【海外エンタメ小説】おすすめ海外エンタメ小説ランキングベスト7【オールタイムベスト】
短編集
「雪の峠・剣の舞」岩明均 評価:3点|儚く厳しい戦国時代を生きる人間たちのドラマを描いた佳作中編集【歴史漫画】
「寄生獣」や「ヒストリエ」で有名な漫画家、岩明均さんが著した歴史漫画です。単行本には表題の中編二編が収録されており、前者は戦国末期に有力大名だった佐竹家で起こった「川井事件」というお家騒動、後者は疋田陰流という剣術流派の祖となった疋田文五郎がまだ戦国大名である長野家に仕えていたときに起こった架空の少女ハルナとの交流を描いた作品となっております。のちに「ヘウレーカ」や「ヒストリエ」といった漫画によって歴史漫画家としての地位を盤石にする岩明均さんというだけあって、史実をもとにしながらも起伏に富んだエンタメを提供する漫画となっており、安心感のある面白さだったという印象。強烈に刺激的な感動、というわけにはいきませんが、演出や構成力の巧みさと読み易さを両立した佳作に仕上がっております。あらすじ・雪の峠関ヶ原の戦いで西軍についたため、常陸国(概ね現在の茨城県に相当)を長らく統治していた名門大名佐竹家は出羽国(現在の山形県と秋田県に相当)へ転封となってしまう。新領地にて新たな居城を建築することになった佐竹家だが、当主である佐竹義宣は家老たちの意見を軽んじ、新参者で若手の渋江内膳の意見を重用するのだっ...
「涼宮ハルヒの動揺」谷川流 評価:2点|伝説的なライブ回の原作から長編に繋がる布石編までを収録したサブエピソード集【ライトノベル】
中短編集だった第5巻「涼宮ハルヒの暴走」に続く第6巻ですが、本作も中短編集となっております。内容としても前作と同様、夏・秋・冬を中心とした作品が収録されており、長編でいえば「涼宮ハルヒの溜息」や「涼宮ハルヒの消失」の前後に起こった話となっております。感想としては、見どころのある話とそうではない話の差が大きく、それらを平均して評価2点(平均かそれ以下の、凡庸な作品)をつけております。なお、第1巻及び前作(第5巻)の感想はこちらです。あらすじ・ライブアライブついにやって来た文化祭当日。艱難辛苦の末になんとか撮影及び編集を終わらせたSOS団映画「朝比奈あさひなミクルの冒険 Episode00」の上映を尻目に、主人公であるキョンは自分なりの文化祭を楽しんでいた。そんなキョンがふと訪れたのは講堂であり、そこでは数々のバンドが出演するライブが行われている。騒々しいロックバンドが退場したのち、現れたガールズバンドの構成員にはなぜかSOS団の団長である涼宮すずみやハルヒと、その団員である長門ながと有希ゆきの姿があり......。・朝比奈ミクルの冒険 Episode00バニーガールスタイルで商店街の宣伝...
「涼宮ハルヒの暴走」谷川流 評価:2点|無限ループする夏休みに絶体絶命のゲーム対決、そして吹雪の洋館からの脱出劇、SOS団の日常を描いた中編集【ライトノベル】
シリーズ最高傑作と名高い第4巻「涼宮ハルヒの消失」に続く第5巻が本作です。主人公及びヒロインが所属するSOS団の日常(といっても突飛な事件やイベントに巻き込まれる物語ばかりですが)を描いた中編が3編収録されており、それぞれ、夏、秋、そして冬を舞台とした作品になっております。「涼宮ハルヒの消失」がクリスマス前からクリスマスにかけての話だったので、夏と秋の話は前作よりも時系列的に前の話であり、こうしたランダムな刊行順もこの「涼宮ハルヒ」シリーズの特徴だといえるでしょう。さて、そんな本作の感想ですが、中短編集だった第2巻と同様、本作も「涼宮ハルヒ」シリーズに登場するキャラクターが好きな人に向けた中編集となっており、それぞれの作品を単独で見た場合に物語的な美点があるかといえばそうでもない話ばかりだったという印象です。それゆえ、本作を楽しむためにはキャラクターがはしゃいでいるのを見守るといったような読み方がどうしても必要となるでしょう。また、アニメ化の際に良くも悪くも話題となった「エンドレスエイト」も収録されておりますので、原作とアニメの両方を鑑賞して違いを楽しむといった読書方法も悪くはないかも...
