映画/アニメ

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ガタカ

「ガダカ」アンドリュー・ニコル 評価:2点|「遺伝子操作なし」で生まれてきた男が抱いた宇宙飛行士になるという夢物語【アメリカ映画】

1997年に公開されたSF映画。遺伝子操作によって優秀な子供を意図的に授かることができるようになった時代に、遺伝子操作なしの「不適正者」として生まれてきたヴィンセント・フリーマン。彼が本来は「適正者」しか就くことできない職業である宇宙飛行士を目指し、宇宙へと旅立つそのときまでを描いた作品になります。人間に対する遺伝子操作の技術が実用化するのはまだまだ先のことかもしれませんが、出生前診断による選別や、人工授精を行う際の父親の経歴に対する選別など、実質的には「遺伝子(の組み合わせ)を選ぶ」ことが実現されている現在、1997年に本作が描いた「適正者」と「不適正者」から成る社会とそこにある差別の状況はいまなお時機を得ているといえるでしょう。また、結婚についての社会的流動性が少なくなりつつあり、資産家であり高収入者であり高学歴者である者が同じく資産家であり高収入者であり高学歴者である者と結婚する傾向が頓に強くなっているという傾向も、一種の遺伝子選別強化だと見なせるのではないでしょうか。自分に「相応しい」「見合う」人間を選んで結婚する、その循環が資産・美貌・運動神経を一極へと集中させる世の中が現れ...
万引き家族

「万引き家族」是枝裕和 評価:2点|奇妙な絆で繋がる偽りの家族【社会派映画】

「誰も知らない」「そして父になる」など、社会派の映画監督として国内外で高い評価を受けている是枝監督の作品。カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを獲得したことで日本国内でも一躍有名になりました。リリー・フランキーさんや安藤サクラさんの名演でも知られ、2018年を代表する日本映画だといえるでしょう。そんな本作ですが、個人的にはそれほどの名作とは思えませんでした。社会問題にフォーカスすることが少ない日本映画では珍しく、家族の在り方や貧困問題を描いている社会派映画のヒット作ということで期待はしていたのです。しかし、実際には単なる社会問題事例集に留まっていて、映画としての本作を面白くするような物語が存在しなかったと感じました。個々の要素は良いのですが、それらの繋ぎ方や組み合わせ方によって物語に起伏を生み出すことに失敗しており、「映画」というよりは「映像集」になってしまっていた印象です。あらすじ舞台は東京。豪華絢爛な都会ではなく、団地や古い一軒家が並ぶ下町の一角。そこには5人家族の柴田一家が住んでいる。父の治は日雇い労働者で、母の信代はクリーニング店のアルバイト。二人の給料と祖母である初枝の年金が一家...
アイの歌声を聴かせて

「アイの歌声を聴かせて」吉浦康裕 評価:2点|AI搭載の転校生がもたらす波乱万丈の青春学園物語【アニメ映画】

2021年10月29日に公開されたアニメ映画で、監督は吉浦康裕さん。「イブの時間」「アルモニ」「さかさまのパテマ」等の作品を手掛けた監督で、国内の映画祭では文化庁メディア芸術祭では複数回入賞しており、アニメ映画界隈では知られた存在です。そんな吉浦さんにとって久方ぶりの長編作品となる本作ですが、その内容は「イブの時間」 と同じく、吉浦さんのライフワークともいえる「AIとの共存」と「高校生学園もの」を掛け合わせた作品。序盤の展開こそAIという要素を活かした面白い側面も見られましたが、全体としては凡庸な青春学園物語だったという印象があり、ぎりぎり佳作とは言えない凡作だと感じました。あらすじ舞台は世界的な巨大企業「星間エレクトロニクス」のAI実験都市である景部市。極めて同質性の高い企業城下町となっており、市立景部高校に通う生徒の親はたいてい星間の関連企業に勤めているというほど。農業ではロボット田植え機が活躍し、市内を走るバスは無人運転など、AI実験都市らしい光景が日常に溶け込んでいる。そんな景部市に住む高校生、天野悟美(あまの さとみ)の母親も星間エレクトロニクスに勤めており、エリート研究員が...
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サマーゴースト

