【エンタメ】おすすめエンタメ評論雑記4選【雑記まとめ】
小説作家名「ま」行
「点と線」松本清張 評価:2点|完璧だと思われていたアリバイの弱点はダイアグラムに隠されていた【社会派推理小説】
社会派推理小説というジャンルを打ち立ててベストセラーを連発し、戦後を代表する小説家となった松本清張。「眼の壁」「ゼロの焦点」「砂の器」と代表作には事欠きませんが、その中でも、松本清張初の長編推理小説であり松本清張ブームの火付け役となったのが本作「点と線」となっております。「点と線」というタイトルは駅と路線のことを示しており、電車の発着時間とその行き先を巧妙に用いたアリバイ破りが本作における「謎」の特徴です。男女の情死に産業建設省の汚職事件を絡めた展開はまさに「社会派」「推理」小説というジャンル名がうってつけだと感じましたが、どちらかというとやはり「推理」が主軸となっている作品でした。「社会派」の部分は産業建設省幹部による汚職の証拠隠滅が動機となっているという点にのみ掛かっており、人間心理の巧みな描写やヒューマンドラマ的な感動には乏しく感じられたのが正直なところです。推理小説としては一流なのかもしれませんが、物語性を重視する立場からはやや凡庸で、ときに退屈な小説という評価にならざるを得ません。あらすじ事件の現場は福岡市にある香椎の海岸。産業建設省の課長補佐である佐山憲一(さやま けんいち...
「青が散る」宮本輝 評価:5点|テニスと恋愛、勝利と敗北、情熱と哀愁、青春の全てを表現した最高傑作【青春純文学】
1970年代から令和の現在にかけて第一線で活躍し続ける純文学作家、宮本輝さんの作品。1970~80年代には「泥の河」で太宰治賞、「螢側」で芥川賞、「優駿」で吉川英治文学賞を獲得し、2010年代にも「骸骨ビルの庭」で司馬遼太郎賞、「流転の海」で毎日芸術賞を獲得しており、その勢いは留まるところを知りません。その功績が認められ、2010年には紫綬褒章、2020年には旭日小綬章を授与されるなど、格の違う文化的功労者という立場を確固たるものにしています。そんな宮本輝さんの作品の中でも、本作は無冠の作品。松田聖子さんの「青いフォトグラフ」を主題歌にドラマ化がされており、人気作であることは間違いないのですが、宮本さんの代表作と呼ぶ人はすくないでしょう。しかしながら、私の個人的な読書経験史上において、本作は一、二を争う名作として燦然と輝いております。新設大学の一期生として入学した主人公を中心とした、せつなくて情熱的な青春群像劇。「青春小説」というカテゴリにおいて、日本の小説史上1番の面白さと趣深さを持っていると言っても過言ではない作品です。あらすじ主人公の椎名燎平(しいな りょうへい)は大阪府茨木市に...
「仮面の告白」三島由紀夫 評価:2点|同性愛者であることの苦悩と官能が青年の人生を蝕んでいく【古典純文学】
「潮騒」や「金閣寺」等の作品で知られ、戦後を代表する作家の一人として挙げられることが多い三島由紀夫の著した小説。三島由紀夫を文壇の寵児へと押し上げた記念碑的作品であり、代表作を一つ選ぶとすれば本作か「金閣寺」になるというくらいの有名作品です。同性愛を描いた刺激的な作品ということで、私もその革新性に期待して読んでみたのですが、いまとなっては凡庸だなというのが率直な感想。小難しい書きぶりは良くいえば芸術的で妖艶なのでしょうが、個人的には無駄に装飾的なように思われましたし、自分自身が同性愛者であることを主人公が徐々に理解しながら苦悩する、という筋書きにもそれほど衝撃を受けませんでした。つまらないわけではないですが、今日において特段に持て囃されるべき作品かと言われれば、それは違うという印象です。あらすじ病弱な身体に生まれた「私」は、祖母によって外遊びを禁じられ、祖母の眼鏡に適った女友達とばかり遊ぶ幼少期を過ごすことになる。そんな「私」はしかし、幼い頃から女性に惹かれることがなく、魅力を感じるのは専ら逞しい男性の肢体ばかりであった。しかし、大学生になった「私」には園子という恋人ができる。園子に対...
「氷点」三浦綾子 評価:3点|「汝の敵を愛せよ」ならば、娘を殺した犯人の子供を引き取ってみせる【古典純文学】
キリスト教文学の名手である三浦綾子さんのデビュー作にして代表作。1963年に朝日新聞社が開催した、賞金1000万円の懸賞小説にて見事当選を果たした作品です。現在よりも遥かに物価の低い1963年に賞金1000万円の賞を獲った作品ということで、非常に注目を浴びました。圧倒的な前評判を背負って出版された本作でしたが、期待を裏切ることはありませんでした。素晴らしい売り上げを見せつけた末に何度もドラマ化され、大人気番組となる「笑点」のタイトルも本作から取られるなど、当時の国民的ベストセラーとなります。そんな作品を令和の今日なって読んでみた感想ですが、サスペンス的なエンタメ性を備えつつも、テーマである「人間の原罪」について巧妙な掘り下げが為されている作品であると感じました。旧い作品にありがちな冗長性は否めませんが、おそらく唯一無二であろう優れた設定と、そこから展開される痛切で悲哀に溢れる物語の様相が光ります。まさに「氷点」を感じるような、冬の夜長にお薦めの作品です。あらすじ旭川にある辻口病院の病院長、辻口啓造(つじぐち けいぞう)が主人公。妻の夏枝(なつえ)と長男徹(とおる)、長女ルリ子(るりこ)...
