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「涼宮ハルヒの暴走」谷川流 評価:2点|無限ループする夏休みに絶体絶命のゲーム対決、そして吹雪の洋館からの脱出劇、SOS団の日常を描いた中編集【ライトノベル】

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シリーズ最高傑作と名高い第4巻「涼宮ハルヒの消失」に続く第5巻が本作です。

主人公及びヒロインが所属するSOS団の日常(といっても突飛な事件やイベントに巻き込まれる物語ばかりですが)を描いた中編が3編収録されており、それぞれ、夏、秋、そして冬を舞台とした作品になっております。

「涼宮ハルヒの消失」がクリスマス前からクリスマスにかけての話だったので、夏と秋の話は前作よりも時系列的に前の話であり、こうしたランダムな刊行順もこの「涼宮ハルヒ」シリーズの特徴だといえるでしょう。

さて、そんな本作の感想ですが、中短編集だった第2巻と同様、本作も「涼宮ハルヒ」シリーズに登場するキャラクターが好きな人に向けた中編集となっており、それぞれの作品を単独で見た場合に物語的な美点があるかといえばそうでもない話ばかりだったという印象です。

それゆえ、本作を楽しむためにはキャラクターがはしゃいでいるのを見守るといったような読み方がどうしても必要となるでしょう。

また、アニメ化の際に良くも悪くも話題となった「エンドレスエイト」も収録されておりますので、原作とアニメの両方を鑑賞して違いを楽しむといった読書方法も悪くはないかもしれません。

なお、第1巻及び前作(第4巻)の感想はこちらです。

「涼宮ハルヒの憂鬱」谷川流 評価:4点|独特な語り口と突飛な設定から生まれるエンタメの中に文学的テーマ性を潜ませたゼロ年代オタク界隈の金字塔作品【ライトノベル】
2000年代に少しでも「オタク界隈」に触れていた人で、本作のタイトルを知らない人はいないでしょう。大ヒットしたアニメの効果もあり、シリーズ累計発行部数は2000万部超。これを既刊12巻で割ると1巻あたり約167万部ですから、その凄まじさが分かるというもの。均せば12巻連続でミリオンセラーなんて記録は、日本の文芸界において後にも先にも本作だけなのではないでしょうか。ライトノベルが隆盛を極め、エンタメ文芸の本流に立つのではという評価さえあった時期に出現した、まさに「ライトノベル」というジャンルを代表する作品の一つである本作。それでいて、「ライトノベル」といえば異世界ファンタジーか露骨なラブコメディが主流だった状況において、SF要素を加味したジュブナイル青春学園モノとして登場した異端作でもあります。しかも、ライトノベル的なエンタメ要素を備えながらも、世の中や人生に対する洞察という文学的な側面も持ち合わせている作品としても評価されたという、純文学としても一般エンタメ小説としてもライトノベルとしても異端でありながら、そのテーマの普遍性と深さによって様々な界隈に考察と評論の嵐を巻き起こした文芸界の...
「涼宮ハルヒの消失」谷川流 評価:3点|素敵な非日常をもたらす存在、それを肯定することの尊さを描くシリーズ屈指の人気作【ライトノベル】
著名なライトノベルシリーズである「涼宮ハルヒ」シリーズですが、既刊12巻の中でも本作は非常に評価が高く、ファンの中でも本作をシリーズの最高傑作に挙げる人が多い印象です。個人的には第1巻「涼宮ハルヒの憂鬱」を第1位に推したいのですが(おそらくファンの中では第1巻を最高傑作に挙げる人が第4巻を最高傑作として挙げる人に次いで多いのではないかと思います)、本作も手堅い面白さがあり、特に主人公が第1巻冒頭で持っていた価値観が明示的に180度転換する描写があることから第1期完結作として本作を扱うこともできるでしょう。実際、本作による盛り上がりを最後に「涼宮ハルヒ」シリーズの面白さが減衰していってしまうのが辛いところです。また、本作はアニメ映画化もされており、そちらもアニメファンから高い評価を得ています。162分という長尺の映画なのですが、原作に忠実な展開が美麗な作画と意欲的な演出によってさらに面白く描かれており、映画が原作を超えた稀有な例であると言っても反発は少ないと思います。それでは、そんな本作のあらすじと感想を述べていくことにいたしましょう。なお、第1巻及び前作(第3巻)の感想はこちらです。あ...
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あらすじ

