テレビドラマの面白さについては、脚本や演出の力が強く影響するため、名だたる俳優が出演していてもコケるドラマが後を絶ちません。
とはいえ、近年のヒット作(「半沢直樹」や「逃げ恥」など)は素晴らしい原作があってこその産物であり、テレビ局の手腕がどの程度だったのかには疑問がつきます。
脚本をつくり、機材とキャストを集めて、撮影許可をとって、という膨大な先行投資が必要だからこそ巨大な法人でしかできないという商業上のモート(堀)があるため、いまだにドラマという分野では独占が効いているだけなのかもしれないとも思います。
実際、NETFLIX発のドラマもヒットし始めていますし、YouTubeを中心に活動するドラマ製作法人が出現するようなことがあれば、ドラマという戦場でもテレビは勝てなくなっていくでしょう。
だからこそ、もし、テレビ局がこれから「企画」の力でYouTubeに勝とうと思えば、出演している人々が面白いことを前提としない番組づくりが求められるのではないでしょうか。
それがどんな番組なのかは想像もつかないですが、一般人が想像もつかないようなやり方で革新を起こし続けなければ事業は存続しない、という当たり前の競争にテレビ局がいま初めて直面しているのだと言えるでしょう。
もう一つ、テレビでは実現できなかったこと
「広告」から少し話がずれてしまいましたが、YouTubeがつくりだした「広告」スタイルによって新しく恩恵を受け始めた人々のことをここで話したいと思います。
その人々とはつまり「クラスで一番面白いやつ」です。
インターネット以前の世界ではテレビが、インターネット以降の世界ではインターネットが、それぞれ主流の娯楽であり、多くの人々と共有できる話題だったはずです。
しかしながら、それと同じくらい、あるいはそれ以上の娯楽をいまも昔も人々に提供し続けている存在のことを忘れるわけには行きません。
その人々とは「クラス/学校/職場で一番面白いやつ」です。
私たちの周囲にいつも存在していて、ローカルな共有知識やその場の文脈を上手く利用しながら「ライブ」で私たちを楽しませてくれていた存在。
YouTube以前の時代、彼らが金銭的報酬を得ることはできませんでしたし、承認欲求についても非常に狭い範囲での人気を得るに留まっておりました。
クラス・学校・職場で一番くらいの人間では、テレビに継続して出演することは難しく、「芸能界」は突出したスター以外に活躍の場を渡さないオールorナッシングの世界だったといえます。
しかし、YouTubeの登場で「芸能界」はすっかり様変わりしたと言えるでしょう。
YouTubeでは人気に比例して報酬を得ることができます。
クラスや学校、職場で一番面白い人ならば、YouTube上では、クラスや学校、職場を超える人数の人気を集め、小さいながらそれなりのコミュニティをつくり、それなりの金銭的報酬を得ることもできるでしょう。
そして、視聴者もまた、膨大なYouTuberの中から、自分に合う「面白い人」を選ぶことができます。
(YouTubeにおいては演者の「親密感」が重要であり、小さなコミュニティで筆頭ファンになることもファンにとって素晴らしい快感になっているという点が重要です)
企画なんて凄くなくても、予算なんてゼロでも、クラス・学校・職場で一番面白い人が爆笑を運んでくれてきていたことを思い起こせば、そういった人々がミドル〜スモール芸能人として継続して活動する環境というものが、いかに動画エンタメを独占的に供給してきたテレビにとって脅威なのかは察するに余りあります。
「クラスで一番面白い人」の芸こそ、教室の中で「テレビの話題」と可処分時間の争奪戦を繰り広げてきた最大のライバルなのですから。
放送チャンネルと放送時間が限られている以上、ごく一部のスター以外を完全に切り捨てなければならないテレビの構造では彼らをリクルートすることが難しく「自分にとっては面白い、YouTubeの隅で活動するローカルタレント」こそ、まさにテレビにとって真似できない「タレント」たちです。
(「クラスで一番面白い」に限らず、歌が上手い、お化粧が上手い、などでも良いでしょう)
まとめ
話が二転三転してしまいましたが、結局「広告を引っ張ってきて広告料を出演者に配る」という部分こそがテレビ局の持っていた競争力の本質である(企画力とかではない)、ということに意識的にせよ無意識的にせよ気づいたYouTubeの慧眼は地味ながらとてつもないということが本稿のメインテーマです。
当たり前のことのように見えるかもしれませんが、ニコニコ動画をはじめ様々な動画共有サイトやポータルサイトが失敗し続けてきた歴史を振り返ると、結構、画期的なことだったのではないかと思います。
ここから既存のテレビ局がYouTubeを逆転することはなかなか難しいように思いますが、TikTokやSHOWROOM、はたまた海外の別サービスがYouTubeを逆転することはあり得ると思いますし、放送法が改正されてテレビ業界への自由参入が認められればまた自体は動くかもしれません。
平成時代にがらりと変わったエンタメ界の潮流が令和時代にどう変わっていくのか、非常に楽しみです。
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