小説

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トマス・H・クック

【米国流の青春ミステリ】「夏草の記憶」トマス・H・クック 評価:2点【アメリカ文学】

日本では「記憶」三部作で有名なアメリカのミステリー作家、トマス・H・クック。「緋色の記憶(原題:The Chatham School Affair)」でエドガー賞を獲得し、アメリカでも一定の評価を得ております。本作「夏草の記憶(原題:Breakheart Hill)」も日本では記憶三部作として売り出された三作品の一角。(原題を見ての通り作品間には何の関連もないのですが、プロモーションのため強引な訳出がされています)その内容はアメリカ風青春ミステリといった嗜好の作品であり、内気な男子高校生ベンの美人転校生ケリーに対する恋愛を軸に話が進みますので、まるでよくある日本の文芸作品を読んでいるかのような錯覚に陥ります。もちろん、青春モノとしてだけではなくミステリとしても日本国内で評価されておりまして、2000年の「このミステリーがすごい! 海外編」では3位に入っております。そんな「夏草の記憶」ですが、普通だったというのが端的な感想です。決定的な悪い点はなく、良い点は微妙にある作品。3点(平均以上の作品・佳作)と2点(平均的な作品)で迷ったのですが、やはりベタすぎる点がきにかかり、2点としました。...
加納朋子

【青春学園】小説 「少年少女飛行倶楽部」 加納朋子 星1つ

1. 少年少女飛行倶楽部「日常の謎」を描いたミステリーで定評のある加納さんですが、本作は珍しくミステリー要素なし。あとがきでも「底抜けに明るい、青春物語が書きたくなりました」とあるように、中学生の爽やかな青春譚という雰囲気です。そんな本書に対する感想としては、全体的に軽すぎるかなという印象。変わり者の集まった部活である「飛行クラブ」の活動を描いた物語なのですが、登場人物が意味もなく非現実的で、いかにも「作り物」感があります。物語の核心となる様々な問題の解決方法も軽々しく、どこで心を動かされればよいのだろうかと思ってしまいました。2. あらすじ中学一年生になった海月(みづき)が幼馴染の樹絵里(じゅえり)に誘われるがまま入部することになったのは「飛行クラブ」という奇妙な部活。二人以外の部員は部長の斎藤神(さいとう じん)先輩と野球部と兼部の中村海星(なかむら かいせい)先輩だけ。その活動も「(飛行機やヘリコプターを使わず、パラシュートなどの「落下」を除いた手段で)飛行すること」を活動内容として掲げているが、実際には何もしていない。そう、「飛行クラブ」は部活強制の学校で孤高を貫く神先輩が、他...
☆☆(小説)

小説 「二十四の瞳」 壷井栄 星2つ

1. 二十四の瞳戦前から戦後すぐにかけて活躍した作家、壷井栄さんの代表作。1954年に映画化され、そこから人気に火が付いた作品です。舞台となった小豆島にはいまでも「二十四の瞳 映画村」が存在し、当時の流行ぶりが伺えます。感想としては「やや薄い」と思ってしまったのが正直なところ。壷井さんが持つ切実な反戦への想いや、心温かな子供たちとの交流とその後の悲劇など、描きたいことは分かるのですが、小説の物語として読むにはあまりにエピソードが淡白な割に主張だけが延々と続く部分が長すぎる印象でした。2. あらすじ舞台は戦前の小豆島。治安維持法が制定され、世の中が窮屈になっていく中、主人公である大石先生は分校の小学校に新任教師として赴任することになった。五年生以上は本校に通うため、分校に通っているのは四年生以下の小さな子供ばかり。その中でも、大石先生が担当することになったのは入学したばかりの一年生十二人だった。子供たちとは次第に打ち解け合っていくものの、洋服を着て自転車で分校に通う大石先生の姿に田舎の村人たちは反感を覚え、嫌味を言う者も多い。それでもへこたれずに教職を続ける大石先生だが、ある日、生徒が悪...
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☆(小説)

