小説 「アルケミスト」 パウロ・コエーリョ 星2つ

アルケミスト
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1. アルケミスト

ブラジル出身の作家、パウロ・コエーリョの代表作で、累計発行部数が1億部を超えるという世界的な大ベストセラーです。原著は1993年発行で、日本語版は1997年の発行。当時、書店で大プッシュされていたことを記憶している人もいらっしゃるのではないでしょうか。

そんな偉大な作品に対してやや傲慢な態度になってしまうかもしれませんが、個人的には凡作であると感じました。抽象的で浮ついた言葉がそれっぽい雰囲気を醸し出しているだけで心を動かすような本当の内容というものが存在せず、物語そのものはいたって普通。読んで不快になることはありませんが、読破した直後の気分としては「ふーん」で終わってしまった作品です。

2. あらすじ

スペインのアンダルシア地方を拠点に活動する羊飼いの少年サンチャゴはある日、セイラムの王様メルキゼデックだと名乗る老人と出会う。王様は少年が飼っている羊の十分の一を対価に、宝物が眠る場所を教えてくれるという。悩んだ末、少年が羊を連れて王様のもとへ再びやって来ると、宝物はエジプトのピラミッドにあるのだと王様は言い、少年にウリムとトムミムという二つの石を渡すのだった。

ピラミッドへと向かうためアフリカに渡ったサンチャゴは、街中で一人の少年に話しかけられる。一見、親切に思えた少年だが、彼には狡猾な狙いがあって.......。

度重なる困難に襲われながらもピラミッドを目指すサンチャゴ。彼を突き動かすものとは何か、そして、旅の終わりに彼が得るものとは......。

3. 感想

小説というよりは自己啓発本に近いというのが本作の実態です。

ストーリーラインは本当に凡庸で、ごく平凡な羊飼いだった少年がきっかけを得て宝探しの旅を始めることになり、お金を盗まれたり砂漠で部族同士の戦争に巻き込まれたりしながらも知恵と勇気で困難を突破し、最終的には富と伴侶を得るという物語になっています。ほとんど、どこかで聞いたことのある展開の焼き増しなのです。

加えて、そこにはあっと驚かせるようなギミックが仕込まれているわけでもなければ、ぐっと胸を打つようなドラマがあるわけでもなく、クリスタル商店の商店主がサンチャゴを雇ったり、オアシスの謙虚で献身的な美少女が特段の理由なくサンチャゴに一目ぼれしたりと、ご都合主義的な展開も多く見られます。サンチャゴが商売に成功したり、砂漠に嵐を吹かせたりする場面は、まさにそういう局面でこそ面白い物語では読者を納得させ興奮させるような工夫・トリックがあったり、伏線の回収が行われるような箇所のはずですが、全てが偶然で片付けられてしまうので肩透かしを食らいます。

ただ、「全てが偶然で片付けられてしまう」という部分にある種、本作の自己啓発本としての妙味があるともいえるでしょう。本作は非常に短い小説なのですが、その中で溢れんばかりにありきたりな自己啓発センテンスが連発されます。人間は自分の運命を自分で決められないと信じがちである。心の声(=運命)に従うべき。心の声に従って行動していれば全宇宙が助けてくれる。人間は他人からの評価を気にしがちだがそれは愚かなことだ。前兆を大事にしてそれに従いなさい。すべては一つ。変化を恐れるな。

中盤~終盤にかけて、あらゆる登場人物が「予兆」「運命」「前兆」を連発するのは辟易させられますが、本作にのめり込めるような人はそんな怪しい宗教的な展開にこそ酔えるのかもしれません。

オチである「宝物の真のありか」も使い古された手法が平然と使われ、異様に凝った言い回しでどこまでも凡庸な物語が展開される様子は失笑を誘うほどです。

もちろん、もっといぶった言い回しが物語の先を気になるようにさせる効果をうまく使っている点は評価できますが、その手法しか盛り上げる方法を知らないのではと思わせるような、一本調子の展開が続いて飽きてきてしまいます。

4. 結論

得てして自己啓発本というのは、ときに内容の薄さと反比例して信じがたいような売上を記録することがありますが、世界レベルでそれを成し遂げてしまった本だと結論付けるのが妥当でしょう。小説として見た場合、決して面白くないわけではありませんが、読んで良かったというほどではないという評価になります。

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