小説 「二十四の瞳」 壷井栄 星2つ

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1. 二十四の瞳

戦前から戦後すぐにかけて活躍した作家、壷井栄さんの代表作。1954年に映画化され、そこから人気に火が付いた作品です。舞台となった小豆島にはいまでも「二十四の瞳 映画村」が存在し、当時の流行ぶりが伺えます。

感想としては「やや薄い」と思ってしまったのが正直なところ。壷井さんが持つ切実な反戦への想いや、心温かな子供たちとの交流とその後の悲劇など、描きたいことは分かるのですが、小説の物語として読むにはあまりにエピソードが淡白な割に主張だけが延々と続く部分が長すぎる印象でした。

2. あらすじ

舞台は戦前の小豆島。治安維持法が制定され、世の中が窮屈になっていく中、主人公である大石先生は分校の小学校に新任教師として赴任することになった。五年生以上は本校に通うため、分校に通っているのは四年生以下の小さな子供ばかり。その中でも、大石先生が担当することになったのは入学したばかりの一年生十二人だった。

子供たちとは次第に打ち解け合っていくものの、洋服を着て自転車で分校に通う大石先生の姿に田舎の村人たちは反感を覚え、嫌味を言う者も多い。それでもへこたれずに教職を続ける大石先生だが、ある日、生徒が悪戯で掘った落とし穴に落ちてしまい、足を骨折してしまう。

骨折の影響で分校に通うことができなくなってしまった大石先生。そんな中、反省し、心配する子供たちはどうしても大石先生に会いたくなり......。

3. 感想

物語全体の構想は非常に良いと思いました。

村人からは少し「都会」的な感じに見えるけれども社会全体からすれば五十歩百歩な「田舎者」の新任女性教師が分校の先生になり、子供たちと交流を深め、その中で感動的なエピソードが挿入され、次第に村人の理解も得ていく。

しかし、高学年になってくるとそれぞれの家の事情から子供たちは引き裂かれ始める。安穏と進学できる比較的豊かな家の子供もあれば、早々と奉公に出される子供もいて、修学旅行さえ頭数が揃わない。

さらに、戦争が激化すると状況は一層悪化。兵隊にとられて戦死したり失明したりする者が現れ、女子の中でも身売りされて行方不明になる者も出てくる。「お国のために」という標語も空しく、戦争に対する反感の意気高い大石先生の悲痛な心の叫びが文面に踊る。

終戦後、決して芳しくない生活状況の中、再度分校に赴任することになった大石先生の歓迎会に出てくるかつての子供たち。もう亡くなった者、行方不明の者もいるけれど、いつか撮った集合写真を見て皆の感慨は絶頂に至る。

このように、大まかな構成だけを書くと良く見えるのですが、実際に読んでみると「ただこれだけの内容ならば紙面が半分でも十分な感動とともに書けたのではないか」と思ってしまうのが残念なところ。起伏のあるエピソードは一本松を目指して子供たちが無謀な冒険をする場面だけで、後は平坦な事実提供が続いたのち、大石先生の反戦への想いが語られるだけです。もちろん、そのような気持ちは作者自身が持つ本物の気持ちであり、それを事実のレベルで貶めようとは思いません。しかし、創作物としての「物語」として見た場合、やはり登場人物の心情吐露は丹念なエピソードの積み重ねの先だからこそ読者の心を動かすのであって、決して感情だけを叫ぶような著述法では読者はついていけないでしょう。題材も構成も申し分ないですが、表現したい想いをどう「物語」に乗せるか、という決定的な部分が欠けていると感じました。

ただ、これほど悲劇的な話の終盤で、生徒の一人が戦争についてはしゃぐような口調で不謹慎な台詞を言う場面だけは文学的魅力を感じました。人によって「戦争」は違った、ということをシニカルに表明し、「わたし『たち』可哀想」話にしてしまわないところには非凡な技巧があります。

強いて名作であるとは言えませんが、やはりどこか心に引っ掛かる側面があるからこそ流行ったのだなぁというのが本書に対する評価です。

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