小説 「海猫」 谷村志穂 星1つ

1. 海猫エッセイを含め女性の生き方にまつわる著作が多い谷村志穂さんの作品。上下巻合わせて600ページ超の本作で島清恋愛文学賞を受賞しており、映画化までされていることから代表作といっても良いでしょう。親子三代に渡る母娘の恋愛物語という昨今の文芸界ではあまり見られなくなった系統の作風です。個人的評価としては唾棄すべき作品で、ほとんど良い点が見当たりません。谷村さんがデビューした1991年といえばちょうど出版業界の最盛期にあたります。出せば当たる時代の産物なのかと想像してしまいます。 2. あらすじ野田薫は故郷の函館から漁村である南茅部の赤木家へ嫁いできた。ロシア人と日本人のハーフである薫は青い目と白い肌を持っており、それが原因で疎まれることも多かったのだが、偶然出会った 赤木邦一からアプローチを受けついに女の幸せを掴んだのだった。長女の美輝も生まれ、夫婦生活は順調に思われた。しかし、邦一が入院先の看護婦である啓子との不倫に走ったことから夫婦のあいだには亀裂が入る。人形のような薫よりも啓子の母性に惹かれる邦一。そんな中、邦一の弟である広次の想いに薫は応えてしまう。広次との子である美哉を出産...
☆☆☆(小説)

小説 「時をかける少女」 筒井康隆 星3つ

1. 時をかける少女1967年刊行ながら夥しい数のメディアミックスによって今日においても有名タイトルとなっている作品。その中でも、1983年に原田知世さん主演で公開された実写版と、2006年に細田守監督の指揮によって製作されたアニメ版という二つの映画が知名度の牽引役となっております。アニメ映画は本ブログでも以前に感想を書きました。原作たる小説は僅か100ページ余りの作品であり、文体や展開も非常にあっさりとしたものでしたが、ここが斬新だったのだろうと思わせる点がいくつかあり、派生作品がいくつもある現代だからこその読み応えがありました。2. あらすじある日、中学3年生の芳山和子(よしやま かずこ)は、同級生の深町一夫(ふかまち かずお)・浅倉吾朗(あさくら ごろう)と一緒に理科室の掃除をしていた。掃除を終え、隣の理科実験室に用具をしまおうとすると、理科実験室から奇妙な物音が聞こえてくることに和子は気づく。恐る恐る理科実験室の扉を開ける和子。しかし、和子が明けた瞬間に中にいた人物は別の扉から逃亡したようで、残っていたのは液体の入った試験管だけ。しかも、試験管の一つは割れて液体が床にこぼれてい...
志賀直哉

小説 「暗夜行路」 志賀直哉 星1つ

1. 暗夜行路「小説の神様」とまで称され、近代日本文学を代表する作家とされている志賀直哉。「城の崎にて」などの中短編で有名ですが、長編も一作だけ書いていて、それが本作「暗夜行路」。日本文学を語るうえで避けては通れない作品ということで期待していたのですが、その期待は見事に裏切られました。典型的な拙い私小説という印象で、近代小説「黎明期」に、比較対象が少なかったから評価された作品なのだと思います。現代にも通じる普遍性はなく、現代の小説技術と比べて明らかに劣後しているため、物好き以外は読まなくてもよい作品でしょう。2. あらすじ主人公、時任健作は東京に住む小説家。といっても執筆にはなかなか気乗りせず、芸者遊びに興じるなど放蕩生活を送っている。そんな暮らしから脱しようと、尾道への転居を決意した謙作。尾道での生活の中で、謙作は自分の気持ちを整理し、これまでずっと東京で身の回りの世話をしてくれていたお栄という女性に結婚を申し込むことを決意する。しかし、兄である信行に結婚申込み依頼を頼んだところ、信行から衝撃的な事実が告げられる。謙作は謙作の祖父と謙作の母のあいだに出来た不義の子であり、お栄はそんな...
谷崎潤一郎

