【エンタメ】おすすめエンタメ評論雑記4選【雑記まとめ】
☆☆(小説)
小説 「二十四の瞳」 壷井栄 星2つ
1. 二十四の瞳戦前から戦後すぐにかけて活躍した作家、壷井栄さんの代表作。1954年に映画化され、そこから人気に火が付いた作品です。舞台となった小豆島にはいまでも「二十四の瞳 映画村」が存在し、当時の流行ぶりが伺えます。感想としては「やや薄い」と思ってしまったのが正直なところ。壷井さんが持つ切実な反戦への想いや、心温かな子供たちとの交流とその後の悲劇など、描きたいことは分かるのですが、小説の物語として読むにはあまりにエピソードが淡白な割に主張だけが延々と続く部分が長すぎる印象でした。2. あらすじ舞台は戦前の小豆島。治安維持法が制定され、世の中が窮屈になっていく中、主人公である大石先生は分校の小学校に新任教師として赴任することになった。五年生以上は本校に通うため、分校に通っているのは四年生以下の小さな子供ばかり。その中でも、大石先生が担当することになったのは入学したばかりの一年生十二人だった。子供たちとは次第に打ち解け合っていくものの、洋服を着て自転車で分校に通う大石先生の姿に田舎の村人たちは反感を覚え、嫌味を言う者も多い。それでもへこたれずに教職を続ける大石先生だが、ある日、生徒が悪...
「はてしない物語」ミヒャエル・エンデ 評価:2点|いじめられっ子の成長を描くファンタジー冒険物語【海外児童文学】
ドイツの児童文学者ミヒャエル・エンデの作品。「モモ」と共に彼の代表作として扱われることが多い著作です。児童文学といえど単行本で600ページを越える大作で、岩波少年文庫版では対象が「中学以上」となっている読み応えのある大作。「ネバーエンディング・ストーリー」という題で映画化もされています。感想としては、読み手を選ぶ作品だなという印象を受けました。幻想的なファンタジー世界の造形は見事ですし、恵まれない環境で育った少年が力を手に入れて慢心し、やがてその慢心から身を滅ぼしかけるものの、それを克服して最後は真理に到達する、という物語も王道なりに楽しめます。ただ、こうした「ヨーロッパ的ファンタジー世界」を受け入れる心持ちが最初からある人以外には展開が唐突で突拍子もなく思えるでしょうし、主人公の性格も万民に受け入れられる人物かといえばそうではないと感じました。あらすじバスチアン・バルタザール・ブックスは読書好きの小学生。しかし、勉強も運動もからきしダメなうえデブでX脚なのでクラスメイトにいじめられている。母親は既に亡くなり、そのことがきっかけで父親とのあいだにも溝が出来ていた。そんなバスチアンはある...
小説 「鏡の国のアリス」 ルイス・キャロル 星2つ
1. 鏡の国のアリス「不思議の国のアリス」に並ぶルイス・キャロルの代表作。「不思議の国のアリス」については以前に記事を書きましたが、その続編たる本作も面白おかしいナンセンスジョークに満ちています。感想としてはほとんど「不思議の国のアリス」と同じなのですが、社会風刺が多かった印象の前作と比べ、こちらは純粋なジョークに特化している印象です。アリスと登場人物たちとの滑稽なやりとりはそれそのものの面白さもさることながら、数々の作品の「引用元」になっていることに思いを馳せながら読むと興味深いものです。鏡の国のアリス (角川文庫)posted with ヨメレバルイス・キャロル 角川書店(角川グループパブリッシング) 2010-02-25AmazonKindle楽天ブックス楽天kobo
【猥雑だった昭和の日本】小説「恋人たち」立原正秋 評価:2点【純文学】
1960~70年代にかけて一世を風靡した作家、立原正秋さんの作品です。1966年に直木賞を獲っておりますが、それまでに芥川賞の候補にもなるなど、純文学も大衆文学もこなす万能の作家でした。本作は根津甚八さんと大竹しのぶさんの主演でテレビドラマにもなっています。感想としては、現代の感覚からすれば「ありえない」作品です。一般的に考えれば、この21世紀に純粋な娯楽作品として読んで楽しい作品ではないでしょう。ただ、この作品・作家が「人気だった」ということを踏まえて読めば昭和という時代への洞察を得られるのではないかと思います。あらすじ1960年代前半、鎌倉の街に、三つ子の男兄弟が別々に暮らしていた。彼らの父、中町周太郎には妻である初子がいたが、彼ら三兄弟は周太郎が結婚する前に交際していた笹本澄子という女性の子供だった。初子が石女だったため周太郎には三人以外の子供はなく、中町家は三兄弟の長男である周太郎が継ぐことになっている。そんな道太郎だったが、大学を中退して以来、家庭教師と賭博で生計を立てていた。酒場で娼婦を買い、病気を貰って悪態をつくような日々。周太郎の妹である久子の娘であり、道太郎から見ると...
