【メディア論】おすすめメディア論雑記3選【雑記まとめ】
小説作家名「か」行
「ミミズクと夜の王」紅玉いづき 評価:2点|彗星のごとく現れた童話風物語、電撃小説大賞受賞の異色作【ライトノベル】
2006年に第13回電撃小説大賞を受賞し、2007年に発売されたライトノベルです。今日でも人気は非常に根強く、2020年から2022年にかけて漫画版が白泉社の漫画雑誌「LaLa」で連載されたほか、2022年3月には完全版が発売されるなど、ライトノベルの古典として定着している感もあります。特徴的なのはなんといってもその作風でしょう。バトル中心の異世界ファンタジーか学園モノが主流だった時期にあって、童話風の優しい作風で電撃小説大賞を受賞したことそのものが話題となった作品でした。出版された際にも、挿絵が用いられず、表紙には美少女や武器が描かれないどころか、抽象的な画風で夜の森と人影だけが描かれているというライトノベルとしては非常に攻めた形でプロモーションがかけられたことも、さすが電撃文庫だと思わせるような斬新さがありました。私も発売当初に一度読んだことがあり、それ以来の再読となりましたが、その作風の独自性はいまなお存在感を放っていると言えるでしょう。ただ、一つの物語としては、露骨に「優しい」物語過ぎる側面が鼻につきます。発想としては悪くないものの、もう少し盛り上がりどころを備えられなかったの...
「億男」川村元気 評価:1点|宝くじで三億円を当てた男が旅の末に気づく「お金」と「幸福」の関係性【マネーエンタメ小説】
数々の大ヒット映画をプロデュースしたことで知られる川村元気さんの小説第2作が本作となります。古くは「電車男」や「告白」といった実写映画でヒットを飛ばし、近年では「君の名は。」や「ドラえもん のび太の宝島」といったアニメ映画に携わったことで名を上げた人物です。本作も何十万部と売れているとのことで期待して読み始めたのですが、全く期待外れな読書経験となりました。しかも、単に期待外れではなく結構衝撃的な読書経験でもありました。というのも、一般に良い小説を書くためにはこれをしてはいけないという事項が本書内では次々と実行され、まさにそういった要素によって本書はつまらない作品となっていたからです。本当にこの作者は小説を読んだことがあるのだろうか、小説を読んで一度でも感動したことがあるのだろうか、そんな疑いさえ抱いてしまうほどです。しかし、この作品が世間では受け入れられているのですから、もう小説というものは今後このような形になってしまうのかもしれないという思いもあり、非常に侘しく感じられます。あらすじ弟が残した三千万円の借金を肩代わりした一男かずおは、その返済を行うべく、昼は図書館司書として働き、夜は...
「クレヨンしんちゃん オトナ帝国の逆襲」原恵一 評価:2点|大人たちが選ぶのは無邪気な享楽か責任ある幸福か、子供向け映画の異色作【アニメ映画】
1992年に始まり、現在まで続く大人気アニメシリーズ「クレヨンしんちゃん」の劇場映画シリーズ第9作目にあたる作品です。放映当初はその下品な内容から猛烈な批判を浴びるも、絶大な子供人気を誇ったことからゴールデンタイムのアニメとして定着。その後、徐々に家族愛を中心としたハートフル寄りの作風が意識されるようになり、いまなお地上波で放送され続ける超長寿アニメの一つとなっております。そんな「クレヨンしんちゃん」シリーズは毎年アニメも放映しているのですが、中でも大きな人気を得ているのが本作。「クレしん」らしいギャグテイストな作風を基調としながらも、当時の大人世代をターゲットにした切なくノスタルジックなテーマで物語がつくられており、子供は爆笑し大人は泣いた作品として知られています。そんな本作をいまになって見返してみたのですが、印象的な場面は多いものの物語の作り込みが甘く、一本調子感が拭えない映画であるように思われました。基本的には子供に向けた作品でそこまで複雑な脚本にはできないだろうという批判は正論として受け取りますが、大人受けという意味で見ても、当時における題材の斬新さが良かったまでで、物語作品と...
「窓際のトットちゃん」黒柳徹子 評価:2点|マルチタレントの先駆けが通ったあまりにも自由で不思議な小学校【芸能人伝記】
日本における最初のテレビ放送開始(1953年)以来、常に第一線で活躍し続けている女優にしてマルチタレント、黒柳徹子さんが幼少期の生活について綴ったノンフィクション自伝です。発行部数は驚異の800万部超を誇り、単著としては戦後最大のベストセラーとなっている本作。世界でも売り上げを伸ばしており、中国でも1000万部を突破するなど、まさに世界的名作とされている作品です。とはいえ、個人的な感想としては単なる「いい話」の域を出ていないという印象でした。そもそも黒柳徹子さんという超有名タレントが出版しているという側面に加え、作中で描かれる自由で温かい学校生活の在り方が管理教育全盛だった出版当時(1981年)の状況に対する反逆として「刺さった」のも大きかったのでしょう。ただ、昨今の教育を取り巻く事情を鑑みると、本書が再び脚光を浴びる時期も遠くないように感じます。主人公のトットちゃん(=黒柳徹子さん)は多動症気味の子供で、クラスメイトにも身体障害を抱えている子供や帰国子女の子供が登場します。差別を受ける外国人(朝鮮人)の子供に纏わるエピソードも登場するなど、いかに多様性を認めあい、それを活かしてゆくの...