「タコピーの原罪」 タイザン5 評価:2点|凄惨な環境で過ごす少女と、救済を図る無能な異星人、皮肉な展開と仄かな希望【短編漫画】
集英社が運営しているweb漫画サイト「ジャンプ+」に連載されていた作品。全16話の短期連載ながらインターネット上で好評を博して多数のPVを獲得、上下巻にて単行本化された漫画です。いじめられている少女の前に、宇宙から来た「タコピー」というマスコットキャラクターのような生き物が現れ、少女を助けようと奮闘するという物語。そう紹介すると聞こえがよいのですが、実態は真逆で、少女たちが抱える背景の陰惨さと、「タコピー」の無能ぶりによって悪いほう悪いほうへと事態が進行していくというサスペンス調の展開が特徴となっております。全体的な評価としては、発想は面白いと感じたのですが、いかにも漫画的な「ベタ」さが多く、とりわけ深刻に描かなければならないはずの、登場人物たちの家庭環境の酷さがステレオタイプだった点が惜しいと感じました。物語の枠組みは悪くないのですが、細部に工夫がないために凡庸だと言わざる得ない作品です。あらすじ小学四年生の久世しずか(くぜ しずか)が公園で出会ったのはタコのような形をした謎の生き物。しずかによって「タコピー」と名付けられたその生き物はパンを恵んでくれたお礼をしたいと申し出るが、タコ...
「ルックバック」 藤本タツキ 評価:4点|二人の創作者が歩んだ青春の記録、創作が持つ異形の力を添えて【短編漫画】
「チェーンソーマン」の大ヒットによって一躍名を馳せた漫画家、藤本タツキさんによる約140ページの短編漫画です。集英社が運営するweb漫画サイト「少年ジャンプ+」に掲載されるとたちまちSNSで大反響を巻き起こし、「このマンガがすごい!2022」においてはオトコ編で1位を獲得するなど、短編漫画ながら飛ぶ鳥を落とす勢いのヒットとなった作品。書店で単行本を手に取ったときも、その薄さと本体価格440円という安さに驚いたもので、いわゆる「読切」がここまでのセンセーションを巻き起こしたのかと思うと感慨深いものがありました。しかもその内容が、あまり「ジャンプ」らしくないヒューマンドラマとなっているのも注目するべき点でしょう。お調子者でギャグ漫画が得意な藤本と、不登校で背景画の天才である京本。二人の劇的な出会いと別れ、夢を追うこと、友情の価値、そして「創作」という生業が持つ凄まじい力。それらのテーマが、とても温かく、それでいて物悲しく描かれている傑作漫画です。あらすじお調子者の小学四年生、藤野歩が最近嵌っていることといえば、学年新聞に自分の描いた四コマ漫画を連載すること。小学四年生にしては上手い絵と、や...
【短編アニメ】おすすめ短編アニメランキングベスト5【オールタイムベスト】
本ブログで紹介した短編アニメの中からベスト5を選んで掲載しております。第5位 「つみきのいえ」加藤久仁生 12分【絵本のような作風が特徴の人生を考えるアカデミー賞受賞作】・あらすじ海面の上昇著しく、多くの人が去ってしまった街。おじいさんは積み木のように上へ上へと家屋を増築しながらこの街に踏みとどまっている。そんなおじいさんはある日、お気に入りのパイプをせり上がってきた水面に落としてしまう。沈んでいくパイプを取りにいこうとダイビングを敢行するおじいさん。無事、パイプを拾って一安心のおじいさんだが、突如、彼の目の前には懐かしい光景が広がって......。・短評2008年にアカデミー賞の短編アニメーション部門を受賞した作品です。日本の作品では現在のところ最初で最後の受賞作となっております。全体的な特徴としては、絵本のような作品で、かつて「みんなのうた」でよく見た画風に近い印象です。これまで増築してきた家を、今度は下へ下へと潜りながらおじいさんが思い出を辿っていくというストーリー。いまは亡きお婆さんを介護している場面から始まり、二人の子供の結婚と出産、二人の若き日と出会い、まだ「地上」があった...