「いちご同盟」三田誠広 評価:3点|思春期の繊細な心情とその成長を描いた病室ボーイ・ミーツ・ガール【青春純文学】
1990年に出版された小説で、芥川賞作家である三田誠広さんの代表作でもあります。中学校の国語教科書に掲載されていたほか、集英社のナツイチ(夏の100冊)にも長らく選ばれ続けていたので、タイトルをご存じの方も多いでしょう。近年でも大人気漫画「四月は君の嘘」の作中でオマージュされるなど、長年にわたり根強い人気を誇り、様々な作家に影響を与えている作品となっております。都市郊外に居住する核家族的な生活感が日本の文化的メインストリームとして定着し、そのうえ、熾烈な受験戦争で生徒たちの精神がすり減らされていた1980年代。そんな時代に、自殺という選択肢に対して仄かな憧れを抱く少年と、不治の病で入院しており、死期が近い少女との、ひと夏の淡く切ない交流を描くという内容の小説。長期入院している少女と、身体は健康だが心に悩みを抱える少年のボーイ・ミーツ・ガールという「病室もの」的なジャンルを開拓した小説でもあります。勉強、スポーツ、生きるということ、死ぬということ、人生とは何か。よく言えば普遍的、悪く言えば平凡な要素がテーマとなっており、物語構成としても奇をてらわない内容の物語であるにも関わらず、本作独自...
「塩狩峠」三浦綾子 評価:3点|清く正しいキリスト教文学【純文学】
キリスト教文学の名手として時代の寵児となった三浦綾子さんの作品。彼女の作品としては「氷点」と並ぶ代表作として知られています。全体的にやや説教くさい部分があり、善人のキリスト教徒ばかりが出てくるという点は鼻持ちならないですが、キリスト教の教義を基盤とした印象的なフレーズも多く、心に残る純文学作品ではありました。あらすじ明治42年、名寄駅から札幌駅へと向かう汽車でトラブルが起こる。険しく急峻な塩狩峠に差し掛かった際、汽車の連結部が外れ、車両は急坂を猛烈な勢いで後退し始めたのだ。このままでは乗客全員の命が危ない。そんなとき、客車を飛び出してデッキに向かった男がいた。彼の名前は永野信夫(ながの のぶお)。デッキに備え付けのハンドブレーキを回す信夫だが、汽車の勢いは緩まったものの止まることはない。ここまで速度が落ちたのならば、あとは何らかの障害物があれば止まってくれるだろう。そう考えた信夫はデッキからレールへとその身を投げたのだった。あまりに高潔な死を遂げた永野信夫。この青年の立派な人格はいかにして陶冶されたのだろうか。いたいけなほど純粋な信仰の物語は、彼が幼少の頃から始まる......。感想キ...
【古き良き時代の小学生男子物語】小説「トム・ソーヤーの冒険」マーク・トゥエイン 評価:2点【海外文学】
あらすじ時代は19世紀中盤、舞台はミズーリ州の田舎町セント・ピーターズパーク。10歳の少年トム・ソーヤーは大変な悪戯好きで、いつも騒動を巻き起こしては育ての親であるポリー伯母さんに叱られている。塀のペンキ塗りを巧みな手腕で友人たちに押し付けたり、新入りの少年と取っ組み合いの喧嘩をしたり、同級生の少女ベッキー・サッチャーにアプローチしてみたり、ホームレスの少年ハックルベリー・フィンと一緒に家出をしてみたりと、トムの日常は大なり小なりの冒険に溢れている。そんなある日、トムは真夜中の墓地で殺人事件を目撃してしまう。恐怖に駆られながら町に戻ったトム。しかし、彼には更なる試練が訪れる。真犯人のインシャン・ジョーは犯罪の隠匿を画策、マフ・ポッター老人に罪を被せようとしていて……。感想子供向けの純粋なエンタメ冒険小説です。小学校高学年男子がやりそうな悪戯や、やってみたいと思うような冒険(家出をして森で寝泊まりしたりなど)のエピソードが散りばめられており、児童文学としてはまずまず面白いのではないでしょうか。ただ、その「小学校高学年男子」像がやや古いかもしれず、いまの子供に共感してもらえるかと言われれば...
