【出版業界】電子書籍が本の中古市場を一掃する現象について考察する

電子書籍

かねてより凋落著しいと評判だった出版業界ですが、2020年は前年対比プラス成長となり、2年連続で市場規模が拡大したとのことです。

2020年紙+電子出版市場は1兆6168億円で2年連続プラス成長 ~ 出版科学研究所調べ | HON.jp News Blog
 公益社団法人全国出版協会・出版科学研究所は1月25日、2020年の出版市場規模を発表した。紙+電子出版市場(推定販売金額)は、前年比4.8%増の1兆6168億円。紙が1.0%減と小幅なマイナスだったのに対し、電子が28.0%増と大きく伸長した結果、2年連続のプラス成長となった。  紙の出版物推定販売金額は1兆2237...

拡大に寄与しているのは「鬼滅の刃」の単行本及び電子書籍。

「鬼滅の刃」の大ヒットには特需的な側面があるにしても、電子書籍市場の伸びはここ数年の確実なトレンドであり、時代の転換を感じます。

1990年代後半の最盛期から市場規模が縮小する一方だった出版業界にとって、一筋の光明と言えるでしょう。

それでは、なぜ電子書籍の市場はこれほどまでに伸びているのでしょうか。

持ち運びに便利だから。

部屋のスペースを節約できるから。

それらの要素も理由の一つでしょう。

しかし、柔軟な価格戦略によって中古市場から顧客を奪っているという側面もあるのではないかと私は思います。

紙書籍の場合、独占禁止法における「再販売価格維持」と呼ばれる制度のもと、書店では定価での販売が義務付けられています。

しかし、中古本には「再販売価格維持」が適用されないという決まりがあります。

そのため、ブックオフやAmazon、メルカリといった場所では値引き価格で紙書籍が販売されており、書店が扱う新品本の需要を奪っているのです。

一方、電子書籍には「再販売価格維持」が適用されません。

本好きの方々ならば、各出版社が「キャンペーン」や「セール」と称して電子書籍の大幅値引きを行う様子を度々目撃しているでしょう。

中古本を買うよりも電子書籍で買った方が安いのだから、電子書籍を選んだという人も少なくないと思います。

これはよく知られている話ですが、ブックオフやメルカリで中古本が売れても、出版社や著者には一銭も入ることはなく、そのため、出版市場の売上にも計上されません。

つまり、巨大な中古本市場が形成されるくらいには「書籍」への大きな需要が存在するにも関わらず、出版業界の関係者に対してはその恩恵が全くないという状況が続いていたのです。

しかし、旬が過ぎてしまったり、定価では売れ行きが好ましくなかった書籍も、電子書籍であれば値引き販売ができます。

多くの食料品や家電と同様、出版業界にもようやく、需要に即した価格で販売する権利が(抜け穴的に)認められたと言えるでしょう。

電子書籍の値引き販売は中古本市場から顧客を効果的に取り戻していると考えられます。

というより、そうでなければ、紙書籍の販売減を上回る速度で電子書籍の販売増が達成される説明がつきません。

本好きとしては悔しいところですが、動画投稿サイトやスマートフォンゲームといった競合コンテンツの興隆によって、「本」というコンテンツの人気は確実に後退しています。

おそらく、書籍市場全体は劇的に衰退していっているはずです。

そうであるにも関わらず出版市場が伸びるということは、出版市場にカウントされていなかった「書籍市場」から需要を奪っているという説明が最も説得力のある理由付けに思われます。

これから先も、自由な値付けを通じて電子書籍は中古本市場を確実に駆逐していくでしょう。

そのうえ、電子書籍には中古市場が存在しないので、今日の電子書籍市場の拡大は明日の中古本市場における供給減少を意味します。

新品紙書籍を売れば売るほど中古本市場にその本が溢れてしまい、中古本市場が顧客にとって魅力的な場所になってしまう。

そんな状況とはまるで逆のメカニズムが働くことになるのです。

個人的にはもちろん、この状況を歓迎しています。

「本」に対する需要から得られる利益は出版社や著者になるべく多く還元されるべきであり、セカンダリーマーケットを構築してマージンを取るだけの企業に吸収されるべきではありません。

なぜなら、出版社や著者は得た利益を次の書籍開発に再投資するでしょうが、中古本市場のプレーヤーはそれをしないからです。

出版された書籍から得られる利益が出版社や著者に還元され、それが再投資されることで、より良質な書籍が生まれて出版市場全体の売上が伸びていく。

このサイクルこそが出版される本の持続的な改良を生み出し、長期的には多くの消費者にとって「よりよい書籍を手に取る機会」という好ましい結果を与えると思います。

中古市場は眼前にある良本の価格を下げはしますが、中古市場で価格の下がった良本を購入しても、業界全体として次の良本製作には結びつかないのです。

出版業界や書籍の執筆が儲かるような仕事だと認識されれば、出版業界に参入しようとする人々も増加するでしょう。

そういった人々からまた新しいアイデアが生まれ、出版業界全体が活気づくと良いなと思います。

また、こういった値付けの柔軟さが確保されることで、本を売るための小賢しい努力の必要が減っていくことも期待しています。

新品の紙書籍は定価で売らなければならず、それでいて中古本市場での安価な古本に勝つ必要がありますので、目下、定価で買ってもらうための様々な工夫が為されています。

書店におけるpopでの宣伝や、ブックカバーの質向上、あるいは付録の充実といったところです。

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