家族

吉本ばなな

「キッチン」吉本ばなな 評価:2点|天涯孤独の身となった女子大学生を包む「家族」の愛情【恋愛純文学】

1980年代後半から1990年代前半にかけてベストセラーを連発した小説家、吉本ばななさんのデビュー作。 第6回海燕新人文学賞を受賞した本作は、当時としては斬新な文体と物語の質感によって文壇に大きな議論を呼び起こし、短編ながら1989年の年間ベストセラー総合2位を獲得する出世作となりました。 その後も「ムーンライト・シャドウ」で泉鏡花文学賞(1988年)、「TUGUMI」で山本周五郎賞(1995年)を獲得するなど、まさに一世を風靡した時代作家となっていったわけです。 また、父親が著名な思想家の吉本隆明氏だったという点も当時注目されたようです。 そんな本作ですが、いまとなってはやや凡庸な、それどころか悪い意味で商業的な少女漫画の陳腐さを持った作品に感じました。 柔らかいのだけれど張りつめた強さもあるような、そんな独特の言葉遣いによる表現力は確かに印象的で評価できますが、しばしば「死」に頼る設定や、あまりにご都合主義的な展開はそれほど魅力的ではないように感じられます。 あらすじ 大学生の桜井みかげは早くに両親を失い、祖父母のもとで育てられてきた。 ...
三浦綾子

「氷点」三浦綾子 評価:3点|「汝の敵を愛せよ」ならば、娘を殺した犯人の子供を引き取ってみせる【古典純文学】

キリスト教文学の名手である三浦綾子さんのデビュー作にして代表作。 1963年に朝日新聞社が開催した、賞金1000万円の懸賞小説にて見事当選を果たした作品です。 現在よりも遥かに物価の低い1963年に賞金1000万円の賞を獲った作品ということで、非常に注目を浴びました。 圧倒的な前評判を背負って出版された本作でしたが、期待を裏切ることはありませんでした。 素晴らしい売り上げを見せつけた末に何度もドラマ化され、大人気番組となる「笑点」のタイトルも本作から取られるなど、当時の国民的ベストセラーとなります。 そんな作品を令和の今日なって読んでみた感想ですが、サスペンス的なエンタメ性を備えつつも、テーマである「人間の原罪」について巧妙な掘り下げが為されている作品であると感じました。 旧い作品にありがちな冗長性は否めませんが、おそらく唯一無二であろう優れた設定と、そこから展開される痛切で悲哀に溢れる物語の様相が光ります。 まさに「氷点」を感じるような、冬の夜長にお薦めの作品です。 あらすじ 旭川にある辻口病院の病院長、辻口啓造(つじぐち けい...
アガサ・クリスティ

「春にして君を離れ」アガサ・クリスティ 評価:3点|良識のある人間として立派に生きてきた、それなのに、何か重要な事柄を見落としている気がする【海外純文学】

「ミステリの女王」の異名をもって知られ、「そして誰もいなくなった」「オリエント急行の殺人」「アクロイド殺し」「ABC殺人事件」など、いまなお人気の根強い名作ミステリを遺した小説家アガサ・クリスティ。 そんなクリスティが著した、ミステリではない作品がこの「春にして君を離れ」です。 ミステリ作家として名を馳せていたクリスティは敢えて別名義で非ミステリ小説を発表していたのですが、そんな非ミステリ小説群の中では本作が最も有名な作品となっております。 弁護士の夫を持ち、三人の子供にも恵まれた専業主婦が順風満帆だった「はず」の人生を振り返り、ささやかな疑問を抱くところから始まる物語。 普通よりも良い人生、常識的に考えて良いとされる人生を歩み続け、他者にもその「良識」を遺憾なく振りかざしてきた女性が、人生において本当に大切なことを少しだけ理解しかけて、けれども、その理解さえも心の奥で拒絶してしまう。 決まりきった人生が持つあまりの薄っぺらさと、それに半ば気づいていながら薄っぺらい人生に拘泥することの哀愁を描いた、ベタな題材ながら心に沁みる物語です。 あらすじ ...
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万引き家族

