小説 「響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章 前編」 武田綾乃 星2つ

響け! ユーフォニアム
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1. 響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章

公立校の吹奏楽部が全国を目指すという内容の人気シリーズ小説で、どちらかというとアニメ版の原作として有名でしょうか。アニメ版は放火事件の起こった京都アニメーションが製作しており、レベルの高い作画や音楽表現、独特のカット割りなどで人気を博しております。私もアニメ版のファンでして、当ブログでも記事を書いております。

ついでに原作小説にも手を出しており、辛口となってしまっておりますがこれも紹介記事を書いています。

さて、本作はシリーズの中で主人公の世代が進級し、2年生として活躍する2年生編となっておりまして、アニメ版では「劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~」にあたる部分です。

アニメ映画 「響け! ユーフォニアム ~誓いのフィナーレ~」 監督: 石原立也 星3つ(後編)
1. 響け!ユーフォニアム ~誓いのフィナーレ~ (後編)「響け! ユーフォニアム」のアニメシリーズで第3期に相当するアニメ映画になります。本記事はレビューの後編で、前編はこちらです。充実していた序盤~中盤に比べ、あまりにも駆け足感が強かった終盤の展開。やや残念だったことは否めません。原作小説2冊分を1本の映画にしている弊害なのかもしれませんが、(リズと青い鳥を別立てで製作しているとはいえ)こちらも前後編でやってほしかったなぁと感じてしまいます。特段「悪い」シーンはないのですが、課題もトラブルもなく進行する映像には退屈さがありました。2. あらすじ1年生がもたらした波乱も見事解決し、先輩としての主導力を見せた黄前久美子(おうまえ くみこ)。京都府大会も無事突破し、合宿など部活の練習に打ち込むのはもちろんのこと、あがた祭りでの塚本修一(つかもと しゅういち)や高坂麗奈(こうさか れいな)との交流、父親に問いかけられて将来のことに思い悩むなど、部活以外でも様々な経験や葛藤を積み重ねていく。そして迎えた関西大会、OBOG達が見守る...

感想としては、散漫な物語と表現力不足によって平坦かつ無個性に見えてしまうキャラクターという2つの要素が災いし、小説というより説明書を読んでいるような気分になる作品でした。

アニメでは効果的な編集とアニメならではの感情表現などで補われていたのでしょうが(というかそこを補えばいい作品になると思っているから京都アニメーションも本作を起用しているのでしょうが)、小説になると途端に「ト書き」感が滲み出てしまいます。

2. あらすじ

悲願の全国大会出場を果たした北宇治高校吹奏楽部だったが、全国大会での評価は最低ランクである銅賞。悔しさを噛みしめながらもさらなる躍進を胸に秘める部員たち。しかし、3年生が引退したいま、目下の課題は部員集めだった。私立のように特待生がやってくるわけではないため、必死で1年生をかき集め、各楽器の担い手を充足させなければまともな編成を組むことすら怪しいのが実情なのである。

とはいえ、辣腕の顧問教師である滝昇(たき のぼる)に率いられ、錚々たる私立高校が居並ぶ関西予選を突破して全国大会出場を果たしたというブランドは折り紙付き。吹奏楽部入部を目的に入学してきた生徒も多く、頭数には苦労しなさそうな雰囲気が漂っている。

従来は不人気楽器の集合である低音パートにも経験者が各楽器に集まり、ユーフォニアムを担当する2年生、大前久美子(おおまえ くみこ)も一安心。進級した彼女は3年生の加部友恵(かべ ともえ)と共に1年生の指導係になったのである。

ところが、そんな安心感も束の間。低音パートに入った1年生は曲者揃いで人間関係は最初からこじれていく。技術は長けているが自主練習はせずに早く帰ってしまう鈴木美玲(ずすき みれい)、技術はイマイチだが人懐っこく愛されキャラの鈴木さつき(すずき さつき)、孤立主義的で名字で呼ばれることを執拗なまでに嫌う月永求(つきなが もとむ)、そして、「いい子」の仮面を被りながら人間関係を冷めた目で見る久石奏(ひさいし かなで)。

技術で正当に評価されず、「明るいキャラ」や「頑張り」ばかりが持て囃される雰囲気に嫌気がさしていた鈴木美玲。彼女は愛想と付き合いの良さで人間関係に盤石の地位を気づいていくさつきを快く思っていない。そして、どうせ実力ではなく人間関係や先輩後輩関係で物事は決まってしまうから努力など無駄だと達観する奏。それぞれの屈折した思いを前に、「上級生」となった久美子はどう振舞うのか。そして、コンクールの行方は......。

3. 感想

2年生編ということで、まずは部活もの恒例の新入生勧誘から始まります。ここで新キャラクターを自然な流れで登場させ、彼女たちにトラブルメーカーになってもらうというのが部活ものとしての王道でありまして、本作もその形式を踏襲しております。主人公の黄前久美子と三年生だが実力に劣る加部友恵が1年生指導係という配置であるのもそういったトラブルに関わらせるようにするという狙いを感じます。

