小説 「海猫」 谷村志穂 星1つ

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1. 海猫

エッセイを含め女性の生き方にまつわる著作が多い谷村志穂さんの作品。上下巻合わせて600ページ超の本作で島清恋愛文学賞を受賞しており、映画化までされていることから代表作といっても良いでしょう。親子三代に渡る母娘の恋愛物語という昨今の文芸界ではあまり見られなくなった系統の作風です。

個人的評価としては唾棄すべき作品で、ほとんど良い点が見当たりません。谷村さんがデビューした1991年といえばちょうど出版業界の最盛期にあたります。出せば当たる時代の産物なのかと想像してしまいます。

2. あらすじ

野田薫は故郷の函館から漁村である南茅部の赤木家へ嫁いできた。ロシア人と日本人のハーフである薫は青い目と白い肌を持っており、それが原因で疎まれることも多かったのだが、偶然出会った
赤木邦一からアプローチを受けついに女の幸せを掴んだのだった。

長女の美輝も生まれ、夫婦生活は順調に思われた。しかし、邦一が入院先の看護婦である啓子との不倫に走ったことから夫婦のあいだには亀裂が入る。人形のような薫よりも啓子の母性に惹かれる邦一。そんな中、邦一の弟である広次の想いに薫は応えてしまう。広次との子である美哉を出産した薫。美哉は邦一の子だと強弁する薫だが、もはや時すでに遅し、夫婦関係は悲壮な破綻へとひた走る。限界を感じた薫は美輝と美哉を連れて家を出ようとするのだが、そこで邦一、広次との諍いが起きてしまい......。

3. 感想

全編を通して自分に酔ったような文章が続きます。高尚ぶった陳腐な情景描写や詩の引用などはまるで中学生が初めて書いた小説のようで辟易するばかりです。登場人物たちもあまりに衝動的に行動するので読み手の思考や心情がついていけません。不倫や殺人など、劇的な展開にしたいがために無理な心理の動きや行動が重なってしまっていて全く感情移入できないのが大きな欠点です。

また、作者だけが知る情報、神の視点がたびたび入るのも物語の魅力を削いでいます。「~は~なのだった、~はこういう人物だった」と地の文で決めつけてしまうため、読者に想像の余地がなく、まるで数学の教科書が定義や定理を投げつけてくるようにしか物語を感じられなくなってしまっています。登場人物同士がお互いを誤解し合う展開でも「神の視点高尚解説」が入ることで甚だしく白けさせているのは難点です。

しかも、薫を巡る物語は上巻で終わり、下巻は美輝と美哉の物語になります。といっても伏線などが活かされるわけでもなく、上巻とは無関係な物語がだらだらと続くだけ。社会運動家で詩を諳んじながら美輝と会話する高山修介という恋人や、教会で鐘を突きながら薫のことを考える広次など、陳腐な幻想的登場人物が溢れていてもはや意味不明の境地です。登場人物たちの突拍子もない行動は続くので、下巻ともなればもはや何をやっても「狂人たちのやることだから」としか感想を抱けません。

4. 結論

なぜ賞を獲れたのか理由が全く分かりません。出版するべきではなかったでしょう。


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