堀さんと宮村くん

「堀さんと宮村くん」HERO 評価:3点|抑制的な作風が笑いと切なさを誘う、天然色系青春恋愛漫画【ラブコメ】

2007年からweb上で連載されている四コマ形式のラブコメディ。 いまでこそ大手出版社によるweb漫画雑誌や漫画アプリが乱立しておりますが、当時は各個人がそれぞれのホームページでweb漫画を公開していた時代でした。 そんな「個」の時代において圧倒的な人気を誇った作品のひとつであり、連載開始から1年に満たない2008年にはスクウェア・エニックスから単行本が発売されているなど、web漫画の単行本化による出版という流れの先駆けともなった作品です。 私も一時期、HERO氏のホームページである「読解アヘン」を毎日覗いていたくらいハマっておりました。 2021年にはついにアニメ化されたこともあり、再度手を伸ばしてみようと思い読んでみた次第。 結論としては、当時ほど熱中しなかったにせよ、やはり他の青春漫画(特に最初から商業出版されることを前提に練られた漫画たち)にはない独特の魅力がある作品で、最終話を読んだ後は切なく優しい気持ちになりました。 あらすじ 学校では生粋のギャルとして通っている堀京子(ほり きょうこ)だが、家になかなか寄り付かない両親に代わって...
社会問題

【政治雑記】日本は残存する大選挙区制(中選挙区制)を全て廃止するべきである

1. 候補者調整の問題 2021年7月5日に行われた東京都議会議員選挙は、定数127議席のうち、自民党33議席、都民ファーストの会31議席、公明党23議席、共産党19議席、立憲民主党15議席、その他6議席という結果に終わった。 自民党と公明党の議席を合わせた56議席では過半数に届かず、議席の大幅減が予測されていた都民ファーストの会が45議席から14議席減の31議席と踏みとどまって第2党を確保し、立憲民主党が8議席から15議席、共産党が18議席から19議席と議席を増やしたため、自公連立政権の敗北、都民ファーストの健闘、国政野党連合の躍進だというのがマスメディアにおける報道の主たる論調のようである。 (自民党は議席増、公明党は議席維持だったため、それほど手痛く敗北した印象は受けないが、本稿の主題ではないのでここでは議論しない) 東京都議会議員選挙をはじめ、特に日本の地方議会選挙においてアカデミアの政治学(政治過程論)的に注目が大きいのは、タイトルにも挙げた通りその選挙制度であろう。 殆どの選挙区が当選人数二人以上の大選挙区制(※)となっており、しかも、投票者...
機動戦士ガンダム

「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」村瀬修功 評価:2点|普遍的なサスペンスに見せかけたガンダムオタク向け作品【アニメ映画】

1979年から続く「機動戦士ガンダム」シリーズの最新映画で、1989年に発売された同名小説が原作となっております。 いわゆる「ガンダム世界内の歴史」においては「逆襲のシャア」という映画の続編にあたり、初代ガンダム(ファーストガンダム)が宇宙世紀79-80年を描いた作品であるところ、本作は舞台は宇宙世紀105年、つまり約35年後の世界。 とはいえ、私が鑑賞した限りでは「逆襲のシャア」を知らなくても鑑賞に問題はないと思われました。 しかし、本作の問題は別の場所にあります。 気取らないドキュメンタリー調の演出や素晴らしい作画は褒めることができますが、物語の筋があまりにも意味不明で、市街地戦は迫力がある一方でモビルスーツ同士の戦闘は魅力に欠けます。 また、登場人物たちの寒い言動も影響してか、どうしても「子供が考えた『大人の世界』を描いた映画」という印象を抱いてしまいます。 あらすじ 宇宙世紀105年。 人類が増えすぎた人口を宇宙に移民させるようになって、すでに半世紀と35年が経過した世界。 地球に居住できるのは選ばれた特権階級とその生活を...
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帰ってきたヒトラー