そして、久美子が所属する低音パートに入ってくる一年生は三人。「あらすじ」でも紹介した久石奏、鈴木美玲、鈴木さつき、月永求。とはいえ、月永求は基本的にはつっけんとんな態度をとるけれどもコントラバスパートの先輩である川島緑輝(かわしま さふぁいあ)にだけは懐いている、といういかにも深夜アニメ的なキャラクターというだけで(前編では)特にドラマを起こしません。鈴木さつきもほとんど鈴木美鈴エピソードのための道具という扱いで、後輩で物語の中心となるのは久石奏と鈴木美玲になります。これに加部友恵エピソードを加えた3つの物語が並行して進む形式となっております。

まず鈴木美玲のエピソードですが、「努力と実力と評価」という部活あるあるを取り上げた物語になっております。美玲とさつきは幼馴染なのですが、美玲のほうが実力があるにもかかわらず人付き合いの上手いさつきのほうが昔からみんなに好かれ、「頑張ってる感」を出すことで吹奏楽にも熱心に取り組んでいるように評価される。一方、口数少なく淡々と練習する美玲は誰にも「頑張ってる」と思われずに不平感に不満を募らせていたというもの。そして、北宇治のコンクールメンバーは実力で選ばれるということを心の拠り所にして吹奏楽部に来ているという状態。

そんな美玲に対して「みんなちゃんと美玲を評価している」ということを久美子が効果的に伝えることで美玲の心が救われるというオチです。

次に加部友恵のエピソードですが、「コンクールへの熱意・部活への想い」がテーマになっております。一年生の指導ばかりに熱心で自分の練習が疎かになっているように見える友恵。彼女は顎関節症を患っており、ある日、部員としては吹奏楽部を引退してマネージャーになることを宣言します。先生(別の楽器に回ることを提案)や他の部員たちに慰留されながらも一足先にオーディションという戦いから降りることになった友恵。さぞ悔しく思っているだろうと久美子は気を遣いますが、本人曰く気にしていないどころか楽になったという。元々、吹奏楽や演奏に興味があったというよりは吹奏楽部の雰囲気が好きだったという友恵はコンクールメンバーに選ばれるかどうかになんて興味がないけれど、周囲は実力的に際どいラインの三年生の運命を気にしている。そんな圧力から解放されたという気持ちのほうが強いと友恵は久美子に言います。

それが強がりなのか本音なのか久美子には分からない。そんな友恵に、友恵と同じく昨年のオーディション落選組で、来年こそは一緒にA(レギュラー)で出ようと誓い合った中川夏紀(なかがわ なつき)が感情的な声をかける。そんな「誓い」さえ友恵の心の底から出たものではなかったのかもしれない、ということは久美子だけが知っているというオチです。

最後に久石奏のエピソードですが、「部活における上下関係」がテーマになっております。上級生間の実力差に敏感に反応して態度を変え、猫を被りながら嫌われないようにと努める。そんな、過度に部内政治を意識する人物として奏は描かれます。久美子が北宇治高校吹奏楽部はそんなところではないと説得しても奏は態度を変えず、オーディション本番、奏は実力に劣る夏紀にレギュラーを譲るためわざと手を抜いて......という場面から前編のクライマックスが始まるという流れになっております。

400ページ近い小説の中で主要なエピソードがたったこれだけ、後は不自然で妙に軽々しい部員同士のやりとりが占めるというだけでも冗長なのですが、これらのエピソードも部活あるあるが並びたてられているだけで捻りや驚きがなく、あまりにも淡々としていました。共感はするが感情移入はできず、物語に惹きこまれたり、どうなるのかとドキドキするということがありません。

確かに、「実力」「先輩後輩」「レギュラーor非レギュラー」が部活というものに一種の緊張感や気まずさ、不穏さを持ち込むということは多くの人が認めるところでしょう。しかし、そんな部活あるあるエピソードをただ並べただけでは本作独自の良さは出てきません。殊にフィクションなのですから、「ふーん」で終わってしまいます。

また、2年生編は久美子と幼馴染の塚本修一(つかもとしゅういち)が付き合った状態から始まるにもかかわらずここでも大した出来事は起きませんし、第2主人公という位置づけだったはずの高坂麗奈(こうさかれいな)も物語にはほとんど絡まず意味深なことを言うだけです。他のキャラクターもとりあえず出した感が強く、そのキャラクターっぽい口調でそのキャラクターっぽい仕草をしてハイ終わりという場面ばかりです。

4. 結論

これで終わってしまうのか、それとも、いったん終わったと思えるような上述のエピソードが活かされるのか。後編は「誓いのフィナーレ」の残り部分と「リズと青い鳥」だとは知りつつも一縷の望みをかける想いです。一応、エピソードは存在し、全く面白くないわけでもないという点、「響け! ユーフォニアム」が小説でも読めるという楽しみを加味して、前編は星1つよりの星2つとします。

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