・エンドレスエイト

文化祭で上映する映画の撮影も終わり、主人公のキョンは怠惰な夏休みを過ごしていた。

しかし、そんな日常を許さないのがSOS団の団長として君臨する涼宮すずみやハルヒであり、団員たちを喫茶店に呼び出すと、夏らしい遊びをこの夏休み期間で網羅的に経験するのだという計画を発表するのだった。

従わざるを得ない団員たちは、とはいえ、それなりにこの多忙な夏休みを楽しむのだが、次第に奇妙な感覚に襲われることが多くなり......。

・射手座の日

文化祭が終わって数日後、学園に静けさが戻り、SOS団員たちも穏やかな午後を部室で過ごしていた。

そんな平穏を破りに馳せ参じたのは、意外にも隣室の住人であるコンピュータ研究会の面々であった。

彼らの用件はつまるところ、自作のコンピュータ・ゲームで勝負し、コンピュータ研が勝利した暁には春先に強奪されたPCを返却して欲しいというもの。

売られた勝負を買わないはずがない涼宮ハルヒのもと、SOS団は一週間後の勝負に向けて練習を開始する。

敵側が作成したゲームで勝負という難局。

SOS団に勝利の可能性はあるのだろうか......。

・雪山症候群

冬休みも合宿を行うことにしたSOS団。

富豪の上級生である鶴屋つるやさんの別荘べっそうに招かれて年越しを行うことになったのだが、スキーに出かけた帰路、SOS団員たちは全員で遭難してしまう。

猛吹雪の中で見つけた洋館に侵入し、そこで寒さを凌ぐことにしたのだが、館内では不思議な現象が頻発するうえ、外に繋がる扉は開かなくなってしまっていて......。

感想

連作ではない3編が1冊に収められているという構成のため、エピソードごとに分けて感想を記していきます。

・エンドレスエイト

ハルヒの指示により集められ、プールに夏祭りにアルバイト、天体観測といった夏のイベントを猛烈なスケジュールでSOS団員たちが楽しむことになるという緩い導入の中編ですが、途中から雰囲気は一変します。

タイトルの「エンドレス」が示す通り、このイベント漬けの夏休みが無限ループしており、そのループ回数は1万5千回以上にのぼるということが明かされるのです。

無限ループに気づいたキョンはなんとかこのループから脱出しようとするのですが、手を尽くせど成果はなく、しかし、万策尽き果てたときにはっと思いついたあることがループからの脱出に結びつくという話になっております。

イベントだらけの楽しい夏休みから無限ループの発覚という深刻な事態への転換まではそれなりに楽しめるのですが、そこからがやや淡白で、最終的な解決策が提示される場面でも「納得できないわけではないけれど、それが解決策であることのどこが面白いの?」という印象を受けてしまいました。

夏休みがループしている、という発想自体は面白く感じたので、1万5千回の中から転換点となった数回を詳述して徐々に真相や解決策に迫っていくような長編にしたりであるとか、あるいは、この1万5千回の中で蓄積する肉体的精神的な疲労に追い詰められていく様子をもっと緊迫した調子で描いたり、あるいはその疲労という要素そのものを物語の中核に絡めることもできたでしょう。

無限ループという異常事態を促進する方向にしろ止める方向にしろ、情報統合思念体や未来空間からもっと干渉があっても面白かったかもしれませんし、どこまでも満足しない涼宮ハルヒの暴走を止めるべく古泉こいずみが閉鎖空間で奮闘する描写なんかも味があるかもしれません。

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