「地球から来た男」星新一 評価:2点|唯一無二の超短編作家による手軽で不思議な物語【ショートショート作品集】
「ショートショートの神様」として知られる星新一さんの作品集。ショートショートを精力的に発表し続けた異端の作家であり、1957年デビューでありながら現在においてもその作品群は根強い人気を誇っております。日本経済新聞社が毎年開催している小説新人賞「星新一賞」に名前を冠していることもその証左だと言えるでしょう。文学賞の受賞こそ2度(日本推理作家協会賞・日本SF大賞特別賞)と少ないですが、刊行された作品集の数は膨大で、漫画化やドラマ化されたメディアミックス作品も枚挙に暇がありません。そんな星新一さんの作品集の中でも、本作は2007年に角川文庫から発売された比較的新しい作品集です。SF色の濃い表題作から、ミステリ仕立ての作品、あるいはヒューマンドラマに重きを置いた作品など、バラエティ豊かな内容となっておりました。あらすじ・地球から来た男産業スパイとして活躍していた男だが、ある日、潜入先で産業スパイであることが暴かれてしまう。口封じのため、特殊な装置を使って遥か遠くの惑星に飛ばされてしまった男。しかし、男の眼前には「地球」そっくりの光景が広がっていて……。・包み五十歳を超えても貧乏画家である男の家...
「茄子」黒田硫黄 評価:2点|気だるげな雰囲気の中で描かれる奇妙な日常が不思議な感情を揺り起こす【漫画短編集】
「月刊アフタヌーン」で2000年から2002年にかけて連載されていた作品。タイトルが「茄子」だけというなんとも不思議な漫画ですが、名は体をしっかりと表しており、野菜の「茄子」が出てくるのであればどんな物語でもよい、という制約のもとで書かれた短編集となっております。こういった短編集を出すくらいですから、著者の黒田硫黄さんはいくつか著作がありながらもそれほどメジャーな漫画家ではありません。それでも「セクシーボイスアンドロボ」くらいは聞き覚えのある人もいるのではないでしょうか。第6回文化庁メディア芸術祭のマンガ部門で文部科学大臣賞を受賞しており、松山ケンイチさん主演でテレビドラマ化もされています。本作の内容に話を戻しますと、ありがちなマイナー漫画だなぁという印象。全体的に気たるげな雰囲気が漂い、ちょっと変わった人たちがちょっと変わった行動をする様子が淡々と描かれるという作品です。私としては可もなく不可もなくですが、漫画好きでなければつまらないと思ってしまうかもしれない、というのが全体的な感想ですね。あらすじ〇3人(前後編)田舎でのんびりと茄子農家を営む男性のもとに、ある日、二人の子供が訪れて...
【たおやかなインド系アメリカ文学】小説「停電の夜に」ジュンパ・ラヒリ 評価:2点【海外文学】
インド系アメリカ人の作家、ジュンパ・ラヒリさんの小説。「インド系アメリカ人」という点がこの作家の特徴を端的に表しておりまして、アメリカに住むインド移民を主人公とした作品でアメリカ及びインドでも著名な作家となっております。優れた筆致は確かで、評価は3点をつけようとも思ったのですが、そこに至るにはやはり、小説(=フィクション)としての面白さがやや欠けているように思われました。描写や題材の選択は巧みなのですが、あくまで人生や日常の印象的な一場面を切り取った以上のものがなく、優れたノンフィクション(伝記・ドキュメンタリー・エッセイ)で代替できてしまう印象です。あらすじ・「停電の夜に」シュクマールとショーバは夫婦であるものの、その間にはすきま風は吹いている。激しく対立するのではなく、お互いに不穏な空気を抱えながらも、それを口に出さず、上滑りするような会話と日常を過ごしていた。そんなある日、計画停電の通知が二人の住む家に届く。電気のない、暗い夜。二人はテーブルを挟み、少しだけ踏み込んだ会話をする。ささやかな隠し事を打ち明けあう二人。少しだけ近づいた距離感で、それぞれが最後に明かすこととは........
【幻想怪奇譚】漫画「天人唐草」山岸凉子 評価:1点【漫画短編集】
「日出処の天子」等の作品がある山岸凉子さんの自選作品集。表題作にもなっている「天人唐草」は彼女の代表作に数えられることが多いようです。ただ、少女漫画界の古豪的な地位にある著者の作品ということでしたが、私には合いませんでした。読解力が足りないからか、起伏のない凡庸なストーリーラインに投げっぱなしのオチが付いているだけのように感じてしまいます。あらすじ幼いころから厳格で旧い価値観の父に育てられてきた岡村響子。その教育のせいもあって自分を過度に抑制するようになってしまい、学生時代、そして社会人になっても男性とうまくコミュニケーションをとることができない。そしてついに、職場で憧れていた男性が自分とは真逆の気質をもつ女性と結婚してしまう。そんな響子のもとに、父親が倒れたとの一報が飛び込んでくる。慌てて父のもとへ向かう響子。しかし、呼ばれた先で響子が目にしたのは、あの表面上は厳格だった父の意外な素顔だった......。(表題作「天人唐草」)その他4つの短編を収録。感想全体的に「ベタ」過ぎるか「あり得なさ」過ぎる話しかないんですよね。表題作の「天人唐草」は厳格過ぎる父に育てられた女性の話ですが、父の...