小説 「細雪」 谷崎潤一郎 星3つ

1. 細雪戦前から戦後にかけて活躍した小説家、谷崎潤一郎。いまなお評価が高く、ファンの多い彼の代表作ともいえる作品が「細雪」です。新潮文庫版は上中下巻の構成で出版されておりまして、執筆に4年を費やしたという大作。映画化3回、テレビドラマ化6回という数字が文学の古典ながら世俗にも通じる魅力をもった作品であることを表していますね。やや冗長な表現や本筋から外れたエピソードなどが多いながら、やはり読みごたえのある作品だったというのが感想です。もちろん、そういった冗長さや寄り道部分を評価する人もいるでしょうから、私の星3つという評価が低すぎると感じる人はいても高すぎると思う人は少ないのではないのでしょうか。凋落しつつある旧家の娘が結婚相手を探すというストーリーは婚活全盛の今日においてむしろ示唆的ですらありますし、人物の描かれ方の今日との対比という点でも深く読み込んでいける作品だと感じました。2. あらすじ(上巻)時代は1930年代、蒔岡家の次女幸子は芦屋に暮らしていた。同居するのは夫であり婿養子でもある貞之助と、一人娘の悦子、そして蒔岡家の三女である雪子に、四女の妙子。幸子の祖父の代には大阪の船...
ダニエル・キイス

「アルジャーノンに花束を」ダニエル・キイス 評価:3点|特別な手術を受けた知的障害者が直面する知性の幸福と傲慢の悲哀【古典SF小説】

アメリカのSF作家、ダニエル・キイスの作品で、1959年に中編として、そして1966年には長編に書き直されて発表されています。ネビュラ賞とヒューゴー賞という権威ある賞を受賞しており、日本でも2015年に新版が出るなど、定評ある古典として読まれ続けています。感想としては、「手堅い名作」という印象。斬新な設定で唯一無二の地位を確立しており、特殊な題材ながら人を選ばない筆致には素晴らしいものがあります。一方で、これほど突飛な設定ながらあと一押しとなるようなどんでん返しなどがないところはやや肩透かしでありました。あらすじチャーリィ・ゴードンは知的障がい者で、ビークマン大学知的障がい者成人センターに通いながらパン屋で下働きをしている。読み書きも碌にできない彼だったが、ある日、ビークマン大学の二―マー教授とストラウス博士からある実験への協力を求められる。それは、チャーリィの知能を劇的に高める手術のドナーになって欲しいというものだった。賢くなりたい、賢くなればもっとみんなの期待に応え、仲良くなれるはずだと考えていたチャーリィ。もちろん、彼はこの依頼を快諾する。手術を受けた彼はゆっくりとしか進まない知...
ミヒャエル・エンデ

「はてしない物語」ミヒャエル・エンデ 評価:2点|いじめられっ子の成長を描くファンタジー冒険物語【海外児童文学】

ドイツの児童文学者ミヒャエル・エンデの作品。「モモ」と共に彼の代表作として扱われることが多い著作です。児童文学といえど単行本で600ページを越える大作で、岩波少年文庫版では対象が「中学以上」となっている読み応えのある大作。「ネバーエンディング・ストーリー」という題で映画化もされています。感想としては、読み手を選ぶ作品だなという印象を受けました。幻想的なファンタジー世界の造形は見事ですし、恵まれない環境で育った少年が力を手に入れて慢心し、やがてその慢心から身を滅ぼしかけるものの、それを克服して最後は真理に到達する、という物語も王道なりに楽しめます。ただ、こうした「ヨーロッパ的ファンタジー世界」を受け入れる心持ちが最初からある人以外には展開が唐突で突拍子もなく思えるでしょうし、主人公の性格も万民に受け入れられる人物かといえばそうではないと感じました。あらすじバスチアン・バルタザール・ブックスは読書好きの小学生。しかし、勉強も運動もからきしダメなうえデブでX脚なのでクラスメイトにいじめられている。母親は既に亡くなり、そのことがきっかけで父親とのあいだにも溝が出来ていた。そんなバスチアンはある...
田辺聖子

