと思います。

確かに、「オモコロ」のように、「かつてのインターネット」的なノリを意識しているようなエンターテイメント発信機関も存在しています。しかし、それでもなお、どこか「世間一般」を意識したような側面があるのは否めません。その意味でやはり、月ノ美兎は特異な存在であると言えるでしょう。

オモコロ あたまゆるゆるインターネット
暇つぶしにピッタリの漫画や記事を毎日のように配信しています。いくら読んでも無料、そしていくら読んでも頭がよくなりません。

しかも、彼女は単なる「インターネット老人会出身のプロ」ではありません。「トッププロ」なのです。彼女の活動ぶりには「トップ」という称号を点けざるを得ない理由が二つあります。

第一の理由は、月ノ美兎が徹底して穏健派であることです。「インターネット」的な笑いを目指すにしても、それを茶化したり誇張したりして、過激に、炎上覚悟のような演出をすることだってできるでしょうし、そちらの方が短期的には人気が出るかもしれません。しかし、彼女はそれをしません。むしろ、それがどれだけ「インタ―ネット老人会」ではない人達にも伝わるのかという点についてかなり慎重に検討しながら物事を進めているように感じられます。かつて「インターネット」に嵌った人たち向けというわけではなく、「かつてのインターネット」なんか知らないけれど、それでも、十年、二十年、三十年早く生まれていればきっと「かつてのインターネット」に嵌ったであろう人たち、ちょっとシニカルでインモラルで、だけれども、どこか人間社会の本質を突いている気がして、くすりともゲラゲラとも笑えるあの笑いを現代に蘇らせようとしている気がします。偉ぶって古参トークに花を咲かせ、信者を囲い込んで思い出話と最近のインターネット批判をしていれば彼女にとってどれほど楽でしょう。

しかし、彼女は楽な方向に逃げたりはしません。「インターネット」的な笑いの価値や本質をそのままにしつつ、それをより普遍的なものに昇華させようとしているように見えます。体験レポートでは一般社会にその観察眼やコメント力を持ち込むことによって、Yourubeという枠を飛び越えた活動(テレビやラジオ出演)では「インターネット」を無理なく紹介しようとする穏やかで抑制的なトークによって、それが発揮されているように感じます。

実際、月ノ美兎がVtuber事務所「にじさんじ」の同僚と一緒にラジオ出演する際には、同僚があまりにもVtuber界隈特有の発言をした際に彼女が積極的にかみ砕いた説明をしたり丸く収めた表現で言い直したりしている場面が多くみられます。テレビ出演のときなんかは「無難な受け答えの中でちょっとだけ『インターネット』を滲ませよう。まずはそれでいいんだ」という意気込みさえ感じるような気がするのです。「インターネット」に誇りと愛着を持ちながらも、非インターネット世界へのリスペクトを忘れず、邪道としてではなく王道としてそれを普及させていこうとする姿はまさに宣教師のそれなのではないでしょうか。インターネット世界あるいは非インターネット世界のどちらかにだけ引きこもって別世界への批難や文句を垂れ流すという安易な道には進まず、厳しい調整の中で身を削って奮闘しようとする姿に私は感動を禁じえません。

そして、穏健派でありなおかつ普遍性を追求し、安易な環境に引きこもろうとしないという要素は彼女の配信の中にも如実に表れています。スパチャを拾うことは稀ですし(スーパーチャットの略。Youtube上の投げ銭システムで、スーパーチャットをしてくれた人の名前読み上げや投げ銭とともに投げられたコメントへの返答(=スパチャを拾う)を重視するVtuberもいる)、インターネット玄人特有の慎重な言い回しで他者への人格攻撃や差別発言を避けていることも配信を聞いていれば分かります。そういうリテラシー、はっと気づく思考はまさにあの頃のインターネットが涵養したものだと言えるのかもしれません。それでいて、理不尽なアンチ的行動に対しては単に声を荒げるのではなく、厳しくてかつ有効な手段を模索していることも伺えます。インターネットという空間においては冷静かつ穏健であることこそ難しく、自分がそうあろうとしていても他者からもそう見られるのは難しい。人気者であればるほど難しくなる。そういう自覚が非常に強いと見受けられます。

