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「アイの歌声を聴かせて」吉浦康裕 評価:2点|AI搭載の転校生がもたらす波乱万丈の青春学園物語【アニメ映画】

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アイの歌声を聴かせて
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いかにもアニメ的で非現実的な恋愛沙汰であったり、いかにもアニメ的で非現実的な部活動の試合と勝敗にまつわるエピソードが挿入され、悪くはないけれど取り立てるほどの美点もないアニメ映画の様相を呈します。

実際、そういう凡庸な展開を招いてしまうくらい、シオン以外の登場人物があまりにもアニメステレオタイプすぎるんですよね。

イケメンで勉強も運動もできるけれど、熱中できることがない自分に虚無感を抱いている後藤定行(ごとう さだゆき, ゴッちゃん)。

そんなゴッちゃんのことが好きな、スクールカースト上位女子の佐藤綾(さとう あや,アヤ)。

練習熱心で単細胞で直情的な柔道部員、杉山鉱一郎(すぎやま こういちろう,サンダー)。

電子工作部員で学校の監視カメラをジャックできるほどの専門知識を持つ、サトミの幼馴染である素崎十真(すざき とうま, トウマ)。

この四人がそれぞれ持っている個性も、この四人の関係性も、現実世界における学校生活の生々しさが一切ありません。

そのため、本作における学園物語に対して視聴者が感情移入し、あたかも出来事を自分事のように捉えて没入していくことはできないだろうと感じられます。

百歩譲って非現実的なアニメ感は受け入れるとしても、一介の高校生に過ぎないトウマが、最新科学の粋を集めたAI実験都市に存在する高校の監視カメラシステムを簡単にジャックできているのは物語の内部設定とも矛盾しており、物語設定の重大な欠陥だと言えるでしょう。

その程度の技術で運営されている「AI実験都市」ってなんなの、と思いますし、物語の都合に合わせてシオンのような超高性能AIが出てきたと思ったら、一方では高校生にジャックされるほどのポンコツ監視カメラが出てくるのでは、物語中でいかに高度なAI技術の話をされても説得力がなくなってしまいます。

しかも、トウマは作中において、星間エレクトロニクスの最新技術が詰め込まれているはずのシオンにさえ技術的な細工をするのです。

それほどの天才ならば高校生の年齢でも何らかの形で世界的な脚光を浴びているはずで、少なくとも電子工作部の片隅にいるわけがありません。

さて、そんなつまらない学園編が中盤の前半を構成しているのですが、中盤の後半以降は物語の中心に星間エレクトロニクスという企業の存在が本格的に現れます。

サンダーが柔道の試合に勝利したことを記念してサトミたち6人は祝勝会を開きます。

しかし、その夜、シオンが勝手に学校を脱走していることを星間エレクトロニクスが嗅ぎつけ、シオンは無慈悲にも星間エレクトロニクスに回収されてしまうのです。

シオンが処分されてしまうかもしれない。

そんな事態を危惧した5人はシオン奪還作戦を立て、星間エレクトロニクス本社に突入。

終盤では救出劇の顛末と、シオンに搭載されているAIが開発者である悟美の母親さえも予期していなかったような珍妙な行動様式をなぜ最初から持っていたのか、という謎についての真相が明かされます。

結局、大人の世界が「悪」であり、それに対して子供なりに派手なアクションで反逆するという枠組みで物語が進んでいってしまったことは非常に残念。

義憤に駆られた少年少女が「敵」である大人たちが巣食う高層ビルに侵入してドタバタ劇を繰り広げる、なんて展開は「AI搭載ロボットが転校生としてやってくる」物語でなくてもできますし、それ自体に全く新鮮味もない陳腐で使い古された場面の連続でしかありません。

(それこそ「君の名は。」終盤における発電所爆破と一緒ですよね)

シオンに搭載されているAIの奇妙な挙動の真相も、トウマが小学生のときサトミのために製作したプログラムがネットワーク上を彷徨った挙句、最終的にシオンの身体へと到達していたというもの。

理屈は理解できますが、だからどうしたのだ、という感想しかありません。

論理的な整合性がとれていることと、物語として面白かったり深かったりすることは違うということの典型例のような設定であり、いったい、どう感動させるつもりだったのかと思ってしまいます。

最終的にシオンのAIプログラム自体を宇宙に飛ばしてしまうという展開は、衝撃的といえばそうですが、そこもやはり、スケールの大きさというもの以上の、心理的・情緒的に感じ入る要素がないのです。

高校生たちと変わり者のAI搭載ロボット転校生が繰り広げる物語としては、大失速し続けた作品であると思います。

(高校生の恋愛を描いて、それっぽい光の描写をして、大人たちにささやかな挑戦をすれば「君の名は。」になると考えているのではないかと疑いたくなります)

さて、ここまでは本作の表物語である高校生学園ものの筋書きについて感想を述べてきましたが、ここからは本作が描くもう一つの物語である、天野美津子(あまの みつこ)の物語に注目していきます。

サトミの母親である美津子は星間エレクトロニクスの研究室に勤めるエリート技術者という設定。

男社会の中で嫌がらせなどを受けながらもそれを跳ね除け、出世街道を歩んできた人物です。

夫とは離婚しており、一人娘であるサトミとの二人暮らしではサトミが家事全般を担っています。

二人の関係はいわば「友達親子」のような関係で、対等な関係と表現すれば進歩的で聞こえが良いかもしれません。

しかし、家事全般をサトミに担ってもらいつつ、仕事関係で弱ったときにはサトミに励ましてもらうという美津子の在り方は旧来的な猛烈サラリーマンと専業主婦家庭の夫側的な姿に過ぎず、娘による「内助の功」をバネにバリバリと仕事をこなす姿を尋常なものだと受け取る視聴者は少ないでしょう。

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