「帰ってきたヒトラー」ダーヴィト・ヴネント 評価:2点|現代ドイツ人の心を鷲掴みにする独裁者【政治風刺映画】

2015年に公開されたドイツ映画。 世界的ベストセラーとなった同名小説が原作で、タイトルの通り、アドルフ・ヒトラーが2014年のドイツにタイムスリップするというお話です。 2014年のドイツといえば、移民排斥運動が勃興し、国家民主党やドイツのための選択肢といった極右政党の勢力が伸長していた時期でもあり、そういった機運への警鐘として製作された映画でもあります。 とはいえ、ヒトラーへの画一的な批判一辺倒ではないのが面白いところ。 ヒトラーが巧みな弁舌で聴衆からの支持を調達する様子、そして、警戒感の薄さからヒトラーを易々と受け入れてしまう大衆の様子がリアルに描かれ、そのポジティブな言葉遣いから良心的な存在だとさえ見なされるようになる過程が印象深く描かれています。 ただ、そうした手法でドイツの政治的現状を描くことには成功している一方、物語としての面白さにはやや欠ける面があると思いました。 準ドキュメンタリー的な学習映画としては優秀だと感じられたのですが、演出や伏線の張り方、どんでん返しの技術等に特筆すべき点がなく、観客の興奮を搔き立てるには至らなかった映画...
月刊少女野崎くん

「月刊少女野崎くん」椿いづみ 評価:3点|王道の笑いで攻める、少女漫画制作にかける青春学園コメディ【青年漫画】

ガンガンオンラインにて2011年から連載されているウェブ漫画。 今年で連載10周年を迎えた長期連載のコメディ漫画です。 少女漫画のパロディで笑いを取るという独自性を有している作品であり、だからこそ、少女漫画ではあまり見られない「ヒロインが意中の男性の気を引くために頑張る(が空回りする)」という構図が特徴となっております。 サブキャラクターたちも個性豊かな面子が揃っており、テンポの良い4コマの中でオタク的な寒いノリに頼らない王道の笑いを提供してくれる点に本作の良さがあります。 漫画文化に浸ってきた人ならば必ず笑える作品。忙しない日常の息抜きにお薦めです。 あらすじ 舞台は私立浪漫学園高校。 佐倉千代(さくら ちよ)は意中の人である野崎梅太郎(のざき うめたろう)に告白しようとするも、緊張のあまり「ずっとファンでした」と叫んでしまう。 そんな佐倉に、野崎はなぜかサイン入りの色紙を手渡してくれる。 サインとして記されていた名前は「ゆめの咲子」。 野崎の正体は人気少女漫画家である夢野咲子だったのである。 紆余曲折あって野崎の漫...
三浦綾子

「塩狩峠」三浦綾子 評価:3点|清く正しいキリスト教文学【純文学】

キリスト教文学の名手として時代の寵児となった三浦綾子さんの作品。 彼女の作品としては「氷点」と並ぶ代表作として知られています。 全体的にやや説教くさい部分があり、善人のキリスト教徒ばかりが出てくるという点は鼻持ちならないですが、キリスト教の教義を基盤とした印象的なフレーズも多く、心に残る純文学作品ではありました。 あらすじ 明治42年、名寄駅から札幌駅へと向かう汽車でトラブルが起こる。 険しく急峻な塩狩峠に差し掛かった際、汽車の連結部が外れ、車両は急坂を猛烈な勢いで後退し始めたのだ。 このままでは乗客全員の命が危ない。 そんなとき、客車を飛び出してデッキに向かった男がいた。 彼の名前は永野信夫(ながの のぶお)。 デッキに備え付けのハンドブレーキを回す信夫だが、汽車の勢いは緩まったものの止まることはない。 ここまで速度が落ちたのならば、あとは何らかの障害物があれば止まってくれるだろう。 そう考えた信夫はデッキからレールへとその身を投げたのだった。 あまりに高潔な死を遂げた永野信夫。 この青年の立派な人格はい...
☆☆☆☆(教養書)

「健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて」熊代亨 評価:4|無菌ゆえに息苦しい社会に適応することの困難【社会学】

