「オリエント急行の殺人」アガサ・クリスティ 評価:3点|真冬の国際寝台列車で起こる静謐で哀切な殺人事件【海外ミステリ小説】

オリエント急行の殺人

「ミステリの女王」という異名を持つ稀代のミステリ作家、アガサ・クリスティの作品。

「そして誰もいなくなった」「ABC殺人事件」「アクロイド殺し」等に並ぶクリスティの代表作として知られており、1934年の作品ながら、今日においても版を重ねている歴史的ベストセラーとなっております。

日本語の新訳版も2017年に出版されており、国内においても人気の高い小説です。

個人的な感想としても、ミステリ小説として十分に楽しめる作品であり、また、世界各国の富豪が乗り合わせる1930年代の国際寝台列車という独特な雰囲気も味わい深いものでした。

スポンサーリンク

あらすじ

舞台は真冬の欧州を走る国際寝台列車オリエント急行の車内。

ロンドンへ移動するため、名探偵エルキュール・ポワロはイスタンブール発カレー行の列車に乗車していた。

しかし、猛吹雪に飲まれた列車はヴィコンツィ(クロアチア)とブロド(ボスニア・ヘルツェゴヴィナ)のあいだで立ち往生してしまう。

不安と焦燥に包み込まれる車内、そして事件は起こる。

サミュエル・ラチェットというアメリカ人実業家が刺殺された姿で発見されたのだ。

ポアロは乗り合わせた乗客たちを一人一人呼び出し、尋問にかける。

相矛盾するような証言はしかし、どれもが真実めいて見える。

十二か所もの刺し傷を負った死体の謎。

果たして、犯人は誰なのだろうか。

感想

序盤で殺人事件が起きたあとは、ポワロがひたすら乗客を尋問していくだけで、大きな事件は何も起きません。

読者自身がポワロと一体化し、証言を聞きながら頭の中であれでもないこれでもないと推理を組み立てては崩し、組み立てては崩す。

そんな「推理」の面白さを楽しむことに主眼を置いた、まさに本格ミステリの王道を往くような作品です。

私自身はあまりミステリ慣れしていない人間ですし、推理力もお粗末なため、途中からは混乱してばかりでしたが、本作一番の特徴であるその犯人とトリックの正体が明かされたときには思わず感嘆の溜息を漏らしてしまいました。

確かに、邪道であり禁じ手のような犯人なのですが、本作の緻密な展開がその意外な犯人とトリックの在り方に強烈な説得力を与えています。

私が一番驚いたのは、単に個々の人物の言動や特徴だけでなく、「真冬の国際寝台列車に世界各国の富豪や外交官、ビジネスマンに医師が乗り合わせている」という、作品をお洒落に見せるためだけの舞台設定にも感じられるマクロな状況そのものを推理に活かして正解に辿り着くというポアロの思考です。

もしかするとネタバレになってしまうかもしれませんが、そもそも観光シーズンではない真冬のオリエント急行はそう混雑するものでもなく、予約なしの乗車を試みても普段ならば空いているコンパートメントがあるはず。

しかし、ポアロが乗ろうとしたときには既に空きがなく、現れなかった乗客が予約していたコンパートメントを車掌の厚意でポアロが譲ってもらう、という場面からこの小説は始まります。

物語冒頭でさらりと描かれる、「季節外れなのに意外にも混雑しているオリエント急行」という舞台の「特殊」な状況が推理の決定打になるのは構成としてとても美しく感じました。

加えて、見事な推理が為されて犯人が判明したあとの、被害者と犯人を巡る過去の悲しい事件のあらましが明らかになっていく場面と、最後の最後にポアロが下す決断が呼び起こす温かくも哀しい結末にもドラマがあり、単なる「謎解き」を楽しむ作品以上の感動があります。

そして、このような静謐な緊迫感と悲哀を作品にもたらすような、描写の力が優れている側面も本作の美点です。

上述の通り、「真冬の国際寝台列車に世界各国の富豪や外交官、ビジネスマンに医師が乗り合わせている」という状況そのものがお洒落ですし、そんな列車が豪雪の中で立ち往生してしまい、クローズド・サークル化したところで殺人事件が起こる、という舞台設定にも妖しく静謐な魅力があります。

上質で気品あるミステリの古典という形容がうってつけの作品なのではないでしょうか。

さて、ここまで褒めちぎったからには名作・名著を示す5点や4点をつけてもよいのでは、とも思ったのですが、やはり「物語」が好きな人間としては、劇的なドラマや人間心理についての描写に少しだけ物足りなさを感じてしまいます。

ミステリ小説にこんなことを言ってもどうしようもないのかもしれませんが、本作の大部分を占める、ポアロがひたすら乗客を呼び出して尋問する過程は物語に動きがなく、絵的にも単調で少し退屈を感じてしまいます。

謎解きに知的興奮を感じ続けられる人間であれば淡々と情報提供が続くだけの場面も楽しめるのかもしれませんが、個人的にはここで中だるみというか、エンタメの欠如を感じてしまいました。

その点を差し引いて、本作の評価は3点(平均以上の作品・佳作)としたいところ。

ミステリ小説としては4点か5点なのでしょうが、ミステリ好きでなければ3点、といった感じです。

当ブログを訪問頂きありがとうございます

応援クリックお願いします!

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
このエントリーをはてなブックマークに追加

おすすめ海外エンタメ小説ランキング

【海外エンタメ小説】おすすめ海外エンタメ小説ランキングベスト3【オールタイムベスト】
本ブログで紹介したエンタメ小説の中からベスト3を選んで掲載しています。「エンタメ小説」の定義は難しいところでありますが、本記事では、肩の力を抜いて楽しめる作品でありながら、同時に深い感動も味わえる作品を選ぶという方針でランキングをつくりました。第3位 「アルジャーノンに花束を」ダニエル・キイス【知性を得た元知的障がい者の幸福と苦悩】・あらすじチャーリィ・ゴードンは知的障がい者で、ビークマン大学知的障がい者成人センターに通いながらパン屋で下働きをしている。読み書きも碌にできない彼だったが、ある日、ビークマン大学の二―マー教授とストラウス博士からある実験への協力を求められる。それは、チャーリィの知能を劇的に高める手術のドナーになって欲しいというものだった。手術を受けたチャーリーの知能はゆっくりとだが確実に向上していき、最終的には天才的な知能を得ることに成功する。しかし、だからこそ、彼には苦難の時間が訪れるのだった。あまりの知能の違いから人間関係に破綻が生じ始め、社会の欺瞞に気づくたびに葛藤する。...

コメント