小説 「不思議の国のアリス」 ルイス・キャロル 星2つ
1. 不思議の国のアリスタイトルだけならきっと知名度100%なのではないでしょうか。数学者ルイス・キャロルによって著された児童書で、1865年刊行ながら今日まで全世界全世代で幅広く愛されている作品。「アリスの世界観をモチーフにした」が枕詞のエンターテイメント作品が製作されない年はないくらいに、古典として確固たる地位を確立しています。そんなポップなイメージとは対照的に、英語独特の表現や時代背景を反映した冗談が多いためにやや難解になってしまっているのが日本語翻訳版です。河合祥一郎氏の名訳をもってしても物語を十分に楽しめるとはいえないでしょう。ただ、「アリスの何が斬新だったか」を意識しながら読めば、特に創作に携わる人々からの人気が高いのも頷けます。不思議の国のアリス (角川文庫)posted with ヨメレバルイス・キャロル 角川書店(角川グループパブリッシング) 2010-02-25AmazonKindle楽天ブックス楽天kobo
「斜陽」太宰治 評価:2点|終戦によって訪れた旧道徳の没落と新しい価値観の勃興が退廃的かつ情熱的に描かれる【古典純文学】
1947年の初版発売以降、日本文学の古典としての地位を不動のものとしている作品。名実ともに太宰治の代表作でしょう。ピースの又吉さんやオードリーの若林さんなど、本好きのお笑い芸人も太宰を好きな作家として挙げるほどで、人気は今日になって勢いを増しているのかもしれません。とはいえ、この作品を好むことができるのは、ヒロイックな登場人物たちに自己投影できるような根っからの読書好きではないでしょうか。旧道徳の退廃と新しい時代の到来の中で流行小説として人気を博したのは分かりますが、今日の日本や世界における、道徳的経済的な没落・凋落の深い部分を捕らえていると言えるほど普遍的な作品ではないように思われました。あらすじ舞台は戦後すぐの日本。かず子とその母は戦前に貴族であったが、父を亡くし、財産も残り僅かという状況に追い込まれた結果、東京の邸宅を売って伊豆での生活を始めていた。慣れない田舎での生活。収入もないのに働かないかず子の「貴族」的な態度にやっかみを覚える住民もいる。当然、財産はどんどん減っていく。そんな中で戦地から帰ってきたのは、かず子の弟である直治だった。阿片中毒の直治は狂人そのもので、お金を持ち...
【たおやかなインド系アメリカ文学】小説「停電の夜に」ジュンパ・ラヒリ 評価:2点【海外文学】
インド系アメリカ人の作家、ジュンパ・ラヒリさんの小説。「インド系アメリカ人」という点がこの作家の特徴を端的に表しておりまして、アメリカに住むインド移民を主人公とした作品でアメリカ及びインドでも著名な作家となっております。優れた筆致は確かで、評価は3点をつけようとも思ったのですが、そこに至るにはやはり、小説(=フィクション)としての面白さがやや欠けているように思われました。描写や題材の選択は巧みなのですが、あくまで人生や日常の印象的な一場面を切り取った以上のものがなく、優れたノンフィクション(伝記・ドキュメンタリー・エッセイ)で代替できてしまう印象です。あらすじ・「停電の夜に」シュクマールとショーバは夫婦であるものの、その間にはすきま風は吹いている。激しく対立するのではなく、お互いに不穏な空気を抱えながらも、それを口に出さず、上滑りするような会話と日常を過ごしていた。そんなある日、計画停電の通知が二人の住む家に届く。電気のない、暗い夜。二人はテーブルを挟み、少しだけ踏み込んだ会話をする。ささやかな隠し事を打ち明けあう二人。少しだけ近づいた距離感で、それぞれが最後に明かすこととは........