「万引き家族」是枝裕和 評価:2点|奇妙な絆で繋がる偽りの家族【社会派映画】

「誰も知らない」「そして父になる」など、社会派の映画監督として国内外で高い評価を受けている是枝監督の作品。 カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを獲得したことで日本国内でも一躍有名になりました。 リリー・フランキーさんや安藤サクラさんの名演でも知られ、2018年を代表する日本映画だといえるでしょう。 そんな本作ですが、個人的にはそれほどの名作とは思えませんでした。 社会問題にフォーカスすることが少ない日本映画では珍しく、家族の在り方や貧困問題を描いている社会派映画のヒット作ということで期待はしていたのです。 しかし、実際には単なる社会問題事例集に留まっていて、映画としての本作を面白くするような物語が存在しなかったと感じました。 個々の要素は良いのですが、それらの繋ぎ方や組み合わせ方によって物語に起伏を生み出すことに失敗しており、「映画」というよりは「映像集」になってしまっていた印象です。 あらすじ 舞台は東京。豪華絢爛な都会ではなく、団地や古い一軒家が並ぶ下町の一角。 そこには5人家族の柴田一家が住んでいる。 父の治は日雇い労働...
三田誠広

「いちご同盟」三田誠広 評価:3点|思春期の繊細な心情とその成長を描いた病室ボーイ・ミーツ・ガール【青春純文学】

1990年に出版された小説で、芥川賞作家である三田誠広さんの代表作でもあります。 中学校の国語教科書に掲載されていたほか、集英社のナツイチ(夏の100冊)にも長らく選ばれ続けていたので、タイトルをご存じの方も多いでしょう。 近年でも大人気漫画「四月は君の嘘」の作中でオマージュされるなど、長年にわたり根強い人気を誇り、様々な作家に影響を与えている作品となっております。 都市郊外に居住する核家族的な生活感が日本の文化的メインストリームとして定着し、そのうえ、熾烈な受験戦争で生徒たちの精神がすり減らされていた1980年代。 そんな時代に、自殺という選択肢に対して仄かな憧れを抱く少年と、不治の病で入院しており、死期が近い少女との、ひと夏の淡く切ない交流を描くという内容の小説。 長期入院している少女と、身体は健康だが心に悩みを抱える少年のボーイ・ミーツ・ガールという「病室もの」的なジャンルを開拓した小説でもあります。 勉強、スポーツ、生きるということ、死ぬということ、人生とは何か。 よく言えば普遍的、悪く言えば平凡な要素がテーマとなっており、物語構成と...
玄侑宗久

【介護と再生】小説「龍の棲む家」玄侑宗久 評価:1点【純文学】

臨済宗の僧侶にして芥川賞作家である玄侑宗久さんの作品。 母親に先立たれた父親が認知症となり、その介護を行う息子と、偶然の出会いからその介護を手伝うことになった元介護士の女性が主な登場人物。 僧侶らしい題材、とまで言ってしまうのは偏見かもしれませんが、現代らしい、地味ながら重大な介護という営為を通じて人間の出会いと成長を描いています。 とはいえ、その内容は予想以上に無風な物語で、それでいいの、と思ってしまうくらい盛り上がりに欠けます。 そもそもが落ち着いた題材とはいえ、ここまでドラマに欠けた面白みのない小説もないだろうと感じました。 あらすじ 父親が認知症になり、徘徊するようになった。 兄である哲也から電話でそう告げられた幹夫は、経営する喫茶店を閉じて実家に戻ることを決断する。 毎日行われる散歩という名の徘徊に付き添ううちに、ふと立ち寄った公園で幹夫は佳代子という女性と出会う。 以前は介護の仕事をしていたが、現在は無職だという佳代子。 父親とのコミュニケーションを巧みにこなす佳代子の姿を見て、幹夫は佳代子を介護士として...
☆☆☆☆(小説)