「サマーゴースト」loundraw 評価:3点|高校生たちと幽霊によるひと夏の不思議な経験【アニメ映画】

2021年11月12日に公開された上映時間40分の短編アニメーション映画です。監督はイラストレーターのlaundrawという方で、近年書店でよく見かけるようになった青春系ライト文芸の表紙イラストを多く手掛けている人物。やたらに青色で窓や空から光が神々しく射しているあの画風ですね。イメージとしては、以下のような小説の表紙が代表的だと言えるでしょう。また、脚本はエンタメ小説家として往年の売れっ子である安達寛高(=乙一)さんが務めており、イラストレーター出身者による監督と小説家出身者による脚本という野心的な意欲作となっております。上映館も多くない作品ですので、そこまで期待せずに観に行ったのですが、思っていたより良質な作品だったという印象。高校生たちが経験したひと夏の不思議な体験がさらりと描かれており、気軽に鑑賞するには十分な作品です。あらすじインターネットを通じて知り合った3人の高校生、友也、あおい、涼。特定の場所で夏に花火をすると現れるという幽霊「サマーゴースト」を呼び出すため、三人は空港の跡地へと向かう。滑走路の上で次々と花火を消費していく三人。やっぱり、単なる都市伝説だったのか。そう思...
作品の感想

「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」石立太一 評価:2点|戦争しか知らない少女は「愛してる」の意味を知りたい【ファンタジーアニメ】

第5回京都アニメーション大賞を獲得した同名小説を原作とする深夜アニメです。2019年及び2020年には映画も公開されており、2021年には金曜ロードショーでも放映されるなど、深夜アニメとしてはかなりの大ヒットを記録した作品となっております。また、2019年の映画は本作の制作会社である「京都アニメーション」が死者36名を出す放火事件からの復帰後第一作にもあたり、特にアニメファンのあいだでは無事公開されたというだけでも感動はひとしおだったようです。「京都アニメーション」といえば、古くは「涼宮ハルヒの憂鬱」や「けいおん」、最近では「響け!ユーフォニアム」といったヒット作を手掛けた会社として知られており、本作の美麗な作画にはその実力が存分に発揮されているといえるでしょう。そんな本作ですが「戦争しか知らなかった元少女兵が代筆屋としての職務を通じて人間らしい心情を理解し獲得していく」という物語の大枠そのものは個人的にも好みで、20世紀前半のヨーロッパ風な世界を舞台にしている点も気に入っています。ただ、一つ一つの物語(本作は一話完結形式です)の脚本や、キャラクターの性格はまさに深夜アニメのステレオタ...
機動戦士ガンダム

「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」村瀬修功 評価:2点|普遍的なサスペンスに見せかけたガンダムオタク向け作品【アニメ映画】

1979年から続く「機動戦士ガンダム」シリーズの最新映画で、1989年に発売された同名小説が原作となっております。いわゆる「ガンダム世界内の歴史」においては「逆襲のシャア」という映画の続編にあたり、初代ガンダム(ファーストガンダム)が宇宙世紀79-80年を描いた作品であるところ、本作は舞台は宇宙世紀105年、つまり約35年後の世界。とはいえ、私が鑑賞した限りでは「逆襲のシャア」を知らなくても鑑賞に問題はないと思われました。しかし、本作の問題は別の場所にあります。気取らないドキュメンタリー調の演出や素晴らしい作画は褒めることができますが、物語の筋があまりにも意味不明で、市街地戦は迫力がある一方でモビルスーツ同士の戦闘は魅力に欠けます。また、登場人物たちの寒い言動も影響してか、どうしても「子供が考えた『大人の世界』を描いた映画」という印象を抱いてしまいます。あらすじ宇宙世紀105年。人類が増えすぎた人口を宇宙に移民させるようになって、すでに半世紀と35年が経過した世界。地球に居住できるのは選ばれた特権階級とその生活を支えるエッセンシャルワーカーのみとなっており、不法滞在者は宇宙に強制送還さ...
帰ってきたヒトラー