「絵草紙 源氏物語」田辺聖子 評価:3点|美貌の貴公子に篭絡されていく女性たちを描いた平安女流文学【古典文学】

芥川賞作家である田辺聖子さんが訳し、絵草子画家として著名な岡田嘉夫さんの美麗な挿絵が多数掲載された作品。ダイジェスト版の源氏物語が読みやすい訳で収録されており、手に取りやすい日本文学の古典となっております。1984年の出版ですが、むしろ現代語訳としても全く古びておらず、近年の過度に崩した訳などよりはよほど読書に値するもので、源氏物語の耽美な世界を気軽に堪能するにはうってつけでしょう。あらすじ帝は妻の一人である桐壺更衣を溺愛するが、更衣がそれほど高い身分の出身でなかったために、生まれてきた息子は臣籍降下させられてしまう。その息子の名前は光源氏。世の人が賛美するほど美しい青年に育った源氏だが、妻として迎えた葵の上は堅物の貴婦人で満足できない。世の魅力的な女性たちへの恋心を抑えられない源氏は、今日も閨へと忍び込む......。感想古文の授業では文法を理解する必要があって小難しい印象がある作品ですが、小説家が現代語訳しただけあって、本書はさらさらと読みやすく楽しめる商品になっております。いかにも「平安時代」な挿絵もふんだんに収録されており、時代の雰囲気を味わうことができます。ライトノベル感覚で...
ルイス・キャロル

小説 「鏡の国のアリス」 ルイス・キャロル 星2つ

1. 鏡の国のアリス「不思議の国のアリス」に並ぶルイス・キャロルの代表作。「不思議の国のアリス」については以前に記事を書きましたが、その続編たる本作も面白おかしいナンセンスジョークに満ちています。感想としてはほとんど「不思議の国のアリス」と同じなのですが、社会風刺が多かった印象の前作と比べ、こちらは純粋なジョークに特化している印象です。アリスと登場人物たちとの滑稽なやりとりはそれそのものの面白さもさることながら、数々の作品の「引用元」になっていることに思いを馳せながら読むと興味深いものです。鏡の国のアリス (角川文庫)posted with ヨメレバルイス・キャロル 角川書店(角川グループパブリッシング) 2010-02-25AmazonKindle楽天ブックス楽天kobo
立原正秋

【猥雑だった昭和の日本】小説「恋人たち」立原正秋 評価:2点【純文学】

1960~70年代にかけて一世を風靡した作家、立原正秋さんの作品です。1966年に直木賞を獲っておりますが、それまでに芥川賞の候補にもなるなど、純文学も大衆文学もこなす万能の作家でした。本作は根津甚八さんと大竹しのぶさんの主演でテレビドラマにもなっています。感想としては、現代の感覚からすれば「ありえない」作品です。一般的に考えれば、この21世紀に純粋な娯楽作品として読んで楽しい作品ではないでしょう。ただ、この作品・作家が「人気だった」ということを踏まえて読めば昭和という時代への洞察を得られるのではないかと思います。あらすじ1960年代前半、鎌倉の街に、三つ子の男兄弟が別々に暮らしていた。彼らの父、中町周太郎には妻である初子がいたが、彼ら三兄弟は周太郎が結婚する前に交際していた笹本澄子という女性の子供だった。初子が石女だったため周太郎には三人以外の子供はなく、中町家は三兄弟の長男である周太郎が継ぐことになっている。そんな道太郎だったが、大学を中退して以来、家庭教師と賭博で生計を立てていた。酒場で娼婦を買い、病気を貰って悪態をつくような日々。周太郎の妹である久子の娘であり、道太郎から見ると...
☆(小説)

小説 「砂の城」 遠藤周作 星1つ

1. 砂の城「海と毒薬」や「沈黙」で有名な、戦後日本文学を代表する作家の一人、遠藤周作の作品。解説でも「軽小説である」と言及されている通り、遠藤周作の名声を押し上げた文学作品たちとは一線を画す、すらすらと呼んでいける青春小説です。このように紹介するのも、多分に時代性のある大衆文学過ぎまして現代の小説として通用するとは言い難く、小説の構成上も難ありと思った次第。やはり遠藤周作は重厚な文学作品でこそ本領を発揮するのでしょう。砂の城 (新潮文庫 (え-1-12))posted with ヨメレバ遠藤 周作 新潮社 1979-12-27AmazonKindle楽天ブックス
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