【介護と再生】小説「龍の棲む家」玄侑宗久 評価:1点【純文学】
臨済宗の僧侶にして芥川賞作家である玄侑宗久さんの作品。母親に先立たれた父親が認知症となり、その介護を行う息子と、偶然の出会いからその介護を手伝うことになった元介護士の女性が主な登場人物。僧侶らしい題材、とまで言ってしまうのは偏見かもしれませんが、現代らしい、地味ながら重大な介護という営為を通じて人間の出会いと成長を描いています。とはいえ、その内容は予想以上に無風な物語で、それでいいの、と思ってしまうくらい盛り上がりに欠けます。そもそもが落ち着いた題材とはいえ、ここまでドラマに欠けた面白みのない小説もないだろうと感じました。あらすじ父親が認知症になり、徘徊するようになった。兄である哲也から電話でそう告げられた幹夫は、経営する喫茶店を閉じて実家に戻ることを決断する。毎日行われる散歩という名の徘徊に付き添ううちに、ふと立ち寄った公園で幹夫は佳代子という女性と出会う。以前は介護の仕事をしていたが、現在は無職だという佳代子。父親とのコミュニケーションを巧みにこなす佳代子の姿を見て、幹夫は佳代子を介護士として雇うことにするが……。感想元々は実力のある介護士だったものの、一つの大きな失敗がショックで...
【青春学園】小説 「少年少女飛行倶楽部」 加納朋子 星1つ
1. 少年少女飛行倶楽部「日常の謎」を描いたミステリーで定評のある加納さんですが、本作は珍しくミステリー要素なし。あとがきでも「底抜けに明るい、青春物語が書きたくなりました」とあるように、中学生の爽やかな青春譚という雰囲気です。そんな本書に対する感想としては、全体的に軽すぎるかなという印象。変わり者の集まった部活である「飛行クラブ」の活動を描いた物語なのですが、登場人物が意味もなく非現実的で、いかにも「作り物」感があります。物語の核心となる様々な問題の解決方法も軽々しく、どこで心を動かされればよいのだろうかと思ってしまいました。2. あらすじ中学一年生になった海月(みづき)が幼馴染の樹絵里(じゅえり)に誘われるがまま入部することになったのは「飛行クラブ」という奇妙な部活。二人以外の部員は部長の斎藤神(さいとう じん)先輩と野球部と兼部の中村海星(なかむら かいせい)先輩だけ。その活動も「(飛行機やヘリコプターを使わず、パラシュートなどの「落下」を除いた手段で)飛行すること」を活動内容として掲げているが、実際には何もしていない。そう、「飛行クラブ」は部活強制の学校で孤高を貫く神先輩が、他...
小説 「今夜、きみは火星にもどる」 小嶋陽太郎 星1つ
1. 今夜、きみは火星にもどる万城目学さんなどを輩出したボイルドエッグズ新人賞を受賞してデビューした小嶋陽太郎さんの作品。デビュー当時は大学生だったそうで、文体もまだまだ若いです。しかし、作品の内容は若いというより未熟。不思議な世界観で巻き起こるちょっと文学的な何かを目指したのかもしれませんが、全体として拙い印象を受けました。今夜、きみは火星にもどる (角川文庫)posted with ヨメレバ小嶋 陽太郎 KADOKAWA 2017-10-25AmazonKindle楽天ブックス楽天kobo
小説 「親友」 川端康成 星1つ
1. 親友 言わずと知れたノーベル賞作家、川端康成の少女小説です。「女学生の友」に載せられていただけあり、児童小説の趣が濃くなっております。 本当に良い児童小説は大人にも深い感銘を与えるものですが、残念ながら、本書からそのような薫風を感じることはできませんでした。 親友 (小学館文庫) posted with ヨメレバ 川端 康成 小学館 2017-08-08 Amazon Kindle 楽天ブックス 楽天kobo
小説 「雪国」 川端康成 星2つ
1. 雪国「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」非常に有名な一文から始まる、川端康成の長編代表作です。繊細で心震える省略美、たおやかな視点と形容。それらの評価が高いのは分かりますが、ストーリーが微妙ということもあり読後の感動はそこまで強くありませんでした。雪国 (新潮文庫 (か-1-1))posted with ヨメレバ川端 康成 新潮社 2006-05AmazonKindle楽天ブックス