「ねじの回転」ヘンリー・ジェイムス 評価:2点|幼い兄妹を襲う幽霊、その正体に迫る家庭教師の奮闘【ホラーサスペンス】
アメリカ生まれながらヨーロッパでも長い時間を過ごし、米欧双方の視点や文化が入り混じった小説を書いたことで有名なヘンリー・ジェイムスの作品。日本では「デイジー・ミラー」と並んで容易に入手できるのがこの「ねじの回転」です。文学作品と言うだけあって、技巧を凝らした心理描写は優れていました。ただ、技巧ばかりで、なにか普遍的な人間真理を衝くような、そんな迫真性にかなり欠けていた作品でもありました。あらすじイギリスのとあるお屋敷に家庭教師として雇われた「私」。面倒を見るように頼まれたのは幼い兄妹。両親を失った兄妹は叔父のもとに身を寄せているのだが、お屋敷の主人でもある叔父は二人の教育に全く関心がない。使用人たちには学がないため、「私」が勉強を教えることになったのだ。そんな「私」は当初、この職に就けたことを喜んでいた。品行方正で見目麗しい兄妹と触れ合う時間は楽しく、立派なお屋敷での生活は身に余るほど。しかし、しばらくすると、「私」の生活に文字通り影が差す出来事が起こる。なんと、このお屋敷には幽霊が出るのだ。その幽霊はただその辺りに浮かんでいるだけではなく、子供たちに影響を与え、悪の道に引きずり込もう...
小説 「ミライ系NEW HORIZONでもう一度英語をやってみる: 大人向け次世代型教科書」 デイビッド・セイン 星2つ
1. ミライ系NEW HORIZONでもう一度英語をやってみるあまりこのブログらしくない作品を取り上げます。数年前に一部界隈で耳目を集めた「大人のNEW HORIZON」です。中学英語の教科書として有名な「NEW HORIZON」のキャラクターが大人になった、という設定で物語が展開され、大人の英語学び直しのために販売されたとのことです。英語のテキストとしても、あるいは、純粋な読み物としても☆1であることは間違いないと思いました。しかし、この手の作品全般に対する希望を感じましたので、☆2とします。ミライ系NEW HORIZONでもう一度英語をやってみる: 大人向け次世代型教科書posted with ヨメレバデイビッド セイン 東京書籍 2011-08-24AmazonKindle
小説 「猫を抱いて象と泳ぐ」 小川洋子 星2つ
1. 猫を抱いて象と泳ぐ不思議な世界観と優しく繊細な文体で人気を博す純文学作家、小川洋子さんの作品。小川さんの個性が前面に押し出されており、ファンの間で評価が高いことも頷けます。しかし、そこが却って普遍性を損なっているような、万民への説得力に欠けているような作品だったと思います。2. あらすじ生まれつき唇の上下がくっついていたために、手術により切開し、脛の皮膚を唇に移植した少年。そのため、少年の唇には成長と共に産毛が生えてくるようになってきていた。学校にも上手く馴染めない少年を惹きつけたのはチェスという競技。廃バスの中で生活するマスターにチェスを教わり、少年はぐんぐんと腕前を上げていく。そんな少年を変えたのはマスターの死だった。肥満しきった不健康な身体でバスの中を狭苦しそうに生活していたマスター。それは、少年が幼少期に出会ったインディラという象を思い出させる。デパートの屋上で見世物となっていたインディラは成長とともに身体が大きくなり、デパートの屋上から降ろすことができなくなってしまっていたのだ。少年は「大きくなること」に絶望し、身体の成長を止めてしまう。それは、チェス盤の下に籠って思考...
小説 「赤と黒」 スタンダール 星2つ
1. 赤と黒フランス人作家、スタンダールの代表作の一つで、サマセット・モームの「世界十六大小説」にも選ばれている作品です。歴史的に評価の高い作品ではありますが、個人的にはあまり楽しめませんでした。特に現代に通じる普遍性の面ではかなり疑問です。とはいえ、時代が変わればまた再評価されるのかもしれません。赤と黒 (上) (新潮文庫)posted with ヨメレバスタンダール 新潮社 1957-02-27AmazonKindle楽天ブックス
小説 「煌夜祭」 多崎礼 星2つ
1. 煌夜祭中央公論新社主催のライトノベル新人賞、C★NOVELS大賞の第2回受賞作です。当時は異色のライトノベルとしてその界隈を中心に話題となりました。全体的に「惜しい」という印象で、構築したい世界観や伝えたい「切なさ」は分かるのですが、散見される陳腐な表現や展開がそれを妨げてしまっています。煌夜祭 (中公文庫)posted with ヨメレバ多崎 礼 中央公論新社 2013-05-23AmazonKindle楽天ブックス楽天kobo
小説 「破戒」 島崎藤村 星2つ
1. 破戒明治時代の作家、島崎藤村の小説です。部落差別問題をテーマとした、その時代にあっては斬新な作品でした。しかし、いま読み返すと、物語そのものはそれほど面白いわけではないと思ってしまいます。歴史的記念碑であることは間違いないのでしょうが、傑作とは言い難いでしょう。破戒 (新潮文庫)posted with ヨメレバ島崎 藤村 新潮社 2005-07AmazonKindle楽天ブックス