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「桐島、部活やめるってよ」吉田大八 評価:3点|スクールカーストという虚像、努力と情熱という実像【青春映画】

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桐島、部活やめるってよ
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2012年8月に公開された映画で、朝井リョウさんのデビュー作となった同名小説が原作です。

学園ものだけあって生徒役に若手俳優が起用されているのですが、主演の神木隆之介はもちろん、橋本愛や東出昌大、山本美月、松岡茉優といった後の大物俳優たちが共演している点もいまとなっては本作の魅力を構成しているといえるでしょう。

公開当初の注目度が高かった作品ではなかったのですが、好評を得てロングランヒット作となり、第36回日本アカデミー賞の最優秀作品賞をはじめ数々の賞を獲得する結果となりました。

現在でも人気は根強く、2022年においても10周年記念上映が行われるほどです。

『桐島、部活やめるってよ』全国23館にて、公開10周年記念上映決定!
株式会社つみきのプレスリリース(2022年10月25日 12時00分)『桐島、部活やめるってよ』全国23館にて、公開10周年記念上映決定!

私も本年になってようやく鑑賞したのですが、評判に違わず面白い作品であり、穿ったような邪道作品にみせかけておいて、最終的には王道作品として締める技法には感動いたしました。

スクールカーストに囚われた日本の典型的な教室風景を描きつつ、スクールカーストという眼鏡をかけたまでは見ることができない、学校生活において特別な輝きを放つ本物の英雄を劇的な演出で見出すことに成功している、そんな佳作です。

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あらすじ

バレーボール部においても教室においても中心人物であり、誰もが一目を置く「桐島」という生徒。

そんな桐島がバレーボール部を辞めるという噂が広がり、生徒たちのあいだには動揺が広がる。

桐島は学校にも来ておらず、桐島が突如として姿を晦ましたことにより、桐島を中心に築かれていた人間関係には仄かな綻びが生じ始めるのだった。

桐島の彼女であるというステータスが自慢だった飯田梨紗。

桐島の親友であるものの、桐島と違って部活動に対する熱意を持てず、暇を持て余す生活を送っていた菊池宏樹。

飯田梨紗と親しく、宏樹の彼女でもある野崎沙奈。

飯田梨紗及び野崎沙奈とクラスにおける女子の最上位カーストを形成しながら、二人がしばしば口にする他人を見下すような言動に好意的ではなく、そんな内心を隠しながらバドミントン部での活動に打ち込んでいる東原かすみと宮部実果。

最上位カーストの生徒たちとは程遠い立ち位置でありながらも、男子のトップカースト随一のイケメンである菊池宏樹に想いを寄せる沢島亜矢。

バレーボール部において桐島のサブだったリベロであり、桐島失踪後に突如レギュラーに抜擢され。桐島との埋められない実力差に直面して狼狽する小泉風助。

しかし、そんな生徒たちを横目に、桐島の喪失から全く影響を受けていない者たちもいた。

それは、それぞれのクラスで圧倒的な最下位カーストに所属する、映画部の前田涼也と、その親友であり同じく映画部に所属する武文の二人。

桐島事件の影で進行する映画撮影が桐島喪失に踊らされる生徒たちの巻き起こす騒動と交錯するとき、学校生活、ひいては人生において「大切なこと」が、誰も意図しないままに炙り出されるのだった......。

感想

大人になって振り返ると、学校の教室ってとても不思議な空間だったと感慨深くなりますよね。

曖昧だけれど厳然とした友達集団の枠組みがあり、それらの集団が言わば階層を成している。

そのことについて表立っては言及されることは滅多にないものの、その階層感覚は、生徒たちの心に半ば信仰のようなかたちで厳然と根をおろしています。

そういった階層意識は現代において「スクールカースト」と表現されることが多く、まさに的を射た形容であると思うのですが、カーストであるからには、トップ中のトップ的な中心人物が存在するわけで。本作では桐島という生徒がそれにあたります。

しかし、本作に桐島が出演することはありません。

(最終盤に一瞬だけ後姿が見えるという形で存在が描写されます)

桐島が突如、行方不明となるという事件から本作は始まり、この桐島不在がもたらす影響の大きさを描くことで、間接的に桐島がどういった人物だったのかということが輪郭として立ち現れてくるという手法が採られています。

例えば、桐島の彼女であった飯田梨紗の言動が象徴的でしょう。

桐島が自分に何も告げることなく行方を晦ましてしまったことに梨紗は衝撃を受け、必死に桐島を探し回ります。

とはいえ、桐島を本気で心配しているようには描写されないのが本作の面白いところ。

梨紗にとって、桐島は本気で愛している相手というよりも、付き合っていることで自分の学内カーストを上げることができる道具である。

だからこそ、桐島の喪失は梨紗の教室における立場を危うくします。

しかも、桐島は自分が行方を晦ますことを梨紗には言っていなかった、つまり、梨紗を信用していなかったという点においても、「桐島の彼女」を鼻にかけていた梨紗を追い込んでいるのです。

そんな梨紗と共に教室内トップカーストを形成しているのが沙奈、かすみ、実果の三人。

とはいえ、四人の間には物事や人間関係の捉え方について認識の隔たりがあり、梨紗と沙奈の側と、かすみと実果の側には微妙な溝があります。

梨紗が桐島と付き合っているように、沙奈にも宏樹という彼氏がいます。

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