【変身】ある朝、目覚めると、自分の身体が巨大な虫に「変身」していた 評価:2点【フランツ・カフカ】
「審判」「城」などでも有名なフランツ・カフカの作品です。降りかかる不条理に対して主人公が何を思い、どう行動するか。そして、それを取り巻く家族の反応とその悲しい結末。そのような描写は鋭くかつユーモアに富んでおり、文学界に新風をもたらしたのは理解できるのですが、物語の展開が「当然の結末」だらけで意外性がなく、その点の面白さが欠ける小説でした。あらすじある朝目覚めると、グレゴール・ザムザは一匹の巨大な虫に変身していた。真面目な勤め人だったグレゴール。失業中の父の代わりに一家を支え、妹を音楽学校へと進学させるべく辛い仕事に耐えていた。しかし、変身してしまった彼を家族は恐れるようになる。妹のグレーテだけがかろうじて世話をしてくれるものの、虫になってしまったグレゴールの人間性は次第に失われていく。一家の生活も困窮していき、金策として、家の一部を客人へと間借りさせることにしたザムザ一家。ある日、間借り人をグレーテがバイオリンでもてなしていると、そこにグレーゴルが降りてきて.......。感想読む人によって様々な比喩を想起させる作品です。突然、大病を患って要介護になってしまった人や、働き過ぎて精神病に...
「センセイの鞄」川上弘美 評価:2点|穏やかな大人の恋愛小説【純文学】
芥川賞作家、川上弘美さんのベストセラー小説です。谷崎潤一郎賞を受賞した「純文学」なのですが、異例なほど売れた作品。小泉今日子さん主演で映画化もされています。大人の恋のなかにある淡くて切ない心境に感動できる一方、登場人物の現実感や物語の起伏という点ではイマイチな作品でした。あらすじ37歳独身のOL、大町月子は居酒屋で高校の恩師と再会する。「センセイ」こと松本春綱は月子の30歳年上。奥さんを亡くしているセンセイと、彼氏のいない月子。二人は居酒屋で、あるいはキノコ狩りで、徐々に打ち解けあってゆく。そんな中、高校の同級生である小島孝が月子にアプローチする。月子はその誘いを断り、自分の中での先生への想いを明確にしていく。それでも、なかなか決定的なところまで踏み出せない。しかし、小島孝に旅行に誘われたことをセンセイに打ち明けると、意外にもセンセイが「島に行きませんか」と誘ってきて......。感想紳士的で穏やかなセンセイとの、大人の恋愛。センセイに惹かれていく月子の内面が抒情的に描かれ、こちらにまで切ない気持ちが伝わってきます。ただ、この小説の良いところはその一点のみ。センセイにも月子にも、まるで...
【共感は欺瞞】小説「異邦人」カミュ 評価:3点【海外文学】
ノーベル賞作家、アルベール・カミュの代表作です。面白いと思う人とつまらないと思う人が分かれる作品ですが、私は好みです。「共感」ばかりが重要視され、真実を客観的に見る視点を失った現代社会。「誰もがそう思っている」に過ぎない「常識」が、まるで「道徳・正義」のように扱われる今日。そのような風潮に疑問を投げかけ続ける古典の佳作です。あらすじ主人公、ムルソーの母が養老院で亡くなるところから物語は始まる。葬儀に参加するために養老院へ向かうも、涙一つ見せず、母の死体も見ず、ミルクコーヒーを楽しむムルソー。その翌日には恋人のマリィと海水浴に行き、映画を見て笑う。何事にも動じず、淡々と過ごす彼だが、頼まれれば友人を助け、話を聞き、遊びに誘われればついてゆく。その理由は「それをしない理由がないから」だとムルソーは言う。理性・感情を持ちながら、一切の「人間らしさ」がないように見えるムルソー。ある日、彼はビーチでアラビア人を殺し、裁判にかけられることになったのだが......。感想味のある良い作品だと思います。母の死に涙を流し、我を忘れるほど思いつめること、その後しばらくは立ち直れないこと。そんな人物を、我々...
小説 「伊豆の踊子」 川端康成 星2つ
1. 伊豆の踊子前置きはいらないほどの有名作品。吉永小百合さんや山口百恵さんが主演した同名映画の原作としても知られています。描写の美しさは折り紙付きで、特に踊子のいきいきとした描き方には感動がありますが、物語としての含蓄や面白さがあると言われると微妙なように感じられました。伊豆の踊子 (新潮文庫)posted with ヨメレバ川端 康成 新潮社 2003-05-05AmazonKindle楽天ブックス