小説 「悲しみよこんにちは」 フランソワーズ・サガン 星4つ

1. 悲しみよこんにちは 20世紀後半に一時代を築いたフランスの小説家、フランソワーズ・サガン。その代表作が処女作である「悲しみよこんにちは」です。1954年に出版されるとたちまち世界的なベストセラーとなり、サガンをしてデビュー作でいきなり一流作家の仲間入りを果たさせた名作となっております。 そんな高い前評判に違わず、素晴らしい小説でした。非の打ちどころのない情景描写と心理描写に魅了されます。河野真理子さんの翻訳も絶品で、小説における美しさや切なさ描写の極致を極めた作品の一つと言っても過言ではないでしょう。 2. あらすじ 主人公のセシルは17歳。父親であるレエモンとの父娘家庭育ちである。といっても、レエモンは実入りの良い職業についていて、もう40歳を超えるというのにパリの社交界で女性をとっかえひっかえしている奔放な男性。そんな父に連れられ、セシルも遊びばかりを覚えてこの年まで育ってきた。 17歳の夏、セシルは父とともにコート・ダジュールの別荘を訪れている。父の愛人であるエルザとの仲は良好なうえ、海岸ではシリルという大学生と出会って恋仲になった。...
志賀直哉

小説 「暗夜行路」 志賀直哉 星1つ

1. 暗夜行路 「小説の神様」とまで称され、近代日本文学を代表する作家とされている志賀直哉。「城の崎にて」などの中短編で有名ですが、長編も一作だけ書いていて、それが本作「暗夜行路」。 日本文学を語るうえで避けては通れない作品ということで期待していたのですが、その期待は見事に裏切られました。典型的な拙い私小説という印象で、近代小説「黎明期」に、比較対象が少なかったから評価された作品なのだと思います。現代にも通じる普遍性はなく、現代の小説技術と比べて明らかに劣後しているため、物好き以外は読まなくてもよい作品でしょう。 2. あらすじ 主人公、時任健作は東京に住む小説家。といっても執筆にはなかなか気乗りせず、芸者遊びに興じるなど放蕩生活を送っている。 そんな暮らしから脱しようと、尾道への転居を決意した謙作。尾道での生活の中で、謙作は自分の気持ちを整理し、これまでずっと東京で身の回りの世話をしてくれていたお栄という女性に結婚を申し込むことを決意する。 しかし、兄である信行に結婚申込み依頼を頼んだところ、信行から衝撃的な事実が告げられる。謙作は謙作の...
谷崎潤一郎

小説 「細雪」 谷崎潤一郎 星3つ

1. 細雪 戦前から戦後にかけて活躍した小説家、谷崎潤一郎。いまなお評価が高く、ファンの多い彼の代表作ともいえる作品が「細雪」です。新潮文庫版は上中下巻の構成で出版されておりまして、執筆に4年を費やしたという大作。映画化3回、テレビドラマ化6回という数字が文学の古典ながら世俗にも通じる魅力をもった作品であることを表していますね。 やや冗長な表現や本筋から外れたエピソードなどが多いながら、やはり読みごたえのある作品だったというのが感想です。もちろん、そういった冗長さや寄り道部分を評価する人もいるでしょうから、私の星3つという評価が低すぎると感じる人はいても高すぎると思う人は少ないのではないのでしょうか。凋落しつつある旧家の娘が結婚相手を探すというストーリーは婚活全盛の今日においてむしろ示唆的ですらありますし、人物の描かれ方の今日との対比という点でも深く読み込んでいける作品だと感じました。 2. あらすじ(上巻) 時代は1930年代、蒔岡家の次女幸子は芦屋に暮らしていた。同居するのは夫であり婿養子でもある貞之助と、一人娘の悦子、そして蒔岡家の三女である雪子に、四女...
ジュンパ・ラヒリ

【たおやかなインド系アメリカ文学】小説「停電の夜に」ジュンパ・ラヒリ 評価:2点【海外文学】

インド系アメリカ人の作家、ジュンパ・ラヒリさんの小説。 「インド系アメリカ人」という点がこの作家の特徴を端的に表しておりまして、アメリカに住むインド移民を主人公とした作品でアメリカ及びインドでも著名な作家となっております。 優れた筆致は確かで、評価は3点をつけようとも思ったのですが、そこに至るにはやはり、小説(=フィクション)としての面白さがやや欠けているように思われました。 描写や題材の選択は巧みなのですが、あくまで人生や日常の印象的な一場面を切り取った以上のものがなく、優れたノンフィクション(伝記・ドキュメンタリー・エッセイ)で代替できてしまう印象です。 あらすじ ・「停電の夜に」 シュクマールとショーバは夫婦であるものの、その間にはすきま風は吹いている。 激しく対立するのではなく、お互いに不穏な空気を抱えながらも、それを口に出さず、上滑りするような会話と日常を過ごしていた。 そんなある日、計画停電の通知が二人の住む家に届く。 電気のない、暗い夜。 二人はテーブルを挟み、少しだけ踏み込んだ会話をする。 ささ...
さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ

「さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ」永田カビ 評価:2点|自分に自信がない状態を克服する再生物語【コミックエッセイ】

pixivで連載されていたコミックエッセイの書籍化作品。 「寂しさのあまり性体験をしたこともないのにレズ風俗に行く」というセンセーショナルな煽り文句と、その切実な内容のコントラストが魅力です。 あらすじ 大学中退後、精神的な病気を患い、アルバイトも長く続かなかった著者、永田カビ。 親との関係も上手くいかず、頭には「死」がよぎる。 「なにくそ、立ち直ってやる」。 そう意気込み、息苦しさから自分を解放するために選んだ手段。 それはレズビアン風俗に行くことだった。 生きづらい現代で自分に自信を持つとはどういうことか。 レズ風俗での体験を通じ、著者が自分として生きていく方法を掴んでいく物語。 感想 共感できる人とできない人が真っ二つに分かれる作品でしょう。 真っ二つになる基準は「自分に自信を持っているか否か」です。 非常に個人的な観点ですが、現代を生きる人々を敢えて二つに切り分けるならば、その基準として「自分に自信を持っているか否か」を使うのはかなり良いアイデアなのではないかと感じます。 そこには、個人の性格...
おもひでぽろぽろ

【おもひでぽろぽろ】郷愁感は十分だが物語としてはイマイチなスタジオジブリの駄作 評価:1点【高畑勲】

高畑監督によるスタジオジブリの映画作品。その他の作品と比べればマイナーですが、テレビ放送は8回を数えます。 主人公が少女時代を振り返るパートでは頷けるところもありましたが、全体の筋書きは首をひねってしまうものでした。 あらすじ 1982年の夏、タエ子は有休をとって姉の夫の実家に行くことにした。都会の喧騒を離れ、田舎暮らしをしてみたかったのだ。 山形に向かう新幹線に乗り込むと、タエ子の心に小学五年生の頃の思い出が浮かび上がってくる。 帰る田舎のない夏休み、初恋の相手、不味いパイナップルの味、演劇で活躍したこと、生理の話、父親に殴られたこと、貧乏な転校生の「あべくん」。 ありし日の姿と、東京のOLとして働く自分と、田舎の風景。 山形の農家としてタエ子を迎えるトシオとの関係。 タエ子の明日はどちらに......。 感想 小学生の頃の記憶は良いですね。家族の理不尽な感じがとても懐かしく感じます。 特に、パイナップルを食べるシーンで「不味い」と言いずらい雰囲気や、年少の者が押し付けられてたくさん食べる羽目になるのは辛い想...
森絵都

小説 「カラフル」 森絵都 星1つ

1.カラフル 人気の高い児童文学で、「産経児童文学出版文化賞」も受賞している本作。 著者の森絵都さんも著名な児童文学作家で、漫画化され、アニメ化予定もある「DIVE!!」や、直木賞を獲った「風に舞い上がるビニールシート」が有名です。 そうなると期待も高かったのですが、結果としては裏切られてしまいました。 2. あらすじ 理由はわからないが、「僕」は死んでしまった。そんな僕の魂がふらふらとさまよっていると、目の前にいきなり天使が現れ、こう告げる。 「あなたは大きなあやまちを犯して死んだ魂です。通常ならば輪廻転生から外されますが、抽選に当たったので現世に帰って再挑戦ができるようになりました」 そうして、「僕」は「小林真」という少年の身体にホームステイして暮らすことになった。しかし、この「小林真」の人生が一筋縄ではいかない。 父親は会社の上司が逮捕されて代わりに昇進することを喜ぶような利己主義者。母親は通っていたフラメンコ教室の教師と最近まで不倫しており、兄はいつも真に対して冷たい態度をとる。 そのうえ、学校では浮いており、美術部に所属する「超地味」な生徒とい...
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