バーチャルユーチューバーが不審者に凸されてしまった話
【話】【話】( ^ω^ )【話】【話】

他にも、自分以外のVtuberへの丁寧な姿勢や、いつだって視聴者の前では所属企業を擁護するサラリーマン精神(個人事業主ですが、だからこそ仁義を切る精神が垣間見えます)、様々な場面やエピソードから醸し出されるお人よしさ。誠実キャラでもクズキャラでもない位置にいて、このような「キャラではない真摯な態度」をさらっとやってのけつつ、それでいて最高の「おふさけ」を供給しようとする。これが「トッププロ」でなくて何なのでしょうか。

彼女の姿からはどこか、「かつてのインターネット」に数多く存在した、馬鹿みたいなエンタメを創作し、それを無料で公開するにもかかわらず自己顕示欲の塊ではなく、それどころかどこまでも大人で度量が広く、創作へのひたむきな想いと他者(自分と意見が違う人たちや非インターネット世界を軸に活動している人たちも含む)に対する真摯な態度と敬意を持っていた栄光なき名クリエイターたちを思い起こされます。

「変なことをしているからカッコいい」。それは中学二年生の態度に過ぎません。変なことをしているんだけどカッコいい人。変なことの中で、かっこよさ、誠実さ、他者に対する敬意を出す難しさに挑戦している人。それこそが「まっとうな変人」の態度なんだと教えてくれた「かつてのインターネット」の世界観。そんなレベルのことさえ月ノ美兎は体現してくれている気がします。

第二の魅力は、彼女の労働者/社会人としての「にじさんじ」における経歴にあります。

「にじさんじ」古参の方々にとっては、こちらの魅力を「知っている」ことが密かな誇りになっているのではないでしょうか。月ノ美兎をはじめとした初期メンバーでさえ絶対に上手くいかないと思っていた「にじさんじ」プロジェクト。慣れない配信や希望が見えない中で精神を擦り減らしていくライバー達。月ノ美兎、樋口楓、静凛のいわゆる「JK組」を中心とした支え合い。

月ノ美兎の配信の中でも、当時は「いちから株式会社」が本当につぶれると思っていたことが言及されており(当時はスタッフが3名だったそうです)、また、注目を一気に浴び始めた月ノ美兎自身も病院に通うほど咳が止まらなくなるなど身体に異常をきたしまま配信活動を行っていて、2018年の夏前あたりでは親友であり同僚である樋口楓と引退配信の企画を固めていたほど(この樋口楓も体調不良や家族との揉め事で精神的につらい時期を過ごしていたことが樋口楓の配信でも語られています)だったそうです。

詳しい話は省略しますが、月ノ美兎はまさに、事実上、潰れかけのベンチャー企業の営業隊長として奮闘し、経営を軌道に乗せるための絶対的キーパーソンとしてその役割を見事に果たし、いまでもその最前線で戦っている人物なのです。彼女の配信から察するに、アルバイトやインターンを除けばこの「にじさんじ」での活動が彼女の社会人デビューとなっています。そう考えると、彼女が成し遂げたことは、その切り拓いた道の価値はもちろんのこと、年若で経験の浅い人間が仲間と支え合いながら達成したという点でも非凡な偉業だったといえるでしょう。

私も社会人ですが、一度でも社会人として働いたことがある人間ならば彼女の功績の素晴らしさが身に染みるのではないでしょうか。折れない心、絶え間ない工夫、言い訳なしの真剣勝負。そんな荒波にいきなり放り込まれ、どんなに精神が傷ついても辛いところなんか見せずに活動を続けて勝利をもぎ取っていったことの尊さ。もう駄目だと思った瞬間があったかもしれないですし、彼女の中でこれは大失敗で取り返しのつかない敗北だと感じた事件があったかもしれない。それでも、視聴者の前では笑顔でエンタメを提供し続けた。それどころか、年上の人間もたくさん所属しているであろう「にじさんじ」をずっと牽引し続けていて、いまでも引っ張っていく存在である。