「帰ってきたヒトラー」ダーヴィト・ヴネント 評価:2点|現代ドイツ人の心を鷲掴みにする独裁者【政治風刺映画】

2015年に公開されたドイツ映画。世界的ベストセラーとなった同名小説が原作で、タイトルの通り、アドルフ・ヒトラーが2014年のドイツにタイムスリップするというお話です。2014年のドイツといえば、移民排斥運動が勃興し、国家民主党やドイツのための選択肢といった極右政党の勢力が伸長していた時期でもあり、そういった機運への警鐘として製作された映画でもあります。とはいえ、ヒトラーへの画一的な批判一辺倒ではないのが面白いところ。ヒトラーが巧みな弁舌で聴衆からの支持を調達する様子、そして、警戒感の薄さからヒトラーを易々と受け入れてしまう大衆の様子がリアルに描かれ、そのポジティブな言葉遣いから良心的な存在だとさえ見なされるようになる過程が印象深く描かれています。ただ、そうした手法でドイツの政治的現状を描くことには成功している一方、物語としての面白さにはやや欠ける面があると思いました。準ドキュメンタリー的な学習映画としては優秀だと感じられたのですが、演出や伏線の張り方、どんでん返しの技術等に特筆すべき点がなく、観客の興奮を搔き立てるには至らなかった映画なのだと思います。あらすじ1945年、第二次世界大...
新世紀エヴァンゲリオン

「シン・エヴァンゲリオン劇場版」庵野秀明 評価:2点|伝説のコンテンツにピリオドを打つ苦肉の大団円【アニメ映画】

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』4部作の最終作であり、1995年のTVアニメシリーズから続くエヴァンゲリオンシリーズの完結作でもあります。前作である「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」の感想はこちらから。そして本題である本作の感想ですが、どうにかこうにか「エヴァ」を終幕させた作品といったところ。不満点を挙げればきりがありませんが、様々な要素が散逸して収集がつかなくなっている「新世紀エヴァンゲリオン」という作品の歴史にそれなりのエンディングを用意してなんとかピリオドを打った努力だけは激賞されるべきでしょう。ここがおかしい、あれが変だ、と指摘するのは簡単なことですが、いまから「新世紀エヴァンゲリオン」を完結させにいくとして、本作よりもまともな形で終わらせることは誰が指揮をとろうが困難なのだろうと思います。あの「エヴァ」が完結したということ、そのために相応の努力が払われたのだということを確認するための、まさに古参ファンのための作品です。あらすじフォースインパクトの発生後も葛城かつらぎミサト率いる反NERV組織WILLEは各地を転戦。旧NERVユーロ支部を解放することでEVA2号機の修理パーツと8号機...
新世紀エヴァンゲリオン

【駄作への急落】映画「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」庵野秀明 評価:1点【アニメ映画】

「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」の感想はこちらあらすじエヴァ初号機と第10使徒との交戦により発生したニア・サードインパクトから14年が経過。葛城ミサトは反NERV組織WILLEを率い、NERVによる人類補完計画を阻止するべく戦いを続けていた。そんな中、14年振りに目覚めた碇シンジはWILLEの旗艦Wunder内部で葛城ミサトや式波・アスカ・ラングレーと再開する。ところが、二人がシンジに向ける言葉や行動は非常に冷たく、シンジは異常を感じ取る。WILLEの艦隊がNERVによる強襲を受けると、シンジは綾波レイ搭乗のエヴァ初号機と接触。初号機に連れられてWunderを脱出し、レイとともにNERVへと向かうのだった。NERVでレイとも顔を合わせ、新しい友人である渚カオル(なぎさ かおる)とも親しくなったシンジ。ようやく元気を取り戻しかけたシンジだが、4年前に起こったニア・サードインパクトとその後の顛末を知ることになり……。感想何もかもぶち壊しにしてしまったという印象です。シンジがエヴァンゲリオンのパイロットという経験を通じて大人になっていく物語としての、ヒューマンドラマとしての魅力に溢れた物語か...
新世紀エヴァンゲリオン

【大人になれ、オトコになれ】映画「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」庵野秀明 評価:4点【アニメ映画】

「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」の感想はこちらあらすじエヴァンゲリオン初号機のパイロットとして幾度かの戦闘に参加し、戦果を収めてきた碇シンジ。彼の住む第3新東京市に新しいエヴァンゲリオンとそのパイロットが現れる。エヴァンゲリオン2号機と共に現れた少女の名前は式波・アスカ・ラングレー。シンジとアスカ、そして零号機のパイロットである綾波レイは共闘して使徒と戦い、勝利を得る。深まる三人の友情と、各所から寄せられる称賛にシンジは充実感を覚えていた。そんなある日、アスカがエヴァンゲリオン3号機起動実験のテストパイロットとして起用されることになる。しかし、3号機は突如暴走を開始。シンジ搭乗の初号機が3号機を止めるために出撃するのだが……。感想「序」に引き続き、少年がどのように大人になっていくかが描かれます。最序盤では精神的に幼いシンジと周囲との差が間接的に描写されることが印象的でした。3人目のパイロットとしてアスカが来日するのですが、アスカはレイとシンジのことをそれぞれ「えこひいき」「七光」と呼んで馬鹿にします。確かに、綾波レイも碇シンジも正統な手続きを踏まずに軍属となり、特別な地位であるエヴァン...
新世紀エヴァンゲリオン