精神科医ブロガーである熊代亨氏による現代社会評論。 非常に個性的で長いタイトルは、令和時代を覆う雰囲気への違和感を言語化するという本書の試みを見事に表現していると言えるだろう。 令和時代の、清潔で健康で道徳的な秩序にすっかり慣れた私たちから見て、高度経済成長期の日本社会はおよそ我慢できるものではなかったはずである。 本書の「はじめに」に記載されている文章であるが、高度経済成長期まで遡らずとも、最近の社会が妙に潔癖であると感じている人は少なくないと思う。 街は異様なほど綺麗になり、痰を吐いたり立小便をしたりする人はいない。 浮浪者のような恰好をした人物を見かけることもいよいよ稀になってきた。 人々はどこまでも整然と歩き、公的な空間では異様なくらい静かであることに努めていて、喧嘩や体罰、ハラスメントのようなカジュアルな暴力は滅びつつある。 どんな店に入っても店員の態度は概ね良好で、横柄な接客という概念も姿を消し始めた。 かつてに比べ、あらゆるコミュニケーションが丁寧になっている。 良い世の中になりつつある傾向じゃないか。 そう思...
社会問題

【社会評論】国民同士の利害が激しく対立する、テレビ局にとって非常にやりづらい時代が到来している

テレビを点けると連日のように「コロナ!コロナ!」の報道をしていて、重要な事柄だから仕方がないと思いながらもついげんなりしてしまいます。 NHK-BSで海外のニュース番組を観ていてもそんな感じなので、日本に限らず、いまは世界中の報道がコロナに染まっているのでしょう。 やや偏見も入った見方かもしれませんが、テレビ関係者は社交的で外交的な人々が多いので、私生活でもコロナの影響を露骨に受けており、その弊害を大きく感じているのかもしれません。 さて、そんなテレビのコロナに対する報道姿勢ですが、SNS等を見ているとダブルスタンダードだという批判が散見されます。 つまり、緊急事態宣言や学校を休校にする等の規制を行えば「飲食店が可哀想」「子供たちが可哀想」と批判し、逆にそういった措置を行わなければ「コロナの蔓延が拡大する中で政府の無策が目に付く」と批判するというものです。 スタンスが一貫しておらず、何をやってもやらなくてもデメリットにばかりに焦点を当てて悪口を言うような報道は全く生産的でないし、こんな報道をしたって日本全体のためにならない、というわけです。 言いた...
エンタメ

御伽原江良の引退に捧ぐ

2021年3月をもってVtuber事務所「にじさんじ」からの卒業を発表したバーチャルユーチューバー「御伽原江良」。 YouTubeチャンネルの登録者数は50万人を突破し、一時は「にじさんじ」内でも2位につけるなど、看板ライバーの一人でした。 2020年4月にはNBCユニバーサル・エンターテイメントからメジャーデビューを果たし、まさに成功者への道を歩んでいた途上における突然の引退。 Vtuberファン界隈が騒然としたのも不思議ではありません。 「あーゴミカスゥ、〇ね」のような小気味の良い暴言。 「我にじさんじぞ」のような独特の罵り文句。 3Dお披露目配信における「ギバラギバラ高収入」という掛け声。 同じく3Dお披露目配信における昆虫食のような捨て身の企画とそれに対するリアクション。 ゲーム実況の技量や歌唱力というより、その純粋なエンターテイメント性で人気を博していた点が私好みなVtuberだったこともあり、個人的にも喪失感はひとしおです。 4月にはチャンネル及び全アーカイブの削除が行われ、インターネットの伝説となった御伽原江良。 ...
社会問題

【社会評論】消費社会から創造社会になり「何者か」になるのがますます難しくなった現代社会の悪辣さについて

1981年のベストセラーといえば田中康夫の「なんとなく、クリスタル」でしょう。 そこで描かれたのは、ブランド品を身に着け、お洒落な飲食店で食事をするなどの消費行動を通じて自己顕示欲を発散する若者たちの姿。 その様子を赤裸々に描き出したことで文藝賞を受賞し、ミリオンセラー作品となりました。 堕落した消費ばかりに感けて保守的な倫理観を失い、創造性・生産性に欠ける行動ばかりをしている。 そんな若者たちの在り方には批判も多く寄せられたようですが、当時の若者たちのほうが「何者かになる」という意味では現代の若者よりも幸福を享受できていたのだと個人的には思います。 誰もが名前を知っているブランド品を身に纏い、雑誌を読み込んで流行を追いかけてさえいれば、自分のアイデンティティが保たれ、周囲からも承認される。 自尊心や承認欲求を比較的保ちやすい社会だったのだな。 それが1981年の若者社会に対する私の率直な感想です。 時代の流行というものは移り変わるものであり、現代の若者には脱物質主義的な価値観が横行していて、モノ消費よりコト消費、という言葉も散見されま...
ドラゴン桜

