第2位 「ルックバック」藤本タツキ
【創作が持つ異形の力が青春の輝きと血塗られた悲劇を生む】
・あらすじ
お調子者の小学四年生、藤野歩が最近ハマっていることといえば、学年新聞に自分の描いた四コマ漫画を連載すること。
小学四年生にしては上手い絵と、やはり小学四年生にしては上等なギャグセンスによって同級生たちから人気を博していた藤本の漫画だったが、ある日、天狗になっていた藤野の鼻をへし折る事件が起こる。
事の発端は職員室でのこと。
藤野を呼び出した先生は、学年新聞の四コマ漫画連載枠を一つ、不登校の京本という児童にも譲ってくれないかと藤野に頼むのだった。
学校にも通わず絵ばかり描いているという人物と聞いているが、まさか自分の腕前には敵うまい。
そんな心情で先生の申し出を承諾した藤野だったが、いざ掲載された京本の絵は小学生離れした緻密さと正確さを持っており、同級生からも「京本の絵と並ぶと、藤野の絵ってフツーだな!!」と蔑まれてしまう始末。
同学年に自分より絵のウマいやつがいる、そんなことは絶対に許されない。
悔しさのあまり未熟な自分に憤慨し、京本を勝手にライバル視して絵の勉強を始める藤野。
一方、勝手にライバル視されている京本も、実は藤野に対して特別な感情を抱いていて......。
・短評
素晴らしい映画を見た後のような、あまりの感動にぽかんとしてしまうような漫画でした。
漫画執筆が趣味の小学生、藤野歩が、不登校ながら学級新聞への漫画登校を行っている京本という同級生を勝手にライバル視しながら成長し、やがてこの京本との友情を育みつつ、共に漫画家を目指すことになるという、全体的な物語構成としては少年誌に載っていそうな漫画となっております。
しかしながら、まず目を奪われるのは、凡百の少年漫画とは明らかに異なるテンポ感と表現技法から生み出される、夢を追う青春の孤独感と爽快感の絶妙な組み合わせでしょう。
主人公である藤野歩がライバルである京本の漫画の「威力」に「打ちのめされる」描写、そこから始まる超人的努力の熱量と、そうした熱量ゆえに藤野は孤独な夢追い人となっていくという文学的な人生描写。
そして、ついに果される不登校児である京本との邂逅と、そこで生まれる成長と友情の奇跡。
小学生の頃の、ひねくれていて繊細で、そのくせ誰かに認められたくてたまらなくて、尊敬する人に褒められたりするとどうしようもなく高揚してしまうような、そんな心情が「絵」だけを使って大胆に描かれておりまして、漫画を読んでいてこんなにも爽快感を得られるものなのかと驚きました。
しかも、京本との邂逅で物語が終わっても十分に佳作だと言える作品であるにも関わらず、続く展開における悲劇的な出来事が物語にさらなる波を生み出して読者を夢中にさせるのです。
漫画を手に持ちながら思わず息を飲んでしまった悲劇の後に訪れる、どこまでも息苦しく刺激的な「ルックバック」の描写と、過去を乗り越えてなおも進もうと決意する藤野の背中が語る静謐ながら怒涛のクライマックス。
ページを捲る手がまるで止まらない、思わず一気読みしてしまう描写力と展開力には脱帽いたしました。
少年の成長物語という王道的な青春譚から一転、その青春譚において発揮されていた「創作が持つ異形の力」の負の面をこれでもかと見せつけて物語を墜落させ、そこからぐっと上昇気流に乗せることでカタルシスが生み出される過程は描写力にしても構成力にしても圧巻です。
創作に賭けた二人の、熱く輝いていて、それでいて薄ら寒いほどに恐ろしい青春を是非、ご賞味ください。
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