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小説 「時をかける少女」 筒井康隆 星3つ

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時をかける少女
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1. 時をかける少女

1967年刊行ながら夥しい数のメディアミックスによって今日においても有名タイトルとなっている作品。その中でも、1983年に原田知世さん主演で公開された実写版と、2006年に細田守監督の指揮によって製作されたアニメ版という二つの映画が知名度の牽引役となっております。

アニメ映画は本ブログでも以前に感想を書きました。

原作たる小説は僅か100ページ余りの作品であり、文体や展開も非常にあっさりとしたものでしたが、ここが斬新だったのだろうと思わせる点がいくつかあり、派生作品がいくつもある現代だからこその読み応えがありました。

出演 仲里依紗, 石田卓也, 板倉光隆, 原沙知絵, 谷村美月 監督 細田守

2. あらすじ

ある日、中学3年生の芳山和子(よしやま かずこ)は、同級生の深町一夫(ふかまち かずお)・浅倉吾朗(あさくら ごろう)と一緒に理科室の掃除をしていた。掃除を終え、隣の理科実験室に用具をしまおうとすると、理科実験室から奇妙な物音が聞こえてくることに和子は気づく。

恐る恐る理科実験室の扉を開ける和子。しかし、和子が明けた瞬間に中にいた人物は別の扉から逃亡したようで、残っていたのは液体の入った試験管だけ。しかも、試験管の一つは割れて液体が床にこぼれている。そして、液体から微かにラベンダーの香りがすることに気づいた瞬間、和子は失神してその場に倒れ込んでしまう。

そんな不思議な体験をした和子は、その数日後、悲劇に襲われる。登校中、信号無視のトラックが和子に突っこんできたのだ。「ひかれる!」。絶望して目を閉じた和子だったが、目覚めると自室のベッドの上で寝転がっていた。時刻は家を出る前の午前7時半。奇妙な体験に混乱する和子だったが......。

3. 感想

偶然にタイム・リープの能力を得た和子が、その能力の謎を解き、使いこなせるようになり、そして、能力を得た原因と同級生の秘密に迫る、というお話。 同級生の男子二人が友人で、一方が未来からタイム・リープして来ているという設定はアニメ版でもそのまま使われておりまして、確かに「原作」なんだなぁという印象を受けます。

また、いまとなっては学園SF時間移動モノというジャンルは定番ですが、この作品がその先駆者であることも「元祖」として親しまれ続ける要因となっているのでしょう。当時としては極めて斬新であったことはジャンルの確立者であるという事実が物語っています。時間移動といえば世界の全てを、そうでなくても自分自身の運命を根底から変えてしまうようなSFばかりという時代にこれを書ける発想はさすが筒井康隆先生といったところ。徹底的に「日常」に拘るというコンセプトもまたアニメ版に引き継がれていますね。

そして、何よりこの小説を魅力的にしているのは、この時代にタイム・リープしてきた黒幕の和子に対する告白でしょう。君と一緒に時間を過ごすうちに、君を好きになってしまった、という台詞に思わずはっとさせられます。未来人も人間であり、タイム・リープを行う遠大な理由があっても、友人をつくり何でもない時間を楽しむという誘惑からは逃れられない。いつも世界を救うか滅ぼしに来ていた「未来人」像を木端微塵にし、ここに「人間」を召喚したのは流石としか言いようがありません。アニメ版でも千昭が真琴に同様のことを言いますが、やはりこれも原作そのままだったんですね。近年の作品を観るにつけ、細田監督はやはり演出力が飛びぬけているだけで物語はいまいちなので、こういった短編を原作にして発想を膨らませていくのが向いているのではないかと思います。

様々な作品の原点となっている現代の古典。小説好きならば一度読んでみるべきです。今日でも重要となっている要素をこれほど多く詰め込んだ作品が1967年に刊行されていたのかと驚くこと請け合いです。

出演 仲里依紗, 石田卓也, 板倉光隆, 原沙知絵, 谷村美月 監督 細田守
☆☆☆(小説)筒井康隆
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明日も物語に魅せられて

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