2021年11月12日に公開された上映時間40分の短編アニメーション映画です。
監督はイラストレーターのlaundrawという方で、近年書店でよく見かけるようになった青春系ライト文芸の表紙イラストを多く手掛けている人物。
やたらに青色で窓や空から光が神々しく射しているあの画風ですね。
イメージとしては、以下のような小説の表紙が代表的だと言えるでしょう。
また、脚本はエンタメ小説家として往年の売れっ子である安達寛高(=乙一)さんが務めており、イラストレーター出身者による監督と小説家出身者による脚本という野心的な意欲作となっております。
上映館も多くない作品ですので、そこまで期待せずに観に行ったのですが、思っていたより良質な作品だったという印象。
高校生たちが経験したひと夏の不思議な体験がさらりと描かれており、気軽に鑑賞するには十分な作品です。
あらすじ
インターネットを通じて知り合った3人の高校生、友也、あおい、涼。
特定の場所で夏に花火をすると現れるという幽霊「サマーゴースト」を呼び出すため、三人は空港の跡地へと向かう。
滑走路の上で次々と花火を消費していく三人。
やっぱり、単なる都市伝説だったのか。
そう思った矢先、彼らの前に現れたのは絢音と名乗る若い女性の幽霊だった。
「私が見えるのは、死に触れようとしている人だけ」
絢音の発言に、三人は動揺しながらもそれぞれが死を意識している理由を語る。
その後、一度は解散した三人だが、どうしても絢音のことが気になった友也は再び飛行場を訪れるのだった。
「私ね、殺されたの」
殺された絢音の遺体はまだ見つかっておらず、絢音の母親は絢音の帰りをいつまでも待ち続けている。
そんな話を聞いた友也は、絢音の「遺体探し」を手伝うことにしたのだが......。
感想
幽霊となってしまった女性の「遺体探し」を通じて少年少女が「死」と「人生」の関係を強烈に意識するようになり、自分の人生を自分なりに精一杯生きていくのだ、という決意を固めて再び日常生活に戻っていくという物語。
「ひと夏の経験」ものとしては古典的で王道な枠組みではあります。
ただ、この手のアニメ作品では、妙に奇抜で理解不能な脚本になっていたり、逆にいかにもアニメアニメしていて気恥ずかしい脚本になっていたりして、非常に寒い物語を見せつけてくることが多いなか、さすがの乙一さんが綺麗に脚本を纏めているなという印象を受けました。
勉強ばかりの人生を母親に強要されていて、自分の本当の望みである美術の道に進みたいという意志を抑えながら生きている友也。
「僕は、死ぬ理由を探していた」
自らそう語るほど、生きているのか死んでいるのか分からないような日々を友也は過ごしています。
また、あおいは学校で露骨ないじめを受けており、学校生活に希望を見いだせず自殺を考えている。
優等生のふりを強要させられているけれど、本当はエンタメ/芸術分野に進みたい高校生だとか、いじめを受けていて自殺したい高校生だとかはあまりにもベタで凡庸な設定ですが(いじめの描写もトイレの個室でバケツの水をかけられるというもの)、状況説明に時間をかけられない上映時間40分の映画という制約の中で観客に理解してもらえるような設定とするには仕方がなかったのかもしれません。
そんな凡庸設定の本作ですが、映像美から脚本上の工夫まで、きらりと輝く部分が存在しています。
本作を鑑賞していてまず心惹かれるのは、絢音と友也が夜の美術館で過ごす場面でしょう。
幽霊なので宙を自在に飛ぶことができる絢音が、友也の魂(これも魂なので宙を自在に飛ぶことができる)を閉館時間中の美術館に案内します。
幽霊/魂状態である二人は壁をすり抜けることもできるので、空中を浮遊したり、壁抜けをしながら自由自在に作品を鑑賞することで、二人だけの楽しい時間を過ごすのです。
本作はアニメではあるのですが、写実的な背景の中で現実的な頭身の人物たちが動くので、さながら実写の青春ドラマのような心持ちで鑑賞することができる作品となっています。
その写実的な画風の中で、幽霊&魂が幻想的な夜の美術館内をファンタジックに動き回って遊ぶという非現実性。
実写作品ではCGを使ったバタ臭い描写になりがちで、逆にアニメーション作品ではいかにもアニメっぽい描写になりがちな場面を、現実と非現実の絶妙な混合で描いている点に本作の妙味を感じます。
造形を見れば現実的だけれど、色彩や光の具合がどこか幻想的なloundrawさんの画風。
その特徴が上手く使われている場面だと言えるでしょう。
個人的には、この「やや現実寄り」くらいの絵柄で、極めて現実的なドラマを展開するような作品(それでいてアニメ的な良さもある)をアニメ業界に期待しているので、美術館の場面はとりわけ印象深く鑑賞することができました。
そんな描写面もさることながら、物語にも一工夫あるのが本作の良いところ。
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