「ドラゴン桜2」三田紀房 評価:3点|丸くなって復活した現代風教育漫画【青年漫画】

2007年に完結した「ドラゴン桜」の続編。 人気ドラマとなった前作に続き、本作もドラマ化されております。 低偏差値の高校生を画期的な方法で東大合格に導いていくカタルシスが絶妙だった前作とは違い、本作で東大を受験する生徒たちは偏差値50前後のいわば中偏差値な高校生たち。 しかも、東大合格に導く手法もアプリの活用であるなど「現代風」に媚びてしまっているのがやや破壊力不足に感じました。 普通の高校生が一年間頑張れば東大に合格することができる、をコンセプトにしているようですが、設定が丸くなったぶん展開も丸くなり、常識破りの方法で驚かせると言うよりも、現代の常識を伝える漫画になってしまっています。 それゆえ、やや漫画としての面白さには欠けると思ってしまった次第です。 ただ、現代における教育についての啓蒙漫画としてはそれなりによく出来ており、特に家庭教育についての助言や「勉強」の先にあるもの、現代社会を生きるうえで必要な「勉強」以外のスキルについての言及は示唆的であると思います。 (14巻までを読んだ感想です) あらすじ 桜木健二の活躍により...
島本理生

「ナラタージュ」島本理生 評価:2点|美しい文章と陳腐な少女漫画風の物語【恋愛純文学】

恋愛小説家として著名な島本理生さん。 高校在学中に「シルエット」で群像文学新人賞優秀賞を獲得して純文学文壇にデビューした若き俊英であった一方、2018年には「ファーストラヴ」で直木賞を獲得するなど、エンタメ小説家としての顔も持ちながら長きに渡って一線で活躍している作家です。 そんな島本さんの作品の中でも、おそらく一番有名なのが本作でしょう。 「この恋愛小説がすごい! 2006年版」で第1位、「本の雑誌が選ぶ上半期ベスト10」で第1位、本屋大賞で第6位を獲得した作品で、著名な文学賞を獲得したわけではないものの、島本さんの代表作として挙げられることが多い作品です。 それゆえ、期待を持って読んでみたのですが、期待はずれだったというのが正直な感想。 文章表現の美しさはさすがと言わざるを得ない一方、陳腐な少女漫画風の物語は面白みもなく鼻につきます。 あらすじ 主人公は女子大学生の工藤泉(くどう いずみ)。 ある日、高校時代の恩師である葉山貴司(はやま たかし)から、演劇部の人数が足りないので助っ人として公演に出てくれないかと誘われる。 泉...
☆☆☆(教養書)

「教養としての大学受験国語」石原千秋 評価:3点|論説文から読み解く近現代社会【国文学教養書】

2000年に筑摩書房から発売された新書で、著者は早稲田大学教授の石原千秋氏。 「この本は、大学受験国語の参考書の形をとった教養書である」 本書冒頭の言葉であり、本書の性質をよく表現した文章となっている。 テーマごとに2つずつの論説文の過去問が紹介され、著者が解説しながら解いていくという形式で本書は進行していくという構成。 精選された論説文と、その解説の中で表現される「近現代社会というものを国文学者たちはどのように考えているのか」という思考枠組みが本書の核心となっている点が面白いところ。 つまり、近現代社会を分析する視点がなければ大学受験国語を解くことはできないため、大学受験国語の参考書は必然的に近現代社会分析の解説になる、というわけである。 本記事では本書の教養書としての側面を重視し、紹介されている論説文の中から印象に残ったものを取り上げて感想を述べていく。 目次 序章 たった一つの方法 第一章 世界を覆うシステムー近代 第二章 あれかこれかー二元論 第三章 視線の戯れー自己 第四章 鑑だけが知っているー身体 ...
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