「ぼくらのウォーゲーム!」細田守 評価:3点|情熱と技巧と夏の切なさが詰め込まれたデジモン映画の佳作【アニメ映画】
人気シリーズ「デジモンアドベンチャー」の映画2作目。いまでは著名となった細田監督が指揮した作品です。アニメファンからの高評価を聞いて試聴してみましたが、40分と短い中で冒険アニメの良さを存分に引き出した作品だと感じました。あらすじデジモンたちと別れ、それぞれの生活を楽しむ太一たち。しかし、西暦2000年の春休み、ネット上で生まれた新種デジモンがまたたく間に進化。NTTからアメリカの軍事機関まで、ありとあらゆる場所を侵食していった。このデジモンの暴走を止めるため、パートナーのデジモンたちと一緒に再び戦いへと身を投じる太一たち。あまりにも凶悪なデジモンとの戦いは熾烈を極め、そしてついに、謎の新種ポケモンは核ミサイルを発射させてしまう。ミサイルが着弾されるまでの時間は10分間。太一たちは世界を救うことはできるのだろうか......。感想非常に巧妙で感動的な映画でした。「大量に送られてくる応援の名を借りた迷惑メール」を最後に武器として活かす展開は意外性がありながら少年向けアニメの王道でもあって胸を打たれます。また、空と太一の関係性も絶妙。アニメの趣旨を理解した、恋愛をバトルに持ち込ませないよう...
「檸檬」梶井基次郎 評価:2点|詩情溢れる耽美で大胆な短編集【純文学】
詩情豊かな作風で日本文学史に名を残す梶井基次郎の短編集です。梶井の代表作であり、表題作ともなっている「檸檬」。人気のライトミステリシリーズのパロディ元にもなるなど引用されることが多い「桜の樹の下には」。教科書にも採用され、目にしたことのある人も多いであろう「Kの昇天」。独特な感覚による日常の観察と、清新さと陰翳を併せ持つ文体に酔わされます。あらすじ「檸檬」肺病に苦しみ、借金取りに追われる男は、日常の何もかもを楽しめないでいた。そんな時、男は果物屋でレモンに魅入られる。そのレモンを買い、丸善に向かった男がとった行動とは......。「Kの昇天」ある日、「私」はK君が溺死したとの手紙を受け取り、かつてK君と過ごした 1ヶ月ほどの期間を思い出す。K君は砂浜で、下を見ながら行ったり来たりを繰り返していた。月の夜に自分の影を見ていると、だんだんと影が人格を持ち始め、本当の自分は月へ昇っていくような感覚になるという。そう、K君はついに月に昇りきったのだ。「私」はそう直感する。「桜の樹の下には」桜の樹の下には屍体が埋まっている。桜が醸し出す幻覚のような神秘的雰囲気を不思議に思っていた主人公はその原因...
「O・ヘンリ短編集」O・ヘンリ 評価:3点|短編の名手が贈る風格と哀愁の作品集【海外文学】
第一巻19世紀に活躍した短編の名手、O・ヘンリの作品集。アメリカの都会に生きる人々の哀愁と情緒あふれる生活がシニカルさと人情味をもって描かれている、そんな作品たちでした。あらすじ「緑の扉」ルドルフ・スナイダーは街を歩いているとき、チラシ配りの男から「緑の扉」と書かれたチラシを受け取った。不審に思いもう一度チラシ配りの前を通ってみるが、やはり他の人とは違い、自分にだけそのチラシは配られる。周囲を見渡し、緑の扉のアパートを発見したスナイダー。彼がドアを開けると、そこには女性が倒れていて.....。「ハーグレイブズの一人二役」ワシントンのある家に間借りしているのは、南部出身の堅物、トールボット少佐。そのあまりに古風なふるまいを周囲は嗤うのだが、ただ一人、 ハーグレイブズ青年だけは彼の昔話を熱心に聞いていた。感心するトールボット少佐だったが、ある日、トールボット少佐が劇を見に行くと、そこにはおもしろおかしく少佐の真似をする役者ハーグレイブズがいて......。以上2編を含む16編を収録。感想どの話もウィットが効いていて非常に面白いです。人間のちょっと間の抜けたところや勘違い、思わぬ行き違いなど...