【時間を蝕む現代社会】小説「モモ」ミヒャエル・エンデ 評価:2点【児童文学】
ドイツの児童文学者ミヒャエル・エンデの作品。「果てしない物語」と共に彼の代表作として扱われることが多い著作ですが、日本では「モモ」の人気が非常に根強く、ドイツ語版の次に発行部数が多いのは日本語版だそうです。「効率性」の名のもとに人間的な温かみのある要素がことごとく「悪」とされ、それでいて「効率化」を突き詰めたのに全くといっていいほど時間に余裕がない。そんな現代社会を風刺した童話、という内容が日本人受けするのかもしれません。全体的な感想としましては、現代社会の労働観や時間不足についての皮肉になっている個々の場面は楽しめたものの、物語の総体としてはイマイチだったという印象。最も皮肉が効いている第6章や、近代的学校教育に対する批判精神旺盛な第13章、第16章の一部だけ読めばそれでよいと思えてしまいます。あらすじ舞台はローマのようでローマではない街。主人公のモモは孤児で、街はずれの円形劇場跡に住んでいる。両親はおらず、そのままでは食べる物にも困る立場のモモだけれど、モモの周囲にはいつも人が集まって温かな交流が結ばれており、モモも人の輪の中で幸せに暮らしていた。そんなある日、街に灰色の男たちが現...
「はてしない物語」ミヒャエル・エンデ 評価:2点|いじめられっ子の成長を描くファンタジー冒険物語【海外児童文学】
ドイツの児童文学者ミヒャエル・エンデの作品。「モモ」と共に彼の代表作として扱われることが多い著作です。児童文学といえど単行本で600ページを越える大作で、岩波少年文庫版では対象が「中学以上」となっている読み応えのある大作。「ネバーエンディング・ストーリー」という題で映画化もされています。感想としては、読み手を選ぶ作品だなという印象を受けました。幻想的なファンタジー世界の造形は見事ですし、恵まれない環境で育った少年が力を手に入れて慢心し、やがてその慢心から身を滅ぼしかけるものの、それを克服して最後は真理に到達する、という物語も王道なりに楽しめます。ただ、こうした「ヨーロッパ的ファンタジー世界」を受け入れる心持ちが最初からある人以外には展開が唐突で突拍子もなく思えるでしょうし、主人公の性格も万民に受け入れられる人物かといえばそうではないと感じました。あらすじバスチアン・バルタザール・ブックスは読書好きの小学生。しかし、勉強も運動もからきしダメなうえデブでX脚なのでクラスメイトにいじめられている。母親は既に亡くなり、そのことがきっかけで父親とのあいだにも溝が出来ていた。そんなバスチアンはある...
小説 「カラフル」 森絵都 星1つ
1.カラフル人気の高い児童文学で、「産経児童文学出版文化賞」も受賞している本作。著者の森絵都さんも著名な児童文学作家で、漫画化され、アニメ化予定もある「DIVE!!」や、直木賞を獲った「風に舞い上がるビニールシート」が有名です。そうなると期待も高かったのですが、結果としては裏切られてしまいました。2. あらすじ理由はわからないが、「僕」は死んでしまった。そんな僕の魂がふらふらとさまよっていると、目の前にいきなり天使が現れ、こう告げる。「あなたは大きなあやまちを犯して死んだ魂です。通常ならば輪廻転生から外されますが、抽選に当たったので現世に帰って再挑戦ができるようになりました」そうして、「僕」は「小林真」という少年の身体にホームステイして暮らすことになった。しかし、この「小林真」の人生が一筋縄ではいかない。父親は会社の上司が逮捕されて代わりに昇進することを喜ぶような利己主義者。母親は通っていたフラメンコ教室の教師と最近まで不倫しており、兄はいつも真に対して冷たい態度をとる。そのうえ、学校では浮いており、美術部に所属する「超地味」な生徒という有様。「僕」はこの状況に絶望しつつも、現世での修...
小説 「ビブリア古書堂の事件手帖 ~栞子さんと不思議な客人たち~」 三上延 星1つ
1. ビブリア古書堂の事件手帖 ~栞子さんと不思議な客人たち~シリーズ累計600万部超。 本屋に足を運ぶ人なら目にしたことがあるはずの人気作となっておりますが、私の肌には合いませんでした。2. あらすじ無職で大学卒業後もふらふらしている五浦大輔は、祖母の一周忌をきっかけに祖母の遺した漱石のサイン入り「漱石全集」の鑑定をビブリア古書堂に依頼することになった。ビブリア古書堂の店主、篠川栞子はそのサインが偽物であることを見抜くが、「本の虫」であるところの彼女は古本に秘められた物語を紐解くのも得意で......。古本にまつわる日常の謎を栞子さんが鮮やかに解き明かす、流行のライトミステリー。3. 感想人気シリーズの第1作であり、剛力彩芽さんが主演でドラマ化され色んな意味で話題となった本作ですが、あまり面白いとは思えませんでした。まず登場人物たちのご都合主義的な容姿、性格、行動です。主人公の大輔はある理由から(その理由も一般的に考えれば「そんなわけないやろ」というものなのですが)読書ができない体質になっています。そのおかけで勉強でも苦労し、なんとか適当な大学を出たはいいものの就職の機会には...