【大人になれ、オトコになれ】映画「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」庵野秀明 評価:3点【アニメ映画】

1990年代に放映されたアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の劇場版であり、原作を再構築(リビルド)した作品として製作されております。90年代の作品ではあるものの、凄まじい人気はいまでも健在。現実世界でも様々なコラボが行われているため、アニメ好きという方でなくとも名前くらいは知っているのではないでしょうか。そんな名作のリメイクである映画シリーズは4部作となっており、これまで3作品が公開されております。「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」舞楽における幕構成の概念「序破急」からタイトルが取られており、公開年はそれぞれ、2007年、2009年、2012年と、長い時間をかけて製作されているシリーズになっております。ファンの方々の忍耐強さと、人気の根強さが伺えますね。そんな三作品を視聴してみたのですが、特に「序」と「破」は良作だと感じました。頼りなくて幼稚な自己認識・世間理解しか持っていなかった少年が大人の「オトコ」になっていく。その過程を生々しく迫力満点に描写している側面に文学性すら感じる作品です。(本記事では「序」の感想を述べ、「破」以...
菊次郎の夏

【大人になりたい夏の旅】映画「菊次郎の夏」北野武 評価:3点 【日本映画】

1999年公開の映画で、監督は北野武。主演である菊次郎役も北野監督本人が勤めております。暴力性の強い映画で知られる北野監督ですが、本作は不良中年男と小学生の少年がひと夏の不思議な旅を経験するロードムービー。北野監督独特のクセが強いながらも、基本的には人情感動路線の作品です。 そんな本作を鑑賞してみたのですが、なかなか魅力的な映画でした。物事について一面的な見方をせず、酸いも甘いもある「人間」を描こうとしている意欲作。あまりにも清潔になりすぎた現代社会では失われてしまった人間臭さと、その中にある「大切だったかもしれないもの」について思いを馳せられる作品です。あらすじ小学三年生の正男(まさお)は、東京の下町で祖母と二人で暮らしている。家庭は貧しく祖母は毎日働きに出ており、両親もいないため、夏休みだというのに正男は旅行に行くこともできない。父親は正男が小さい時に他界し、母親は遠くに働きに出ている。祖母からそう聞かされていた正男だったが、あまりにも惨めな状況にいてもたってもいられなくなり、正男は僅かなお小遣いを握りしめ、母を探す旅に出ることを決意する。しかし、駅に着くまでもなく正男は近所の中学...
自転車泥棒

【貧困と誇りと惨めな哀愁】映画「自転車泥棒」ヴィットリオ・デ・シーカ 評価:2点 【イタリア映画】

1948年公開のイタリア映画。猥雑で混沌とした終戦直後のイタリアを舞台に、父子が盗まれた自転車を探すという物語です。写実性(つくりものっぽくなさ)を重視した「ネオ・レアレズモ」という当時の潮流を代表する作品の一つで、アカデミー賞の名誉賞(現:アカデミー国際長編映画賞)を受賞しています。とはいえ、普通の映画だった、というのが率直な個人的感想です。ようやく仕事にありついた男が仕事道具である自転車を盗まれ、それを必死に探して回るというやりきれない筋書きや、哀愁溢れるラストシーンなどは良かったものの、ひたすらにローマの街中をうろうろするだけの部分はやや退屈でした。あらすじ舞台は終戦直後のローマ市街。失業中のアントニオ・リッチだが、ついに役所のポスター貼りという仕事を得ることができた。仕事道具として自転車が必要だと言われたアントニオは、何とかお金を工面して質屋から自転車を取り戻し、意気揚々と仕事を始める。しかし、開始早々、アントニオの自転車は泥棒に盗まれてしまう。慌てて追いかけるも泥棒の姿を見失ってしまい、失意に暮れるアントニオ。自転車がなければ、仕事を続けることはできない。再度の失業を回避する...
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