日本の伝統的大企業には恐らく、新入社員の質に愚痴をこぼす堅物上司たちがたくさんいることでしょう。その人たちは是非、この月ノ美兎という存在を見せてやりたいものです。根性と行動力があって、自発性の塊で、仕事的な意味での気配りに長けていて、自分の頭で考える力に溢れているような若者。下働きから企画、演者までこなせる若者。そんな若者は、この平成末から令和初の時代にだって存在しています。そんな優秀な、昔気質な意味でも傑出した若者は、Vtuberとしてこういう場所に機会を見出しているのですよと彼らに伝えたくてたまりません。そんな優秀な若者がどう他者を惹きつけているか見てください。それは、とてつもなく真剣なおふざけであり、彼女は有名大学でも体育会でもなく、サブカルチャー文化を出身母体にしているのです。

あの「インターネット」から、「かつてのインターネット」を体現するような人物がトッププロとして出てきて、若者離れした偉業を達成し続けているんだ。

そう心の中で呟けるだけでも、サブカルチャー、あるいは「かつてのインターネット」出身の人間にとっては身も震えるほどの感動があります。以前、彼女の配信において「何も特典がなくてもメンバー(サブスクリプション方式でVtuberに金銭を支払い、対価として限定公開動画やグッズが貰える仕組み。月ノ美兎は導入していない)になりたい」というコメントに対して「そんな無償の愛があるものか」という旨の驚きを月ノ美兎が発していました。月ノ美兎に分からなくて私たちだけが分かること、それはただ一つ、この月ノ美兎という存在に私たちがどれだけ励まされているのかというその程度の大きさなのかもしれません。

5. 結論

いやはや、つい長々とした記事を書いてしまいました。しかし、「インターネット老人会」絡みの「オタク特有の早口」としてはいい線をいっているのではないでしょうか。いまやSNSに舞台が移った感がありますが、「かつてのインターネット」ではブログこそがアニメやマンガ等の熱い考察を長々と書き連ねる場所でありましたから。

そして、最後になりますが、ようやくタイトルを回収したいと思います。私がこんな長文を書こうと思った直接の動機、そのトリガーを引いてくれたのもまた月ノ美兎であり、「CONTINUE vol.65」掲載のロングインタビュー中の言葉、「どれだけマニアックな話であっても、わかってもらえるように熱量を持って話せば、面白がってもらえるかなって」になります。本当に、この言葉に突き動かされるように書いてしまいました。

そして、「どんだけマニアック......面白がってもらえるかな」という想いは本ブログも同じ。これからも好きな作品について熱のある感想を書いたり、ときには作品に限らず、こうやって好きなコンテンツ全般について語っていきたいですね(ブログ宣伝のためVtuberになってしまうのもアリ...?)。

さて、「結論」といいつつ「結論」になっていないのですが、最後はないがしろにされがちな「16歳の清楚な学級委員長」という月ノ美兎の公式設定に触れて終わりたいと思います。

この設定は正直に言って、ないがしろにされ、ネタにされ尽くしています。けれども、彼女のファンにとって、ある一点においてそれは真実なのではないでしょうか。

私は月ノ美兎を見ていて、常々こう思うのです。こんな人が高校の同級生だったらどれだけよかったことだろうと。赤の他人の前では清楚(普通)に振舞い、学級委員長を任されるだけの人間的技量を持っているのと同時に、親しい友人(私の想像の中では私の役なのですが)とはマニアックなコンテンツについて熱量を持ちながら語れる。

そんなふうに思わせる振る舞いのバランス感覚にこそ、"16歳の清楚な学級委員長"としての彼女の魂が息づいているように感じます。

ここまで読んでくださった読者の皆様。本当にありがとうございます。「月ノ美兎」知っていた方々とは同志としてこれからも有言無言にて心を通わせて頂きたいと思いますし、「月ノ美兎」を知らなかった方々にはこう言ってみたいところです。

さぁ、あなたも「月ノ美兎ワールド」へようこそ!

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